刑法第190条
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条文
[編集](死体損壊等)
- 第190条
- 死体、遺骨、遺髪又は棺に納めてある物を損壊し、遺棄し、又は領得した者は、3年以下の拘禁刑に処する。
改正経緯
[編集]2022年、以下のとおり改正(施行日2025年6月1日)。
- (改正前)懲役
- (改正後)拘禁刑
解説
[編集]- 死体損壊等罪の保護法益
- 「刑法190条は、社会的な習俗に従って死体の埋葬等が行われることによ り、死者に対する一般的な宗教的感情や敬けん感情が保護されるべきことを前提に、死体等を損壊し、遺棄し又は領得する行為を処罰することとしたものと解される。」(後掲・最判令和5・3・24:強調は引用者)
- 客体
- (1)死体:死体の一部(大判大正14・10・16)及び人体の形状を備えた死胎(大判大正6・11・13)も含まれる。
- (2)遺骨•遺髪:死者の祭祀・祈念のために保存し又は保存されるべきもの(山口・各論)
- *遺族その他の処分権限者が風俗・慣習にしたがって正当に処分したものは含まない(大判明治14・10・4)
- (3)納棺物
- 行為
- (1)損壊:
- (2)遺棄:「習俗上の埋葬等とは認められない態様で死体等を放棄し又は隠匿する行為が死体遺棄罪の「遺棄」に当たる」(後掲・最判令和5・3・24:強調は引用者)
- (3)領得:
- 罪数
- 納棺物の領得と財産犯
- 判例(大判大正4・6・24):本条のみが成立(法条競合)
参照条文
[編集]ドイツ刑法典168条
- 第168条(死者の安息の妨害)
- ① 権限なく,死者の身体若しくは身体の一部,死亡した胎児若しくはその一部若しくは死者の遺骨を,権利者の占有から奪取し,又はこれを冒涜する行為を行った者は, 3年以下の自由刑又は罰金刑に処する。
- ② 遺体安置所,埋葬所,若しくは公の追悼地を,破壊若しくは損壊した者,又はこれらの場所で冒涜的な粗暴行為を行った者も,前項と同一の刑に処する。
- ③ 本条の罪の未遂は,罰する。
- § 168 Störung der Totenruhe
- (1) Wer unbefugt aus dem Gewahrsam des Berechtigten den Körper oder Teile des Körpers eines verstorbenen Menschen, eine tote Leibesfrucht, Teile einer solchen oder die Asche eines verstorbenen Menschen wegnimmt oder wer daran beschimpfenden Unfug verübt, wird mit Freiheitsstrafe bis zu drei Jahren oder mit Geldstrafe bestraft.
- (2) Ebenso wird bestraft, wer eine Aufbahrungsstätte, Beisetzungsstätte oder öffentliche Totengedenkstätte zerstört oder beschädigt oder wer dort beschimpfenden Unfug verübt.
- (3) Der Versuch ist strafbar.
判例
[編集]- 最判昭和23年11月16日集刑12号1535頁 殺人、強姦致死、強姦、窃盗
- 死体損壞罪と死体姦淫
- 刑法第190条に規定する死体損壞罪は、死体を物理的に損傷、毀壞する場合を云うのであつて、これを姦するが如き行爲を包含しないと解すべきものである。
- 最判昭和26年6月7日集刑47号405頁 殺人教唆、殺人死体遺棄
- 殺害現場の床下に死体を秘匿する行為と死体遺棄罪
- 旅館の客室で人を殺した者がその死体を右客室の床下に投棄秘匿する場合には、殺人罪の外に死体遺棄罪が成立する。
- 最決令和5年3月24日刑集77巻3号41頁 死体遺棄被告事件
- 死体遺棄の意義
- 1 刑法190条にいう「遺棄」とは、習俗上の埋葬等とは認められない態様で死体等を放棄し又は隠匿する行為をいう。
- 2 被告人の居室で、出産し、死亡後間もないえい児の死体をタオルに包んで段ボール箱に入れ、同段ボール箱を棚の上に置くなどして、他者が死体を発見することが困難な状況を作出したという被告人の隠匿行為は、それが行われた場所、死体のこん包及び設置の方法等に照らすと、刑法190条にいう「遺棄」に当たらない。
- 【判例評釈等】
- 赤松亨太「判解」ジュリスト1606号(2025年)97頁以下
- 石黒大貴(コメント:福永俊輔)「判批」季刊刑事弁護113号(2023年)109頁以下、同=福永俊輔「判批」季刊刑事弁護115号(2023年)121頁以下
