量子力学

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量子論とは[編集]

量子論についてを説明する前に、量子論以前の物理学について簡単に触れておきます。量子論以前の物理学、すなわち古典論には大まかに、力学 (mechanics)、電磁気学 (electromagnetism)、統計力学 (statistical mechanics)、熱力学 (thermodynamics) があります。力学とは、物体の運動をその物体が運動する系の持つ運動量エネルギーによって説明する理論であり、物体の簡単な運動を出発点として惑星といった天体の動きなどをよく説明することができます。有名な相対性理論 (theory of relativity) は力学に属する理論であり、相対論以前の力学と電磁気学、および力学に含まれる重力理論を統合する過程で作られました。近代物理学における相対論以前の力学理論は、相対論と区別する意味で非相対論的力学 (non-relativistic mechanics)、あるいはその理論形成に大きく寄与したアイザック・ニュートンに因んでニュートン力学 (Newtonian mechanics) と呼ばれます。

一方で熱力学は、蒸気機関のような熱機関や、電池などで利用される化学反応、物体の間に生じる摩擦などで生じる力学的な仕事の収支を説明する理論です。力学では、物体の個別の運動についてを取り扱いますが、熱力学においては物体の運動の結果として与えられる系全体の性質が重視され、系を構成する個々の物体が持つ性質は粗視化されます(ただし、この粗視化という考え方はむしろ後述する統計力学から来る発想で、熱力学だけに限ればより現象論的な構成をすることができます)。粗視化の結果として、温度圧力エントロピー自由エネルギーといった普遍的な特徴量が現れます。 これらの熱力学的な性質は、力学の理論が正当性を持つ限り、力学に備わる何らかの普遍的な法則によって再現されると期待できます。この熱力学を力学によって再現する試みが統計力学です。統計力学は、力学的な現象を系の統計的な性質として読み替え、実現し得る力学的状態が持つ統計的特徴量のほとんどがそれらの期待値近傍に集中することで、力学的現象のある種の期待値として熱力学的な特徴量が与えられることを示す理論です。

上述の力学、統計力学、熱力学は、取り扱う系の大きさや複雑さ、詳細さによって、微視的 (microscopic) な理論と巨視的 (macroscopic) な理論とに分類され、最も小さな系を最も詳細に扱う力学は微視的な理論であり、逆に詳細には立ち入らずに巨大で複雑な系を扱う熱力学は巨視的な理論に分類されます。統計力学は微視的な理論と巨視的な理論の両者を結ぶ中間的な理論と言えます。

力学は(熱力学との整合性を問題としなければ)あらゆる尺度の現象に適用できるはずであり、実際に気体の振る舞いを分子の集団として説明する気体分子運動論や、花粉から出た微粒子が水分子の熱的運動によって揺り動かされるというブラウン運動の理論は、分子の運動のようなミクロな現象に対してさえも力学が説明能力を持っていることを示しています。しかしながら、より微細な構造、原子の構造や電子のような素粒子の振る舞いについて、力学は充分な説明を与えることができません。具体的には、分光学 (spectroscopy) によって知ることのできる原子の離散スペクトル (discrete spectrum) の存在や、元素周期律について力学から説明を与えることはできず、これらは量子論によってはじめて理論的な背景が与えられました。

このように量子論は古典力学の適用範囲の限界、特にミクロの世界における現象を理解する過程で発展した理論であり、古典力学に代わってミクロの物理学の基礎を担う学問です。では何故、古典力学が原子のようなミクロの領域では破綻してしまったのでしょうか。一つの説明としては、ミクロの世界で露わになる不確定性 (uncertainty) によってであると言えます。量子論においては、必ずしも複数の物理量が定まる状態を作ることはできず、たとえば物体の位置と運動量はいずれか一方が確定した状態しか作ることができません。運動量が決定できないことは物体の速度を決定できないことになるので、このことは、古典力学のように物体の運動を 1 つの曲線として描くことができないことを意味します。従って、量子論における物体の運動は連続的ではなく、ある場所からある場所への遷移として捉えられ、それは物体の運動量についても同様のことが言えます。ところで、このような不確定な位置と運動量の関係を理解するのに調度良い古典的な現象が存在します。それが、とりわけです。光はその波長によって様々な性質を示し、波長が短い場合には回折のような現象は顕わにならず、光を粒子的なものと見なすことができます。この光の粒子的な側面に注目したのが幾何光学であり、たとえば屈折の法則フェルマーの原理を用いることによっても説明することができます。この波と粒子の類似性が示唆するところは、光がどのような対象と相互作用するか、特に光の波長と粒子やスリットの大きさの関係によって、全く違った側面を示し得るということです。実際、粒子を 1 つの波束に置き換えれば、粒子の運動の不確定性は波束に含まれる波の波長と波数の幅と理解することができます。このような考えを推し進めれば、物体の運動の性質の一部分を粒子として、もう一部分を波として解釈する、物質波の概念に行き着くでしょう。

