高等学校物理/原子物理
このページでは、電子と光の粒子性・波動性(量子論の入り口)、原子と原子核の構造、放射線と核反応、素粒子を扱う。
電子と光
[編集]この章では、電子の発見と電気素量の測定、光電効果・X線・コンプトン効果に現れる光の粒子性、電子の波動性を扱う。
電子の発見と測定
[編集]陰極線
[編集]両極に電極を封入したガラス管に高電圧を加えるとき、内部の気体を抜いていくと管全体が内部気体特有の発光を示す。このような稀薄気体による放電を真空放電という。最近は減りつつあるが、蛍光灯は低圧のガラス管に少量の水銀蒸気を入れて真空放電を起こすことにより、水銀から紫外線を発生させて蛍光塗料を光らせている。
1858年、ドイツのプリュッカーは真空放電の実験の中で、ガラス管内の真空度を増すとあるとき管内の光が消えて正極側の管壁が蛍光を発することを発見した。これを受けて、1874年にイギリスのクルックスが「負極から出た何かが正極に向かって進んで管壁にぶつかることによって蛍光する」という考えを提唱した。ここで、正極・負極をそれぞれ陽極・陰極、陰極から出る何かを陰極線と名づけた。
-
クルックス管。陰極は右側にある。陽極は下部にある。
-
陰極線は、陰極から飛び出て進み、管壁にぶつかって蛍光を発させる。十字状の物体と同じ形の影が出来ることから陰極線が物体に遮られることも確認できる。
-
U字磁石を配置して平行な磁場を与えると、陰極線は上に曲げられる。
-
今度はU字磁石を逆に配置して平行な磁場を与えると、陰極線は下に曲げられる。
その後、さまざまな実験により陰極線の性質が解明された。
- 写真フィルムを感光する
- 蛍光物質に当てると発光を示す
- 物体に遮られ、その後ろに影を作る
- 電場や磁場に、負電荷と同様の影響を受ける
- これらの性質は陰極の金属の種類や管内の気体の種類に依存しない
これらを総合すると、「陰極線は負電荷を持つある特定の粒子の流れで、その粒子はすべての金属に含まれる」という仮説が立つ。
この粒子の正体を調べるために、次のような実験が行われた。
トムソンの実験
[編集]1897年、イギリスのトムソンは陰極線が電場や磁場でどのように曲げられるかを詳しく調べた。
真空中に間隔d、長さlの平行平板電極a, bを上から順に置き、電極面に平行に、電極間に向けて左から速さvで質量m、電荷-eの荷電粒子を入射する。電極の右端から距離Lだけ離れたところに蛍光物質を塗ったスクリーンを置いて粒子の到達地点を記録する。電子の入射方向にx軸をとり、電極の左端を通りスクリーンに平行な直線をy軸とする。また、表から裏の向きにz軸をとる。粒子の質量mは非常に小さい値と考えられるので、重力の影響は無視する。
まず、極板間にy軸の負の向きに大きさVの電圧をかける。このとき、極板間の電場は一様になるので、電場の強さはと求まる。粒子は負電荷なので電場の向きと逆、すなわちy軸の正の向きに電場からの力を受け、その大きさはである。よって粒子の加速度は運動方程式よりと求まる。
このとき、x軸方向は等速直線運動、y軸方向は等加速度運動をするので、xy平面上では放物運動をすると見做せる。x軸方向で考えると、速さvでlだけ移動する時間は、距離=速さ×時間よりである。y軸方向で考えると、粒子が電極を抜ける瞬間のy座標はと求まる。
電極を抜けた粒子は等速直線運動を行うので、粒子が電極を抜けてからスクリーンに到達する時間はx軸方向で考えるとである。y軸方向は位置に達したときの速度で等速運動をするので、 である。よって、電極を通過した後のy方向の移動距離はと求まる。スクリーンに到達したときの粒子のy座標はである。
次に、電極間にだけz軸の正方向に一様な磁場を加える。入射した粒子が直進するように磁場を調整すると、粒子が電場から受けるクーロン力と磁場から受けるローレンツ力が釣り合うので、磁束密度の大きさについて力の釣り合いの式よりが成り立つ。よってである。
これらを総合すると、よりと求まる。
このを荷電粒子の比電荷という。当時、最終的に求まった式に含まれる定数はすべて測定可能だったので、比電荷の値を求めることができた。現在の精密な測定値は、 C/kgである。
この比電荷は陰極に用いる金属や管内の気体の種類に依存しないので、物質の中には負電荷を持った粒子が共通に含まれることが証明された。この粒子は電子と名付けられた。現在では、この電子が電気の正体であると分かっている。
なお、電子の具体的な質量や電気量の測定は1909年のミリカンの実験を待つことになる。
ミリカンの実験
[編集]ミリカンの実験は、霧吹きなどで作った微小な油滴をX線やラジウムなどで帯電させ、外部から電場を加えて、油滴の電荷の値を調べる実験である。電極板は、電場による静電気力が上向きにはたらくように設置する。油滴には重力(下向き)と静電気力(上向き)がはたらくので、両者が釣り合って静止したときの電場から、電荷の値が求まる。
油滴の質量をm、電気量を-q、電場の強さをE、重力加速度をgとすると、油滴に働く重力とクーロン力が釣り合っているので、である。
電場の強さを0にすると、油滴は自由落下運動を始めるが、空気抵抗によって終端速度vで落下するようになる。このとき、油滴に働く重力と空気抵抗力が釣り合っているので、空気抵抗の比例定数をkとしてが成り立つ。
総合して、を得る。
この実験を繰り返して測定した電荷の値は、すべて 1.6×10-19 Cの整数倍になった。このことから、電子1個の電気量の大きさが 1.6×10-19 Cであると分かった。
この 1.6×10-19 Cを電気素量という。
現在では、電気素量は と定義されている。
この値とトムソンの実験で求めた比電荷の値から、電子の質量は kgと求まる。
19世紀前半、ファラデーらの電気分解の研究により、電気分解で析出・発生する物質の量は流れた電気量に比例することが知られていた。また、電気分解で発生した気体は帯電していることも知られていた。イギリスの物理学者タウンゼントは、このような気体に含まれる電荷の合計と、気体の量(粒子の数)とを測定することにより、電子1個あたりの電荷(電気素量)を概算した。
得られた値は、現在の値と桁が同じ程度のものであった。
光の粒子性
[編集]光電効果
[編集]
負の電荷に帯電させてある金属板に、紫外線を当てると、電子が飛び出してくることがある。この現象を、光電効果という。1887年、ヘルツによって、光電効果が発見された。レーナルトによって、光電効果の特徴が明らかになった。
当てる光の振動数が、一定の高さ以上だと、光電効果が起きる。この振動数を限界振動数といい、これより低周波数の光では、光電効果が起こらない。また、限界振動数のときの波長を、限界波長という。
限界振動数は物質によって異なる。亜鉛板では紫外線でないと光電効果が起きないが、セシウムでは可視光でも光電効果が起きる。
光電効果とは、物質中(主に金属)の電子が光からエネルギーを受け取って外部に飛び出す現象のことである。 この飛び出した電子を光電子という。
光電効果には次のような特徴的な性質がある。
- 光の振動数がある振動数(限界振動数)以上でないと起こらない。
- 光電子の運動エネルギーの最大値は当てた光の振動数のみに依存し、光の強さには依存しない。
- 単位時間あたりに飛び出す光電子数は、光の強さに比例する。
- 光を当ててから光電子が飛び出すまでの時間の遅れがほとんどない(光が弱くても、限界振動数以上であればほぼ瞬時に起こる)。
これらの性質のうち、1番目・2番目・4番目の性質は、古典物理学では説明できない。光を電磁波という波動の性質だけで捉えると、実験結果と矛盾が生じる。
仮に電磁波の電場によって金属から電子が放出すると考えた場合、光の強さが大きくなるにつれ光波の振幅が大きくなるので、電場も大きくなるはずである。
しかし、実験結果によれば光電子の運動エネルギーは光の強さには依存しない。
よって光電効果は古典物理学では説明できない。 また、光が弱いときには、電子がエネルギーを蓄えて飛び出すまでに時間がかかるはずであるが、実際にはほぼ瞬時に光電子が飛び出す(4番目の性質)。これも波動の理論では説明できない。
アインシュタインの光量子仮説
[編集]古典的な電磁波理論では光電効果を説明できないという矛盾を解決するために、次のような光量子仮説がアインシュタインによって提唱された。
- 光は、光子の流れである。光子を、光量子ともいう。
- 光子1個の光エネルギー は、光の振動数 に比例する。
比例定数 をプランク定数という。
光電効果を起こすのに必要な最小エネルギーを仕事関数という。仕事関数の値は金属の種類によって異なる。
仕事関数を とすると、光電子の運動エネルギーの最大値 について、次式が得られる。
- (1.1)
