民法第542条

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法学民事法コンメンタール民法第3編 債権 (コンメンタール民法)

条文[編集]

(催告によらない解除)

第542条
  1. 次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができる。
    1. 債務の全部の履行が不能であるとき。
    2. 債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
    3. 債務の一部の履行が不能である場合又は債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において、残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき。
    4. 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達成することができない場合において、債務者が履行をしないでその時期を経過したとき。
    5. 前各号に掲げる場合のほか、債務者がその債務の履行をせず、債権者が前条の催告をしても契約をした目的を達するに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき。
  2. 次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の一部を解除することができる。
    1. 債務の一部の履行が不能であるとき。
    2. 債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。

改正経緯[編集]

2017年改正により、以下に示す改正前条文と旧第534条(履行不能による解除権)を移動し、催告を必要としない解除の要件を定めた。改正前条文の趣旨は、改正第1項第4号に吸収され、その他履行不能による解除については、履行不能に関して債務者に帰責事由があることの条件が除かれ、履行不能の事実のみで足りることとなった。また、解除権の及ぶ範囲を画した。

(定期行為の履行遅滞による解除権)

契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、当事者の一方が履行をしないでその時期を経過したときは、相手方は、前条の催告をすることなく、直ちにその契約の解除をすることができる。

旧第534条は以下のとおり。

(履行不能による解除権)

履行の全部又は一部が不能となったときは、債権者は、契約の解除をすることができる。ただし、その債務の不履行が債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

解説[編集]

履行不能又はそれに準ずべき状況(当事者一方の履行拒絶、定期行為の履行遅滞等)にあっては、民法第541条の催告なしで、直ちに契約の全部又は一部を解除できる。改正前は、そのような状況に至った事情について、債務者に責任があることが要件であったが、改正により、その要件は除かれ履行不能の事実で足りることとなった。なお、本条にいう履行不能は、後発的不能、すなわち契約成立後に不能となったことを必要とする。

履行期前の当事者一方の履行拒絶については、判例は、履行不能を柔軟に認定して、早期に契約関係から離脱して代替取引を可能にするとの要請に応えてきたと指摘されており(大判大正15年11月25日民集5巻763頁等)、それを取り込んだ。これを理由とする解除も、債務不履行による契約の解除であるとして、解除した者は履行に代わる損害賠償請求権を行使することができる。

参照条文[編集]

判例[編集]

改正前第543条関連

  1. 所有権移転登記及び仮登記抹消登記手続請求 (最高裁判決 昭和46年12月16日)民法第415条
    不動産の二重売買における一方の買主のための仮登記の経由と他方の買主に対する履行不能の成否
    甲が乙に対して不動産を売り渡した場合において、所有権移転登記未了の間に、その不動産につき、丙のために売買予約を原因とする所有権移転請求権保全の仮登記がなされたというだけでは、いまだ甲の乙に対する売買契約上の義務が履行不能になつたということはできない。

前条:
民法第541条
(催告による解除)
民法
第3編 債権

第2章 契約
第1節 総則

第4款 契約の解除
次条:
民法第543条
(債権者の責めに帰すべき事由による場合)
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