コンテンツにスキップ

民事訴訟法第143条

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』

法学民事法コンメンタール民事訴訟法

条文

[編集]

(訴えの変更)

第143条
  1. 原告は、請求の基礎に変更がない限り、口頭弁論の終結に至るまで、請求又は請求の原因を変更することができる。ただし、これにより著しく訴訟手続を遅滞させることとなるときは、この限りでない。
  2. 請求の変更は、書面でしなければならない。
  3. 前項の書面は、相手方に送達しなければならない。
  4. 裁判所は、請求又は請求の原因の変更を不当であると認めるときは、申立てにより又は職権で、その変更を許さない旨の決定をしなければならない。

解説

[編集]
Wikipedia
Wikipedia
ウィキペディア訴えの変更の記事があります。

「訴えの変更」の分類

[編集]
請求の同一性を変更するもの
  • 訴えの追加的変更
    原告が従来の請求を維持しつつ新たな請求を追加することをいう。
    (参照)中間確認の訴え第145条
  • 訴えの交換的変更
    原告が従来の請求に替えて新たな請求の審判を求めること。
請求の同一性を変更しないもの
  • 請求の拡張
    数量的に可分な請求についてその数額を増額すること。
  • 請求の減縮
    数量的に可分な請求についてその数額を減額すること.

「請求の基礎に変更がない限り」の基準

[編集]
  1. 訴訟物の同一性
    請求の基礎とは「訴訟物(裁判の対象)を形成する事実関係や法律関係の根幹部分」を指す。例えば、賃貸借契約解除に基づく明渡請求から所有権に基づく明渡請求への変更は、訴訟物が異なるため請求の基礎の変更と判断される可能性が高い。
  2. 証拠・審理の共通性
    次の条件を満たす場合、請求の基礎に変更なしと認められる。
    • 主要な争点が同一
    • 証拠資料の大部分が流用可能
    • 既に行われた審理の内容を活用できる
  3. 被告の防御権保護
    変更によって被告が「本質的な防御の機会を奪われない」ことが要件となる。例えば、損害賠償請求額の増減や利息制限法適用の追加など、防御方法に根本的な変更を要しない場合は許容される。

参照条文

[編集]