この式より、光電効果が起こる条件は となる。これは に相当する。
これより、限界振動数 について、が成り立つ。
この光量子仮説により、光電効果の1番目・2番目・4番目の性質を矛盾なく説明できるようになった。光は、粒子のように振る舞う。
なお、光電効果の3番目の性質から、ある場所の光の強さは、その場所に単位時間・単位面積あたりに飛来する光子の数に比例することが分かる。
エネルギーの単位:電子ボルト
[編集]電子や光子一個のエネルギーは非常に小さいので、ジュール(J)をそのまま用いると使い勝手が悪い。そのため、新たにエネルギーの単位を設定する。
真空中において電子一個を1 Vの電圧で加速するときに電子が得る運動エネルギーを電子ボルト(エレクトロンボルト)という(記号:eV)。である。
例:銅の仕事関数は4.65 eVである。
光の波長は、どのようにして測定されたのか。
現在では、例えば原子の発光スペクトルの波長測定なら、回折格子をプリズムとして使うことによって、波長ごとに分け、波長が測定されている。
可視光の波長の測定は回折格子によって測定するわけだが、ではその回折格子の細かい数百nm〜数千nm程度の間隔の格子溝をどうやって作るのか、という問題がある。
歴史的には、次のようにして可視光の波長が測定されていった。
まず、1800年代初めの「ヤングの実験」で有名なヤングらの研究により、可視光の波長は、おおむね数百 nm(10-7m 程度)であることが、この頃から既に予想されていた。現在の値では、可視光の波長は約 380 nm 〜 780 nm である。
その後、ドイツのレンズの研磨工だったフラウンホーファーが優れた回折格子を開発し、可視光の波長を精密に測定する事に成功した。フラウンホーファーは回折格子を作るために細い針金を用いた加工装置を製作し、その加工機で製作された回折格子を用いて光波長の測定を始めたのが研究の起こりである。1821年、フラウンホーファーは格子を130 本/cmも並べた回折格子を製作した。[1]
また、1870年ごろにはアメリカのラザファードがスペキュラムという光の反射性の高い合金を用いた反射型の回折格子を製作し、これによって700 本/mmもの格子のある回折格子を製作した。
更にこの頃、送り螺子の潤滑のために水銀を使う水銀浮遊法が、研究開発で行われた。
後の時代、より高精度な波長測定が物理学者マイケルソンによって行われた。
干渉計を用いて反射鏡を精密螺子で細かく動かすことにより高精度な波長測定器を作り、この測定器によってカドミウムの赤色スペクトル線を測定した。測定波長は643.84696 nmだった。マイケルソンの測定方法では、赤色スペクトル光の波長を当時のメートル原器と比較することで測定した。[2]
このマイケルソンの制作した干渉計にも、水銀浮遊法の技術が取り入れられている[3]。
更に螺子の技術革新で、弾力性のある材質で螺子を作ることによって誤差を均し高精度とする技術マートン・ナットが、イギリスの物理学者トーマス・ラルフ・マートンなどによって開発された。
なお、現代でも、研究用として干渉計を用いた波長測定器が用いられている。メートル原器は、マイケルソン当時は長さの基準だったが、1960年にクリプトン86の発する光の波長に基づく定義に改められて標準ではなくなり、さらに1983年からは光速に基づく定義となっている。現在のメートルの定義は次のとおりである。
- メートルの定義
- 真空中の光速 を単位 m/s で表したときに、その数値を 299792458 と定めることによって定義される。
- ここで、秒はセシウム周波数 によって定義される。
光電効果の測定
[編集]光電効果の実験図のように、光電管の陰極に限界振動数ν0よりも振動数が大きい光を当てると、光電子が飛び出し陽極に流れ込む。このときの電流を光電流という。
光電流の測定結果は、右のグラフのようになる。
陽極の電位が正であれば飛び出した光電子は全て陽極に流れこむため、電圧を高くしても光電流の大きさは一定である。
陽極の電位が0であっても、光電子は運動エネルギーを持って飛び出すので、陽極に到達することができる。
陽極の電位を負にしてさらに下げると、光電子は電場から受けるクーロン力によって運動を妨げられ、ある電位 で陽極に到達する前に運動エネルギーが0になってしまう。このときの電圧 を阻止電圧といい、が成り立つ。
つまり、阻止電圧を測定すれば光電子の持つ運動エネルギー を求めることができる。
このとき、光の振動数 または光の波長 が分かっていれば、より金属の仕事関数 も求めることができる。
ただし、陽極と陰極で金属の種類が異なるとき、これらの仕事関数の違いに伴い接触電位差が現れるため、それも考慮しなければならない。
なお、光電効果によってプランク定数を測定することもできる。光の振動数 を変えながら阻止電圧 を測定し、 より
とすると、 を縦軸、 を横軸にとったグラフは直線になる。この直線の傾きは 、横軸との交点は限界振動数 、縦軸との交点は である。傾きに電気素量 を掛ければプランク定数 が求まる。
- 問
- 銅の仕事関数を 4.65 eV とする。波長 200 nm の紫外線を銅に当てたとき、(1) 光電子の運動エネルギーの最大値、(2) 阻止電圧、(3) 光電効果が起こる限界波長を求めよ。ただし とする。
- 解答
- (1) 光子のエネルギーは であるから、(約 )。
- (2) より、。
- (3) より、。
X線
[編集]X線の発見
[編集]
陰極から出た陰極線を陽極に照射すると、X線が出る。

レントゲンは、1895年、放電管を用いて陰極線の実験をしていたとき、放電管の近くに置いてあった蛍光板が、管から離れていても光っていることに気付いた。
レントゲンは、陰極線がガラスに当たったとき、何か未知のものが放射されていると考え、これをX線と名づけた。
やがて、種々の実験によってX線の性質が明らかになった。X線には次のような性質がある。
- 磁場や電場で曲がらない。(この事から、X線は荷電粒子ではない事が分かる)
- X線を照射された物質はイオンに電離する。(電離作用)
- 可視光線を通さない物質でも、X線なら透過できる場合がある。(医療診断に応用されている。)
- 蛍光物質を光らせる。
X線の発生とスペクトル
[編集]上のX線管の図において、電流による発熱で陰極から放出された熱電子は高い電圧によって加速され、ターゲット(陽極)に衝突する。このとき、一個の電子の持つエネルギーの一部または全部がX線光子のエネルギーとなり、残りは陽極熱に変換される。
発生するX線のスペクトルは、ある最短の波長から始まってそれより長い波長を連続的に含む。これを連続X線という。
電子のエネルギーが全てX線光子のエネルギーに変わるとき、よりX線の波長は最短となる。このときのX線の振動数をν0、波長をλ0、加速電圧をVとすると、電子の初速度が0のとき、が成り立つ。すなわち、最短波長はと求まる。

右の図のように、連続X線の他に特定のエネルギーを持つX線が強く放射される場合があり、これを固有X線(特性X線)という。固有X線の波長はターゲットの材質で決まる。
X線の波動性
[編集]1912年、物理学者ラウエは、X線を単結晶に当てると、写真フィルムに斑点の模様が現れることを発見した。これをラウエ斑点といい、結晶中の原子が回折格子の役割をしたことで発生した干渉現象である。

1912年、ブラッグは、反射が強めあう条件式を発見した。
この条件式
- (nは正の整数)
をブラッグの条件という。
上式のdは格子面の間隔の幅、θは入射X線と格子面とのなす角(視射角)である。
これは結晶面での回折や屈折を無視した場合の式であり、実際にはもう少し複雑な式となる。
X線の粒子性
[編集]X線を物質に当てて散乱された後のX線を調べると、その中に元のX線の波長よりも長いものが含まれることが分かった。このように散乱X線の波長が伸びる現象は物理学者コンプトンによって解明されたので、コンプトン効果(コンプトン散乱)という。

この現象は、X線を波と考えたのでは説明がつかない。(仮に波と考えた場合、散乱では波長が変化しないので散乱光の波長は入射X線と同じになるはず。) そこで、X線を粒子の流れと考えて、コンプトン効果を説明する。
この当時、アインシュタインは光量子仮説に基づき、光子はエネルギーだけでなく、次の式で表される運動量 も持つことを示している。
物理学者コンプトンは、この発見を利用し、波長λのX線を、運動量 とエネルギーを持つ粒子(光子)の流れと考え、 X線の散乱を、この光子が物質中のほぼ静止した自由な電子と(完全弾性)衝突をした結果と考えた。
- コンプトンはこの考えに基づき、光子と電子の間に運動量保存則及びエネルギー保存則が成り立つと仮定して計算して、実験結果とよく合う結果が得られることを確かめた。

