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シュメール語/文法入門/楔形文字

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』

シュメール語の楔形文字について

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シュメール語の楔形文字を読み始める前に、楔形文字一般の概念や問題とシュメール語の楔形文字特有のことについていくつか紹介していきたいと思います。少々お付き合いください。あくまでシュメール語の入門書ですから、それほどの時間はとらせません。

シュメール語はどう書かれたか

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シュメール語について学んだあなたは、実際に読んで見たいと思っていることでしょう。おそらくは、それが楔形文字で書かれていることも知っているはずです。しかしそれは実際のところ楔形文字とはどういうものなのでしょうか。楔形文字とは誰が発明して、どのように使われたものなのでしょう?

私達が知るところによると、最初人々はお互いの間の取引や契約のために小さな粘土のシンボルを使用していました。羊や牛を象った紀元前3500年ごろの遺物が見つかっており、原始的な計数法の存在を示唆しています。おそらくですが、この種の視覚的なシンボルからやがて抽象的な概念を粘土の上に表現したいという欲求が生じたのではないでしょうか。紀元前3000年ごろまでにはすでに興味深い記号が書き残されたものが見つかっていて、より複雑な概念が表現されていることがわかります。これらの遺物が何を意味しているのか、あるいは個々のシンボルをどのように解釈すべきかを知ることは依然困難な仕事です。未だ多くの作業が進められており、非常に重要な分野になっています。人間の文明の歴史上、独立した文字の発明が行われたのはわずかに4回か5回程度で、そのプロセスを理解することは本当に重要なことなのです。残念ながらシュメール語自体を十分に理解できていないため初期シュメール語の解読を難しくしています。

紀元前2100年ごろになると、過去のぎこちない象形文字は姿を消し、完全な形の書法が現れます。純粋な表音文字や、テキストの読み書きを補助するための発音されない記号も持っています。これが私達が読もうとしている楔形文字の始まりですが、他のどのような媒体とも同じように、その後千年の間使われ続けている間には長い歴史と大きな変化を経ていることを忘れないでください。

とはいえこのよく整った状態であってもそこには書法についてのいくつかの未解決の疑問や、書き残された文字自体の問題があり、楔形文字とそれによって表現された言語との両方ともに理解の難しさがあります。あなたが良い謎を楽しめるたちであれば、シュメール語の楔形文字は最高のものの一つです。今日私達が知っている多くの知識は、僅かな情報をもとに協力して取り組んだ初期のシュメール語学者の技術と直感の証なのです。

シュメール語と楔形文字の問題

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シュメール語楔形文字の問題の幾分かは、文字の起源自体に根ざしています。もしあなたが地平線から昇る日を描いて「一日」を表したとして、それでは「夜明け」はどのように表現しますか? あるいは「夕焼け」は? 「正午」は? また絵を描いただけでは実際の発音との関係を表現することはできません。それに「解決」とか「いつ」という概念をどう描きますか? 

シュメール語からの助け

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私達はシュメール語自体から、楔形文字の書き方について役立つ助けを得ることができます。これまで見てきたように多くのシュメール語の単語は短い一音節からなり、多くの同音異義語を持っています。このため実際には「いつ」の象徴的表現を見つけるためのシュメール人の苦労の跡は見つかりません。シュメール語のudは「一日」を意味すると同時に「いつ」という前置詞でもありました。だから彼らは「いつ」のための新しい楔形文字を作る代わりに地平線から昇る朝日のシンボルを再利用することにしました。このようにして、私達はシュメールの音韻論についても知ることができます。同じ発音の言葉には同じ字を使うため、どの語が同音異義語であるのかを簡単に知ることができるのです。(もちろんかれらは同音異義語に対して文字を使い分けることもしました。シュメール語のlilは「愚か者」を意味しますが、「風」を意味する場合には違う字を使いました)

別の大きな情報源は純粋な表音文字です。幸運なことに、シュメール人は接辞を追加するときに音のつながりを記述することを好んでいて、例えばlugal.aniを楔形文字で記述するときにlu-gal-la-a-niという風に書くことがありました。lugal の最後の"l"の音を次の母音につなげてlaの文字を書くわけです。この種の記法は私達にとって大きな助けとなりました。語の音韻について直接の証拠がない場合にも、la-a-ni という文字を見つけたらその前の語がl'で終わることに賭けてもいいでしょう。このような言語内部の比較を通じて私達はシュメール語の音韻概念を構築することができました。とはいえ使われる頻度の低く手がかりのない語についてはどうでしょう。それらが何を意味しているのか、どうすればわかるでしょうか?


