民法第545条
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法学>民事法>民法>コンメンタール民法>第3編 債権 (コンメンタール民法)
条文[編集]
(解除の効果)
- 第545条
- 当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない。
- 前項本文の場合において、金銭を返還するときは、その受領の時から利息を付さなければならない。
- 第1項本文の場合において、金銭以外の物を返還するときは、その受領の時以後に生じた果実をも返還しなければならない。
- 解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げない。
改正経緯[編集]
2017年改正において、第3項を新設。それに伴い、旧第3項を第4項に繰り下げ。
解説[編集]
解除の効果について規定している。解釈については争いがあり、直接効果説と間接効果説、それらを折衷する見解とに分かれている。
- 直接効果説
- 解除によって契約は当初から存在しないことになり、契約から生じた効果は遡及的に消滅するとする。
- 判例・通説は直接効果説に立っている。
- 既履行債務は契約が遡及的に消滅すると考える結果、不当利得となり、原状回復義務は不当利得返還義務として構成される。
- 損害賠償は、解除により契約が存在せず、損害賠償請求権の根拠が無くなるので、第4項で特に認めたとする。
- 間接効果説
- 解除によっては、契約自体は消滅せず、直接的効果は原状回復義務が発生するだけであり、未履行債務については、債務者に履行拒絶権が発生する新たな物権変動が生じると捉え、契約関係がなくなるのは原状回復されたことによる間接的な効果である。
- 物権変動の独自性を認める場合は親和的である。
- 既履行債務は、契約があり当然には消滅しないので、本条で特別に原状回復義務を定めたとする。
- 損害賠償は、契約が存在するから、損害賠償の請求は当然であり、第4項は注意的に規定したとする。
- 折衷説
- 間接効果説を前提に、未履行債務は将来に向かって消滅すると考える。
解除の効果[編集]
契約は解除されると以下の四つの効力が発生する。
- 未履行債務などの、契約による法的拘束からの解放(契約の遡及消滅につき大判大9・4・7)
- 2017年改正で「当事者の一方がその解除権を行使したときは,各当事者は,その契約に基づく債務の履行を請求することができないものとする」旨の条項新設案があったが見送られた。
- 既履行債務に対する原状回復義務の発生。(本条第1項)
- 上記で償いきれない損害がある時は、損害賠償請求権が発生。(本条第4項)
- 但し、上記の効果により第三者を害する事はできない。(本条第1項但書)
契約の遡及消滅[編集]
原状回復義務[編集]
まだ履行されていない債務(未履行債務)は消滅する。
既に履行された債務(既履行債務)については、履行を受けた当事者は原状回復義務を負担する(本条第1項)。
金銭の返還については、受領の時から利息が発生する(本条第2項)。一方、金銭以外のものを返還するときは,その給付を受けたもの及びそれから生じた果実を返還しなければならないものとする(本条第3項)。
相互に原状回復義務を負うときは、両者の義務は同時履行の関係に立つ(546条で533条を準用)。
損害賠償請求権[編集]
第4項は「解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げない。」と定める。直接効果説に立てば、契約は遡及的に消滅するのであるから、債務不履行に基づく損害賠償請求権も発生しないかに思われる。そこで、第4項は履行利益の賠償を定めたものと解することができる。
解除と第三者保護[編集]
解除前の第三者[編集]
契約当事者が目的物を解除前に第三者に譲渡していた場合、第三者はこの目的物の所有権を失うのかが問題となる。
- 直接効果説
- 解除によって契約が遡及的に消滅する結果、所有権も当然に原所有者に復帰するから、解除前の第三者は帰責事由なくして所有権を失うことになりかねない。この結果は不当であるから、本条第1項但書は「ただし、第三者の権利を害することはできない」として遡及効を制限する規定を置いたと考えられる。ただし判例は、第三者は保護されるためには対抗要件(動産なら引渡し、不動産なら登記)を備える必要があると解している。
- 間接効果説
- 解除によって物権を売主に復帰させる新たな意思表示が行われることになるが、目的物が第三者に譲渡されている場合にはこの意思表示は無効であり、第三者の権利は影響を受けないから、本条第1項の第三者保護は当然のことを定めたに過ぎないと考える。
解除後の第三者[編集]
解除後、原状回復義務が履行される前に目的物を譲り受けた第三者は、所有権を有効に取得できるかが問題となる。この場合は、所有権は解除によってすでに復帰しているから、原状回復義務者から第三者への譲渡は二重譲渡になる。したがって対抗問題として処理し、対抗要件(動産なら引渡し、不動産なら登記)を先に備えた方が所有権を有効に取得すると考えられる。
参照条文[編集]
- 民法第557条(手付)
判例[編集]
- 不動産所有権移転登記手続等請求(最高裁判決 昭和33年06月14日) 民法第177条,民法第423条
- 甲乙間になされた甲所有不動産の売買が契約の時に遡つて合意解除された場合、すでに乙からこれを買い受けていたが、未だ所有権移転登記を得ていなかつた丙は、右合意解除が信義則に反する等特段の事情がないかぎり、乙に代位して、甲に対し所有権移転登記を請求することはできない。
- 家屋明渡請求(最高裁判決 昭和34年09月22日) 民事訴訟法第186条,民法第541条
- 登記抹消請求(最高裁判決 昭和35年11月29日)民法第177条
- 不動産売買契約が解除され、その所有権が売主に復帰した場合、売主はその旨の登記を経由しなければ、たまたま右不動産に予告登記がなされていても、契約解除後に買主から不動産を取得した第三者に対し所有権の取得を対抗できない。
- 建物退去土地明渡請求(最高裁判決 昭和38年02月21日)民法第601条
- 物件引渡等請求(最高裁判決 昭和40年06月30日)民法第446条,民法第447条
- 損害賠償請求(最高裁判決 昭和51年02月13日) 民法第561条
- 土地所有権移転登記抹消登記手続(最高裁判決 平成2年09月27日)民法第907条,民法第909条
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