この図では、電子が真空中にあるように見えるが、実際は異なる。実際にコンプトンが行った実験は、石墨の炭素などの物質にX線を照射する実験である。図中の電子は、炭素などの分子が提供する電子である。
散乱の関係式は、次の手順で導く。散乱された光子の波長を、入射方向(x軸)に対する光子の散乱角を、電子の質量を、はね飛ばされた電子の速さを、その向きを入射方向から反対側に測った角をとする。電子は最初静止しているものとする。
- エネルギー保存の式を立てる。
- 運動量の保存の式を立てる。
エネルギー保存の式
- (1.2a)
運動量保存の式
- x軸: (1.2b)
- y軸: (1.2c)
なお、(1.2a)では電子の運動エネルギーに非相対論的な式を用いており、これは電子の速さが光速に比べて十分小さいとした近似である。式(1.2a)〜(1.2c)の3つの式を連立し、とを消去しての関係式を求める。
ⅰ)まず、式(1.2b),(1.2c)からを消去する。
式(1.2b)から
式(1.2c)から
この両式を加え、を用いると
この右辺をを用いて整頓すると、
- (1.2d)
を得る。
ⅱ)式(1.2d)を式(1.2a)に代入してvを消去する
式(1.2a)の右辺の第2項を変形して式(1.2d)を代入する。
これを式(1.2a)の右辺に代入すると
両辺をで割ると
- (1.2e)
を得る。 この式の右辺の第2項の括弧内を次のように変形する。
この式を式(1.2e)の右辺第2項に代入すると
この式の右辺の第1項を移行し、式を変形すると
両辺にを掛けると
- (1.2f)
X線の散乱では、なので
- は、波長に比べて非常に小さい値になり無視できる。
よって式(1.2f)から
- (1.2g)
以上で、式(1.2g)が導かれた。
この式は、散乱による波長のずれが、散乱角だけで決まり、入射X線の波長にはよらないことを表している。を電子のコンプトン波長という。なお、運動エネルギーに相対論的な式を用いて計算すると、近似を使わずに式(1.2g)と同じ形の式(等号が成り立つ)が得られることが知られている。
- 問
- 波長 のX線が静止した自由電子に衝突し、散乱角 で散乱された。散乱X線の波長のずれ を求めよ。また、散乱角が (後方散乱)のときの波長のずれは のときの何倍か。ただし とする。
- 解答
- 式(1.2g)より、 のとき なので 。
- のとき なので 。これは のときの2倍である。
粒子の波動性
[編集]物質波
[編集]フランスのド・ブロイは、波と考えられていた光が粒子の性質を持つならば、電子も粒子としての性質だけでなく波動としての性質を持つだろうと考えた。
そして、電子だけでなく、一般の粒子に対しても、その考えを適用し、次の公式を提唱した。
- 運動量 の粒子は波動性をもち、その波長は次式で与えられる。
これはド・ブロイによる仮説であったが、現在では正しいと認められている。
この波は、物質波と呼ばれる。ド・ブロイ波ともいう。 すなわち、光子や電子に限らず、あらゆる物質は粒子性と波動性を併せ持つといえる。
物質波が存在するなら、電子線を物質に当てれば回折などの現象が起きるはずである。
1927年〜1928年にかけて、デビッソンとガーマーは、ニッケルなどの物質に電子線を当てる実験を行い、X線回折と同様に電子線でも回折が起きることを実証した。日本でも1928年に菊池正士が雲母片に電子線を当てる実験により回折が起きることを確認した。
電子を高電圧で加速して速さを大きくすると、物質波の波長は小さくなり、可視光の波長よりも短くできる。
そのため、可視光では観測できなかった結晶構造が、電子波やX線などで観測できるようになった。生物学でウイルスが電子顕微鏡で観測できるようになったのも、電子の物質波の波長が可視光よりも大幅に小さいからである。
- 問
- 静止していた電子を電圧 100 V で加速した。電子の物質波の波長を求めよ。ただし、電子の質量を 、電気素量を 、プランク定数を とする。
- 解答
- 加速後の運動エネルギーは より、運動量は である。よって
- この波長は、X線の波長や結晶中の原子の間隔と同程度であり、電子線でも結晶による回折が起こることが分かる。
粒子と波動の二重性
[編集]電子の干渉実験
[編集]


電子銃は電子を放出する装置である。
電子銃を用い、二重スリットに向けて電子を1個ずつ当てる実験を行うと、図のように、波動の場合と同様に、電子の多く当たる場所と少なく当たる場所との縞模様ができる。
このように、電子にも粒子性と波動性があり、電子は粒子でありつつ、二重スリットに向かって電子を撃ち込むと干渉を起こすという波動性も持っている。
物質波の回折や電子の干渉などの実験の結果から、すべての物質は、原子程度以下の小さなスケールでは、波動性と粒子性の両方の性質を示すと考えられている。
このことを粒子と波動の二重性という。
光学顕微鏡(レンズを用いる顕微鏡)では、回折が起こることによって光の波長よりも小さな物体を見ることが非常に困難となる。分解能(2点を識別できる限界の距離)は10-7m(100nm)程度である。
より高い分解能を得るため、光よりも波長が短い電子線を用いる電子顕微鏡が発明された。電子顕微鏡では、加速電圧を高くすることで高い分解能を得られる。ただし、電磁波によるレンズ作用を用いることによる収差(像の歪み)などの障碍から、現在の最高分解能は10-10m(0.1nm)ほどに留まっている。
この分解能では、ウイルスどころか金属・酸素などの原子すらも観察することが可能であるが、中性子・陽子・電子などは小さすぎて観察できない。
副読本:朝永振一郎『光子の裁判』1949年(朝永振一郎は1965年にノーベル物理学賞を受賞した物理学者だが、寺田寅彦と同様に一般向けの書籍を多数執筆する文豪でもあった。この作品では、光子になぞらえた「波乃光子」という被告の裁判を舞台に、粒子と波動の二重性の不思議さを繙いている。)
発展:不確定性関係
[編集]
不確定性原理の主要な提唱者である。
電子などの量子の位置や運動量は確定しているわけではなく、物理量を測定するとその状態に対応する確率分布に従った値が得られる。位置と運動量について標準偏差を計算する事ができるが、位置の標準偏差と運動量の標準偏差の積は必ず 以上となる。このことを不確定性関係という。
原子・原子核・素粒子
[編集]この章では、原子の構造(ラザフォードモデルとボーアの理論)、原子核の性質と放射線、核反応、素粒子の概要を扱う。
原子
[編集]原子模型の変遷
[編集]陰極線に関連する実験から、全ての原子に負の電荷を持つ電子が含まれると考えられたが、原子は電気的に中性なので正の電荷を帯びた部分が存在するはずである。
そこで、原子の構造について様々な説が登場した。
比電荷の測定を行ったトムソンは、一様に正に帯電した球の中を電子が運動しているというプラムプディングモデル(ブドウパンモデル)を提唱した。長岡半太郎は、フランスのジャン・ペランが提唱した、正電荷を持つ粒子の周りを電子が公転している土星型モデルを定量化して大幅に補強した。しかし、実験結果と合うのは、次に述べるラザフォードのモデルであった。

ドイツのガイガーとイギリスのマースデンは、α粒子を薄い金箔に当てる実験を行い、α粒子の散乱の様子を調べた。(α粒子はヘリウムの原子核である。)その結果、ほとんどのα粒子は金箔を素通りするが、金箔中の一部の場所の近くを通ったα粒子だけが大幅に散乱する現象を発見した。
α粒子は電子の7000倍以上の質量を持つことから、電子の影響で大きく曲げられたとは考えにくい。そこで、原子内の狭い部分に集中した正電荷がα粒子に強い斥力を及ぼし、その部分が原子の質量の大部分を占めていると考えて計算を行い、実験結果をうまく説明することに成功した。
原子(大きさ10-10 m程度)内の正電荷が集中した10-15~10-14 m程度の重い部分は原子核と名付けられた。
原子は、中心に原子核があり、そのまわりを電子が運動するというラザフォードモデルとよばれるモデルによって説明される。ラザフォードモデルは、土星型モデルを発展させたものとも言える。
ラザフォードモデル
[編集]原子は、全体としては電気的に中性であり、負の電荷を有する電子を電子殻に持つ。 ここで、ミリカンの実験などの結果から、電子の質量は水素イオンの質量の約1/1840程度しかないことが分かっている。 すなわち、原子は電子と原子核とからなり、質量の大部分は原子核がもつことが分かる。 原子核の大きさは原子全体の1/10000程度であるため、原子の体積の大部分は、原子核の外側の電子が運動する空間である(量子力学では、電子は原子核のまわりに確率的な雲のように広がって存在すると考える)。 原子核は、正の電荷をもつZ個の陽子と、電気的に中性な(A−Z)個の中性子からなる。 陽子と中性子の個数の合計を質量数という。 陽子と中性子の質量はほぼ等しいため、原子核の質量は、質量数Aにほぼ比例する。