判例

[編集]
  1. 家屋明渡請求(最高裁判決 昭和24年11月8日)
    控訴審において請求の一部が減縮された場合における控訴判決の主文
    請求の一部につき控訴審において請求の減縮をしたときは、その部分については初めより係属しなかつたものと看做され、この部分に対する第一審の判決はおのずからその効力を失い、控訴は残余の部分に対するものとなるから、この部分につき第一審判決を変更する理由がないときは控訴棄却の判決をすべきである。
  2. 亜炭コーライト代金請求(最高裁判決 昭和27年12月25日)
    請求の趣旨の減縮の性質
    請求の趣旨の減縮は、訴の一部取下にすぎず、民訴第232条第2項(現・本条)にいわゆる請求の変更にあたらない。
  3. 家屋明渡等請求(最高裁判決 昭和29年6月8日)
    控訴審における請求の基礎の変更と相手方が異議を述べなかつた場合の効果
    控訴審における請求の拡張は、たとえ請求の基礎に変更があつても、相手方が異議なく応訴した場合は、これを許すべきである。
  4. 建物所有権移転登記手続請求(最高裁判決 昭和31年6月19日)
    書面の提出または送達のない訴の変更と責問権の喪失
    訴の変更についての書面の提出または送達の欠缺は責問権の喪失によつて治癒される。
  5. 貸金請求(最高裁判決 昭和32年2月28日)
    1. 控訴審において訴が変更された場合と新訴に対する主文の判示方法
      控訴審において訴の変更による新訴が係属した場合、新訴については、控訴裁判所は、事実上第一審としての裁判をすべきであり、たとえ新訴に対する結論が旧訴に対する第一審判決の主文の文言と合致する場合であつても、控訴棄却の裁判をすべきではない。
    2. 訴の変更と旧訴
      訴の変更による新訴の提起があつても、旧訴につき適法な訴の取下または請求の放棄がない限り旧訴の係属は消滅しない。
  6. 約束手形金請求(最高裁判決 昭和32年7月16日)
    請求の基礎に変更のない一事例
    原告が初め、約束手形を裏書によつて取得し、現にこれを所持する者として、振出人たる被告会社に対し、手形金の支払を求めたが、後に予備的に、右手形が被告会社の被用者甲が偽造したものであるとすれば、原告は甲が被告会社の事業の執行につきなした行為により、手形割引金相当の損害を受けたものとして、その賠償を求めたとしても、請求の基礎に変更はない。
  7. 土地明渡請求(最高裁判決 昭和32年12月13日)
    全部勝訴の原告は控訴審において附帯控訴の方式により請求の拡張をなし得るか
    第一審において全部勝訴の判決を得た原告も、控訴審において、附帯控訴の方式により請求の拡張をなし得るものと解すべきである。
  8. 家屋明渡請求(最高裁判決 昭和37年1月26日)
    控訴審において訴の一部取下がなされた場合に残余の請求につき控訴棄却の判決がなされたときの効果
    控訴審において訴の一部につき同意ある取下がなされた場合に、残余の請求につき控訴棄却の判決がなされたときには、右残余の請求のみにつき第一審判決を維持したものと解すべきである。
  9. 建物撤去土地明渡請求(最高裁判決 昭和37年6月7日)
    訴の変更が許容された事例
    主位的申立として、建物から退去してその敷地の明渡しを求め、予備的申立として、建物収去・土地明渡しを求め、その請求原因として、原告は右土地は原告の所有であるといい、前者につき、被告は右建物を無断で建てて右土地を不法占有している者から借受けて居住し右土地を不法占有していると主張し、後者につき、被告は右建物の建築者から右建物を買受けて所有者となりその土地を不法占有していると主張する場合および主位的申立として、建物を収去・土地明渡しを求め、予備的申立として、右建物から退去してその敷地の明渡しを求め、その請求原因として、原告は右土地は原告の所有であるといい、前者につき、右建物は被告の所有であり、同人は建物を勝手に建てて土地を不法占有していると主張し、後者につき右建物を無断で建てて右土地を不法占有している者と同居して右土地を不法占有していると主張する場合には、原告の申立はいずれも土地所有権の存在を基本としていることには変りはなく、原告の右予備的申立は、その主たる申立との間に請求の基礎に変更がないものとして許されるべきである。
  10. 家屋明渡請求(最高裁判決 昭和39年7月10日)
    1. 相手方の陳述した事実に基づいてする訴の変更は請求の基礎に変更がる場合にも許されるか。
      相手方の陳述した事実に基づいて訴の変更をする場合には、請求の基礎に変更があるときでも、相手方の同意の有無にかかわらず、訴の変更は許されると解すべきである。
    2. 前項の相手方の陳述した事実にはいわゆる積極否認の内容となる事実を含むか。
      前項の場合における相手方の陳述した事実には、いわゆる積極否認の内容となる間接事実も含まれると解すべきである。
  11. 家屋明渡請求(最高裁判決 昭和41年1月21日)
    訴の交換的変更による新訴に異議なく応訴した場合と旧訴の取下についての同意
    訴の交換的変更による新訴に異議なく応訴した被告は、旧訴の取下について暗黙の同意をしたものと解するのが相当である。
  12. 損害賠償請求、同附帯控訴事件(最高裁判決 昭和43年11月15日)
    控訴の特別委任を受けた第一審訴訟代理人は本人の死亡後控訴審において請求の拡張をする訴訟代理権を有するか
    有する。
    • およそ、事件について通常の訴訟委任のほか、控訴の特別委任を受けた第一審訴訟代理人は、当該事件につき、控訴審において附帯控訴をなし、かつ訴を変更して請求の拡張をする訴訟代理権を有するものと解するのを相当とする。
  13. 所有権移転登記手続等請求(最高裁判決 昭和50年6月27日)
    控訴審において係属中の反訴を追加的に変更する場合の要件
    控訴審において係属中の反訴を追加的に変更するには、その請求の基礎が同一であり、かつ、これにより著しく訴訟手続を遅滞せしめなければ足り、相手方の同意を要しない。
  14. 損害賠償(最高裁判決 平成5年7月20日)民訴法(旧)227条,民訴法(旧)232条[現・本条],憲法29条3項,国家賠償法1条1項,行政事件訴訟法第3章当事者訴訟
    1. 国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求に憲法29条3項に基づく損失補償請求を予備的・追加的に併合することが許される場合
      国家賠償法1条1項の規定に基づく損害賠償請求に憲法29条3項の規定に基づく損失補償請求を予備的、追加的に併合することが申し立てられた場合において、右予備的請求が、主位的請求と被告を同じくする上、その主張する経済的不利益の内容が同一で請求額もこれに見合うものであり、同一の行為に起因するものとして発生原因が実質的に共通するなど,相互に密接な関連性を有するものであるときは、右予備的請求の追加的併合は、請求の基礎を同一にするものとして民訴法232条の規定による訴えの追加的変更に準じて許される。
    2. 国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求に憲法29条3項に基づく損失補償請求を控訴審において予備的・追加的に併合する場合の相手方の同意の要否
      国家賠償法1条1項の規定に基づく損害賠償請求に、憲法29条3項の規定に基づく損失補償請求を控訴審において予備的、追加的に併合するには、相手方の同意を要する。
  15. 養親子関係存在確認(最高裁判決 平成5年12月2日)
    訴え却下の判決に対する控訴審において訴えの変更が許されるとされた事例
    養子に協議離縁の意思及び届出の意思がなかったことを理由とする養親子関係存在確認の訴えを不適法として却下した判決に対する控訴審の第一回口頭弁論期日において、第一審口頭弁論期日に訴えの変更をしない旨の陳述をしていた控訴人(原告)から予備的に離縁無効確認の訴えを追加する旨の訴え変更の申立てがされた場合に、第一審裁判所が協議離縁の意思及び届出の意思についての当事者双方の申請に係る証拠のすべてを取り調べて本件の事実関係についての審理を遂げており、相手方が右訴え変更の申立てについて異議を述べることをしなかったなどの事情が認められ、相手方の有する審級の利益を害することがなく、訴訟手続を遅滞させるおそれもないときには、右訴え変更の申立ては許される。
  16. 損害賠償等請求本訴,請負代金等請求反訴事件(最高裁判決 平成18年4月14日)民法第505条民訴法114条民訴法142条民訴法146条
    反訴請求債権を自働債権とし本訴請求債権を受働債権とする相殺の抗弁の許否
    本訴及び反訴が係属中に,反訴原告が,反訴請求債権を自働債権とし,本訴請求債権を受働債権として相殺の抗弁を主張することは,異なる意思表示をしない限り,反訴を,反訴請求債権につき本訴において相殺の自働債権として既判力ある判断が示された場合にはその部分を反訴請求としない趣旨の予備的反訴に変更するものとして,許される。

前条:
第142条
(重複する訴えの提起の禁止)
民事訴訟法
第2編 第一審の訴訟手続
第1章 訴え
次条:
第144条
(選定者に係る請求の追加)
このページ「民事訴訟法第143条」は、まだ書きかけです。加筆・訂正など、協力いただける皆様の編集を心からお待ちしております。また、ご意見などがありましたら、お気軽にトークページへどうぞ。