コンテンツにスキップ

中学校社会 公民/現代社会の特徴

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』

以下は校閲・推敲を行い、2024年の状況を反映し、常体に統一し、適宜加筆修正を行ったWikitextである:

グローバル化

[編集]

進展する正のグローバル化

[編集]

近年、ヒト・モノ・カネが国境を超えて世界レベルで移動し、世界全体の結びつきが強くなるグローバル化が進んでいる。例えば、同じ商品を作るのにも、以前は一国だけで行っていたが、現在ではそれぞれの国が独自の強みを活かして、複数の国が関与する例が増えている。電子機器などでは中国や東南アジアが有力である。さらに、異文化の交流も進み、私たちの生活に新しい変化をもたらしている。生産の効率化、異文化交流の進展、生活習慣の劇的な変化、これがグローバル化の正の側面である。

グローバル化の課題と脅威

[編集]

一方で、グローバル化には負の側面もある。ヒト・モノ・カネが世界レベルで移動するようになったため、一つの国で済んでいた問題が、世界レベルの問題に発展しやすくなった。新型コロナウイルスの世界的な流行は、その象徴である。2008年に起きたリーマン・ショックも、グローバル化によって拡散した。さらに、ヒト・モノ・カネは、どれも犯罪の標的になる。それが世界レベルで移動することは、犯罪の国際化も進むことを意味する。

また、発展途上国に先進国の文化が導入され、現地の環境や文化を破壊してしまう問題も起きている。地球温暖化も進行している。

多国籍企業が国家によるコントロールを逃れ、自社の利益だけを追求して、弱い国に国民を苦しめる政策を強いたり、経済力を利用して無理やり大規模な工場を建設し、その地域の自然環境を破壊したりする問題も発生している。国家によるコントロールを逃れた多国籍企業は、水道や道路などの社会資本の民営化を目指し、実際に民営化を実現した国では料金の高騰によって富裕層以外は社会資本を使えなくなるという平等権が侵害される事態も起こっている。

水道が民営化され、高騰した水道料金を払えなくなった住民が汚染された川の水を飲んで健康被害が出たケースは、その代表例である。

このように、グローバル化には、感染症の拡大犯罪の国際化文化や伝統の喪失環境破壊の進行格差の拡大国家主権の弱体化という負の側面がある。グローバル化を推進しようという考え方をグローバリズムといい、グローバリズムを推進する人々をグローバリストという。

ナショナリズムの台頭とグローバル化への対応

[編集]

これらの課題を解決するために、政治のグローバル化も進んでいる。国際的な問題に対処するため、国際連帯税を設けるべきだという意見もある。しかし、主権国家同士をまとめる超国家的権力は存在しないことから、結局は一国の意向だけで使われてしまうのではないかという強い反対意見もある。

そこで、ナショナリズムの台頭が進んでいる。これはグローバル化の時代だからこそ、国家の役割を強化し、負のグローバル化から自国民を守ろうという考え方である。2017年にはアメリカで「アメリカ第一主義」を掲げるトランプ大統領が当選した。2020年にイギリスはEUを離脱した。2024年現在、世界各地でナショナリズムの傾向が強まっている。しかし、ナショナリズムの台頭にも課題があり、負のグローバル化への効果的な対応策はいまだに見出されていない。

反グローバリズムの動きは世界中で広がっている。世界の多くの国では、左派は平等主義、右派は国家主義という視点から、グローバリズムによる格差拡大や国家の役割の縮小を批判し、国家の役割を強化しようとしている。反グローバリズムは左派と右派が共闘できる数少ない場面の一つだと考えられている。

しかし、日本では平等主義や国家主義を掲げてグローバリズムによる格差拡大や国家の役割の縮小を批判する声は比較的小さく、主要政党にはそうした主張を前面に出すものは少ない。日本も世界の潮流に合わせて反グローバリズムを掲げ、国家の役割を強化するべきだという意見もある。

また、反グローバリズムの台頭により、左派や右派は以前よりも「我々の国」という国家意識が強くなってきているといわれている。

国際シンボルマーク。車イスマーク。ピクトグラム。言語に依存せず、図から意味が理解できる。
非常口マーク。ピクトグラム。このマークは日本人が考案し、国際的に普及している。

情報化

[編集]

情報通信技術のことを英語でICT(Information and Communication Technology)という。この「ICT」という用語は多くの教科書で使用されており、テストでも出題される可能性がある。

現代では、インターネットやハイテク技術が社会に深く浸透している。エレクトロニクスはICLSI超LSIや5G通信、光ファイバーなどと技術革新が進んでいる。日本の工業の歴史的変遷を見ると、明治や大正時代の製鉄などの重厚長大(じゅうこう ちょうだい)産業から、現代は半導体などの軽薄短小(けいはく たんしょう)型の産業へと移行し、産業構造のハイテク化が進んだ。これは経済のソフト化サービス化とも呼ばれている。

GIGAスクール構想で導入されたChromebook

2020年から始まったGIGAスクール構想により、多くの義務教育学校ではChromebookなどの端末が1人1台導入され、ICTを活用した教育が進められている。

スーパーコンピュータ「富岳」

日本のスーパーコンピュータ技術も進化を続けており、2020年に稼働を開始した「富岳」は、世界最高水準の計算能力を持つ。新型コロナウイルス対策のシミュレーションなど、様々な分野で活用されている。