統一原子質量単位
[編集]原子の質量は極めて小さいため、キログラム(kg)をそのまま用いるのは不便である。そこで、ある原子の質量を基準として、他の原子の質量を表すことを考える。他の様々な原子と化合できるため質量の比較がしやすいこと、同位体13Cなどの存在比が極めて小さいことなどから、炭素原子を基準にするのが適当である。
12C原子一個の質量を12と定義する単位系を統一原子質量単位という。単位の記号は u であり、Da(ダルトン)ともいう。かつて用いられたamu(アトミックマスユニット)は、現在は使われない。
原子質量単位は質量を表す単位である。これに対し、化学基礎で学ぶ原子量は、質量そのものではなく質量の比を表すので、単位がなく無次元である。両者を混同しないように注意する。
水素原子のスペクトル
[編集]高温の物体から発光される光には、どの(可視光の)色の波長(周波数)もあり、このような連続的な波長の光を連続スペクトルという。
いっぽう、ナトリウムや水素などの、特定の物質に電圧がかけられ放電したときに発光する波長は、特定の数本の波長しか含まれておらず、このようなスペクトルを輝線スペクトル(線スペクトル)という。
バルマーは、水素原子の数本ある輝線の波長が、次の公式で表現できることに気づいた。
- (2.1)
この式はスイスのバルマーが1885年に発見したもので、この系列をバルマー系列という。
その後、水素以外の原子や、可視光以外の領域についても調べられ、リュードベリによって次の公式にまとめられた。
- (2.2)
上式のRはリュードベリ定数といい、である(水素原子では、原子核の運動の影響でわずかに小さく、実測値は約となる)。
式(2.2)での場合の系列を、それぞれライマン系列、バルマー系列、パッシェン系列という。
量子論と原子の構造
[編集]
ラザフォードの原子模型に従えば、電子は、惑星の公転のように原子核を中心とする円軌道の上を一定の速度で運動する。
円運動する質点は加速度をもつので、このモデルの電子は加速度運動を続けることになる。
ところが古典電磁気学で、加速度運動を行う電荷は電磁波を放出してエネルギーを失うという法則が既に発見されていた。
この法則によれば、原子核の周りを回る電子は電磁波を放出し続け、エネルギーを絶えず減らしていく。それにつれ電子は原子核に向けて落下していくため、原子核との距離を小さくしながら原子核の周りを回転し、やがて原子核に衝突してしまう。円軌道の上を安定的に運動することは不可能なのである。
デンマークのボーアは、ラザフォードの原子模型の矛盾を克服し、水素原子の放出する線スペクトルも説明できる原子模型を作るため、プランクの提唱したエネルギー量子化の考えとアインシュタインの光量子論を取り入れて、次の2つの仮説を立てた(1913年)。
仮説1:量子条件
[編集]原子核を中心とする半径 の円軌道を速さ で回転する電子の軌道角運動量はの正整数倍しかとりえない、すなわち
- (2.3)
を満たさねばならない(角運動量の量子化)。この状態を定常状態、この条件を量子条件という。
- このボーアの式の正整数nを量子数という。
後年(1924年)、ド・ブロイは、物質粒子は波動性を持ち、その波(物質波)は、波長
をもつと提唱した。また,(2.3)を変形すると
- .
これらは、電子の軌道一周の長さが電子の物質波の波長の正整数倍のとき、電子波は定常波になることを示している。
- これは、円軌道上に定常波ができるための条件と同じである。
仮説2:振動数条件
[編集]電子はある決まった飛び飛びのエネルギーしか持たない。このとびとびのエネルギー値をエネルギー準位という。
- 電子がエネルギー準位をからに遷移する(エネルギーを失う)ときには、できまる振動数の一個の光子を放出し、
- 逆にエネルギー準位 Eの電子が外部からエネルギーを得ると、エネルギー準位E'に遷移する。
エネルギー準位
[編集]
水素原子の電子のエネルギーを求めるために、まず電子の軌道半径を求める。
量子数のとき水素の電子が原子核を中心とする半径の円軌道上を一定の速度で運動しているとすれば、円運動方程式は
で表される(はクーロンの法則の比例定数)。
一方、電子が定常波の条件を満たす必要があるので、#量子論と原子の構造の式(2.3)から、
である。
このを円運動方程式に代入して整理すると
- ()
が得られる。こうして、水素原子の電子の軌道半径が求まる。
のときの半径 をボーア半径という。
電子のエネルギーは、運動エネルギーKと位置エネルギーUの和である。
位置エネルギーUは、この水素の電子の場合、静電気力による位置エネルギーであり、電位の式より
となる。
運動エネルギーKは、なので
上式の右辺第一項に、
- 円運動方程式の両辺にrを掛けた
を代入すれば、
となる。
さらに、これに電子の軌道半径として式(2.5)を代入すれば、
となる。これが水素原子のエネルギー準位である。
式(2.6)より、エネルギーは連続的ではなく離散的な負の値をとることが分かる。
のとき、エネルギーが最低なので安定である。よって、電子は通常、最もエネルギーの低いの状態にある。これを基底状態、のときを
高温の炎中にある種の金属粉末や金属化合物を置くと、試料が熱エネルギーによって解離し原子化される。それぞれの原子は熱エネルギーによって電子が励起され、外側に存在する高エネルギーの電子軌道へと移動する。励起された電子が安定な基底状態に戻ろうとする際に、余分なエネルギーを電磁波として放出する。電磁波の周波数が、ちょうど可視光線の範囲に入る場合が有る。このとき、炎色反応として肉眼で観察できる。
なお、原子の電子軌道のエネルギーは連続した値ではなく飛び飛びの値であるため、励起された電子が基底状態に戻る際に放出されるエネルギーも連続した値ではない。このため、炎色反応として放出された光は連続スペクトルではなく輝線スペクトルを示す。また、元素によっても電子軌道のエネルギーはある程度決まるため、元素によって特徴的な輝線スペクトルを示す。これが、炎色反応を示す元素の種類により、炎色反応によって放出される光の色が決まる理由である。
なお、
- に諸定数の値を入れて計算すると
- ほぼとなるので、
- 水素原子のエネルギー準位は
- と書ける。
- であり、その絶対値 13.6 eV は、基底状態の電子を原子核から引き離すのに必要なエネルギー(水素のイオン化エネルギー)に等しく、実験値によく一致する。
- 問
- ボーアの理論により、水素原子が の励起状態から の基底状態へ遷移するときに放出する光子の波長(ライマン系列の最初の線)と、 から へ遷移するときに放出する光子の波長(バルマー系列の最初の線)を求めよ。ただし 、 とする。
- 解答
- :光子のエネルギーは であるから、(紫外線)。
- : であるから、(赤色の可視光)。
補:リュードベリの式の理論的導出
[編集]水素原子の発する光のスペクトルの実測値を表すリュードベリの経験式(2.2)については、#水素原子のスペクトルで述べた。
ボーアの水素原子モデルに基づいて得られたエネルギー準位と振動数条件を用いれば、この式が次のように理論的に導出できる。
任意の正整数を考える。
振動数条件により電子がエネルギー準位から、低いエネルギー準位に遷移するときに1個放出する光子の振動数はである。
この光子の波長λは で与えられるので、右辺のエネルギー準位に式(2.6)を代入すると
が得られる。
でリュードベリ定数を定義すると、式(2.7)は
Rの定義式中の諸定数に値をいれて計算すると
このように、リュードベリの経験式が理論的に導出できた。なお、(2.8)は原子核が静止しているとしたときの値であり、水素原子の実測値(約)とは、原子核(陽子)が電子の運動につれて動く効果の分だけ約0.05%異なる。 これは、ボーアの仮説の妥当性を示している。
なお、実際の特性スペクトルの波長は、原子内部の電子の影響により若干ずれる。そういった内部電子の補正を考慮した、より精度の高い式として「w:モーズリーの法則」というのが知られている。歴史的には先にモーズリーの式が発見され、後からモーズリーとは別に独立に研究されていた上述のようなボーアやラザフォードの理論を用いると、モーズリーの公式もうまく説明できるという事が物理学者コッセルによって発見された[5]。モーズリーの公式の詳細は、大学の教科書で扱われる。
フランク・ヘルツの実験
[編集]
ドイツのフランクとヘルツは、気体放電での電子の働きを調べるため、水銀蒸気を封入した図のような装置で実験を行った。
