商法第14条

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法学民事法商法コンメンタール商法第1編 総則 (コンメンタール商法)

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条文[編集]

(自己の商号の使用を他人に許諾した商人の責任)

第14条
自己の商号を使用して営業又は事業を行うことを他人に許諾した商人は、当該商人が当該営業を行うものと誤認して当該他人と取引をした者に対し、当該他人と連帯して、当該取引によって生じた債務を弁済する責任を負う。

改正経緯[編集]

2005年会社法制定に伴い、商法第23条に定められていた「名板貸」条項につき、会社に関するものは会社法第9条に継承し、その他商人に関するものを本条に継承した。会社の名義についての名板貸の事例が多いため、名板貸については会社法が本則的な扱いとなっている。一方、名板(名義)の貸主が自然人である場合の類推解釈は本条による。
なお、改正前本条に置かれていた「不実事項の登記」に関する規律は第9条第2項に継承された。

解説[編集]

いわゆる、「名板貸(ないたがし)」の要件と効果を規定する。

名板貸」とは、自己の商号の使用して事業を行うことを他人に許諾する行為であり、「暖簾分け」など、古くから見られる商習慣であり、現在においても「フランチャイズ契約」に典型的に見られる。但し、商号の有効範囲は非常に狭いものであるため、多くのフランチャイズ契約は「商標」による名板貸行為によっており、本条を直接適用する局面は非常に限られたものとなっている。

法の趣旨としては、他人に対して自己の行為と紛らわしい外観を形成するのに責任ある場合は、他人の行為について責任を有するという権利外観理論の発露のひとつである。

要件と効果[編集]

要件[編集]

  • 他人に、自己の商号を使用して営業又は事業を行うことを許諾していること
  • 許諾を受けた者(以下、「名板借人」。一方、許諾したものを「名板貸人」という)が、当該商号を掲げて営業又は事業を行ったこと
    • 名板借人が、名板貸人のもともとの事業から大きく離れて営業をした場合その営業については、名板貸の効果は及ばない。
      (例)名板貸人の事業は「料亭」であったが、名板貸人は、これに加え「旅館営業」を始めた。
      • 他人に自己の商号を使用して営業を営むことを許諾した場合においても、その許諾を受けた者が当該商号を使用して業種の異なる営業を営むときは、特段の事情がないかぎり、責任を負わない(最高裁判決昭和43年06月13日)。
  • 取引相手が、名板借人を相手方であると誤認して取引を行ったこと
    • 誤認に対して重大な過失がある場合を除く
      例えば、名板貸人の下で働いていた者が「暖簾分け」で、名板貸により店を出し(又は、もとの店を買い受け)、従来の卸業者などが誤認することは、重大な過失があるとまではいえないが、銀行が融資を行う場合など、相手方に対して、十分な注意を要する場合は、名板貸を認めることは困難となる(最高裁判決昭和41年01月27日)。

効果[編集]

  • 名板借人と連帯して、当該取引によって生じた債務を弁済する責任を負う。
    • 「当該取引によって生じた債務」には、債務不履行などにより生じた損害賠償責任等も含む。
  • 連帯責任であるので、取引相手は、名板借人を通さず、直接、債権の行使を求めうる。一方、名板貸人は、名板借人が有する法的権利(例.同時履行の抗弁)を行使することができ、債務の履行時には、名板借人に代位して債権を得る。
  • 名板貸人は、名板借人に求償することができる。

類推適用[編集]

  • 商業登記の不実記載
    会社役員等の登記について、不実の記載(株主総会決議を経ない登記、退任後の放置など)について、登記された本人が、不実の登記の事実を知っていた場合、名板を貸したことと同様であると類推解釈し、取締役としての責任を認める例がある(最高裁判決昭和47年6月15日最高裁判決昭和62年4月16日)。

参照条文[編集]

判例[編集]

