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「中学校社会 公民/日本国憲法の原則」の版間の差分

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※(編集者の見解)課題を意識しながら読むと、内容の理解が進むと思います。
== そもそも憲法とは ==
[[File:日本の法の序列.svg|thumb|300px|'''法の構成'''  憲法を頂点として、上にあるほど、強い効力をもちます。強い下位にある法が、上位にある法に反することはできません。<br />なお、図中の「命令」とは、内閣がさだめる政令や、省庁がさだめる省令のことです。<br />なお、図では省いてあるが、(都道府県議会や市議会などの)地方公共団体が制定する「条例」(じょうれい)も、法律には逆らえない。もし図に「条例」を追加するなら、「条例」は「法律」よりも下のほうに書かれることになる。]]


=== 課題 ===
憲法(英:constitution コンスティチューション)とは、あらゆる法の上位にある'''最高法規'''(英:supreme law サプリーム・ロー) です。そのため、憲法に違反している法律は無効とされます。(憲法98条)
国家はどのようにして生まれ、どのような役割を持っているのでしょうか。


国家権力はどのような役割を持ち、どのような危険をはらんでいているのでしょうか。
また、憲法は他の法律についての基本の方針を述べた基本法でもあります。そして、人々の権利を保障するためのもっとも根本的な法です。

憲法の{{Ruby|意義|いぎ}}とは、どのようなものでしょうか。

日本国憲法の制定と原則について考えてみましょう。

== 国家の成立と役割 ==

=== 国家の成立 ===
そもそも、国家は、どのように成立したのでしょうか。国家がなければ、憲法も、法律も存在せず、このページも存在していないような気がしませんか。

国家は、稲作などの農業の始まりとともに、農地の{{Ruby|開拓|かいたく}}や{{Ruby|治水|ちすい}}など、集団となって解決すべき問題がいくつも生まれ、村程度の小さな集団から、国という大きな集団へと進化しました。その国では、指導者を置きました。

農業が始まると、つくった食料を奪いに来られることがあります。食料が奪われるのを防ぐためには、話し合って解決する、戦って勝つ、そもそも食料を作らないなどの方法があります。

話し合って解決するというのは、一番望ましい方法ですが、一番望ましい方法に限ってなかなかうまく行かないものです。食料を奪いに来るということは、相手は飢える寸前ですから、理性を失っているでしょう。そのような状態で話し合うこと自体、無理があるのかも知れません。

そもそも食料を作らなければ、自分が飢えてしまいます。結局、何のために食料を奪われないようにしているのかよくわからなくなります。

結局、戦って勝つという方法がとられることになりました。そのため、国では、{{Ruby|軍事組織|ぐんじそしき}}が作られました。軍事組織が作られ、国家が安定的に運営されるようになると、今度は{{Ruby|豊作|ほうさく}}を願い、神に{{Ruby|祈|いの}}りを{{Ruby|捧|ささ}}げるなどの{{Ruby|宗教的行事|しゅうきょううてきぎょうじ}}が行われるようになりました。

さらに、文字が発明されるとお、国家は、いつしか自分たちの歴史を残そうと、歴史を文書に残すようになりました。

国家は、対外{{Ruby|防衛|ぼうえい}}だけでなく、対内的に国内を{{Ruby|統治|とうち}}するという役割も担うようになりました。

=== 国家の役割 ===
国家の成立を振り返ると、防衛の必要性から国家が成立し、やがて発展してさまざまな役割が増えました。中でも、現在最も大事なものを挙げると、{{Ruby|'''防衛'''|ぼうえい}}、{{Ruby|'''社会環境の整備'''|しゃかいかんきょうのせいび}}、{{Ruby|'''法秩序の維持'''|ほうちつじょのいじ}}、{{Ruby|'''国民の自由と権利の保障'''|こくみんのじゆうとけんりのほしょう}}の4つに分類することができます。

{{Ruby|'''防衛'''|ぼうえい}}は、国家の起源の一つでもあり、国家の大事な役割です。防衛は、私たち国民の{{Ruby|自由|じゆう}}と{{Ruby|安全|あんぜん}}に直結します。{{Ruby|外敵|がいてき}}に{{Ruby|侵略|しんりゃく}}された場合、その外敵が私たち国民の自由と安全を{{Ruby|脅|おびや}}かすことは{{Ruby|容易|ようい}}に{{Ruby|想像|そうぞう}}できます。また、それを{{Ruby|人質|ひとじち}}としたり、あるいは武力で{{Ruby|直接脅迫|ちょくせつきょうはく}}して、国家の{{Ruby|意思決定|いしけってい}}<ref>例えば、特定の国への{{Ruby|外交方針|がいこうほうしん}}や国内の法律など。</ref>を{{Ruby|脅迫|きょうはく}}で変えさせようとすることもあるでしょう。それが結果的に国民の自由と安全を{{Ruby|侵害|しんがい}}することも考えられます。そのため、国家は、外交交渉だけでなく、{{Ruby|軍事組織|ぐんじそしき}}をつくり、国家を防衛することで、国家の{{Ruby|独立|どくりつ}}を守り、国民の自由と安全を守る必要があります。

国家の防衛は、外敵から、'''国家の独立'''と'''国民の自由と安全'''を守るという大事な役割です。

{{Ruby|'''社会環境の整備'''|しゃかいかんきょうのせいび}}は、今日では、国家の存続に{{Ruby|必要不可欠|ひつようふかけつ}}です。例えば、道路がなければ、私たちは移動することが{{Ruby|極|きわ}}めて{{Ruby|困難|こんなん}}になります。{{Ruby|橋|はし}}がなければ、{{Ruby|泳|およ}}いで川を{{Ruby|渡|わた}}ることになります。通信回線がなければ、私たちはインターネットを利用することができません。社会環境の整備は、私たち国民の生活を支えているのです。