物質波の概念は光の粒子性に触発されて考え出されたアイデアですが、実際に原子や電子のような物質が波としての特徴を持つことは、電子線回折二重スリット実験(電子に対するヤングの実験)によって確認されています。一方、光の粒子性は実験的には、光の粒子性は光電効果コンプトン散乱によって確認されています。

波のような性質と粒子のような性質を併せ持っている「何か」を私たちは日常見かけることもありません。しかし、原子や分子、電子、素粒子は本当は身近にあるものですし、原子の大きさでの現象が見えてくる研究分野は物理学でも工学でも沢山あります。量子力学は原子や分子、電子、素粒子の振る舞いを記述するにはなくてはならない学問です。量子力学を学んだというためには、原子や分子、電子の振舞いのうち何が記述できて何が記述できないのかを知ること、そしてどういう形で記述するのかを知ること、が必要です。

量子力学には大きく分けて 3 つの等価な記述の仕方があります。最も有名で数学的にも親しみやすいものは、シュレーディンガー波動力学で、これは波動関数と呼ばれる関数をシュレーディンガー方程式と呼ばれる偏微分方程式の解として求める方法です。もう 1 つはハイゼンベルク行列力学で、物理量を行列として表し、その行列で表された物理量の時間的変化をハイゼンベルクの運動方程式によって記述する方法です。3 つ目はファインマンによる経路積分法で、始状態と終状態の 2 つの時刻における状態間の遷移を汎関数積分によって与える方法です。シュレーディンガーの方法は、回折や干渉、散乱といった問題に有効であり、ハイゼンベルクの方法は定常状態間の遷移則を記述する場合に便利であるなど、それぞれ特徴があります。

歴史的導入[編集]

量子論に関わる歴史的な事柄について整理しましょう(一般の物理学や自然科学の歴史については物理学自然科学を参照)。

1843年からジェームズ・プレスコット・ジュールらによって断続的に熱の仕事当量の測定が行われ、特に1849年に発表された実験結果は信頼できる測定と見なされ、熱力学におけるエネルギー保存の法則の実験的な基礎が確立されました。1850年から1865年にかけて、ルドルフ・クラウジウスによって熱力学の理論体系が作られ、熱力学の第一法則および第二法則が完全な形で示されました。1864年にジェームズ・クラーク・マクスウェルによって電磁気学が完成しました。同じ頃、ルートヴィッヒ・ボルツマンによって古典力学に基づいた統計力学に関する基礎的な仕事がなされ、1872年には有名なボルツマンの公式が示されました。1887年頃にはハインリッヒ・ヘルツによってマクスウェルの理論の正当性が実験的に示され、光が電磁波の一種であることが明らかとなりました。これらの19世紀における発見によって、古典物理学の理論的基礎が完成しました。19世紀においてはハインリッヒ・ヘルツによって発見された光電効果や、低温の物質に対するデュロン=プティの法則の破れについてそれらの原因は明らかではありませんでした。それでも何かしらの古典論的なメカニズムによってそれらの現象が説明できると素朴に思われていました。事情が異なりはじめたのは1900年12月のころ、マックス・プランク自身の導いた放射公式量子仮説 (quantum postulate) を導入することで再導出したことによると考えてよいでしょう。プランク自身によっては量子仮説の考えは発展させられず、古典論的解釈をするに留められましたが、1905年に示されたアルベルト・アインシュタイン光量子仮説 (light quantum hypothesis) や、1913年にニールス・ボーアによって示されたボーアの原子モデル (Bohr's atomic model) はその後の量子論の進展に大きく寄与しました。特に、ボーアの理論はアルノルト・ゾンマーフェルトによって発展され、角運動量の量子化とパウリの排他原理、そしてスピン角運動量の発見に繋がりました。アインシュタインの光量子仮説と特殊相対論から発展して、1924年にルイ・ド・ブロイ物質波の概念に到達し、それを発展させる形でエルヴィン・シュレーディンガーは1926年にシュレーディンガー方程式を導きました。一方、ボーアの定常状態を基礎に置く理論はヴェルナー・ハイゼンベルクによって発展され、1925年には行列形式の量子力学が完成しました。ハイゼンベルクの理論は物理量を非可換な行列に置き換えるもので、この物理量の非可換性によって、物理量は必ずしも同時決定可能ではなく、同時決定可能でない物理量の間にはそれらの交換関係によって決まる不確定性関係 (uncertainty relation) が生じることが次第に認識されるようになりました。物理量の非可換性はシュレーディンガーの理論においても同様に成り立ち、両者の理論は等価です(このことはシュレーディンガー自身よって最初に明らかにされました)。この不確定性は被測定系に対する測定器系の相互作用が量子力学において無視できないことを示しています。

