刑法第185条
条文
[編集](賭博)
- 第185条
賭 博をした者は、50万円以下の罰金又は科料に処する。ただし、一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは、この限りでない。
改正履歴
[編集]1880(明治13)年 刑法 制定
[編集]単純賭博罪は、明治13年7月17日に、太政官からの布告という形をとって制定された刑法(明治13年7月17日太政官布告第36号)第261条[1]にその原型を見る。同条は「第二編 公益ニ關スル重罪輕罪」内の「第六章 風俗ヲ害スル罪」に含まれている。現行刑法と区別するため、しばしば旧刑法と呼ばれる。
- 第261条
- 財物ヲ賭シテ現ニ博奕ヲ爲シタル者ハ一月以上六月以下ノ重禁錮ニ處シ五圓以上五十圓以下ノ罰金ヲ附加ス其情ヲ知テ房屋ヲ給與シタル者亦同シ但飮食物ヲ賭スル者ハ此限ニ在ラス
- 2 賭博ノ器具財物其現場ニ在ル者ハ之ヲ沒收ス
1907(明治40)年 刑法改正法律 制定
[編集]刑法改正法律(明治40年法律第45号)[2]により、刑法(明治13年7月17日太政官布告第36号)[3]は廃止された。改正前の刑法第261条は、改正後の「第二編 罪」のうち「第二十三章 賭博及ヒ富籤ニ関スル罪」として分類された刑法第185条にあたる。改正前、直接賭博に関する物品の没収を定めていた第二項にあたる条項は消滅した。
- 改正前
- 第261条 財物ヲ賭シテ現ニ博奕ヲ爲シタル者ハ一月以上六月以下ノ重禁錮ニ處シ五圓以上五十圓以下ノ罰金ヲ附加ス其情ヲ知テ房屋ヲ給與シタル者亦同シ但飮食物ヲ賭スル者ハ此限ニ在ラス
- 2 賭博ノ器具財物其現場ニ在ル者ハ之ヲ沒收ス
- 改正後
- 第185条 偶然ノ輸贏ニ関シ財物ヲ以テ博戯又ハ賭事ヲ為シタル者ハ千円以下ノ罰金又ハ科料ニ処ス但一時ノ娯楽ニ供スル物ヲ賭シタル者ハ此限ニ在ラス
1991(平成3)年改正
[編集]従来、刑法その他の刑罰法規に定める罰金及び科料の額等については、以来の経済事情の変動に臨みて、罰金等の刑罰としての機能を確保するため罰金等臨時措置法を制定していた[4]。
平成3年5月7日施行 罰金の額等の引上げのための刑法等の一部を改正する法律(平成3年法律第31号)第一条[5]により、罰金等臨時措置法を改正して対応していた従前の例を改め、刑法そのものを改正することにより、刑事司法の適正な運営を図ることなどを目的として、罰金及び科料の額が引き上げられた[4][6]。
- 改正前
- 偶然ノ輸贏ニ関シ財物ヲ以テ博戯又ハ賭事ヲ為シタル者ハ千円以下ノ罰金又ハ科料ニ処ス但一時ノ娯楽ニ供スル物ヲ賭シタル者ハ此限ニ在ラス
- 改正後
- 偶然ノ輸贏ニ関シ財物ヲ以テ博戯又ハ賭事ヲ為シタル者ハ五十万円以下ノ罰金又ハ科料ニ処ス但一時ノ娯楽ニ供スル物ヲ賭シタル者ハ此限ニ在ラス
1995(平成7)年改正
[編集] 平成7年6月1日施行 刑法の一部を改正する法律(平成7年法律第91号)により、刑法全体にわたって表記の平易化が図られたのに伴い、本条には見出しが加えられたほか、一部簡略化された[4]。それに伴い、章立ても「第二編 罪」のうち「第二十三章 賭博及ヒ富籤ニ関スル罪」として分類されていたところ、「第二十三章
- 改正前
- 偶然ノ輸贏ニ関シ財物ヲ以テ博戯又ハ賭事ヲ為シタル者ハ五十万円以下ノ罰金又ハ科料ニ処ス但一時ノ娯楽ニ供スル物ヲ賭シタル者ハ此限ニ在ラス
- 改正後
(
賭 博をした者は、五十万円以下の罰金又は科料に処する。ただし、一時の娯楽に供する物を賭 けたにとどまるときは、この限りでない。
解説
[編集]旧刑法(明治13年7月17日太政官布告第36号)