- 岡田行雄=石黒大貴=澁谷洋平=内藤大海=岡本洋一「シンポジウム・死体遺棄事件最高裁判決をめぐって」熊本法学160号(2024年)83頁以下
- 大庭沙織「死体の隠匿行為の死体遺棄罪における「遺棄」該当性─最判令和5 年3 月24日刑集77巻3 号41頁を契機として─」『甲斐克則先生古稀祝賀論文集上巻』(成文堂、2024年)375頁以下、同「判批」法律時報97巻4 号(2025年)138頁以下
- 木下昌彦「孤立出産と死体遺棄罪の憲法問題─技能実習生孤立出産事件意見書」神戸法学雑誌73巻1 号(2023年) 1 頁以下
- 栗木傑「判批」警察学論集76巻9 号(2023年)174頁以下、
- 佐々木くみ「技能実習生嬰児死体遺棄無罪判決と個人の窮境」法学セミナー832号(2023年)27頁以下
- 嶋矢貴之「死体遺棄罪」法学教室514号(2023年)36頁以下
- 白井美果「判批」研修900号(2023年)55頁以下
- 菅沼真也子「判批」法学新報130巻5=6 号(2023年)335頁以下
- 杉本一敏「判批」『重要判例解説令和5 年度』(2024年)140頁以下
- 十河太朗「判批」法学教室516号(2023年)114頁
- 中川深雪「死体遺棄罪における『遺棄』の意義について」中央ロー・ジャーナル21巻1 号(2024年)81頁以下
- 原田保「熊本死産児遺棄事件寸評」リーガル・カフェ(愛知学院大学社会連携センター) 7 号(2023年) 2 頁以下
- 萩野貴史「判批」判例時報2611号(2025年)108頁以下
- 濱田新「隠匿による死体遺棄について」信州大学経法論集15号(2023年)131頁以下
- 福永俊輔「判批」西南学院法学論集56巻1=2 号(2023年)115頁以下、同「判批」新判例解説vol. 33(2023年)175頁以下
- 前田雅英「判批」捜査研究886号(2024年)72頁以下
- 松尾誠紀「判批」有斐閣Online ロージャーナルL2306005(2023年)、同「判批」ジュリスト1611号(2025年)154頁以下
- 松原芳博「判批」早稲田法学100巻4号(2025年)159頁以下
- 松宮孝明「『葬祭妨害』としての死体遺棄と『葬祭懈怠』としての死体遺棄─最判令和5 年3 月24日刑集77巻3 号41頁の意義について─」判例時報2593号(2024年)91頁以下
- 三代川邦夫「判批」刑事法ジャーナル78号(2023年)184頁以下
- 山本高子「判批」法学セミナー823号(2023年)116頁以下
- 矢田陽一「判批」比較法制研究(国士舘大学)46号(2023年)181頁以下
- 名古屋地判令和6年12月5日裁判所HP 死体遺棄被告事件
- 【判例評釈等】
- 東條明徳「不作為の死体遺棄の成否とその終了時期」法学教室540号(2025)126頁
- 札幌地判令和7・5・7 LEX/DB25574350 死体遺棄幇助、死体損壊幇助被告事件]
- 事案
- 被告人は、夫である分離前の相被告人A方において、娘である分離前の相被告人Bと同居して生活していたものであるが、(1)Bが、前記A方において、かねて殺害したCの死体の胴体から切断し同所に持ち込んでいた同人の頭部を継続して隠匿し、もって死体を遺棄した際、その情を知りながら、同所において、Bの前記隠匿を容認し、もって同人の死体遺棄の犯行を容易にさせて幇助し、(2)Bが、同所において、多機能ナイフ等を使用するなどして、前記Cの頭部から右眼球を摘出し、もって死体を損壊した際、これに先立つ同日、A方浴室においてビデオ撮影しながら前記死体損壊をすることを計画していたBから、同ビデオ撮影をするよう求められ、その情を認識しながら、Aに対し、Bの前記求めを伝えて同ビデオ撮影を依頼し、これを承諾したAに、Bの前記死体損壊の場面をビデオ撮影させ、もって同人の死体損壊の犯行を容易にさせて幇助したとして、死体遺棄幇助、死体損壊幇助の罪で懲役1年6か月を求刑された。
- 判旨
- 被告人の行為や態度は、Bの前記死体遺棄の犯行を容易にさせ、また、死体損壊の犯意を増強させてこれを心理的に幇助したものと認定評価でき、被告人の幇助の故意に欠けるところもないから、被告人には死体遺棄幇助罪及び死体損壊幇助罪が成立するとしたうえで、被告人が幇助したBの犯行は常軌を逸する犯行であり、刑法190条に係る犯行の中で犯情は非常に悪く、被告人の幇助行為をみると、Bの犯意を促進した程度も小さくなかったとみるべきである一方、死体損壊幇助の点は、物理的に幇助したとはいえないし、Aに比べれば、Bの死体損壊を促進した程度は小さく、Bの犯行を止めなかったことについて後悔を述べているなど、更生可能性に関する事情も加味するとして、被告人を懲役1年2か月に処し、3年間その刑の執行を猶予した。
- 【判例評釈等】
- 新・判例解説Watch」(刑法分野)解説記事掲載予定
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