ここで再び1900年代初頭に戻ると、その時期には既に分子や原子の存在が理論的に予想され、分子はいくつかの原子の組み合わせで出来ていて、また原子も何らかの素粒子の組み合わせで出来ていると考えられていました。アーネスト・ラザフォードの指示の下、ハンス・ガイガーアーネスト・マースデンらによって行われたアルファ粒子の散乱実験の結果を得て、ラザフォードはアルファ粒子の散乱モデルを考え、正の電荷を持つ小さな核が原子質量の大部分を担い、負の電荷を持つ電子原子核の周りを運動するというラザフォードの原子モデルを提案しました。この発表の後に原子核が正の電荷を持ち、電子が負の電荷を持つことが実験的に明らかにされ、また水素やヘリウムが持つ電子の個数がボーアによって実験的に推定されています。ラザフォードの原子モデルの提案により、元素周期表原子番号と原子核の電荷との関連性が追求されるようになり、このことはボーアの原子模型の発見のモチベーションの一つとなりました。

上述のラザフォードの原子モデルは、散乱実験の結果に支持されるものでしたが、理論的には 2 つの大きな難点を持っていました。 1 つは電磁力学的に非常に不安定なことです。運動する電子は電荷を持っているため周りの電磁場と相互作用をし、電子の運動に加速度が生じると、電子は電磁波を放出してそのエネルギーと運動量を失います。ラザフォードのモデルにこの電磁気学と力学の理論を適用するなら、電子は自身が持つエネルギーを次第に失って最終的に原子核へ衝突してしまうことになります(電磁気学III、および双極放射を参照)。この不安定性の問題はラザフォードのモデルに限ったものではなく、ラザフォードが原子モデルを得る以前からよく知られていましたが、ラザフォードの原子モデルの場合にはその不安定さが特に厳しく、明らかに現実的なものではありませんでした(ラザフォードのモデルにおいて電子が原子核にぶつかるまでの時間は 10−10 秒程度であり、現実の原子の寿命とは比較にならないほど短い時間であることが知られています)。

2つ目は運動の自由度の問題です。古典力学において、電子が取り得る運動エネルギーには連続的な自由度があり、エネルギー保存則の他には何の制約も加えられません(古典力学を参照)。したがって、適当なラザフォードの原子をいくつか取り出したとき、それらを構成する電子はそれぞれ勝手な速度で運動していることになります。 しかし、実験的には電子のエネルギーは離散的な定まった値しか取れないことが知られていました。これはある原子に対して電気的なエネルギーを与え、電子に より高いエネルギーを与えて、その際に電子が放射する光のエネルギーを測定することで行なわれました(実験の詳細についてはバルマー系列ライマン系列などを参照)。

実験によって得られる様々なスペクトルの系列について、いくつかの経験的な法則が与えられ、それらは最終的にヨハネス・リュードベリヴァルター・リッツによって一般的な法則にまとめられました。リュードベリ=リッツの結合原理として知られるその法則は、原子から放射される光の振動数 \nu について、ある正の整数の組 m, n と整数に対する関数 f(m),f(n) を用いて以下のような関係が成り立つことを示します。

\nu_{mn} = f(m) - f(n) > 0, \quad m < n.

この関係が結合原理と呼ばれることは、上の式を異なる振動数の間の関係に置き換えることで明らかとなります。

\nu_{mn} + \nu_{nl} = \nu_{ml}.

特に、水素原子のスペクトルについては振動数は、

\nu_{mn} = R\left(\frac{1}{m^2} - \frac{1}{n^2}\right)

という関係が成り立ち、このとき関数 f(n)

f(n) = \frac{R}{n^2}

という簡単な形になります。ここで比例係数 Rリュードベリ定数 (Rydberg constant) と呼ばれる物理定数です。光の振動数は、光が持つエネルギーと関係があり、プランク定数 h を用いることで、振動数の方程式はエネルギーに関する方程式に置き換えられます。アインシュタインの光量子仮説によれば、光子 1 つが持つエネルギーは

\varepsilon_{mn} = h\nu_{mn}

となるので、結合法則は

\varepsilon_{mn} = \varepsilon_{mk} + \varepsilon_{kn}

と書き直すことができます。原子に束縛された電子が高いエネルギー状態から低いエネルギー状態へ遷移する際に、電子が失うエネルギーに等しいエネルギーを持つ光子が 1 個だけ放出されることを仮定すれば、結合原理から関数 f(n) は、束縛電子が持つエネルギーに対応することが分かります。

\varepsilon_{mn} = hRf(m) - hRf(n) = E_n - E_m ~~\to~~ E_m = -hRf(m).