{{Ruby|'''法秩序の維持'''|ほうちつじょのいじ}}は、防衛と同様に私たち国民の自由と安全に直結します。悪人が居て、常に{{Ruby|脅|おびやか}}される{{Ruby|危険|きけん}}にさらされているのであれば、私たち国民の自由は守られているとはいえません。その悪人がもし、私たちに{{Ruby|危害|きがい}}を加えようものなら、国民の安全まで侵害されてしまいます。そのため、国家は、{{Ruby|国家権力|こっかけんりょく}}により、法秩序を維持する必要があります。法秩序の維持には、警察などの{{Ruby|強制力|きょうせいりょく}}も用いられます。

{{Ruby|'''国民の自由と権利の保障'''|こくみんのじゆうとけんりのほしょう}}は、防衛との関係が深いことでも知られます。国家の起源の一つは、防衛ですが、その防衛は、{{Ruby|究極的|きゅうきょくてき}}には私たち一人ひとりの自由と権利を防衛するという{{Ruby|発想|はっそう}}にあります。そのため、特に近代では、国民の自由と権利を{{Ruby|保障|ほしょう}}するという役割が国家の役割として、より{{Ruby|重要度|じゅうようど}}を増しています。

こうした役割を確実に果たすためには、指導者が出て、人々を納得させる必要があります。国家が、人々を納得させて何かをすることのが{{Ruby|'''政治'''|せいじ}}です。しかし、少数ながら、反対派がいます。それでも、納得していない人々を巻き込んでことを進めなければ、何もできません。そのため、国家には、強い強制力をもつ{{Ruby|'''国家権力'''|こっかけんりょく}}が与えられます。

=== 国家権力の役割と憲法の成立 ===
'''国家権力'''は、その強制力により、規則を確実に実行し、世の中の合理化を図る、国民の自由と安全を{{Ruby|保護|ほご}}するという役割を持っています。国家権力についてもっと詳しく知りたい方は、{{節リンク|中学校社会 公民/人権思想と民主主義の歩み|国家権力はなぜ必要か}}をご覧ください。

国家権力は、社会に必要なものですが、同時に、その{{Ruby|強大|きょうだい}}さから、ときの{{Ruby|独裁者|どくさいしゃ}}によって人々の自由を{{Ruby|抑圧|よくあつ}}するように悪用されることがありました。

それを防ぐために、多数決の原理によって政治を行う{{Ruby|'''民主主義'''|みんしゅしゅぎ}}、一定の自由と権利を保障する{{Ruby|'''人権思想'''|じんけんしそう}}、権力の{{Ruby|過集中|かしゅうちゅう}}を防ぐ{{Ruby|'''三権分立'''|さんけんぶんりつ}}などが生まれました。

しかし、こうしたものは、{{Ruby|明文化|めいぶんか}}され、守られるようにならなければ意味がありません。そこで、民主主義・人権思想・三権分立などを明文化し、国家権力に守るよう強制するのが{{Ruby|'''憲法'''|けんぽう}}です。憲法を制定し、それに基づいて政治を行うというのが{{Ruby|'''立憲主義'''|りっけんしゅぎ}}です。立憲主義について詳しく知りたい方は、{{節リンク|中学校社会 公民/人権思想と民主主義の歩み|立憲主義}}をご覧ください。

しかし、憲法もまた、守られなければ、意味がありません。そのため、憲法は、国の{{Ruby|'''最高法規'''|さいこうほうき}}であり、憲法に違反する法律は、ほとんどの国で無効とされます。

憲法には、{{Ruby|法的拘束力|ほうてきこうそくりょく}}があるものとしては、政府が守るべき規定と国民が守るべき規定があります。政府が守るべき規定は、憲法の規定の大半がそうであり、憲法は実質的に政府が守るべき規定を書いているといえます。そのため、憲法は政府を{{Ruby|縛|しば}}るものである、ともいわれます。

国民が守るべき規定は、例えば、{{Ruby|'''納税の義務'''|のうぜいのぎむ}}や、{{Ruby|'''教育を受けさせる義務'''|きょういくをうけさせるぎむ}}、{{Ruby|'''国防の義務'''|こくぼうのぎむ}}(※日本にはない。)、{{Ruby|'''兵役の義務'''|へいえきのぎむ}}(※日本にはない。世界の中でも{{Ruby|少数派|しょうすうは}}。)などです<ref>国防の義務と兵役の義務が両方とも規定されている憲法は、めずらしい。</ref>。政府が守るべき規定に比べれば、{{Ruby|圧倒的|あっとうてき}}少数ですが、少数なのは憲法の役割に{{Ruby|照|て}}らせば当然です<ref>そもそも、義務は、法律でも規定できるので、(その義務が)存在しないと国家が成立しないものに限られる。</ref>。これ以外には、今では崩壊した'''ソビエト'''{{Ruby|'''社会主義共和国連邦'''|しゃかいしゅぎきょうわこくれんぽう}}や{{Ruby|現存|げんぞん}}する{{Ruby|独裁国家|どくさいこっか}}の{{Ruby|'''北朝鮮'''|きたちょうせん}}などの{{Ruby|共産主義国|きょうさんしゅぎこく}}の憲法に、{{Ruby|'''勤労の義務'''|きんろうのぎむ}}が規定されています。

そして、憲法は、国民の{{Ruby|自由意思|じゆういし}}<ref>誰からも{{Ruby|制限|せいげん}}されない、自由な意思のこと。</ref>に{{Ruby|基|もと}}づいて制定されます。例えば、{{Ruby|主権者|しゅけんしゃ}}が不在の中で制定された憲法や、{{Ruby|独裁者|どくさいしゃ}}によって国民の自由意思を{{Ruby|無視|むし}}して制定された憲法などは成立しません。こうした憲法は、{{Ruby|'''無効'''|むこう}}とされます。無効ですから、当然、改正なども不可能です。