フィラメントCから飛び出す電子を、Cと網目状のグリッドGとの間に加える電圧Vで加速する。Gの後ろに電極Aを置き、Aに到達した電子の数を電流計で調べる。GA間にはCG間と逆向きに僅かな電圧(0.5V程度)を加え、電子がGに到達しても運動エネルギーが0に近ければAに到達できなくした。CG間の電圧を上げながらAに到達する電子の数を調べ、下のグラフのような実験結果を得た。

電子の数は電圧の増加とともに増すが、4.5~5V付近をピークに減少し、再び増加する。その後、約4.9Vの間隔で同様の増減を繰り返す。また、4.9eVに相当する波長のスペクトルも発生していた。
フランクとヘルツは当初、この実験を電子による水銀原子の電離の測定と解釈していたが、のちにボーアの理論に基づいて、この実験結果は「4.9eVは水銀原子の基底状態と励起状態のエネルギーの差であり、電子の運動エネルギーが加速電圧で4.9eVに達した時に水銀原子が励起して電子が運動エネルギーを失う」ことを示すものと解釈された。
その後、CG間から波長2.537×10-7 m(4.9eVのエネルギーに相当)の紫外線が発生していることが確認された。これは、励起された水銀原子が基底状態に戻る時にそのエネルギー準位の差に相当する波長の光子を放出して生じたものと考えられ、原子には離散的な値のエネルギー準位が存在するというボーアの仮説が実験で裏付けられた。
なお、固有X線の発生も、原子のエネルギー準位で説明することができる(#X線の発生とスペクトルを参照)。
原子核
[編集]原子核の構造
[編集]原子核は、陽子と中性子からできている。二つを総称して核子という。 陽子は正電荷をもち、中性子は電荷をもたない。
原子核の陽子同士はクーロン力によって反撥し合うが、陽子と中性子を結ぶ核力がクーロン力よりも強いため、それが核子同士を繫ぎ止めている。
陽子と中性子の数の和は質量数である(「ラザフォードモデル」の節で定義した)。
元素の原子核の陽子の数は、その元素の周期表の原子番号である。
質量数がの原子核は非常に強い核力のために、小さな球体状の空間の中に固まっており、その半径rは、 であることが知られている。
なお、原子番号の低い元素において、陽子と中性子の個数はほぼ同数である場合が多い。例えば、酸素16や窒素14では陽子・中性子ともに同数である。一方、原子番号の大きい元素ほど、陽子よりも中性子が多い。例えばウラン235は中性子数が陽子数の1.5倍である。これは、陽子どうしのクーロン反発(遠くまで及ぶ)が原子核が大きくなるほど効いてくるので、核力による結合を保つために中性子の数を増やす必要があるためと考えられている[6]。
同位体
[編集]同じ元素でも、中性子の数が異なる原子がある。これらを互いに同位体(アイソトープ)という。例えば、水素に対する重水素・三重水素などがそうである。水素の原子核は陽子1つであり、重水素(D)の原子核を重陽子、三重水素(T)の原子核を三重陽子という。また、重水素からなる水分子を重水という。
一般に、同じ元素であれば同位体でも化学的性質はほぼ同じである。ただし質量が異なるため、密度・沸点・拡散の速さなどの物理的性質にはわずかな差が現れる。また、放射線を出すかどうかも同位体によって異なる。
原子の質量は、イオン化した原子を加速して電場・磁場が軌道にもたらす影響を調べることで求められる。
トムソンは、電場と磁場を加えた空間にイオンを入射させ、比電荷の同じイオンがスクリーン上の同じ放物線上に集まるような装置を製作した。これにより、ネオンの同位体が発見された。
トムソンの研究室にいたイギリスのアストンは、トムソンの装置を基にイオンの速さにかかわらず比電荷が同じであればスクリーン上の一点に集まるような装置(質量分析器)を製作した。この装置により多くの同位体が発見され、それらの質量と存在比も精密に測定された。
放射能と放射線
[編集]元素の中には、放射線を出す性質をもつものがあり、この性質を放射能という。 また、放射能をもつ物質は放射性物質といわれる。放射能を持つ同位体を放射性同位体という。 放射線には3種類存在し、それぞれα線、β線、γ線という。
α崩壊は、親原子核からα粒子が放射される現象である。α粒子の正体はヘリウム原子核である。α崩壊後、親原子核の質量数は4小さくなり、原子番号は2小さくなる。
β崩壊は、親原子核の中性子が陽子と電子に変化することで、電子が放射される現象である。なお、放出された電子はβ粒子ともよばれる。β崩壊後、親原子核の質量数は変化しないが、原子番号は1増加する。
γ線は、α崩壊またはβ崩壊直後の励起状態にある原子核が、よりエネルギーの低い状態に遷移するときに放射される(この現象をγ崩壊ということもある。原子核の種類は変わらない)。γ線の正体は光子で、波長の非常に短い電磁波である。波長の領域はX線と重なっており、原子核から放射されるものをγ線、原子内の電子の遷移や電子の減速などで生じるものをX線と、発生のしかたで区別する。
α崩壊やβ崩壊によってもとの原子核の数は徐々に減っていくが、これらの崩壊は原子核の種類ごとに決まった一定の確率で起きるので、崩壊によってもとの原子核の数が減る速度は原子核の個数に比例して変化する。しかし、崩壊によってもとの原子核の数が半減するのにかかる時間は、原子核の種類だけによってきまる。そこで、この時間のことをその原子核の 半減期 と呼ぶ。崩壊によって原子核の個数がどれだけになるかは、この半減期を用いて記述することができる。原子核の最初の個数を、原子核の半減期を、時刻での原子核の個数をとすると、
が成り立つ。
放射線に関しては様々な単位が用いられる。 かつては、放射能にはキュリー、照射線量にはレントゲン、吸収線量にはラド、線量当量にはレムなどの単位が用いられていたが、現在ではSI単位系に沿って以下の単位が用いられる。(ただし、現在でもこれらの旧来の単位を用いる場合がある)
| 物理量 | 単位 | 記号 | 説明 |
|---|---|---|---|
| 放射能の強さ | ベクレル | Bq | 原子核が毎秒一個の割合で崩壊するときの放射能の強さを1Bqとする。 |
| 照射線量 | クーロン毎キログラム | C/kg | 放射線の照射によって0℃、1013hPaの空気1cm3あたりに3.335641×10−10 C(1 |
| 吸収線量 | グレイ | Gy | 1 kgの物質が放射線の吸収と共に1Jのエネルギーを得たときの吸収線量を1Gyとする。 |
| 等価線量・実効線量 | シーベルト | Sv | 吸収線量に、放射線の種類ごとに定められた人体への影響の大きさを表す放射線荷重係数を掛けたものが等価線量である。さらに、組織・臓器ごとの感受性を表す組織荷重係数を掛けて合計したものが実効線量である(旧来の「線量当量」「線質係数」が使われることもあるが定義が異なる)。 |
| 線量率 | シーベルト毎時 | Sv/h | 単位時間あたりに受ける放射線の量 |
なお、1キュリーは37GBq(37ギガベクレル、370億ベクレル)に等しい。
生体が放射線を受けることを被曝という。※「被爆」表記は意味が違うので絶対用いないように。
放射線は電離作用を持つので生物細胞に影響を及ぼし、遺伝子(DNA)を傷つけることで、癌を発症する確率を高めたり、先天異常の原因となったりすることがある。被曝量が大きい場合には急性の障碍を引き起こすこともある。この影響を最小限にするには、放射線源から離れる、浴びる時間を短くする、鉛で放射線を遮るなどの対策が必須である。一方、自然界にも放射線が存在する。普段の生活では食事による内部被曝や宇宙線・大地からの被曝などで、世界平均で年間2.4mSvほどの放射線を自然界から受けている。これは、事故や治療などで問題になる大きな被曝量に比べるとはるかに小さい。また、放射線は非破壊検査、癌治療、レントゲン撮影、農作物の品種改良などの分野で応用されている。
手塚治虫は、自著『火の鳥』の「未来編」にて栽培促進に利用される放射線と、そこにおける事故を描いている。1967年の時点で既に放射線の産業利用の可能性と事故が起こったときの重大性を読み取っていたのである。
- 問
- 放射性同位体 14C の半減期を 5730 年とする。ある木片に含まれる 14C の割合(炭素原子に対する割合)が、生きている木に含まれる割合の であった。この木が伐採されたのは何年前か。また、割合が のときはどうか。
- 解答
- で なので 、すなわち 年前(約1.7万年前)。
- のときは 年前(約1.1万年前)。
発展:半減期公式の導出
[編集]#放射能と放射線で、原子核の崩壊速度は原子核の個数に比例すると述べた。この性質だけから、同じ節の半減期の式を数学的に導くことができる。ここでは微分・積分と微分方程式を用いる。なお、ここでの log は自然対数である。