従って、水素原子核の周りを運動する束縛電子が持つエネルギーは、

E_n =- \frac{hR}{n^2}

と表されることになります。n は正の整数に限られるため、このことは原子核に束縛された電子が持ち得るエネルギーが離散的になることを示します。また、特に電子のエネルギーは最小値を持つため、古典力学的なラザフォード・モデルと異なり、この原子が安定に存在し得ることを示しています。

同様の関係は、古典論における振動の問題に見出すことができます。両端が固定された細い弦の振動、たとえばギターの弦やピアノ線のようなものの振動を考えると、弦の振動として安定に存在できるものは、弦の固定点に節をつくり弦の長さを等分割するような波長のものに限られます。弦の 2 つの固定点の間を結ぶ弦の長さを L とすれば、定常的に振動できる波長は

\lambda_n = \frac{2L}{n}, \quad n = 1,2,3,\dots,

であることが分かります。このとき、それぞれの振動モード n に対応する定常波が持つエネルギー分布もまた離散的になり 、n 倍振動の全エネルギー E_nn^2 に比例することが知られています[1]。後述する話題になりますが、量子力学でも「井戸型ポテンシャル」という境界条件を当たえられた場合のエネルギーは n^2 に比例します。このように、何らかの境界条件に束縛された電子のエネルギー状態について、ある種の境界条件に従う波動や振動との類似性を見出すことができます。

原子の束縛電子のエネルギーが離散的でなければならないことについて、大きく2つが考えられます。1つは先に述べたように古典的な波動の定常状態からの類推によって、何らかの場が作る波として解釈する方法で、もう1つの方法は、離散的な振る舞いを本質的なものとして受け入れ、可能な定常状態の系列とそれらの状態間の遷移則を主として扱う方法です。前者は初めに述べたように、シュレーディンガーの波動力学へと向かう考えで、後者はボーアやハイゼンベルクらが扱った前期量子論や行列力学へと向かう考えです。

  • 問題例
    • 問題

質量m、電荷eを持つ物体が電荷eをもつ物体のまわりを円運動している。このとき 物体の持つエネルギーを求めよ。ただし、この物体の持つ角運動量Jは、


J = \hbar n

(hはある定数。nは1以上の整数とする。)で表わされるとする。

    • 解答

物体の回りの円運動について物体間のクーロン力が物体の運動の向心力と なっていることを用いると、物体の速度v等を用いて、


m \frac {v^2} r = \frac 1 {4\pi\epsilon _0 } \cdot \frac {e^2} {r^2}

が成立する。ここで、上の条件


J = \hbar n = m rv

を用いてvを消去すると、


r = \frac {4\pi \epsilon _0 } {e^2} \cdot \frac {\hbar ^2 n^2} m

が得られる。ここで、上の式でn=1とおいたものはw:ボーア半径と呼ばれ、 原子の大きさを表わす典型的な量として知られている。 ここで、この系の力学的エネルギーEは


E = T+U= \frac 1 2 m v^2 - \frac 1{4\pi \epsilon _0 } \cdot \frac {e^2} r

で表わされるが、w:ビリアル定理によりこの場合については、


T = -\frac  1 2 U

が成り立つ。もちろん直接vとrの値を代入してもこの結果は正しい事が分かる。 このことを用いると、


E = \frac 1 2 U = \frac  1 2(- \frac 1{4\pi \epsilon _0 } \cdot \frac {e^2} r)

となるが、上で得たrの値を代入すると、


E = - \frac {e^4} {32 \pi^2 \epsilon _0^2} \cdot \frac m {\hbar ^2 n^2}

が得られる。この結果はちょうど原子のスペクトルによって示された 値と一致しており、大きな影響を与えた。

上で得られた通り、この模型は電子の運動の様子をよく記述していることが分かった。しかし、上で導入された整数nが何を現わしているかはこの時点では示されていなかった。

この模型で導入された整数の意味は別の計算から知られることとなった。シュレーディンガーやド・ブロイらは光の粒子性と波動性を通常の物質について適用することを考え、非相対論的な場合において、物質の運動を記述する波動の存在を明らかにした。この物質波によって、量子論における離散性は物質波が定常状態になることによって引き出されるという物理的解釈が与えられた。シュレーディンガーによって与えられた、非相対論的な物質波の運動方程式はシュレーディンガー方程式 (Schrödinger equation) と呼ばれる。またシュレーディンガー方程式の解として与えられる複素関数波動関数 (wave function) と呼ばれ、元々は物質の分布そのものを表すと考えられていたが、後に測定に関する系の統計的・情報理論的な性質を表すものと読み替えられるようになった。