アッカド語からの助け

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もう一つの巨大な情報源はアッカド語の書記から得られました。シュメールで時は流れ、アッカド語の普及と共にシュメール語は死語になっていきました。理由はわかりません。アッカド語を話す王たちの侵略により強制的な言語の置き換えが進められたのかもしれません。自然の摂理によるものかもしれません。いずれにせよ、この地域を支配した王達は公式の文書ではシュメール語を使い続けました。古い偉大な王が使った荘重な言語という感覚が新しい王にも植え付けられていて、王権の権威のために用いられていたのかもしれません。

意図はともかく、現実にはアッカド語話者の書記の一団はすでにほとんど死語になっていたシュメール語を書くことを余儀なくされました。そうとう難儀なことだったことでしょうが、おかげで私達には大きな恩恵がありました。書記官達はアッカド語のある単語がシュメール語でどう翻訳されるのかを忘れてしまわないよう、立派な翻訳辞書を編纂してくれたのです。なんという宝でしょう! 私達はこれらの粘土板のいくつかを見つけることができました。アッカド語については十分な解読が進んでいるため、アッカド人が利用した膨大な量のシュメール語の単語を自動的にあてはめることができました。もちろん翻訳の常としてあらゆる言語から他の言語への翻訳はニュアンスの欠如を伴います。またいくつかの間違いも見つかっていますが、それでもこの二言語のテキストはシュメール語の楔形文字の理解に大きく役立ちました。シュメール語の文書でまれにしか出現しないような言葉をこれらの辞書なしで翻訳することは不可能だったことでしょう。

楔形文字の発展

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先にも書きましたが、楔形文字は固定された体系ではありません。長い時間とともに進化し、書記の要求に役立つよう形を変えました。アッカド人が自分たち自身の言語を記すためにこの体系を借用したときには、いくつかの文字の意味の変化だけでなく書体や記号にも大きな変化が見られます。アッカド語の音節やその出現頻度はシュメール語のそれとは大きく違うため、書字法にいくつかの変更を加えたいと考えるのは当然のことでした。この移行は単純なものではありませんでした。シュメール語とアッカド語は完全に異なる言語ファミリに属しており、多くの構文構造は完全に放棄され、その代わりとなる多くの新しい単語や接辞が作成されました。


このような傾向は改められた文字がメソポタミア周辺のさらに多くの地域に広まるとともに加速しました。ヒッタイト人や古代ペルシャ人が手にしたときには、文字は印欧語にも対応する必要がありました。最後に、ウガリト族の誰かがこのような全てのことにうんざりして、一揃いの「アルファベット」を発明することにしました。ウガリト語の文書は一音が一文字に対応した、かなり良い表現のアルファベットとして見つかっています。この書字革命はシュメール時代には発見されなかったので、私達は表語文字と音節文字の入り混じった楔形文字にとらわれているというわけです。

シュメール語の楔形文字についての疑問

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まだ明かされていない重要な疑問は、楔形文字の最初の起源についてです。楔形文字で記述したものが見つかった最も古い言語がシュメール語であることから、シュメール人がそれを発明したものと考えられてはいます。ただし知られているように初期に書かれたのは粘土上のただのシンボルに過ぎません。どんな言語であれ同じように見えたでしょう。実際にはそれは全く言語と呼べるものではありませんでした。そこには文法も構文も、言語とそれ以外の何かをわける何物もなかったのです。

ですから長い間私達はシュメール人が楔形文字を発明したのだと仮定していました。これは科学的な手法です。言語学者は、知られている事実に即した最も簡単な説明を考えたわけです。この場合は、シュメール語を話す誰かがシュメール語の記法を発明したというものです。

残念なことにこの単純な仮説は、筆記体系としての楔形文字に対する多くの研究が進むに連れ、緊張の兆候を見せるようになりました。シュメール学者はこの文字が彼らの言語にうまく適応していないように見えることに疑問を持ちました。例えば、なぜテキストには非常に多くのバリエーションがあるのでしょうか? 文字を発明した元の言語にはシュメール語とは異なる音素のセットがあったからでしょうか? シュメール人は彼らの言語を他者の発音に「適合」させようと試みたのでしょうか? それとも――おそらくは、単純な事実として時の流れにより変化した言語に文字の変化が追いつけなかったという可能性もありましょう。これはよい科学の題材です。私達は直面した多くの反対証拠を前にしたとき、仮説を変更することを恐れてはいけません。

この場合は証拠はずっと遠くにあります。全体の問題は未だに未解決で、さらなる研究に値するものです。これらの初期の粘土板や遺物には、いまだ識別されていない別の言語の文章が含まれているかもしれません。もしそうならそれは本当に驚くべき発見であり、書法の歴史を全面的に修正する可能性があるのです。


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