原子核の個数と崩壊速度の間の比例定数は原子核の種類によって決まる。この定数をその原子核の崩壊定数という。崩壊定数がの原子核の時刻での個数をとすると、その変化速度、すなわちの時間微分は、
で表される。このような、ある関数とその微分との関係を表した式を微分方程式といい、微分方程式を満たすような関数を求めることを、微分方程式を解くという。変数分離法によりこの微分方程式を解くと、
- (は積分定数)
よって
- ※より絶対値記号は無視してよい。
ここでは積分定数の値によって定まる初期値であるから、原子核の初期個数とみてよい。
- ・・・(*)
半減期はなるのことであるから、式(*)より
よって
が得られる。
原子核反応
[編集]
霧箱(蒸気の充満した装置)を使うことで、何らかの粒子が通過したとき蒸気が凝集するので、粒子の軌跡が可視化されるのである(飛行機雲と同じ原理)。磁場を加えた場合の、軌跡の曲率などから、比電荷も推定できる。
陽子の発見
[編集]1919年、ラザフォードは、窒素ガスを密閉した箱にα線源があると、正電荷をもった粒子が発生することを発見した。
この正電荷の粒子が、陽子である。つまり、ラザフォードは陽子を発見した。
これは、窒素の原子核がα粒子を取り込み、陽子を放出して酸素の同位体 17O の原子核に変わる反応であり、原子核が別の原子核に変わる反応(人工的な元素の変換)の最初の発見でもあった(17Oが生じることは、のちの1925年にブラケットが霧箱の写真で確かめた)。
これらのことを式にまとめると、
である。
このように、ある元素の原子が、別の元素の原子に変わる反応を原子核反応(核反応)という。また、上のような反応式を核反応式という。
化学反応では原子の種類が変わらずその組合せが変わるだけであったが、核反応では別の種類の原子が生まれる。
正電荷を持つ二つの原子核の間には電磁気力により斥力が働く。核反応は、2つの原子核がこの斥力に打ち克って核力が働く近距離に近づいた時に初めて起こる。そのため、核反応を起こすには大きな運動エネルギーが必要であり、そのためにサイクロトロン・ベータトロン等の加速器が用いられる。
一般に、核反応では反応の前後で質量数の和と電気量の和は保存されることがわかっている。
霧箱は、アルコール(エタノールなど)や水の過飽和蒸気で満たした容器である。荷電粒子が通ると、その通り道に沿って気体分子が電離してイオンができ、これを核として蒸気が凝結するため、粒子の飛跡が白い筋として見える。
霧箱のような実験装置は、陽子の観測のほか、原子核反応の様子を観測する目的でも使うことができる。
一方、放射線の測定器であるガイガー・ミュラー計数管(ガイガーカウンター)は、霧箱とは異なる原理で放射線を検出する。アルゴンなどの気体を封入した管に高電圧をかけておくと、放射線が通過した際に気体が電離し、電子とイオンが生じる。電子は電場によって加速され、気体分子を電離させる。そこで発生した電子もさらに電場によって加速されて気体分子を電離させるため、大量の電子が発生する電子雪崩が起こる。この過程によって電気パルスが発生し、そのパルスを計数することで放射線を検出する。物理学者ガイガーは、このような測定器を開発し、さらに原子核反応によって生成されるヘリウム分子を集めて気体として封入し、当時としては最高水準の精度でアボガドロ定数を測定する事に成功した[7]。これは、プランクの熱輻射の理論から算出されたものや、物理学者ベランがブラウン運動から求めたものに匹敵する精度であった[8]。
中性子の発見
[編集]ラザフォードは1920年頃に既に陽子と同じ質量で電気的に中性な粒子の存在を予言していた。1930年、ドイツのボーテがポロニウムから放出されるα線をベリリウムに当てると透過力の強い放射線が出ることを発見し、翌年にキュリー夫妻がこれをパラフィン(アルカンのうち炭素数が20以上のもの。水素を多く含む。)に当てると陽子が飛び出すことを発見した。夫妻は放射線をγ線と考えてコンプトン効果で説明しようと試みたが、非現実的な仮定を余儀なくされて頓挫した。イギリスのチャドウィックはこの放射線をヘリウムや窒素に当て、これを電荷を持たず陽子とほぼ等しい質量の粒子の粒子線と考えると辻褄があうことを示し、1932年に論文を提出した。この粒子は中性子、放射線は中性子線と名付けられた。
質量とエネルギーの等価性
[編集]原子核は、それを構成する核子である陽子と中性子が自由であるときの質量の和より、小さい質量をもつ。この減った質量を、質量欠損と呼ぶ。 質量数A、原子番号Zの原子核の質量欠損は、原子核の質量をm、陽子と中性子の質量をそれぞれとしたとき、
- である。
なお、原子にもよるが、一般に質量欠損の大きさは、1%程度[9]である。
陽子と中性子が核力によって結合すると、その結合エネルギーに等しいエネルギーのγ線が放出される。アインシュタインの特殊相対性理論によれば、質量mとエネルギーEには、
という関係がある。
エネルギーと質量の等価性によれば、陽子と中性子が結合したときに放出されるγ線のエネルギーに等価な質量が減ることになるが、これが原子核の質量欠損である。
このことから、陽子と中性子がバラバラに存在するときよりも、纏まって原子核を構成しているときの方がエネルギーが質量欠損分だけ小さいことが分かる。逆に、原子核をバラバラの核子にするにはのエネルギーを与える必要がある。この意味で、を結合エネルギーという。化学で扱った結合エンタルピーは原子と分子の話であったが、こちらは核子と原子核の話である。
質量数Aは核子の数であるから、核子一つあたりの結合エネルギーはと表される。これの値は軽い原子核の領域で急激に増大し、鉄・ニッケル付近(質量数60前後。最大は 62Ni)で最大となり、それより重い領域ではゆるやかに減少する。故に、核子あたりの結合エネルギーが最大である鉄の付近の原子核が最も安定である。
- 問
- ヘリウム4(4He)の原子核の質量を 4.0015 u として、質量欠損と結合エネルギーを求めよ。ただし陽子の質量を 1.0073 u、中性子の質量を 1.0087 u とし、1 u(統一原子質量単位)に相当するエネルギーは 931.5 MeV とする。
- 解答
- 4He は陽子2個、中性子2個からなる。質量欠損は 。
- 結合エネルギーは 。核子1個あたりでは となる。

原子や分子の質量は、どのようにして精度よく測定されるのか。
一般に原子レベルの質量測定法として精密科学でよく知られるものとして、右図のような、磁場によって荷電粒子を曲げる方式のものがある。このような磁場とローレンツ力を用いた方式による質量測定は一般に、「磁場偏向型」といわれる。
このような装置では、磁場の強さや電荷は実験的に決定できる。荷電粒子の軌道の曲率半径は質量の関数となるので、半径から質量を逆算できる。
測定対象の元素材料が中性の原子であっても、その原子が固体なら、それに電子ビームを当てて、電子によって弾き飛ばされた材料が帯電してイオン化しているので、それから、前述のような磁場による質量測定が可能になる。
同位体の存在やその質量も、このような装置で発見された(「同位体」の節を参照)。
原子質量がいくつもの元素で測定できるので、派生的に、化学の理論で分かる原子番号Zと質量数A及び原子の質量の測定値MをもとにZ,AからMを求めるワイツゼッカーの公式が作成された。
また、原子核の半径や形についての研究も進められていった。
核エネルギーと核分裂
[編集]核反応では、原子核の質量の和が反応の前後で変化する。質量和が減少する場合、その差が核エネルギーとなる。このとき、結合エネルギーの和は増大し、核エネルギーは結合エネルギー和の変化量に等しい。一回の化学反応で解放されるエネルギーは数eV程度であるのに対し、一回の核反応で解放されるエネルギーは数MeVを超える。例えば、リチウム7と水素(陽子)が衝突してヘリウム2つになる核反応では、1回の反応で約17MeVのエネルギーが解放される。リチウム7を1mol(約7g)反応させると、約1.7×1012Jという厖大なエネルギーが発生する()。これは石油約40トンを燃やして得られるエネルギーに相当する。
ドイツのハーンとシュトラスマンは、ウランに中性子を照射したときの反応生成物の中に、ウランとほぼ半分の質量を持つバリウム141などの原子核が含まれることを発見した。マイトナーとフリッシュはこれを、原子核が2つに分裂した現象であると解釈した(1939年)。このように、一つの原子核がいくつかの原子核に分かれる反応を核分裂という。ウランのように質量数が大きい原子核は、一つの原子核でいるよりも二つの原子核に分裂した方がエネルギー的に安定である。これが核分裂の起こる原因である。