[編集]第261条1項について
[編集]旧刑法はすでに廃止されたとはいえ、その全部を一概に看過することはできない。現代においても「判例百選」に収録されるような重要判例の中には、旧刑法の規定や趣旨を踏まえて理解すべきとされたものが存在する。
例えば、戦後に大法廷で審理された賭博場開張図利被告事件において、裁判所は賭博罪を「公益に関する罪」として分類していたことに触れながら有罪の判断を下した。以下は、賭博はいわゆる幸福追求権に含まれるべきだと主張する被告人側の上告を最高裁大法廷が棄却し、その理由を述べる部分である。
賭博行為は、一面互に自己の財物を自己の好むところに投ずるだけであつて、他人の財産権をその意に反して侵害するものではなく、従つて、一見各人に任かされた自由行為に属し罪悪と称するに足りないようにも見えるが、しかし、他面勤労その他正当な原因に因るのでなく、単なる偶然の事情に因り財物の獲得を僥倖せんと相争うがごときは、国民をして怠惰浪費の弊風を生ぜしめ、健康で文化的な社会の基礎を成す勤労の美風(憲法二七条一項参照)を害するばかりでなく、甚だしきは暴行、脅迫、殺傷、強窃盗その他の副次的犯罪を誘発し又は国民経済の機能に重大な障害を与える恐れすらあるのである。これわが国においては一時の娯楽に供する物を賭した場合の外単なる賭博でもこれを犯罪としその他常習賭博、賭場開張等又は富籖に関する行為を罰する所以であつて、これ等の行為は畢竟公益に関する犯罪中の風俗を害する罪であり(旧刑法第二篇第六章参照)、新憲法にいわゆる公共の福祉に反するものといわなければならない。
最大判昭和25年11月22日 昭和25(れ)280 刑集第4巻11号2380頁
確かに、この点は判決理由の主要な部分とは言いがたいが、もし賭博罪が憲法に反しない理由をさらに掘り下げて論じるならば、憲法27条が掲げる「勤労の美風」という理念を念頭に、旧刑法において「風俗を害する罪」として立法されていたことにより、その趣旨を補強されたと見ることができる。
第261条2項について
[編集]被告人が賭博に際し座布団や敷布を用いていたところ、下級審はこれを賭博具として没収した事案につき、同項を巡って解釈を論じた例があった。以下は、被告人側が、これらは賭博の遂行に不可欠な器具ではなく、単に便宜のために使用されたにすぎないから没収対象とすべきではないと主張したものの、大審院が退け、その理由を述べた部分である[7]。
依テ按スルニ刑法第二百六十一條ニ所謂賭博ノ器具ハ廣キ意義ヲ有シ賭博ノ用ニ供セラレタル一切ノ器具ヲ意味スルモノニシテ所論ノ如ク賭博ヲ爲スニ直接必要ノモノヽミヲ指スモノト解スヘカラス換言スレハ或器具ニシテ苟クモ直接ニ賭博ノ用ニ供セラレタルモノナルニ於テハ其器具ハ賭事ノ爲ニ必要ニシテ欠クヘカラサルモノナルト單ニ賭事ヲ行フノ上ニ於テ便利ヲ與フルニ過キサルモノナルト又タ其器具ハ賭博專用ノ器具ナルト本來他ノ用途ニ供セラレ偶々賭事ノ爲ニ使用セラレタルトニ論ナク總テ賭具中ニ包含セラルヘキモノトス蓋シ是等ノ器具ハ法律ニ禁スル賭事ノ遂行上ニ於テ利用セラレタルモノニシテ法律カ之ヲ沒收スル所以ノ理由モ亦タ此點ニヨリテ存スルモノナリ何トナレハ賭具ハ其性質ニ於テ法禁物ニアラス唯タ之ヲ賭博ノ用ニ供スルニ依リテ沒收ノ目的トナルモノニ外ナラサルヲ以テ或器具ニシテ苟クモ賭博ノ用ニ供セラレタル以上ハ沒收ノ條件ハ具備スルモノニシテ其器具ノ賭事ニ必要ナルト否トハ之ヲ問フノ理由ナキヲ以テナリ故ニ原院カ本件ノ賭博ニ付キ被告ノ使用シタル座蒲團敷布ヲ沒收シタルハ相當ニシテ上告論旨ハ理由ナシ
大審院明治37年2月15日 明治36年(れ)第2271號 刑録10輯225頁