日本で言えば、大日本帝国憲法の第75条に当時の主権者とされた天皇が不在となる、{{Ruby|摂政|せっしょう}}を置いている間は、「'''憲法を変更してはならない'''」を書かれています(第75条)。'''フランス憲法'''では、第89条第5項に、領土が{{Ruby|侵|おか}}されている(他国に{{Ruby|占領|せんりょう}}されている)場合は、「'''改正手続きに{{Ruby|着手|ちゃくしゅ}}<ref>{{Ruby|物事|ものごと}}に{{Ruby|取|と}}り{{Ruby|掛|か}}かること。ここでは、憲法改正を始めようとするという意味である。</ref>し、またこれを{{Ruby|追求|ついきゅう}}をすることはできない'''」と{{Ruby|規定|きてい}}されています。{{Ruby|戦時国際法|せんじこくさいほう}}<ref>戦争中の国同士の間に適用される{{Ruby|国際的|こくさいてき}}なルール。</ref>でも、「'''{{Ruby|占領軍|せんりょうぐん}}は現地の法を{{Ruby|尊重|そんちょう}}すべき'''」と規定しています。

このように、憲法は、強大な力を持つものですから、今や、国家権力以上に、その制定や改正に'''国民の自由意思'''が必要とされているのです。

世界の憲法や国際法は、'''改正(制定)の意思'''<ref>改正(制定)しようという意思のこと。</ref>・'''改正(制定)案の作成'''・'''改正(制定)案の{{Ruby|審議|しんぎ}}<ref>その改正案が良いものか、改善できる点はないかなどを{{Ruby|議論|ぎろん}}すること。</ref>'''・'''改正(制定)案への{{Ruby|投票|とうひょう}}'''<ref>日本国憲法では、改正案の投票には、国会での投票と国民投票がある。この両者を組み合わせることで、国民の自由意思が侵害されるのを防ごうとしている。</ref>など、おおよそすべての{{Ruby|過程|かてい}}で、ごくわずかであっても、国民の自由意思に基づかない部分が存在する憲法が制定されることを防ごうとしています。

憲法の{{Ruby|存在意義|そんざいいぎ}}とは、それほど重いものなのです。

このような歴史を踏まえながら、ここでは、日本の憲法を見ていきましょう。

[[File:日本の法の序列.svg|thumb|300px|'''法の構成'''  憲法を頂点として、上にあるほど、強い効力をもちます。強い下位にある法が、上位にある法に反することはできません。<br />なお、図中の「命令」とは、内閣がさだめる政令や、省庁がさだめる省令のことです。<br />なお、図では省いてあるが、(都道府県議会や市議会などの)地方公共団体が制定する「条例」(じょうれい)も、法律には逆らえない。もし図に「条例」を追加するなら、「条例」は「法律」よりも下のほうに書かれることになる。]]


== 参考: 「法」と「法律」のちがい ==
== 参考: 「法」と「法律」のちがい ==
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一方、「法」は国家や政府による強制力をともなう社会の規範のことをさします。そのため、「法律」よりも広い意味を持ちます。たとえば、憲法は「法律」に含めない説がある一方、「法」であることを否定することはありません。また、省令や政令、条例なども「法」に含まれます。
一方、「法」は国家や政府による強制力をともなう社会の規範のことをさします。そのため、「法律」よりも広い意味を持ちます。たとえば、憲法は「法律」に含めない説がある一方、「法」であることを否定することはありません。また、省令や政令、条例なども「法」に含まれます。


== 参考: 憲法の命令先の対象者 ==
== 日本国憲法の制定 ==
GHQ(占領軍)は、敗戦後、日本に対し、当時の大日本帝国憲法を改正するよう{{Ruby|命令|めいれい}}しました。新憲法の制定では、改正という方式をとりました。
* 憲法の命令の対象は国および政府、役所

憲法は、こまかいことを言うと、国や政府や役所に対する命令であり、日本国民には直接は命令をしていません。
日本側では、大日本帝国憲法の改正案を作りました。しかし、GHQ(占領軍)は、これでは不十分だとして独自の'''GHQ{{Ruby|草案|そうあん}}'''をつくり、これを審議するよう{{Ruby|指示|しじ}}しました<ref>当時、民間の案も示された。GHQ草案の一部にも{{Ruby|影響|えいきょう}}を与えたとされる。</ref>。
そもそも、もし憲法で、国民に「憲法にしたがえ。」という命令をすると、憲法の改正の議論が出来なくなってしまいます。

ただし、実質的には、憲法にもとづいた法律をとおして、国民にさまざまなことが強制されるので、まるで憲法が国民への命令のような役割を持っています。
帝国議会では、GHQ草案が審議され、一部に修正が加えられました。修正案の中には、GHQによって命令されて修正したものもありました。

そして、帝国議会では、憲法改正案が賛成多数で可決されました。

こうして、大日本帝国憲法を全面的に改正した'''日本国憲法'''は制定されました。


== 日本国憲法の三大原則 ==
== 日本国憲法の三大原則 ==
日本国憲法には条文が多くありますが、内容の原則として、'''国民主権'''(英訳:the sovereignty of the people)、平和主義(英訳:Pacifism)、基本的人権の尊重(英訳: respect for fundamental human rights)の3つが挙げられています。これは'''憲法の三大原則'''と呼ばれています。
日本国憲法には条文が多くありますが、内容の原則として、'''国民主権'''(英訳:the sovereignty of the people)、'''平和主義'''(英訳:Pacifism)、'''基本的人権の尊重'''(英訳: respect for fundamental human rights)の3つが挙げられています。これは'''憲法の三大原則'''と呼ばれています。


=== 国民主権 ===
=== 国民主権 ===
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全ての人間が生まれながら持っている基本的な権利、'''基本的人権'''(きほんてき じんけん、英:fundamental human rights ファンダメタル・ヒューマン・ライツ)、これを日本国憲法では保障して尊重しています。
全ての人間が生まれながら持っている基本的な権利、'''基本的人権'''(きほんてき じんけん、英:fundamental human rights ファンダメタル・ヒューマン・ライツ)、これを日本国憲法では保障して尊重しています。


