高等学校 生物基礎/生物共通の単位(細胞)

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本節では、細胞に関する学説と細胞に関する基本構造について学びます。

細胞[編集]

細胞の研究の歴史(学説)[編集]

※細胞に関する学説の人物は正式名称で押さえておきましょう。

ロバート・フックの顕微鏡
ロバート・フックによるコルクのスケッチ。

細胞は、1665年、イギリスのロバート・フックによって発見されました。 彼は、自作の顕微鏡を用いて、軽くて弾力のあるコルクの薄片を観察したところ、 多数の中空の構造があることを知りました。それを修道院の小部屋(cell、セル)にみたて、細胞(cell)と呼びました。 彼が観察したのは、死んだ植物細胞の細胞壁(さいぼうへき、cell wall)でしたが、 その後、1674年、オランダのアントニ・ファン・レーウェンフックにより初めて生きた細菌の細胞が観察されました。

19世紀に入ると、細胞と生命活動の関連性が気付かれ始めました。 まず1838年、ドイツのマティアス・ヤコブ・シュライデンが植物について、 翌1839年、ドイツのテオドール・シュワンが動物について、 「全ての生物は細胞から成り立つ」という細胞説(cell theory)を提唱しました。

さらに後、ドイツのルードルフ・ルートヴィヒ・カール・フィルヒョウの「全ての細胞は他の細胞に由来する」という考えにより、細胞説は浸透していきました。

多様な細胞の大きさ[編集]

細胞の大きさはそのほとんどがあまり肉眼では見えません。顕微鏡の発達によって観察出来る分解能が高まり、細胞の内部構造が徐々に明らかになっていきました。

細胞は生物の種類や体の部位によって様々な大きさで存在しています。 以下に顕微鏡の分解能と細胞などの大きさを挙げます。

  1. 分解能(接近した2点を見分けることの出来る最小距離)
  • 肉眼で観察できるもの (分解能: 約0.2mm ※1mm=10-3m)
    • 数m:ヒトの座骨神経 (長さ1m以上)
    • 数cm:鶏の卵黄(約2.2cm)
    • 数mm:蛙の卵 (約3mm)、ゾウリムシ(約0.2mm)
  • 光学顕微鏡で観察できるもの (分解能: 約0.2μm ※1μm=10-6m)
    • 数μm:ヒトの卵 (約140μm)、ヒトの精子(約60μm)、ヒトの赤血球 (約7.5μm)、大腸菌 (約3μm)
  • 電子顕微鏡で観察できるもの (分解能: 約0.2nm ※1nm=10-9m)
    • 数nm:SARSコロナウイルスⅡ (直径80~220nm※ウイルスで細胞ではありません。)[1]
μ(マイクロ)1μm=1,000分の1mm
n(ナノ)  1nm=1,000分の1μm
観察してみましょう!
ほほの内側の細胞は比較的簡単に観察出来ます。
ほほの内側を綿棒で軽くこすって、はがれた細胞を光学顕微鏡で観察してみましょう。

細胞の基本構造[編集]

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典型的な動物細胞の模式図
1.核小体、2.核、3.リボソーム、4.小胞体、5.粗面小胞体、6.ゴルジ体、7.細胞骨格、8.滑面小胞体、9.ミトコンドリア、10.液胞、11.細胞質基質、12.リソソーム、13.中心体
典型的な植物細胞の模式図
a.原形質連絡、b.細胞膜、c.細胞壁、1.葉緑体(d.チラコイド膜、e.デンプン粒)、2.液胞、(f.液胞、g.液胞膜)、h.ミトコンドリア、i.ペルオキシソーム、j.細胞質、k.小さな膜小胞、l.粗面小胞体 、3.核(m.核膜孔、n.核膜、o.核小体)、p.リボソーム、q.滑面小胞体、r.ゴルジ小胞、s.ゴルジ体、t.繊維状の細胞骨格