判旨によれば、「賭博ノ器具」とは広義に解すべき概念であり、賭博に供された一切の器具を含むとされた。したがって、その器具が賭博の遂行に必須であるか否か、また賭博専用の器具であるか否か、あるいは本来他の用途に供される物が偶然賭博に利用されたか否かを問う必要はなかった。要するに、賭博に実際に供用されたという事実があれば没収の対象になるというのが判例の立場であったのである。その理由は、賭博具自体が本来的に違法物であるのではなく、使用態様によって初めて違法性を帯び、保安処分的に没収されるに至るというものであった。
現在においては、現刑法第19条1項に定める各号にしたがって判断されるべきであるから、旧刑法が廃止された今、賭博の器具を没収するにあたってこの判旨を採る理由はない。
刑法(明治40年法律第45号) 〈口語化前〉
[編集]賭博罪の構成要件
[編集]刑法第百八十五条は「偶然ノ輸贏ニ関シ財物ヲ以テ博戯又ハ賭事ヲ為シタル」場合に罰金や科料を科すことを規定する。
偶然ノ輸贏
[編集]「偶然ノ輸贏」とは、賭博における勝敗が完全に偶然の事情によって決定されることである。ここでいう偶然とは、当事者が事前に確実に予見したり自由に操作できない事象を指す。すなわち、賭けの結果が当事者の意思や技術だけで決まらず、一定の不確実性や偶然性を含むものである。
勝敗は完全に偶然に支配されている必要はない。たとえ技術や実力によって勝敗がある程度影響される場合でも、勝敗に多少でも偶然の要素が含まれている限り、「偶然ノ輸贏」に該当し、賭博罪の対象となりうるとされる。このため、囲碁や麻雀、将棋のような一見技術や実力が関与する競技でも、偶然の要素が一定程度存在する限り賭博罪として扱われうる。また、勝敗の不確実性は主観的なもので足り、客観的に既に確定している事実であっても、当事者が知らなければ賭博と認められる(大判大正3年10月7日)。
財物ヲ以テ
[編集]得喪の対象となる財物は、その旨を予め約束することで足り、実際に財物を拠出してこれを提供することを要しない(明治45年判決錄947頁)。
また、当事者間で賭けの対象となる財物の数額は、賭博の開始時点から厳密に確定されている必要はなく、賭博の進行や勝敗決定の段階で、当事者間での利得や損失を算出できる差金額が手仕舞い時や相場などにより、結果的に確定し得るものであれば足りる(明治45年判決錄947頁)。
賭博罪の完成時期
[編集]勝敗の結果が必ずしも確定しなくても、賭博行為自体の性質が偶然によるものであれば罪が成立するとされている。つまり、実際に勝敗が決する前に賭博行為が終了し、財物の得失が発生しなかった場合でも、賭博の成立を妨げる要素とはならない(明治43年判決錄955頁)。
参照条文
[編集]判例
[編集]出典および参考文献
[編集]- ^ 法令全書 明治13年 明治十三年七月 太政官 布告 第三十六號(刑法)(内閣官報局)
- ^ 刑法改正・御署名原本・明治四十年・法律第四十五号(国立公文書館デジタルアーカイブ)
- ^ 法令全書 明治13年 明治十三年七月 太政官 布告 第三十六號(刑法)(内閣官報局)
- ^ 4.0 4.1 4.2 平成9年版 犯罪白書 第1編/第2章/第1節/2(法務省)
- ^ 平成 3年 4月17日 31号 罰金の額等の引上げのための刑法等の一部を改正する法律(衆議院)
- ^ 罰金の額等の引上げのための刑法等の一部を改正する法律案に関する件(日本弁護士連合会)
- ^ 賭博ノ件 大審院刑事判決録(刑録)10輯225頁(名古屋大学大学院法学研究科)
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