日本国憲法
基本的人権には、下の権利があります。平等権びょうどうけん)自由権(じゆうけん)・社会権(しゃかいけん、英:Social rights)・参政権(さんせいけん、英:Suffrage サフリー)・裁判を受ける権利などです。これらは別のページにて説明します。

基本的人権には、{{Ruby|'''法の下の平等'''|ほのもとのびょうどう}}<ref>法の下の平等の原則を権利の一つと数えて{{Ruby|'''平等権'''|びょうどうけん}}という場合もある。法の下の平等と平等権の両者に明確な違いはないとされる。いずれにしても、基本的人権の尊重の大原則に、法の下の平等(平等権がある。</ref>を原則として、以下のような権利があります。'''自由権'''(じゆうけん)・'''社会権'''(しゃかいけん、英:Social rights)・'''参政権'''(さんせいけん、英:Suffrage サフリー)・'''裁判を受ける権利'''などです。これらは別のページにて説明します。


いくらこの社会が生き馬の目を抜く劇的な変遷を重ね厳しい世界だとしても、最低限の人間の法的権利は保証されるべきだろう。基本的人権を侵すような法律は憲法に背いている。
いくらこの社会が生き馬の目を抜く劇的な変遷を重ね厳しい世界だとしても、最低限の人間の法的権利は保証されるべきだろう。基本的人権を侵すような法律は憲法に背いている。
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=== 平和主義 ===
=== 平和主義 ===
日本国憲法では、戦争をおこさずに平和主義をまもろうとしています。憲法では、日本は戦力(せんりょく)や武力(ぶりょく)を持たないとしており、軍隊を持たないとしていますが、実際には日本国は<big>'''自衛隊'''</big>(じえいたい)が戦車などの兵器をもっています。
日本国憲法では、戦争をおこさずに平和主義をまもろうとしています。憲法では、日本は戦力(せんりょく)や武力(ぶりょく)を持たないとしており、軍隊を持たないとしていますが、実際には日本国は<big>'''自衛隊'''</big>(じえいたい)が戦車などの兵器をもっています。

憲法第9条では、第1項で侵略戦争から自衛戦争まで、おおよそ全ての戦争を放棄し、第2項でそれを遂行するために軍隊や戦力を持たず、侵略戦争から自衛戦争まで、全ての戦争に関わる'''国の交戦権'''を否認しています。政府は、自衛隊は国際法における自衛権を行使するために必要な「実力」であり、「戦力」ではないとのよくわからない見解を出しています。

これに対し、自衛隊も{{Ruby|放棄|ほうき}}するべきだという主張や、第1項で放棄したのは侵略戦争のみであり、第2項で「前項の目的を達するため」をある関係上、侵略戦争のための軍隊や戦力・国の交戦権を否認しているという主張などもあります。


==== 自衛隊と日米安保条約 ====
==== 自衛隊と日米安保条約 ====
自衛隊が存在していたり、自衛隊が兵器をもっていることは、憲法に矛盾しているような状態なので、批判的な意見や議論もあります。ですが、日本の第二次大戦後の政治では、今までのところ、国会議員の選挙で選ばれた政権が、自衛隊の保有を認める時代が、ずっと、つづいています。
自衛隊が存在していたり、自衛隊が兵器をもっていることは、政府の見解としては憲法に矛盾しているわけではないですが、憲法に矛盾しているような状態なので、批判的な意見や議論もあります。ですが、日本の第二次大戦後の政治では、政府の見解による解釈が取られ続けているため、今までのところ、国会議員の選挙で選ばれた政権が、自衛隊の保有を認める時代が、ずっと、つづいています。


{{clear}}
{{clear}}


=== 考えよう ===
・日本国憲法は何を大切にしているのだろう。ヒント→参政権と自由


== 国民の義務 ==
== 国民の義務 ==
142 行 222 行




さて、西暦2021年7月の時点では、まだ日本国憲法は一度も改正されていません。
さて、西暦2021年7月の時点では、まだ日本国憲法は一度も改正されていません。2023年6月時点でも、一度も変更されていません。日本国憲法も76年の歴史になります


* 国民投票法(こくみん とうひょうほう)
* 国民投票法(こくみん とうひょうほう)
160 行 240 行
:・国の歴史や伝統にふれた文を前文に書くか?(現在の日本国憲法では、あまり、ふれてない。)
:・国の歴史や伝統にふれた文を前文に書くか?(現在の日本国憲法では、あまり、ふれてない。)


ほかにも、いろいろと改正案はあります。
ほかにも、いろいろと改正案はあります。こうした憲法の変更をめぐる問題は、政治的対立が続いており、難しい問題です。


[[Category:中学校公民|にほんこくけんほうのけんそく]]
[[Category:中学校公民|にほんこくけんほうのけんそく]]

2023年6月10日 (土) 13:33時点における版

※(編集者の見解)課題を意識しながら読むと、内容の理解が進むと思います。

課題

国家はどのようにして生まれ、どのような役割を持っているのでしょうか。

国家権力はどのような役割を持ち、どのような危険をはらんでいているのでしょうか。

憲法の意義(いぎ)とは、どのようなものでしょうか。

日本国憲法の制定と原則について考えてみましょう。

国家の成立と役割

国家の成立

そもそも、国家は、どのように成立したのでしょうか。国家がなければ、憲法も、法律も存在せず、このページも存在していないような気がしませんか。

国家は、稲作などの農業の始まりとともに、農地の開拓(かいたく)治水(ちすい)など、集団となって解決すべき問題がいくつも生まれ、村程度の小さな集団から、国という大きな集団へと進化しました。その国では、指導者を置きました。

農業が始まると、つくった食料を奪いに来られることがあります。食料が奪われるのを防ぐためには、話し合って解決する、戦って勝つ、そもそも食料を作らないなどの方法があります。

