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高等学校 生物/学習

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』
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 動物の行動の2回目の講義は学習についてです。

 学習とは、動物が生まれた時から受けている刺激に反応して、行動を変化させたり、新しい行動を行ったりする様子をいいます。一般に、神経系が発達している動物ほど、早く学習出来ます。

慣れと鋭敏化

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アメフラシ

慣れ

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 アメフラシは背中にある水管を鰓に沿わせて呼吸し、海水を出し入れしています。アメフラシの鰓に触れると、鰓引っ込め反射が起こります。この時、鰓と水管が収縮し、体内に引き戻されます。水管への接触刺激は鰓の引っ込め反射を起こすには弱く、何度も刺激を与えると鰓が引っ込められなくなります。このような単純な学習を慣れといいます。このままでは、接触刺激(脱慣れ)により鰓が再び出てきてしまいます。しかし、その刺激が長く繰り返されると、数日〜数週間処置しなくても鰓が元に戻らなくなります。これを長期の慣れといいます。

 アメフラシの鰓引っ込め反射に関して、水管感覚ニューロン・シナプス・運動ニューロンが接続しています。水管感覚ニューロンの軸索末端に活動電位が送られると、電位依存性カルシウムチャネルが開きます。この時、カルシウムイオンが流入し、シナプス小胞の神経伝達物質がシナプス間隙に放出されます。この反応を何度も繰り返すと、シナプス小胞やカルシウムチャネルが少なくなり、神経伝達物質の放出も少なくなります。さらに、運動ニューロンのシナプス後電位は小さくなります。そのため、反応が起こりにくくなります。これを短期の慣れといいます。長期の慣れでは、シナプス小胞の開口領域が狭くなります。そのため、シナプス小胞の量やカルシウムチャネルの不活性化が回復しても、反応しにくくなります。このように、生得的と思われていた多くの反射神経が、学習によって柔軟に変化する場合もあります。また、学習は、すでにあったシナプスの伝達効率が変化する場合でも起こります。

鋭敏化

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 アメフラシの尾部に電気を流すと、痛覚刺激として、通常は鰓の引き込み反射を起こさないような水管への弱い刺激でも敏感に反応するようになります。鋭敏化とは、この過程の名称です。この場合、何度も何度も刺激を与えると、鋭敏化が長く続きます。この場合、鋭敏化は水管感覚ニューロンの軸索末端と介在ニューロンの軸索末端がつながって起こります。これにより、反応が強くなったり、速くなったりします。介在ニューロンからの神経伝達物質が水管感覚ニューロンの軸索末端の受容体につながると、カリウムチャネルが消極的になり、カリウムイオンの流出が減少し、電位依存性カルシウムチャネルからカルシウムイオンの流入が増加します。これにより、活動電位の持続時間が長くなります。その結果、シナプス小胞がより多く開き、神経伝達物質がより多く放出されるようになり、運動ニューロンの興奮性シナプス後電位が上昇し、興奮しやすくなります。また、介在ニューロンが繰り返し作用すると、遺伝子発現により、水管感覚ニューロンの軸索末端が枝分かれするようになります。したがって、カリウムチャネルが遮断されなくなった場合でも、より反応しやすくなります。

条件付け

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古典的条件付け

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古典的条件付けで使用された犬

 空腹の犬は、肉片を見ると、唾液を流します。無条件刺激とは、訓練しなくても自然にある行動を起こさせる重要な刺激をいいます。

 唾液分泌とは全く関係のない行動しか起こせない場合もあります。例えば、犬に肉片を与え、同時に何度もブザー音を立てると、ブザー音だけで唾液が出やすくなります。このブザー音が条件刺激といい、古典的条件付けとは、無条件刺激と条件刺激の組み合わせから学習していく過程です。音だけで唾液分泌が起こるのは、聴覚の中枢と唾液分泌の中枢とが何らかの関係を持っているからです。