生物の細胞には、核をもたない原核細胞と、核をもつ真核細胞とがあります。 細胞の見た目や働きは様々ですが、基本的な機能や構造は同じです。 細胞は(かく、nucleus)と細胞質(さいぼうしつ、cytoplasm)、それらを囲む細胞膜(さいぼうまく、cell membrane)からなります。細胞膜に包まれた内部の物質のうちから核を除いた部分のことを細胞質といいます。 また、核と細胞質を合わせて原形質(げんけいしつ、protoplasm)とも呼びます。つまり、細胞膜に包まれた内部の物質のことを原形質といいます。よって原形質には核も含まれます。 細胞質には、核を始めとして、ミトコンドリアなど、様々な機能と構造をもつ小さな器官があり、これらを細胞小器官(さいぼうしょうきかん、organelle)と呼びます。 細胞小器官同士の間は、水・タンパク質などで満たされており、これを細胞質基質(さいぼうしつ きしつ、cytoplasmic matrix)と呼びます。この細胞質基質には、酵素などのタンパク質やアミノ酸、グルコースなどが含まれています。

細胞膜[編集]

細胞膜は動物にしかありません。動物細胞内部を守るためにあります。

細胞壁[編集]

細胞壁は植物にしかありません。植物細胞内部を守るためにあります。

真核細胞[編集]

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は、1つの細胞が普通1つもっており、核の表面には核膜(かくまく、nuclear membrane)、核の内部に染色体(chromosome)があります。

「染色体」という名前の由来は酢酸カーミンや酢酸オルセイン液などで染色出来る現象からです。

「染色体」の間を核液(nuclear sap)が満たしています。

染色体は、DNAとタンパク質からなります。

核の働きを調べる実験

アメーバを核を含む部分と核を含まない部分とに切り分けると、核を含む部分は生き続けて増殖しますが、アメーバは切り分けたその部分に核がなかったらやがて死んでしまいます。

このように核は細胞の生存と増殖に必要です。核の性質を確かめる実験として、カサノリの接木実験が行われることがあります[3]

カサノリは、単細胞生物ですが、複雑な形態をもっています。そのため、細胞生物学や形態形成の研究において、モデル生物として利用されます。[4]

カサノリは核が仮根にあり、傘や柄を切除しても仮根から再び植物体を再生させることが出来るため、形態形成の実験に用いるにも都合がいいとされています[5]。 カサノリの接木実験から、カサノリの核にはかさの形を決めるはたらきがあることがわかります。

ミトコンドリア[編集]

ミトコンドリア(mitochondria)は動物と植物の細胞に存在し、長さ1μm~数μm、幅0.5μm程度の粒状の細胞小器官で、化学反応によって酸素を消費して有機物を分解しエネルギーを得る呼吸(respiration)を行います。

葉緑体[編集]

葉緑体(chloroplast)は植物の細胞に存在し、直径5~10μm、厚さ2~3μmの凸レンズ形の器官で、光エネルギーを使って水と二酸化炭素から炭水化物を合成する光合成(photosynthesis)を行います。

また、葉緑体はクロロフィル(chlorophyll)という緑色の色素を含んでいます。葉緑体は、ミトコンドリアと同じように独自のDNAを持っています。

液胞[編集]

液胞(えきほう、vacuole)は主に植物細胞にみられ、物質を貯蔵したり浸透圧を調節したりします。

一重の液胞膜で包まれ、内部を細胞液(cell sap)が満たしています。

一部の植物細胞はアントシアン(anthocyan)と呼ばれる色素を含みます。

原核細胞[編集]

大腸菌などの細菌類や、ユレモなどのシアノバクテリア(ラン藻類)の細胞は、核を持ちません。

これらの生物の細胞も染色体とそれに含まれるDNAはもっていますが、それを包む核膜をもっていないので、核がありません。

このような、核のない細胞のことを原核細胞(prokaryotic cell)と呼びます。原核細胞は、真核細胞よりも小さいです。

また、原核細胞で出来た生物を原核生物(prokaryote)と呼びます。

シアノバクテリアは、ミトコンドリアと葉緑体を持たない原核生物ですが、光合成を行います。

脚注[編集]

  1. ^ https://gigazine.net/news/20210711-weight-sars-cov-2-coronavirus/
  2. ^ 以降、具体的な構造の仕組みは専門科目の生物で詳しく学習しますので、ここでは簡単に触れるだけにします。
  3. ^ 鈴木恵子 (2005)  「図解入門 よくわかる高校生物の基本と仕組み」(秀和システム)p.12
  4. ^ Mandoli, DF (1998). “Elaboration of Body Plan and Phase Change during Development of Acetabularia: How Is the Complex Architecture of a Giant Unicell Built?”. Annual Review of Plant Physiology and Plant Molecular Biology 49: 173–198. doi:10.1146/annurev.arplant.49.1.173. テンプレート:PMID. 
  5. ^ グッドウィン(1998)p.100