話し合って解決するというのは、一番望ましい方法ですが、一番望ましい方法に限ってなかなかうまく行かないものです。食料を奪いに来るということは、相手は飢える寸前ですから、理性を失っているでしょう。そのような状態で話し合うこと自体、無理があるのかも知れません。

そもそも食料を作らなければ、自分が飢えてしまいます。結局、何のために食料を奪われないようにしているのかよくわからなくなります。

結局、戦って勝つという方法がとられることになりました。そのため、国では、軍事組織(ぐんじそしき)が作られました。軍事組織が作られ、国家が安定的に運営されるようになると、今度は豊作(ほうさく)を願い、神に(いの)りを(ささ)げるなどの宗教的行事(しゅうきょううてきぎょうじ)が行われるようになりました。

さらに、文字が発明されるとお、国家は、いつしか自分たちの歴史を残そうと、歴史を文書に残すようになりました。

国家は、対外防衛(ぼうえい)だけでなく、対内的に国内を統治(とうち)するという役割も担うようになりました。

国家の役割

国家の成立を振り返ると、防衛の必要性から国家が成立し、やがて発展してさまざまな役割が増えました。中でも、現在最も大事なものを挙げると、防衛(ぼうえい)社会環境の整備(しゃかいかんきょうのせいび)法秩序の維持(ほうちつじょのいじ)国民の自由と権利の保障(こくみんのじゆうとけんりのほしょう)の4つに分類することができます。

防衛(ぼうえい)は、国家の起源の一つでもあり、国家の大事な役割です。防衛は、私たち国民の自由(じゆう)安全(あんぜん)に直結します。外敵(がいてき)侵略(しんりゃく)された場合、その外敵が私たち国民の自由と安全を(おびや)かすことは容易(ようい)想像(そうぞう)できます。また、それを人質(ひとじち)としたり、あるいは武力で直接脅迫(ちょくせつきょうはく)して、国家の意思決定(いしけってい)[1]脅迫(きょうはく)で変えさせようとすることもあるでしょう。それが結果的に国民の自由と安全を侵害(しんがい)することも考えられます。そのため、国家は、外交交渉だけでなく、軍事組織(ぐんじそしき)をつくり、国家を防衛することで、国家の独立(どくりつ)を守り、国民の自由と安全を守る必要があります。

国家の防衛は、外敵から、国家の独立国民の自由と安全を守るという大事な役割です。

社会環境の整備(しゃかいかんきょうのせいび)は、今日では、国家の存続に必要不可欠(ひつようふかけつ)です。例えば、道路がなければ、私たちは移動することが(きわ)めて困難(こんなん)になります。(はし)がなければ、(およ)いで川を(わた)ることになります。通信回線がなければ、私たちはインターネットを利用することができません。社会環境の整備は、私たち国民の生活を支えているのです。

法秩序の維持(ほうちつじょのいじ)は、防衛と同様に私たち国民の自由と安全に直結します。悪人が居て、常に(おびやか)される危険(きけん)にさらされているのであれば、私たち国民の自由は守られているとはいえません。その悪人がもし、私たちに危害(きがい)を加えようものなら、国民の安全まで侵害されてしまいます。そのため、国家は、国家権力(こっかけんりょく)により、法秩序を維持する必要があります。法秩序の維持には、警察などの強制力(きょうせいりょく)も用いられます。

国民の自由と権利の保障(こくみんのじゆうとけんりのほしょう)は、防衛との関係が深いことでも知られます。国家の起源の一つは、防衛ですが、その防衛は、究極的(きゅうきょくてき)には私たち一人ひとりの自由と権利を防衛するという発想(はっそう)にあります。そのため、特に近代では、国民の自由と権利を保障(ほしょう)するという役割が国家の役割として、より重要度(じゅうようど)を増しています。

こうした役割を確実に果たすためには、指導者が出て、人々を納得させる必要があります。国家が、人々を納得させて何かをすることのが政治(せいじ)です。しかし、少数ながら、反対派がいます。それでも、納得していない人々を巻き込んでことを進めなければ、何もできません。そのため、国家には、強い強制力をもつ国家権力(こっかけんりょく)が与えられます。

国家権力の役割と憲法の成立

国家権力は、その強制力により、規則を確実に実行し、世の中の合理化を図る、国民の自由と安全を保護(ほご)するという役割を持っています。国家権力についてもっと詳しく知りたい方は、国家権力はなぜ必要かをご覧ください。

国家権力は、社会に必要なものですが、同時に、その強大(きょうだい)さから、ときの独裁者(どくさいしゃ)によって人々の自由を抑圧(よくあつ)するように悪用されることがありました。

それを防ぐために、多数決の原理によって政治を行う民主主義(みんしゅしゅぎ)、一定の自由と権利を保障する人権思想(じんけんしそう)、権力の過集中(かしゅうちゅう)を防ぐ三権分立(さんけんぶんりつ)などが生まれました。

しかし、こうしたものは、明文化(めいぶんか)され、守られるようにならなければ意味がありません。そこで、民主主義・人権思想・三権分立などを明文化し、国家権力に守るよう強制するのが憲法(けんぽう)です。憲法を制定し、それに基づいて政治を行うというのが立憲主義(りっけんしゅぎ)です。立憲主義について詳しく知りたい方は、立憲主義をご覧ください。

しかし、憲法もまた、守られなければ、意味がありません。そのため、憲法は、国の最高法規(さいこうほうき)であり、憲法に違反する法律は、ほとんどの国で無効とされます。

憲法には、法的拘束力(ほうてきこうそくりょく)があるものとしては、政府が守るべき規定と国民が守るべき規定があります。政府が守るべき規定は、憲法の規定の大半がそうであり、憲法は実質的に政府が守るべき規定を書いているといえます。そのため、憲法は政府を(しば)るものである、ともいわれます。

