一般力学/ベクトルの乗法

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』

§3 ベクトルの乗法

二つのベクトル の積を定義するのに,加え算の場合から類推される というような単なる成分の積は,座標系の取り方によりその値を異にし,一定の幾何学的意味を有するものとならない.そこで,これらを組み合わせて の形のもので,定まった幾何学的意味を有するものを作り,かつこれに対して数の掛け算に関する諸法則がなるべく満足させられるようなものを求める.この条件に適うものは次の二つである[1]

(i) スカラー積 二つのベクトル から一つのスカラーを積として作り出す算法をスカラー積といい, 積を などと記す.その定義は の間の角を として,

(3.1)

即ち一方のベクトルの大きさに他方のベクトルのその上への射影を掛けたものである. この定義からスカラー乗法に対して数の掛け算と類似な関係

(3.2)

が成り立つことがわかる.(最後のものの左辺は の上への射影を掛けたもので,これが右辺に等しいことは作図すれば明瞭である). 数の場合と違うのは なるときは のほかに でもよいこと,除法が一義的に可能でないことなどである. なるときには,,即ちベクトルの大きさの二乗に等しい.

基本ベクトル大きさ で,かつ互いに垂直であるから,その間に次の関係がある:

(3.3)

よって (3.2)(3.3)の関係を用いてほぐせば,

(3.4)

特に がどちらも単位ベクトルであるときには であるから,

(3.5)

ただし はそれぞれ の成分,即ちその方向余弦である. また或るベクトル 単位ベクトル 方向への射影は, との間の角を とすれば,

(3.6)

で与えられる.

(ii) ベクトル積 二つのベクトル により定められる平行四辺形 代表ベクトル ベクトル積と呼び, などと記す.従ってその大きさ

方向 に垂直,向きは へ(> より小さい角で)まわしたとき,右ネジの進む向きである.この定義から次の関係が証明される.


(iii)三つのベクトルの積

  1. ^ ここでは結果だけを示したが,上のようなベクトル成分双一次形式で一定の幾何学的意味(座標系の取り方に無関係な意味)を有する量を求めることは三次元回転群の表現論を用いれば最も簡単に解決される.