高等学校 生物/進化の証拠

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 進化を証明する証拠は何でしょうか?

 本節では、それを見ていきましょう。中学の地学分野、高校の地学教科書+αの内容が入っています。

化石が示す証拠[編集]

 基本的に年代が古いほど、地層の重なりは下になります。また、地層は、それが置かれた場所や当時の気候を物語っています。そこで見つかった化石から、生物がどのような姿をしていたか、当時の環境がどのような状況だったかがわかります。

化石と相対年代[編集]

 ヨーロッパでは、化石は大昔に生きていた動物の遺骸ではなく、鉱物の中に作られた天然の物質だと考えられていました。日本では、象の臼歯や骨の化石を竜の歯や骨だと思い込んで、竜歯・竜骨と呼んでいました。化石が大昔に生きていた生物として知られるようになると、同じ種類の化石を持つ異なる地層は、同じ時代の地層として比較出来るようになりました。地質時代は、こうした研究の積み重ねによって、相対的な時代(相対年代)に分けられています。古生代の三葉虫フズリナ(有孔虫)、中生代のアンモナイトなどは、様々な場所で発見され、同じ年代の地層でしばしば見られる化石の代表例です。このような化石を示準化石といいます。

 一方、古生代の示準化石の一つとなっているクサリサンゴは、温暖で浅い海に生息し、サンゴ礁を築いていました。示相化石とは、当時の環境がどのような様子だったのかを示す化石です。

馬の進化
ウマの進化

 草原が広くなるにつれて、ウマの仲間は成長し、進化しました。最初の馬はヒラコテリウムと呼ばれ、犬くらいの大きさで指が4本ありました。森の中で葉っぱを食べていました。草原が広がるにつれて、草原を走り、草を食べる馬が進化しました。メソヒップスは葉っぱを食べていましたが、指を3本に減らして草原を走るのに慣れました。メリキップスは指が3本になりましたが、体が大きくなり、草も木の葉も食べるようになりました。プリオヒップスは指が1本しかなく、植物しか食べませんでした。草は硬く、珪酸が含まれているため、歯が磨り減ります。馬が肉を食べなくなったのは、すり減っても使える長い歯が出来たからです。約500万年前、北アメリカに現在のウマ属(エクウス)が出現しました。

連続的な進化と中間型の化石[編集]

始祖鳥

 アンモナイトなどのように化石がたくさんあるグループでは、化石が見つかった地層を年代順に比較すると、化石の形が時代とともに変化している様子がわかります。環境の変化に伴い、現在の北アメリカにいた馬の仲間は大きくなり、肢の指が増え、歯の大きさや形も変化していきました。化石に見られるこうした変化は、進化の有力な根拠につながります。

アンキオルニス

 たとえ連続的な変化ではなくても、グループの中間に位置する種類の化石は、生命がどのように進化してきたかを知る手がかりになります。ジュラ紀後期に発見された始祖鳥の化石は、爬虫類と鳥類の間を結ぶ存在ですが、現生鳥類の先祖ではありません。

 従来、鳥はトカゲから進化した説がありました。しかし最近では、鳥は小型の恐竜から進化した説が有力です。この証拠が、中国で発見された羽毛の生えた恐竜です。

 羽毛恐竜アンキオルニスは、始祖鳥よりも古い1億5100万年前から1億6100万年前に生きていました。羽毛恐竜は、まず保温や体のバランスを保つために羽毛を使い、その後、空を飛ぶために羽毛を使ったと考えられています。

生きた化石と生痕化石
生きた化石

 生きた化石とは、過去の特徴を今に伝える生物です。シーラカンスは中生代白亜紀に生息していた動物です。カブトガニは古生代から生息していますが、中生代からあまり変化していません。古生代から生息しているオウムガイはアンモナイトと関係があります。中生代のイチョウや新生代のメタセコイアも生きた化石です。生きた化石は、絶滅した生物種の環境や生活様式を物語っています。

生痕化石

 生痕化石とは、生物が残した生活の跡を示す化石です。

 巣穴、足跡、糞、病気や骨折の跡まで、その生物の生活状況を表しています。したがって、生痕化石から進化を裏付けます。


形態の比較[編集]

 化石と生物、生物同士の形を比較すると、進化の仕組みが見えてきます。

適応[編集]

 生物はそれぞれ変化してきました。生物は、生き続けるために、そして繫殖出来るように、形態や生活様式を変えます。これが適応です。形態や生活様式が変わるにつれて、全ての生物は共通の祖先から進化してきました。例えば、海豚は水中を速く泳ぐために尾鰭を発達させました。

発生[編集]

 あるグループが時間とともにどのように発生してきたかを見れば、その共通の祖先を見つけやすくなります。例えば、脊椎動物の発生初期には、魚の鰓のような部分があります。これは、脊椎動物が魚から進化したからだと考えられます。脊椎動物の中でも、爬虫類、鳥類、哺乳類の胚に胚膜があるのは、全て同じ祖先から誕生した証拠です。