国民が守るべき規定は、例えば、納税の義務(のうぜいのぎむ)や、教育を受けさせる義務(きょういくをうけさせるぎむ)国防の義務(こくぼうのぎむ)(※日本にはない。)、兵役の義務(へいえきのぎむ)(※日本にはない。世界の中でも少数派(しょうすうは)。)などです[2]。政府が守るべき規定に比べれば、圧倒的(あっとうてき)少数ですが、少数なのは憲法の役割に()らせば当然です[3]。これ以外には、今では崩壊したソビエト社会主義共和国連邦(しゃかいしゅぎきょうわこくれんぽう)現存(げんぞん)する独裁国家(どくさいこっか)北朝鮮(きたちょうせん)などの共産主義国(きょうさんしゅぎこく)の憲法に、勤労の義務(きんろうのぎむ)が規定されています。

そして、憲法は、国民の自由意思(じゆういし)[4](もと)づいて制定されます。例えば、主権者(しゅけんしゃ)が不在の中で制定された憲法や、独裁者(どくさいしゃ)によって国民の自由意思を無視(むし)して制定された憲法などは成立しません。こうした憲法は、無効(むこう)とされます。無効ですから、当然、改正なども不可能です。

日本で言えば、大日本帝国憲法の第75条に当時の主権者とされた天皇が不在となる、摂政(せっしょう)を置いている間は、「憲法を変更してはならない」を書かれています(第75条)。フランス憲法では、第89条第5項に、領土が(おか)されている(他国に占領(せんりょう)されている)場合は、「改正手続きに着手(ちゃくしゅ)[5]し、またこれを追求(ついきゅう)をすることはできない」と規定(きてい)されています。戦時国際法(せんじこくさいほう)[6]でも、「占領軍(せんりょうぐん)は現地の法を尊重(そんちょう)すべき」と規定しています。

このように、憲法は、強大な力を持つものですから、今や、国家権力以上に、その制定や改正に国民の自由意思が必要とされているのです。

世界の憲法や国際法は、改正(制定)の意思[7]改正(制定)案の作成改正(制定)案の審議(しんぎ)[8]改正(制定)案への投票(とうひょう)[9]など、おおよそすべての過程(かてい)で、ごくわずかであっても、国民の自由意思に基づかない部分が存在する憲法が制定されることを防ごうとしています。

憲法の存在意義(そんざいいぎ)とは、それほど重いものなのです。

このような歴史を踏まえながら、ここでは、日本の憲法を見ていきましょう。

法の構成  憲法を頂点として、上にあるほど、強い効力をもちます。強い下位にある法が、上位にある法に反することはできません。
なお、図中の「命令」とは、内閣がさだめる政令や、省庁がさだめる省令のことです。
なお、図では省いてあるが、(都道府県議会や市議会などの)地方公共団体が制定する「条例」(じょうれい)も、法律には逆らえない。もし図に「条例」を追加するなら、「条例」は「法律」よりも下のほうに書かれることになる。

参考: 「法」と「法律」のちがい

(※ 一応、「法」と「法律」のちがいは、中学の範囲内です。いくつかの検定教科書で、欄外や巻末などで、「法」と「法律」のちがいについて、説明されています。)

一般に、「法律」とは、国会の制定した法のことを言います。(高校教科書の、山川出版社の政治経済の検定教科書では、こう定義している。実教出版の「経済活動と法」教科書でも、こう定義しています。)中学の社会科では、「法律」の意味は、国会で制定した法のうち、さらに憲法をのぞいた法だけを「法律」という場合もあります。

このように、「法律」という言葉に、憲法を含めるか含めないかは、場合によって、わかれます。そのため、国会で制定した法のうち、憲法を除いた法のことを、「通常の法律」などのように、言う場合もあります。(※ たとえば山川出版社の「現代社会」科目の教科書では、「通常の法律」という言い方をしている。)

一方、「法」は国家や政府による強制力をともなう社会の規範のことをさします。そのため、「法律」よりも広い意味を持ちます。たとえば、憲法は「法律」に含めない説がある一方、「法」であることを否定することはありません。また、省令や政令、条例なども「法」に含まれます。

日本国憲法の制定

GHQ(占領軍)は、敗戦後、日本に対し、当時の大日本帝国憲法を改正するよう命令(めいれい)しました。新憲法の制定では、改正という方式をとりました。

日本側では、大日本帝国憲法の改正案を作りました。しかし、GHQ(占領軍)は、これでは不十分だとして独自のGHQ草案(そうあん)をつくり、これを審議するよう指示(しじ)しました[10]

帝国議会では、GHQ草案が審議され、一部に修正が加えられました。修正案の中には、GHQによって命令されて修正したものもありました。

そして、帝国議会では、憲法改正案が賛成多数で可決されました。

こうして、大日本帝国憲法を全面的に改正した日本国憲法は制定されました。

日本国憲法の三大原則

日本国憲法には条文が多くありますが、内容の原則として、国民主権(英訳:the sovereignty of the people)、平和主義(英訳:Pacifism)、基本的人権の尊重(英訳: respect for fundamental human rights)の3つが挙げられています。これらは憲法の三大原則と呼ばれています。

国民主権

日本国憲法では、主権者は日本国民であると、明確に宣言されています。

日本国憲法の前文でも「ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。」と宣言されています。

政治の決め方は、国民からの選挙で選ばれた議員を代表者として、議員を通して議会で政治が決まります。なお、このように、議会を通して政治を決める方式を議会制民主主義(ぎかいせい みんしゅしゅぎ、Representative democracy リプリゼンティティブ・デモクラシー)と言い、また、間接民主制(かんせつ みんしゅせい)とも言います。

日本国憲法の議会のあり方では、大日本帝国憲法の時代と同様に、議会制が取られています。 日本国憲法では選挙権が与えられる対象が大日本帝国憲法の時代よりも拡張され、選挙権は国民であれば男女ともに18歳以上の大人に選挙権が平等に与えられます。