量子力学以前の物理学の発展[編集]

電磁波は波動である

古典的な電磁気学は18世紀の終わりに、ファラデーやガウスが幾何学的な解析を行い、1864年にジェームズ・クラーク・マクスウェルが数学的形式として整理し導きました。電磁気学は、ニュートン力学よりもはるかに最近完成した学問です。マクスウェルの方程式は電磁波が波として伝播することを予想していますが、この予想に基づいて、ハインリヒ・ヘルツは有名な実験を行い、電磁波の伝送に成功しました。これが無線通信の始まりであり、後にマルコーニらによって無線通信が開拓されます。マクスウェルの方程式もやはり、工学的に成功した基礎方程式でした。量子力学以前の物理学では、このニュートンの運動方程式とマクスウェルの方程式によって世界が描かれていたのです。

しかし、この二つの基礎方程式に疑問を呈する観測事実が複数発見されます。これらの発見のいくつかが、実学的な研究におけるものだったことは興味深いことです。

  • 黒体放射の発見(キルヒホッフによる溶鉱炉の研究から)
  • 光電効果の発見(ヘルツによる無線通信の実験から)
  • 荷電粒子によって原子が構成されているという発見(原子モデルの議論)
  • 物質波の発見(光電効果におけるアインシュタインの考察に発想を得てド・ブロイが考案)

物理学者はいかにしてこれらの発見を説明しようとしたのか?説明の過程で何が古典力学と矛盾したのか?それこそが、量子力学の重要な概念を与えます。また、これらの取り組みを前期量子論と呼びます。早速シュレーディンガー方程式を解きたい初学者にとって、これらの概念は瑣末なことに思えるかもしれませんが、量子力学的な直感を作る上でこれらの概念が非常に大切であることをここで強調します。

後で登場するシュレーディンガー方程式はこれらの概念をまとめあげてできた微分方程式に過ぎないということがやがて分かるでしょう。それ以降の本書の内容は、そのシュレーディンガー方程式の数学的な扱い方と解釈になっています。初学者は、ニュートン力学、電磁気学、微分方程式、線形代数とを理解している必要がありますが、それ以上の高度な物理や数学が必要になることはありません。

黒体放射の理論[編集]

19世紀の製鉄の様子と、高炉の図(高炉は空洞放射と近似できる)

黒体とは、外部から入射する熱放射など(光・電磁波による)を、あらゆる波長に渡って完全に吸収し、また放出できる理想的な物体のことである。完全な意味での黒体(完全黒体)は現実には存在しないと言われているが、ブラックホールなど近似的にそうみなせる物質、物体もある。

十分に大きな空洞を考え、空洞を囲む壁は光を含む一切の電磁波を遮断するものとする。この空洞に、その大きさに対し十分に小さな孔を開ける。孔を開けることによる空洞内部の状態の変化は無視できるとする。外部からその孔を通して入った電磁波(ある特定の波長のものが光)が、空洞内部で反射するなどして再び出てくることは、孔が十分に小さければ無視することができる。つまりこの空洞は、外部から入射する電磁波を(ほぼ)完全に吸収する黒体とみなすことができる。

理想的な黒体放射を現実にもっとも再現するとされる空洞放射が温度のみに依存する、という法則はグスターブ・キルヒホッフにより1859年に発見された。実際には、キルヒホッフは鉄を精製するための高炉の研究を行っていた(右図)。以来、空洞放射のスペクトルを説明する理論が研究された。もちろん、当初は単に色から高炉内の温度をセンシングしたいというモチベーションではじまった研究であるが、19世紀も終わりに近づくと、電磁波がどのように伝達するのか、それが微視的にみればどのような現象に相当するのかという統計力学的な問題に発展した。最終的に1900年にマックス・プランクによりプランク分布が発見されたことで、その理論が完成された。

まず、1893年ウィーンによってウィーンの変位則が発見された。電磁波の放射エネルギーの測定を、ノーベル物理学者のウィーンがボロメータなどで測定して黒体からの輻射のピークの波長が温度に反比例するという法則を確かめた。

\lambda_\mathrm{max} = \frac{0.002898}{T}

ここでTは黒体の温度(K)、\lambda_\mbox{max} はピーク波長(m)、0.002898 が比例定数である。CGS単位系では 0.29 cm·K である。しかし、上式は波長が短い領域では実験と良く一致するが、波長が長くなればなるほど実験結果とズレが大きくなる。