相同器官と相似器官[編集]

 見た目は違っても、動物の種類によって、多くの器官の基本的な仕組みは同じです。両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類の前足や節足動物の足がその代表的な例です。哺乳類の中には、前脚に翼や鰭、腕などを持つ種類もありますが、それでも骨格はほとんど同じです。これらの前肢は全て同じ場所から生えています。相同器官とは、見た目も働きも全く違うのに、同じ場所から生まれたと考えられる器官を指します。相同器官には、私達の祖先が共有した仕組みに遡れる歴史があります。

 一方、昆虫の翅と鳥の翼は、空を飛ぶという同じはたらき(機能)を持っていますが、発生の仕方や見た目、どこから来たかという観点では、同じ器官とは言えません。相似器官とは、見た目も働きも他の器官とそっくりなのに、違う場所から来た器官を指します。

痕跡器官[編集]

 鯨や蛇にはもう後ろ足がありませんが、祖先の後ろ足の骨はまだ残っています。痕跡器官とは、このようにもう役目を終えた器官をいいます。痕跡器官は、進化がどのように起こったかを解明するのにも役立ちます。犬歯、虫垂、耳を動かす筋肉、尾骨などは、全て痕跡器官の代表例です。

適応放散と収斂[編集]

 白亜紀末期に恐竜が大量絶滅した後、生き残った哺乳類は、恐竜が抜けた穴を埋めるかのような姿になりました。違う環境に適応するために、1つの系統が多くの異なる系統に分かれます。これを適応放散といいます。また、適応放散では、1つの系統が多くの異なる生態的地位(ニッチ)に生息する様々な生物に分かれます。有袋類と真獣類は、哺乳類の主な種類です。有袋類とは、育児嚢とも呼ばれる袋を持つ動物です。胎盤を持つ哺乳類は真獣類といいます。真獣類がほとんどいなかったオーストラリアでは、有袋類が様々な環境に適応放散しました。

 当初、オーストラリアには真獣類はあまり生息せず、有袋類が多く生息していました。これらの有袋類は、様々な場所に住み、様々な生活様式を持っていました。それらの動物は柔軟で、動き回っていました。真獣類は、オーストラリア以外の場所でも進化しました。この真獣類とオーストラリアの有袋類を並べてみると、同じような場所に住み、同じような生活をしている動物は、よく似ています。

 この有袋類の中には、他の大陸で適応放散した真獣類とよく似ている動物もいます。これは、似たような生活様式だからです。例えば、フクロオオカミとオオカミは共に群れで生活し、フクロモモンガとモモンガも群れで生活しています。収斂とは、異なる系統の生物が同じような環境に同じような方法で適応していく過程をいいます。鮫、魚竜、海豚が外見上似ているのは、いずれも海で生活し、素早く泳ぐために進化したからです。

窒素代謝の比較[編集]

 脊椎動物は窒素を含む分子を取り込み、それを利用して、代謝物を排出します。生息環境に応じて、様々な種類の窒素代謝物が排出されます。アンモニアは、水中で生活する魚や両生類の幼虫が排出します。陸上で暮らす両生類の成体からは尿素が、爬虫類や鳥類からは尿酸が排出されます。

 卵の中の鶏胚が出す窒素代謝物を見ると、最初はアンモニアを多く排出し、次に尿素を多く排出し、最後に尿酸を多く排出しています。窒素代謝物の排出から見ると、鶏胚は魚類、両生類、爬虫類から鳥類への進化した過程の繰り返しと言えるかもしれません。

分子レベルの比較[編集]

 細胞は全ての生物に備わっています。さらに詳しく見ていくと、蛋白質は生物にとって最も基本的な物質です。そして、DNAがある塩基の並び方によって、蛋白質を作るアミノ酸の並び方を決めます。つまり、全ての生物は共通の祖先から生まれてきました。

 蛋白質とDNAがあるアミノ酸の並び方を比較すると、生物同士の関係を分子レベルで研究出来るようになりました。様々な生物のアミノ酸やDNAの並び方は、同じ祖先から生まれたからこそ、似ています。アミノ酸と塩基の並び方が違う場合、共通祖先からの分岐がかなり前に起こったと考えられます。アミノ酸と塩基の並び方がどれだけ違うかに基づいた系統樹と生物の形がどれだけ違うかに基づいた系統樹は、ほぼ同じです。

参考:エルンスト・ヘッケルの「反復説」[編集]

 私達の目の前であっという間に起こる変化に関して、祖先が生まれた段階から時間をかけて変化した繰り返しに過ぎません。このような説をエルンスト・ヘッケルの「反復説」といいます。