選挙で選ばれた議員が政治を決めるので、選挙権(英:voting rights)が大事な権利になります。また、政策を主張するには、そのための自由や権利が無くてはなりません。そのため、言論の自由や表現の自由が、大切な権利です。

このように、主権者が国民であるという方式や考え方などを「国民主権」(こくみんしゅけん)といいます。


また、日本では「司法・立法・行政」の三権分立(さんけん ぶんりつ)が取られていますが、司法でも、最高裁判所の長官は、国民による審査(しんさ)をうけます。

天皇について

アメリカ大使館でのマッカーサー(左側の人物)と昭和天皇(右側)(1945年9月27日フェレイス撮影3枚中の1枚)

日本国憲法では、明確に国民主権が明記され、天皇の主権が否定されました。大日本帝国憲法では主権者であった天皇は、日本国憲法では天皇は日本国のまとまりの象徴(しょうちょう)になりました。(もっとも、実際には大日本帝国憲法の時代でも、形式的には政治の主権は天皇にあったものの、実際の政治は議会の意向を優先で決めていた。)日本国憲法では、天皇は日本国の「象徴」(しょうちょう)と憲法第1条で規定されています(つまり日本は、いわゆる象徴天皇制(しょうちょう てんのうせい))。

なお、外国からは、天皇が日本の元首(げんしゅ、英:Head of State)と見なされることもあります。元首とは、国家の長(ちょう)のことです。

政治に関しては、天皇は、実際の政策の決定は行わず、また政策の決定をする権限も天皇は持っていません。天皇は、儀式(ぎしき)的な国の仕事である国事行為(こくじこうい)を行うとされています。また、その国事行為は、内閣(ないかく)の助言と証人にもとづくとされています。

天皇の国事行為には、次の行為があります。

・ まず、国会を招集したり、衆議院を解散する行為があります。ただし、国会で政策を天皇が決定することは出来ません。このように、天皇は政治の儀式的な仕事のみを行なっています。
・ 国会で決まった法律や政令や、内閣の決めた条約を公布することも、天皇の仕事です。天皇は法律そのものを決定する権限は行えません。立法の権限を持っているのは国会議員のみであり、天皇に立法の権限は、ありません。
・ 勲章(くんしょう)などの栄典(えいてん)を授与するのも、天皇の仕事です。
・ 外国の大使(たいし)や公使(こうし)を接待(せったい)するのも、天皇の仕事です。
・ 国会がえらんだ内閣総理大臣を、天皇は任命します。内閣がえらんだ最高裁判所の長官を、天皇は任命します。

基本的人権の尊重

全ての人間が生まれながら持っている基本的な権利、基本的人権(きほんてき じんけん、英:fundamental human rights ファンダメタル・ヒューマン・ライツ)、これを日本国憲法では保障して尊重しています。

日本国憲法

基本的人権には、法の下の平等(ほうのもとのびょうどう)[11]を原則として、以下のような権利があります。自由権(じゆうけん)・社会権(しゃかいけん、英:Social rights)・参政権(さんせいけん、英:Suffrage サフリー)・裁判を受ける権利などです。これらは別のページにて説明します。

いくらこの社会が生き馬の目を抜く劇的な変遷を重ね厳しい世界だとしても、最低限の人間の法的権利は保証されるべきだろう。基本的人権を侵すような法律は憲法に背いている。

公共の福祉

  • 公共の福祉(こうきょうのふくし)

憲法で定められた権利は、どうあつかっても良いのではなく、社会全体の利益をそこなわない範囲や、または他人の権利をそこなわない範囲(はんい)で、憲法の権利の活用がみとめられています。

このように、社会全体の利益や権利のことを、公共の福祉(こうきょうのふくし)と言います。

たとえば授業中に大声でさわいだりして他の生徒の勉強をじゃますることは、他の生徒の「教育を受ける権利」を侵害しているので、公共の福祉の考えによって、授業中に大声でさわぐ生徒を先生が叱っても(しかっても)、人権侵害にはなりません。

しかし、「公共の福祉」を理由にして、人権を侵害することは、ゆるされていません。

平和主義

日本国憲法では、戦争をおこさずに平和主義をまもろうとしています。憲法では、日本は戦力(せんりょく)や武力(ぶりょく)を持たないとしており、軍隊を持たないとしていますが、実際には日本国は自衛隊(じえいたい)が戦車などの兵器をもっています。

憲法第9条では、第1項で侵略戦争から自衛戦争まで、おおよそ全ての戦争を放棄し、第2項でそれを遂行するために軍隊や戦力を持たず、侵略戦争から自衛戦争まで、全ての戦争に関わる国の交戦権を否認しています。政府は、自衛隊は国際法における自衛権を行使するために必要な「実力」であり、「戦力」ではないとのよくわからない見解を出しています。

これに対し、自衛隊も放棄(ほうき)するべきだという主張や、第1項で放棄したのは侵略戦争のみであり、第2項で「前項の目的を達するため」をある関係上、侵略戦争のための軍隊や戦力・国の交戦権を否認しているという主張などもあります。

自衛隊と日米安保条約

自衛隊が存在していたり、自衛隊が兵器をもっていることは、政府の見解としては憲法に矛盾しているわけではないですが、憲法に矛盾しているような状態なので、批判的な意見や議論もあります。ですが、日本の第二次大戦後の政治では、政府の見解による解釈が取られ続けているため、今までのところ、国会議員の選挙で選ばれた政権が、自衛隊の保有を認める時代が、ずっと、つづいています。