ウィーンはドイツの国立・物理工学研究所(PTB)の研究員であった。光の波長そのものの測定は、回折格子などで測定できた。回折格子そのものの作成は、旋盤などで加工できた。ドイツはそのような機械加工の技術を持ってたからこそ、このような光学の測定が出来て、それが量子力学の発見へと、つながったのである。

一方、レイリー・ジーンズの法則が、レイリー卿によって1900年に最初に発表しされた。その後、1905年にジェームズ・ジーンズが係数に誤りがあることを指摘した。黒体から放射される電磁波のうち、波長が λ から λ+dλの間にある電磁波のエネルギー密度を f(λ)dλ とすると、レイリー・ジーンズの法則は、

 f(\lambda) = 8\pi k\frac{T}{\lambda^4}

と表される。ここで、Tは温度(K)、k はボルツマン定数である。

この式は、

  • 光は波(電磁波)である
  • 波の全てのモードに対してエネルギー等配分の法則が成り立つ

という2つの古典物理学的な仮定から導出される。しかし、上式は波長が長い領域では実験と良く一致するが、波長が短くなればなるほど実験結果とズレが大きくなる。また、放射の全エネルギー密度

\int_{0}^{\infty} f(\lambda)d\lambda

を計算しようとすると発散して無限大になってしまう。このことは、黒体放射の問題に対して古典物理学が破綻することを端的に示していた

レイリー・ジーンズの法則は、波長が短いときに実験結果と合わない。逆に、ヴィーンの法則は波長が短いときに実験と一致するが長波長領域では実験と合わない。そこで、1905年にマックス・プランクはこれら2つの公式を内挿する理論式として、プランクの公式

f(\lambda) = \frac{8\pi hc}{\lambda^5}~\frac{1}{e^\frac{hc}{\lambda kT}-1}

を得た。ここでhはプランク定数、c は光速度である。(波長λ=c/ν)この式は、波長の長い時、または高温の時レイリー・ジーンズの式に近づく。また、放射の全エネルギー密度も有限の値になる。

物理的に黒体放射をプランク分布で説明するためには、黒体が電磁波を放出する(電気双極子が振動する)ときの振動子の量子化を仮定する必要がある。つまり、振動子が持ちうるエネルギー (E) は振動数 (ν) の整数倍に比例しなければならない。

E = nhν (n = 0, 1, 2, ...)

この比例定数 h = 6.626×10-34 [J・s] は後に、プランク定数とよばれ物理学の基本定数となった。これは古典力学と反する仮定であった(古典力学では物理量は連続な値をとり、量子化されない)が、1905年にアルベルト・アインシュタインがこのプランクの量子化の仮定と、光子の概念を用いて光電効果を説明したことにより、この量子化の仮定に基づいた量子力学が築かれることとなった。

光電効果の理論[編集]

ハインリヒ・ヘルツはすでに述べた電磁波を発生させる実験の中で、紫外線を照射することで帯電した物体が電荷を容易に失う現象を発見しました。これは後に光電効果と呼ばれた現象です。


古典および量子統計力学[編集]

デュロン=プティの法則[編集]

NaCl のようなイオン結晶の内部エネルギーについて求める。まず分子一つ一つが独立に熱振動をしているとして、分子一個あたりの位置エネルギーUは

U=\frac{1}{2}k_x^2 + \frac{1}{2}k_y^2 + \frac{1}{2}k_z^2

となってx、y、zの3方向分の自由度3持っている。 このとき運動エネルギーKは

K=\frac{1}{2}mV_x^2 + \frac{1}{2}mV_y^2 + \frac{1}{2}mV_z^2

となってVx、Vy、Vzの3方向分の自由度3を持っている。 分子1個のエネルギーの合計は K+U であり、このとき自由度は6である。なぜなら x、y、z、Vx、Vy、Vz の合計で6変数によってエネルギーが決まるからである。 平衡状態では、エネルギー等分配側により、1つの自由度につき kT/2 のエネルギーが分配されるから、6つの自由度を持つ分子では、

6× kT/2 = 3kT

のエネルギーが分配されるはずである。結晶全体の分子の数が N ならば 、結晶全体のエネルギー E は

E= N×3kT = 3NkT =3nRT

となる。 このとき、モル比熱 C は、

C=3R

となる。これは常温での比熱の測定値に一致する。常温ではモル比熱はほぼ一定で

C=3R になる。この法則をデュロン=プティの法則という。

これによると、予想では温度によらず比熱は一定値を取ることになるが、しかし実験によると、予想とは違い、実験結果は低温では比熱の測定値は 0 に収束して、つまりデュロン=プティの法則からは外れている。