核分裂は歴史的には原子爆弾に利用された。日本は原子爆弾を実戦使用された唯一の国である。
現代では、核分裂は原子力発電所で使用されている。
ウラン235やプルトニウム239を核燃料とし、熱運動する気体分子と同程度の速さの中性子を衝突させると様々な壊れ方の核分裂が起こる。このとき、いずれの場合も200MeV程度のエネルギーが解放され、2、3個の速い中性子が出る。この速い中性子を減速材(水や重水など)に衝突させて減速することで、別の核燃料に衝突させやすくする。このようにして次々に核分裂が起こることを連鎖反応という。原子力発電は、核分裂で発生した熱エネルギーでタービンを回して発電している。中性子を吸収する制御棒を用いることで核分裂が爆発的に起こらない且つ停止しないように制御している。連鎖反応が持続的に保たれる条件がちょうど満たされるとき、「原子炉は臨界にある」という。臨界状態では中性子数は一定に保たれる。原子炉の稼働は臨界点の近くで行われている。少ない燃料では中性子が核反応することなく散逸するので、臨界にあるための核燃料の量に下限があり、これを臨界量という。
原子力発電は、発電量は他の方式に比べて圧倒的であるが、安全対策や放射性廃棄物の処理などの問題がある。
2011年の東日本大震災では地震そのものには余裕で耐えたものの、津波により電源がロストしたことで炉心の冷却機能が失われて炉心融解(メルトダウン)が起こり、爆発とともに莫大な量の放射性物質が散布される、という事故が発生した。原子力発電の稼働にあたっては、このような重大事故に対する厳重かつ多重の安全対策が必須である。(w:福島第一原子力発電所事故も参照。)
核融合
[編集](高等学校地学も参照。)
恒星では原子核同士が衝突することで質量数の大きな原子核が生まれている。このように、より質量数の大きな原子核ができる反応を核融合反応という。 軽い原子核が核融合を起こすとき、結合エネルギーが増加し、その差のエネルギーが解放される。
太陽の中では、4個の水素原子核(陽子)から幾つかの段階を経て1個のヘリウム原子核が生成されている。このとき、約27MeVのエネルギーが解放される。
太陽は主に水素とヘリウムから構成されており、現在は中心部で水素の核融合によってヘリウムを生成している。中心部の水素を使い果たすと、中心部が収縮・加熱され、やがてヘリウムの核融合反応が起こり、炭素や酸素が生成される。さらに質量の大きな星では、中心温度が数億K以上になると炭素燃焼が起こり、ネオンなどが生成される。その後、十分な質量を持つ星では、酸素燃焼、ケイ素燃焼などが進み、最終的に鉄族元素が中心部に蓄積する。鉄族元素より重い原子核の核融合ではエネルギーを取り出せないため、核融合によるエネルギー生成では重力を支えられなくなり、中心核が重力崩壊して超新星爆発を起こす。鉄より重い元素の一部は、超新星爆発や中性子星合体などの際に、中性子を次々に捕獲する反応などによって生成されると考えられている。
初期の宇宙には水素・ヘリウム・リチウムあたりの軽い元素しか存在しなかったと推定され、長い年月で様々な恒星で核融合反応が進行することによって他の元素が十分量生成されてきたと考えられている。
核融合は核分裂とほぼ同時代に発見されたが、連続的に発生させるには1億℃を超える高温の環境が必要であることから、当初はあまり注目されなかった。
核融合反応自体は短時間ながらも地上で起こすことに成功している。例えば、原子爆弾の進化系である水素爆弾は、原子爆弾の爆発により生まれる膨大な熱エネルギーを利用して核融合反応を起こすことによって原爆の威力を更に高めている。史上最強の水素爆弾ツァーリ・ボンバの爆発では、2.1×1017Jものエネルギーが放出されたとされている。
現在では、核融合発電の実用化が盛んに研究されている。核融合発電は、核分裂を利用した従来の原子力発電に比べて、連鎖反応が暴走しにくい、高レベル放射性廃棄物が少ないなどの利点があるとされている。しかし、核融合反応の安定的な持続は実現途上であり、実用化はまだ先である。
素粒子
[編集]この節では、素粒子の種類と、粒子の間にはたらく4つの力を扱う。
素粒子は物質を構成する最小単位である。現在、素粒子として17種類が確認されている。素粒子には、クォーク、レプトン、ゲージ粒子、ヒッグス粒子がある。陽子や中性子はクォークから構成されている。電子は素粒子である。
素粒子には、同じ質量や寿命を持つが、電荷の符号が異なる粒子が存在する。これを反粒子という。例えば、電子には、電荷が の陽電子が存在する。

クォーク
[編集]陽子や中性子は、アップクォークとダウンクォークと呼ばれるクォークから構成される。クォークは6種類あり、それぞれ3世代に分類される。アップクォークとダウンクォークは第一世代に分類され、アップクォークとダウンクォークに性質が似ているが質量がそれよりも重いクォークが存在する。第二世代には、チャームクォークとストレンジクォーク、第三世代にはトップクォークとボトムクォークが存在する。
アップ、チャーム、トップクォークは電荷 を持ち、ダウン、ストレンジ、ボトムクォークは電荷 をもつ。
| 電荷 | 第1世代 | 第2世代 | 第3世代 |
|---|---|---|---|
| アップ (u) | チャーム (c) | トップ (t) | |
| ダウン (d) | ストレンジ (s) | ボトム (b) |
ハドロン
[編集]クォークは、必ず複合粒子を形成し、単独で取り出すことができないと考えられている。これをクォークの閉じ込めという。クォーク間に働く力は量子色力学により説明される。量子色力学によれば、それぞれのクォークには、三種類の異なる色荷を持つ状態が存在する。三種類の色荷は光の三原色になぞらえて赤、青、緑と名前がついている。クォークの反粒子の色荷は反赤、反青、反緑である。クォークによる複合粒子は、色荷の合計が白である必要がある。
クォークの複合粒子をハドロン(強粒子)という。ハドロンには、3つのクォークからなるバリオン(重粒子)と、2つのクォークからなる中間子(メソン)がある。歴史的にはハドロンを素粒子に含めた時代もあり、その時は素粒子が数百種類を数えていた。現在ではハドロンを素粒子に含めない。
バリオンの重要な例には陽子と中性子がある。陽子は uud で構成され、中性子は udd で構成される。
電荷は
- 中性子
- 陽子
となる。

メソンは、2つのクォークからなる複合粒子である。色荷を考えると、クォークと反クォークで構成される必要がある。なぜなら、クォークの色荷、赤、青、緑から2つを選んでも白色になることはなく、複合粒子を構成できない。クォークと反クォークからは、赤+反赤=白のようになるから、複合粒子を形成することができる。
メソンの重要な例には 中間子がある。電荷により の三種類があり、原子核の中の核子を結合させる核力を担っている。それぞれ
で構成される。
レプトン
[編集]電子は素粒子である。電子に似た性質を持つが質量が電子よりも重い粒子として、ミュー粒子、タウ粒子が確認されている。ミュー粒子は電子の約200倍、タウ粒子は電子の約3500倍の質量を持つ。これらの粒子もクォークからなるものではなく、電子と同じレプトンである。
また、ニュートリノと呼ばれる粒子が存在する。ニュートリノは物質とはほとんど反応しないため、検出が難しい。電子ニュートリノ、ミューニュートリノ、タウニュートリノが存在する。スーパーカミオカンデでの実験からニュートリノには質量があることが知られているが、その値は非常に小さい。
| 電荷 | 第一世代 | 第二世代 | 第三世代 |
|---|---|---|---|
| 電子 (e− ) | ミュー粒子 (μ− ) | タウ粒子 (τ− ) | |
| 0 | 電子ニュートリノ(νe ) | ミューニュートリノ(νμ ) | タウニュートリノ(ντ ) |
4つの力
[編集]自然界に働くすべての力は4つの力に分類することができる。電磁気力、強い力、弱い力、重力である。
例えば、机の上の物体に働く抗力や摩擦力などは原子の周りの電子による反発力で説明できるから、電磁気力を起源とする。電磁気力は光子によって媒介される力である。
強い力はグルーオンによって媒介される。強い力はクォークを閉じ込め複合粒子を形成したり、核力の起源となる。強い力は量子色力学によって説明される。
弱い力は、W粒子とZ粒子により媒介され、主にベータ崩壊を引き起こす。W粒子とZ粒子をまとめてウィークボソンという。弱い力はワインバーグ・サラム理論によって、電磁気力と統一的に説明される。電磁気力と弱い力を統一した力を電弱力という。
重力を媒介する素粒子を重力子というが、まだ発見されていない。
グルーオンのように、力を媒介する粒子のことをゲージ粒子という。