オペラント条件付け

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 レバーを押すと餌が出てくる装置のついた箱に、お腹を空かせた鼠を入れると、最初は偶然にレバーが押されます。その後、もっと餌をもらおうと箱の中の色々な部分を触ると、レバーを押せば餌が出てくると学習し、どんどんレバーを押すようになります。これは、オペラント条件付けと呼ばれます。鼠は、鍵となる刺激がなくても勝手に行動して、自分の行動と報酬を結びつけて学習します。レバーを押して毎回電気ショックを受けると、レバーを押す回数が減ります。これもオペラント条件付けの1つです。

試行錯誤と知能行動

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試行錯誤

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 鼠など学習能力の高い動物は、環境の中にある物の位置を記憶出来ます。例えば、迷路の最初に鼠を置き、最後に餌を置くと、鼠は行き止まりに何度もぶつかり、餌にたどり着けなくなります。しかし、鼠はこれを何度も繰り返しているうちに、餌の場所と行き方を覚えてしまいます。そうすると、行き止まりが少なくなり、早く餌にたどり着けるようになります。試行錯誤とは、失敗を何度も繰り返しながら修正していく学習方法です。

知能行動

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 動物の問題解決能力は、迂回実験で研究されています。この実験では、動物が見たり嗅いだり出来る餌に、障壁があるためにすぐには近づけません。餌を手に入れる前に、餌から遠ざかる(迂回する)必要があります。チンパンジーは、この実験を最初から正しく行える唯一の動物です。鼠や犬、アライグマは何度か失敗して迂回路を覚えます。チンパンジーのように最初から迂回する場合、どうなるかを知っていて、その通りに行動するという意味です。つまり、大脳が発達した動物は、感覚器からの情報を、すでに解決した類似の問題と比較しながら、状況を判断して、初めて見る問題をどう解決するか考えます。これを知能行動といいます。

雪の中温泉につかる日本猿(長野県地獄谷野猿公苑)

 チンパンジーは折れた木の枝などを拾ってきて、長くしたり強くしたりして、シロアリの巣穴に突き刺してシロアリを捕まえます。チンパンジーは、手では届かないシロアリの巣に、棒や小枝を使って近づきます。また、チンパンジーは枝を使って、穴の開いた容器に入った果物を穴に押し込んだり、引っ張り出したりして、食べます。チンパンジーは、シロアリを食べるための道具を作るために材料を探し、使えるので、とても賢いです。

 宮崎県幸島で、子猿の雌が日本猿の群れに芋の洗い方を教え、今では群れ全員が芋の洗い方をしています。長野県地獄谷の日本猿の群れは外で水浴びをしています。しかし、地獄谷の日本猿は、汚れたジャガイモを洗いません。これが、同じ行動をとる動物の集団を指す動物の文化という言葉の意味です。

刷り込み

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刷り込み

 雁や鴨は、孵化後すぐに巣を出て、親と一緒に暮らし、親は雁や鴨を保護しながら世話をします。孵化後数日間は感受期(臨界期)と呼ばれ、雁や鴨は目にした動くものを親と見分けられます。この強い記憶は刷り込み(インプリンティング)と呼ばれ、生後一定期間で行われます。自然の環境では、感受期に雛は血の繋がった親にしか近づかないので、誤って他の親を追いかけてしまう心配はありません。親の近くにいれば、雛は保護や世話を受けられるので、生きられる可能性が高まります。でも、試しに玩具を動かしてみるなど、親以外にも印象を残したりもします。刷り込みは生得的行動か習得的行動のどちらなのでしょうか?刷り込みは、生まれた後、子供が親を認識し、記憶するために学ぶ必要があるため、完全な生得的行動ではありません。しかし、刷り込みは生得的行動なので、脳は親を認識し記憶出来るように発達します。つまり、刷り込みは完全な習得的行動でもありません。刷り込みのように、遺伝と環境が一緒になって生まれる行動は、簡単に生得的行動と習得的行動のどちらにも分けられません。