低温での固体の比熱[編集]

仮に低温ではエネルギーが離散化されるとする。また、仮に振動数がνの調和振動子のエネルギーは エネルギーは hν の整数倍 しか取れないとする。N個の原子からなる固体は振動数が全部共通で ν と仮定して、固体全部で 3N の自由度を持つ一次元調和振動子の集まりとする。

そうすると、断熱理想気体でも各分子のエネルギーが衝突などにより変動するように(気体全体の全エネルギーは一定)、固体の各振動子のエネルギーも 0、hν、2hν、3hν 、… という 飛び飛びの値を移り変わっているとする。 そして 3N 個の振動子のエネルギーの平均値は、仮に下記のように「ボルツマン因子を使って計算できるはず」だと仮定する。(※ ボルツマン因子について分からなければ、記事『高等学校化学Ⅱ/化学反応の速さ』の古典熱力学モデルでの説明(高校~大学初級レベル)を参照、または記事『統計力学I ミクロカノニカル集合』のスターリング公式を用いた統計力学モデルによる説明(大学中級~)を参照せよ。最終的に統計力学モデルを理解するのが望ましい。統計力学的には他にも、ラグランジュの未定乗数法を用いてボルツマン因子の導入を行う方法もある。)

1個の振動子がエネルギー nhν をとる確率を Pr とすれば、ボルツマン因子によって

exp(-βnhν) に比例するとする。
Pr(n) = exp(-βnhν )/ Σexp(-βjhν)

エネルギーの期待値 <ε> は、

<ε> = Σ{ nhν・Pr(n) }
= Σ{nhν・exp(-βnhν)/ Σexp(-βjhν)}
= (-Dβ)ln [Σexp(-βnhν)]

ここで、等比数列の和の公式

Σxk = 1 + x + x2 + x3 + …= 1/(1-x)

をもちいれば

<ε> = (-Dβ)ln[1/{1-exp(-βεhν)}]
=(Dβ)ln[1-exp(-βhν)] = hν/{exp(βhν)-1}

プランク分布[編集]

1/{exp(βhν)-1} をプランク分布という。

β>>1 のとき、つまり kT<<1 のときは、プランク分布は ボルツマン因子 exp(-βε) で近似できる。つまり、固体比熱に置いて、プランク分布は、ボルツマン分布を修正して一般化した、より正確な分布である。

結晶全体で自由度は 3N あるから 全体の内部エネルギー<E>は

<E>= 3N<ε>= 3Nhν/{exp(βhν)-1}

となる。分子1個あたりの比熱は、温度Tで微分をして

C = dE/dT
=3Nk{(hν/kT)^2}exp(βhν)/[{exp(βhν)-1}^2]

この結果は

高温(ε<<kT)では C → 3Nk=3nR
低温(ε<<kT)では C → 3Nk{(hν/kT)^2}exp(-βhν)→ 0

となって、高温ではデュロン=プティの法則と一致して、低温では実験値に高い精度で一致する。よって、プランク分布が正しかったことになる。


シュレーディンガー方程式の導入[編集]

ここからはある物理的な定数を持つことが量子力学的にどのような 意味を持つかについて考える。物理的な定数とは例えば、 ある物体の持つ位置や運動量のことである。 古典力学ではある物体の物理的な状態は位置、運動量などを指定することによって 得ることが出来、これらの間に特別な関係は無かった。これらはそれぞれの 値を適当に取ってもよい量であったのである。 量子力学的にもある物体の物理的状態を定める量は存在しており、そのような 量を定めることで物体がどのような状態にあるかを指定することが出来る。 問題なのは、ある場合においてこれらの間に特殊な関係があらわれ、 それらの量を任意に選ぶことが出来なくなることである。重要な例として、 ある物体の位置と運動量は同時に定めることが出来ない。

このことは、古典的には位置と運動量について、運動量が物体の位置を動かす微小変換に関する保存量になっていることによる。

このことについては解析力学のネーターの定理が詳しいので、詳細を知りたければ参照せよ。とりあえず量子力学においては、運動量はけっして単なる観念上の量ではなく、物質波の波長に関わる実在的な量である、という事が重要である。

古典物理の範囲でも、波の理論では、波長と位置とは、一つの波では、同時には決められない。なぜなら、パルス波のような境界のハッキリした波は、位置がハッキリしているが、このパルス波のようなギザギザした波形を、正弦波などの三角関数的な滑らかな波の重ねあわせで作るには、多くの種類の三角関数の重ねあわせが必要である。「うなり」を考えれば分かるだろう。波長の種類が多いほど、特定の一波長で代表させる事ができず、波長は不確定になる。