考えよう

・日本国憲法は何を大切にしているのだろう。ヒント→参政権と自由

国民の義務

憲法には権利(けんり、英:right)だけでなく、国民の義務(ぎむ、英:obligation オブリゲイション)についても書かれています。

義務は、納税(のうぜい)の義務(第30条) 、 子供に教育を受けさせる義務(第26条) 、 勤労の義務(第27条) の3つの義務があります。

前文

日本国憲法の条文は長いので、この節では、すべては紹介できません。この節では、日本国憲法の冒頭に書かれている前文(ぜんぶん)を紹介します。
  • 前文

日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、

われらとわれらの子孫のために、

諸国民(しょこくみん)との協和(きょうわ)による成果と、わが国(くに)全土(ぜんど)にわたって自由のもたらす恵沢(けいたく)を確保し、

政府の行為によって再び戦争の惨禍(さんか)が起る(おこる)ことのないようにすることを決意し、

ここに主権が国民に存(ぞん)することを宣言(せんげん)し、

この憲法を確定する。

そもそも国政は、国民の厳粛(げんしゅく)な信託によるものであって、 その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使(こうし)し、その福利(ふくり)は国民がこれを享受(きょうじゅ)する。 これは人類普遍(じんるいふへん)の原理であり、この憲法は、かかる原理に基づく(もとづく)ものである。 われらは、これに反する一切の憲法、法令(ほうれい)及び(および)詔勅(しょうちょく)を排除する。

日本国民は、恒久(こうきゅう)の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高(すうこう)な理想を深く自覚するのであって、 平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。

われらは、平和を維持し、専制と隷従(れいじゅう)、圧迫(あっぱく)と偏狭(へんきょう)を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において、名誉ある地位を占めたい(しめたい)と思う。 われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏(けつぼう)から免れ(まぬかれ)、平和のうちに生存する権利を有する(ゆうする)ことを確認する。

われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであって、政治道徳の法則は、普遍的(ふへんてき)なものであり、この法則に従う(したがう)ことは、自国の主権を維持(いじ)し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務(せきむ)であると信ずる。

日本国民は、国家の名誉(めいよ)にかけ、全力をあげて この崇高(すうこう)な理想と目的を達成することを誓う(ちかう)。

(以上、前文)

憲法改正の手続き


憲法の改正は、通常の法律とは違う改正の手続きがありますが、改正そのものは日本国憲法でも可能です。 日本国憲法の条文にも改正の手続きが書いてあります。

憲法を安定させるため、改正の条件は、通常の法律よりも、きびしい条件になっています。 通常の法律の改正よりも、より多くの議員の賛成や国民の賛成が、憲法の改正では必要なようになっています。

憲法は最高法規なので、他の法律よりも安定させる必要があり、そのため日本では、きびしい改正の条件になっています。

まず、衆議院と参議院それぞれ両方の総議員の3分の2以上の国会での賛成によって、発議(はつぎ、意味:国会での提案のこと)されます。 この憲法改正の発議では、衆議院と参議院は対等です。

国会での発議ののち、国民投票にかけ、過半数の賛成があれば、憲法は改正されます。

これらの条件の一つでも満たさなければ、その発議での憲法改正は廃案になります。たとえば衆議院の3分の2以上の賛成が合っても参議院の3分の2が満たさなければ廃案です。衆参の3分の2以上を満たしても、国民投票の過半数の賛成に届かなければ廃案です。

以上の条件を満たし、もしも憲法改正が決まったら、天皇が国民の名で憲法改正を公布することになります。憲法改正の公布も、天皇の国事行為の一つです。


さて、西暦2021年7月の時点では、まだ日本国憲法は一度も改正されていません。2023年6月時点でも、一度も変更されていません。日本国憲法も76年の歴史になります。

  • 国民投票法(こくみん とうひょうほう)

2007年に、憲法改正のための国民投票の手続きを定めた法律の国民投票法(こくみん とうひょうほう)が制定され2010年に施行されました。 なお、国民投票法の正式名称は「日本国憲法の改正手続に関する法律」です。

なお、憲法改正には改正発議のあとの国民投票による「その過半数」(憲法 第96条)の賛成が必要ですが、しかし「その過半数」とは何の過半数なのかは憲法そのものには書かれていません。国民投票法では、有効投票の過半数によって憲法改正をできると制定しています。(※ 検定教科書では、帝国書院や教育出版の教科書で、本文では説明は無いがい、図表で「投票」の過半数だと説明されている。)

有権者の過半数ではなく、有効投票の過半数です。


憲法改正の論点

憲法の改正で、よく提案される改正案を上げます。

・自衛隊を確実に合憲にするため、憲法第9条を改正するかどうか?
・新しい人権として、知る権利 や プライバシー権 や 環境権 などを、憲法に追加するかどうか?
・国の歴史や伝統にふれた文を前文に書くか?(現在の日本国憲法では、あまり、ふれてない。)

ほかにも、いろいろと改正案はあります。こうした憲法の変更をめぐる問題は、政治的対立が続いており、難しい問題です。

  1. ^ 例えば、特定の国への外交方針(がいこうほうしん)や国内の法律など。
  2. ^ 国防の義務と兵役の義務が両方とも規定されている憲法は、めずらしい。
  3. ^ そもそも、義務は、法律でも規定できるので、(その義務が)存在しないと国家が成立しないものに限られる。
  4. ^ 誰からも制限(せいげん)されない、自由な意思のこと。
  5. ^ 物事(ものごと)()()かること。ここでは、憲法改正を始めようとするという意味である。
  6. ^ 戦争中の国同士の間に適用される国際的(こくさいてき)なルール。
  7. ^ 改正(制定)しようという意思のこと。
  8. ^ その改正案が良いものか、改善できる点はないかなどを議論(ぎろん)すること。
  9. ^ 日本国憲法では、改正案の投票には、国会での投票と国民投票がある。この両者を組み合わせることで、国民の自由意思が侵害されるのを防ごうとしている。
  10. ^ 当時、民間の案も示された。GHQ草案の一部にも影響(えいきょう)を与えたとされる。
  11. ^ 法の下の平等の原則を権利の一つと数えて平等権(びょうどうけん)という場合もある。法の下の平等と平等権の両者に明確な違いはないとされる。いずれにしても、基本的人権の尊重の大原則に、法の下の平等(平等権)がある。