  1. 売掛代金請求(最高裁判決 昭和41年01月27日)
    名板貸人を営業主と誤認するについて重大な過失があつた相手方に対する商法第23条所定の名板貸人の責任の有無。
    名板貸人は、自己を営業主と誤認するについて重大な過失があつた者に対しては、商法第23条所定の責任を負わないと解するのが相当である。
  2. 売掛代金請求(最高裁判決昭和43年6月13日)
    1. 商号の使用を許諾した者の営業とその許諾を受けた者の営業との業種が異なる場合と商法第23条の責任
      他人に自己の商号を使用して営業を営むことを許諾した場合においても、その許諾を受けた者が当該商号を使用して業種の異なる営業を営むときは、特段の事情がないかぎり、商号許諾者は、商法第23条の責任を負わない。
    2. 右の場合において商法第23条の責任があるとされた事例
      甲が、乙に対し「D」という商号および自己の氏名の使用を許諾し、乙がこれを使用して営業した場合において、甲の営業の業種が電気器具販売業であり、乙の業種が食料品販売業であつても、乙が、甲の従前の使用人であり、甲の営業当時のまま「D」という看板を掲げて同一の店舗で「D」および甲名義を使用して営業をしているなど判示の事情があるときは、乙を甲と誤認して取引をした者に対し、甲において商法第23条の責任を負うべき特段の事情があると解するのが相当である。
  3. 約束手形金請求(最高裁判決昭和43年10月17日)
    中小企業等協同組合法に基づく協同組合について「従たる事務所」の登記がある場合と商法第14条の類推適用の有無
    中小企業等協同組合法に基づく協同組合の営業所について、「従たる事務所」の登記がある場合には、右営業所が同法第44条第1項にいう「従たる事務所」の実体を有していなくても、商法第14条を類推適用し、右の実体を有しないことをもつて善意の第三者に対抗しえないものと解すべきである。
  4. 損害賠償請求(最高裁判決昭和47年6月15日)旧商法第266条の3(取締役の第三者責任 現会社法第429条
    1. 取締役でないのに取締役就任登記を承諾した者と商法14条の類推適用
      取締役でないのに取締役として就任の登記をされた者が故意または過失により右登記につき承諾を与えていたときは、同人は、商法14条の規定の類推適用により、自己が取締役でないことをもつて善意の第三者に対抗することができない。
    2. 商法14条の類推適用により取締役でないことを対抗できない登記簿上の取締役と同法266条の3所定の取締役としての責任
      株式会社において、取締役でないのに取締役として就任の登記をされた者が商法14条の規定の類推適用により取締役でないことをもつて善意の第三者に対抗することができないときは、右の登記簿上の取締役は、その第三者に対し、同法266条の3の規定にいう取締役として、所定の責任を免れることができない。
  5. 所有権確認等(最高裁判決昭和55年9月11日)
    登記申請権者の申請に基づかないでされた不実の商業登記と商法14条の適用の有無
    登記申請権者の申請に基づかないで不実の商業登記がされた場合には、登記申請権者が不実の登記の実現に加功し又は不実の登記の存在が判明しているのにその是正措置をとることなくこれを放置するなど、右登記を登記申請権者の申請に基づく登記と同視するのを相当とするような特段の事情がない限り、商法14条は適用されない
  6. 損害賠償(最高裁判決昭和62年4月16日)旧商法第266条の3(取締役の第三者責任 現会社法第429条
    1. 取締役を辞任したが辞任登記未了である者と商法266条ノ3第1項前段にいう取締役としての責任の有無
      株式会社の取締役を辞任した者は、辞任したにもかかわらずなお積極的に取締役として対外的又は内部的な行為をあえてした場合を除いては、特段の事情がない限り、辞任登記が未了であることによりその者が取締役であると信じて当該株式会社と取引した第三者に対しても、商法266条ノ3第1項前段にいう取締役として所定の責任を負わないものというべきである。
    2. 取締役を辞任したが辞任登記未了である者が商法14条の類推適用により同法266条ノ3第1項第一項前段にいう取締役としての責任を負う場合
      株式会社の取締役を辞任した者は、登記申請権者である当該株式会社の代表者に対し、辞任登記を申請しないで不実の登記を残存させることにつき明示的に承諾を与えていたなどの特段の事情がある場合には、商法14条の類推適用により、善意の第三者に対し、当該株式会社の取締役でないことをもつて対抗することができない結果、同法同法266条ノ3第1項前段にいう取締役として所定の責任を免れることはできない

前条:
商法第13条
(過料)
商法
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第4章 商号
次条:
商法第15条
(商号の譲渡)
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