インターネットの発達により、個人でも容易に情報を発信できるようになった。SNSの普及により、個人の発信力が増大し、社会に大きな影響を与えることもある。

5G対応スマートフォン

5G通信の普及により、高速・大容量の通信が可能になり、遠隔医療やスマートシティなど、新たな技術やサービスの実現が期待されている。

一方で、情報通信の発達に伴い、これまでにはなかった新たな問題も増加している。

ランサムウェアによる攻撃が増加しており、病院や公共機関などでシステムが使用不能になる被害が報告されている。個人や組織のデータを人質に取り、身代金を要求するこの種の攻撃は、社会に大きな影響を与えている。

また、SNSを利用したなりすまし詐欺フィッシング詐欺など、新たな形態のサイバー犯罪も増加している。

ディープフェイク技術の発達により、偽の動画や音声が作成され、選挙への影響や個人への攻撃に使用されるケースも報告されている。

情報リテラシーの重要性が高まっており、学校教育でもプログラミング教育や情報モラル教育が強化されている。

  • 著作権への注意

AI技術の発達により、著作権の概念も変化しつつある。AIが生成したコンテンツの著作権をどう扱うかなど、新たな課題が生まれている。

  • 情報の取捨選択とフェイクニュースへの対応

大量の情報の中から信頼できる情報を見分ける能力が重要になっている。特に、SNSなどで急速に拡散するフェイクニュースへの対策が課題となっている。

  • サイバーセキュリティ

IoT機器の普及により、セキュリティの脆弱性が増大している。個人や組織は、常に最新のセキュリティ対策を行う必要がある。

発展的事項

[編集]
  • デジタル・ディバイド

高齢者や経済的弱者などがICTの恩恵を受けられないデジタル・ディバイドの問題が顕在化している。社会全体でICTリテラシーを向上させる取り組みが求められている。

  • プライバシーとデータ保護

個人情報の収集と利用に関する規制が強化されている。EUの一般データ保護規則(GDPR)など、国際的なデータ保護の枠組みづくりが進んでいる。

インターネットに代表されるICTは現代社会に不可欠なものとなっているが、その恩恵を最大限に活用しつつ、リスクを最小限に抑えるバランスの取れた利用が求められている。

少子化と高齢化

[編集]

少子化の現状と課題

[編集]

日本の出生数は年々減少を続けており、2023年には初めて70万人を下回り、約75万8千人となった。合計特殊出生率も1.26(2022年)と、人口置換水準の2.07を大きく下回っている。

少子化の主な要因として、未婚率の上昇、晩婚化、晩産化が挙げられる。25~39歳の未婚率は、2020年の国勢調査によると、男性が47.1%、女性が32.8%と高い水準にある。

少子化対策として、2003年に少子化対策基本法が制定され、その後も様々な施策が実施されているが、出生数の減少傾向に歯止めがかかっていない。

少子化は労働力人口の減少につながり、経済成長や社会保障制度の維持に大きな影響を与える可能性がある。

なお、日本の少子化は2005年から始まっている。つまり2005年からは死亡数が出生数を上回り続けている(※東京書籍に記述あり)。

高齢化の進行と多死社会

[編集]

日本の高齢化率(65歳以上人口の割合)は2023年に29.1%に達し、世界最高水準となっている。2025年には団塊の世代が後期高齢者(75歳以上)となり、医療・介護需要の急増が予想されている。

高齢化の進行に伴い、日本は「多死社会」を迎えつつある。年間死亡者数は2022年に約150万人に達し、今後さらに増加すると予測されている。

政府は2025年を目途に、医療、介護、予防、住まい、生活支援が一体的に提供される「地域包括ケアシステム」の構築を進めている。

人口減少社会の到来

[編集]

日本の総人口は2008年の1億2808万人をピークに減少に転じ、2024年1月時点で約1億2340万人となっている。国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、2050年には約1億人、2100年には約6000万人まで減少する可能性がある。

人口減少は、労働力不足、地方の過疎化、社会保障制度の持続可能性の低下など、様々な社会的課題をもたらす可能性がある。

社会保障制度への影響

[編集]

少子高齢化の進行により、社会保障費は年々増加している。2024年度の社会保障関係費は約36兆円と、一般会計予算の約3分の1を占めている。

年金制度の持続可能性も課題となっており、支給開始年齢の引き上げや保険料の見直しなどが検討されている。

国際的な動向

[編集]

少子高齢化は日本だけの問題ではなく、韓国、シンガポール、ドイツなど多くの先進国でも進行している。一方、アフリカなどの発展途上国では人口増加が続いているが、長期的には世界全体で高齢化が進むと予測されている。

対策と今後の展望

[編集]

少子化対策として、子育て支援の充実、働き方改革、結婚支援などが実施されている。高齢化対策としては、健康寿命の延伸、高齢者の就労促進、介護サービスの充実などが進められている。

また、人口減少に適応した社会システムの構築も課題となっている。コンパクトシティの推進、AIやロボットの活用による生産性向上、外国人材の受け入れ拡大などが検討されている。

少子高齢化と人口減少は日本社会の大きな転換点であり、従来の成長モデルや社会システムの見直しが求められている。持続可能な社会の実現に向けて、社会全体で取り組むべき重要な課題である。