| 力の種類 | ゲージ粒子 | 相対的強さ | 到達距離 | 力の源 |
|---|---|---|---|---|
| 電磁気力 | 光子(フォトン) (電磁場を量子化したもの) |
10-2 | ∞ | 電荷 |
| 強い力 (クォークを引き付けあう力のこと。) |
グルーオン | 1(基準) | 10-15m | 色荷 |
| 弱い力 (β崩壊を司る力のこと) |
ウィークボソン(W粒子、Z粒子) | 10-5 | 10-17m | 弱荷 |
| 万有引力(重力) |
重力子(グラビトン) (未発見) |
10-38 | ∞ | 質量 |
発展:ヒッグス粒子
[編集]ヒッグス場は、真空において対称性を破る。これを自発的対称性の破れという。このときに現れる粒子がヒッグス粒子である。また、ヒッグス場が対称性を破ることによりウィークボソンが質量を獲得する。このことをヒッグス機構という。また、クォークや電子、ミュー粒子、タウ粒子の質量はヒッグス場によって与えられる。
なお、強い力を説明する量子色力学と電弱力を説明するワインバーグ・サラム理論は、ヤン・ミルズ理論の特殊な場合である。ヤン・ミルズ理論においては、力を媒介する粒子はそのままでは質量を持つことができない。そのため、ウィークボソンの質量を説明するためにヒッグス機構が必要となる。また、ヒッグス機構においても、残った対称性のために光子は質量を持たない。
反物質
[編集]素粒子には反粒子が存在するから、複合粒子には、構成する素粒子が反粒子となった粒子が存在する。例えば、陽子 には反陽子 が存在する。中性子にも、反中性子 が存在する。反粒子で構成された物質を反物質という。
粒子と反粒子が衝突すると、衝突前のエネルギーと同じエネルギーを持つ光子が2つ以上放出されて消滅する。この現象を対消滅という。
逆に、光子から粒子と反粒子が生成されることを対生成という。対生成は光子が近くの原子核と作用する必要がある。
現在の宇宙においては反物質は少量しか存在しないが、宇宙の黎明期には物質と同程度存在し、対消滅によってその殆どが消えたと考えられている。あるいは、宇宙の未知の領域に反物質のみで構成された領域も存在するという仮説が立っている。
(発展)病院などで使われる陽電子放出断層撮影(PET)は、β+崩壊によって陽電子を放出する 18F などを含む化合物を体内に取り込み、 発生した陽電子が電子と対消滅して発生するγ線を観測することによって、体内を調べる技術である。
発展:スピン
[編集]電子や陽子や中性子などは、スピンという磁石のような性質をもっている。磁石にN極とS極があるように、スピンにも、上向きと下向きの2種類の向きがある。
電子や陽子や中性子はどの物質にも含まれるのに、多くの物質があまり磁性を持たないのは、反対向きのスピンをもつ電子が対をつくることでスピンが打ち消しあうからである。
物質に静磁場を加えつつ高周波電磁波を加えると、原子核のスピンによって、電磁波が発生する。この電磁波を観測するのが、核磁気共鳴法(NMR、nuclear magnetic resonance)の原理である。 医療で用いられるMRI(magnetic resonance imaging)は、核磁気共鳴法を利用して人体内部を観測する機器である。
素粒子も、通常はスピンをもつ。
ミュー粒子のスピンという性質による磁気と、ミュー粒子の透過性の高さを利用して、物質内部の磁場を観測する方法が研究されており、このような観測技術をミュオンスピン回転(μSR)という。超伝導体の内部の観測などにも、ミュオンスピン回転による観測が用いられている。
発展:力の統一
[編集]現代物理学において、自然界に存在する力(基本相互作用)はすべて電磁気力・弱い力・強い力・重力の4つに分類されている。
これらの力は宇宙誕生時は一つの力だったと考えられており、現在この4つの力をさらに統一しようとする試みが行われている。
電磁気力と弱い力を統一する電弱統一理論は既に完成しており、グラショウ・ワインバーグ・サラムの3人が、ワインバーグ=サラム理論などの業績により1979年にノーベル物理学賞を受賞している。電弱統一理論は、ヒッグス粒子の発見によって理論が裏付けられた。強い力と電弱統一理論を統一する大統一理論は未完成ではあるものの、裏付けとなる現象の観測待ちとなっている。
3つの力と重力を統一する超大統一理論は万物の理論と呼ばれ、さまざまなアプローチで構築が進められている。その際の問題の一つとして、次の事実がある。
それは、重力は他の力に比べて極めて弱いという事実である。例えば、小さな磁石が鉄を引きつけて持ち上げることは、地球全体の重力よりも小さな磁石の電磁気力のほうが強くはたらくことを示している。
重力が弱い理由はいくつか考えられているが、その中でも代表的なものは「重力子が他の素粒子が到達することのできない次元方向に拡散しているため」という仮説である。これは素粒子を質点でなく大きさをもつ一次元の弦(あるいは二次元以上の膜)とみなし、素粒子の種類の違いを振動の仕方の違いに対応させる超弦理論という理論の研究の中で生まれた仮説である。素粒子の種類の違いを表現するには私たちが住む三次元空間では振動方向が足りないことから、「この世界は本当はもっと高次元な空間である」との仮説が生まれ、その中で唱えられ始めた。超弦理論の一つであるM理論では、「この世界は十次元空間と一次元時間の十一次元時空間であり、余剰次元は小さく丸まっている(コンパクト仮説)」という方向で理論が構築されている。なぜ重力子のみが余剰次元方向に拡散できるかについては、「他の素粒子は開いた弦でありこの三次元空間に張り付いているが、重力子は閉じた弦であって空間に縛られない」という仮説が立っている。
この仮説では重力のみが弱い理由を説明できる可能性があるが、重力子が未だ未発見であること、光子すらも届かない余剰次元空間の存在を確認する手段がないことが難点である。
M理論は万物の理論の有力な候補の一つとされているが、実験による検証はまだなされていない。
発展:パリティ対称性とCP対称性の破れ
[編集]1956年、李政道と楊振寧は、弱い力が空間反転(鏡に映すこと)に対する対称性(パリティ対称性)を保たない可能性を指摘した。これを受けて1956〜57年、呉健雄らは、コバルト60を極低温に冷却し、磁場をかけて多数のコバルト60の原子核のスピンの方向をそろえた状態で、コバルト60がベータ崩壊して発生するベータ粒子(電子)の出る方向を調べる実験を行った。
実験の結果、ベータ粒子は、コバルト60の原子核のスピンの方向と逆の方向に多く放出されているのが観測された。もしパリティ対称性が成り立つなら、スピンの向きに対して前後の放出量は等しいはずであるから、これは弱い力が空間反転に対して非対称であること、すなわちパリティ対称性の破れを意味する。
そこで、空間反転(P)と同時に、粒子を反粒子に変える変換(C)をしたときの対称性、CP対称性は保たれると考えられたが、1964年のK中間子に関する実験により、CP対称性もわずかに破られることが分かった。
1973年、小林誠と益川敏英は、CP対称性の破れを説明するためにはクォークが3世代以上存在する必要があるとする理論(小林益川理論)を発表した。当時はクォークはアップ、ダウン、ストレンジの三種類しか発見されていなかったが、後に残りのクォークが実験で発見された。
その後、高エネルギー加速器研究機構(KEK)にある加速器KEKBで行われたB中間子に関する実験から、小林・益川理論が実験的に検証された。
さらに、C変換とP変換と同時に、時間を反転させる操作に対する対称性、CPT対称性が考えられた。現在では、CPT対称性は成り立つと考えられている。
脚注・参考文献など
[編集]- ^ 『現代総合科学教育大系 SOPHIA21 第7巻 運動とエネルギー』、講談社、発行:昭和59年4月21日第一刷発行発行
- ^ 川上親考ほか『新図詳エリア教科辞典 物理』、学研、発行:1994年3月10日新改訂版第一刷、P.244 および P.233
- ^ クリス・エヴァンス 著、橋本洋・上野滋 共訳『精密の歴史』、大河出版、2001年11月28日 再版、185ページ
- ^ 原島鮮『初等量子力学』(裳華房、2014年第40版、初版は1972年)
- ^ 山本義隆『原子・原子核・原子力』、岩波書店、2015年3月24日 第1刷、140ページ
- ^ 山本義隆『原子・原子核・原子力』、岩波書店、2015年3月24日 第1刷、190ページ
- ^ 山本義隆『原子・原子核・原子力』、岩波書店、2015年3月24日 第1刷発行、P81
- ^ 山本義隆『原子・原子核・原子力』、岩波書店、2015年3月24日 第1刷発行、P82
- ^ コトバンク『日本大百科全書(ニッポニカ)の解説』(坂東弘治、元場俊雄)など