この事は、数学の「フーリエ変換」という理論によって、量子力学を使わないでも、厳密に計算で証明できる。

そして量子力学では、運動量によって波長が決まる。だから結局、「うなり」で位置と波長が同時に決められないのと同様に、量子力学でも位置と運動量が同時に決められない。

この記事では、位置と運動量が同時に定められないことを認めて、ある物理的状態を表わすために必要な物理量がどんなものであるかを考える。 ここではその様な量として各々の状態の持つエネルギーを取る。

ここで、解析力学の知識を援用して、ある物体の持つエネルギーEが古典的にハミルトニアンHという量で表わされることを用いる。


E = H

ここで、ある物理的な状態の全てが数え上げられたとしてこれらの状態全体で 張られるベクトルを取る。通常、ある物体が持つ物理的な状態は無数のエネルギーを 持ち、このような操作は不可能に思える。実際このことは量子力学の発展の 初期に大きな数学的な問題となった。しかし、現在ではベクトルの内積の取り方などを 工夫することで、この様な作業が実際可能であることが示されている。 詳しくはw:ヒルベルト空間などを参照。

このように全ての物理的状態が数え上げられたとするとき、それらの状態は あるエネルギーを持った状態として存在する。 例えば、ある状態\psi _1がエネルギーE _1を持っていたとする。 数学的にはこの様な状態はある行列\hat Hを用いて


\hat H \psi  _1 = E _1 \psi  _1

と表わせる。ここで、\hat Hは、全ての数え上げられた物理的な状態を 1つの基底として持つような行列として考えられている。更に\hat Hは、 それぞれの物理的状態に対して対角化されており、


\psi _1, \psi _2,\psi _3, \cdots

などの全ての物理的状態に対して対応するエネルギーE _1,E _2,E _3などを 返すものとする。

このような行列\hat Hは、実際にあるエネルギーを持つ状態としては、 古典的な考え方と変化することは無い。なぜなら、\hat Hは、古典的に考えて ある力学系の中に存在する物体が持つと考えられるエネルギー値を全て 持っているものと考えることが出来るからである。

このため、仮に全ての量子的状態がエネルギーという量だけで特定されるのならば、 ある力学系が取り得るエネルギーを全て定めることが量子的状態を 全て求めることになる。 ここまでの議論をより数学的な用語を用いてまとめると、出て来た量で \hat Hは全ての物理的な状態によって張られた行列であり 物理的な状態を表わす\psiは、\hat HがかかることによってE倍されるような ベクトルであるので、\hat Hの固有ベクトルであると考えられる。このとき エネルギーEは、固有値方程式


\hat H \psi =  E \psi

の固有値である。

ここまでのことで、それぞれの量子的状態はエネルギーというただ1つの量で 完全に区別されることを仮定して来た。実際にはこのことは必ずしも 正しくなく、ある2つの量子的状態が等しいエネルギーを持っていることがある。 この時には、各々の量子的状態は互いに区別することが出来ない。 しかし、ある状態が持っている量子数は通常エネルギーだけはなく、 位置、運動量や角運動量なども含まれている。このような量も用いて それらの量を区別することが出来る。このとき、エネルギーの場合と同様 位置x、運動量pなども量子的状態によって張られる「行列」のような物となることが予想される。(「作用素」ともいう。) ここでは、それぞれの行列について\hat x,\hat pなどを用いて 行列とそうでない量を区別する。

(*注意 行列でかかれる量をq-number,行列でかかれない量をc-numberと呼ぶことがある。)

ここまでで位置xと運動量pが行列でかかれることが分かった。

ここで、以前の主張である、量子論である物体の位置と運動量を同時に定めることが 出来ないということを用いる。エネルギーの時には、物体の物理量を 定めることは対応する物理量を表わす行列を対角化できることに 対応していた。このことを用いると、物体の2つの物理量を同時に定められないと いう主張は対応する2つの物理量を同時に対角化するような基底の張り替え方が 存在しないことに対応する。実際に数学的な計算をすることで


AB = BA

を満たす2つの行列A,Bについてはこれらを同時に対角化するような基底が 取れることが知られる。このことは位置と運動量を表わす行列について


\hat x \hat p \ne \hat p \hat x

が成り立つことを示している。ここで、この結果をまとめるために、 ある2つの行列A,Bに対してそれらの交換子[A,B]を、


[A,B] = AB - BA

で定義する。性質


[A,B] = - [B,A]

に注意。このとき、この記号を用いると位置と運動量に関して


[\hat x, \hat p] \ne 0

が成り立つ。実際には実験的にも\hat x\hat pの交換子に関して


[\hat x, \hat p] = i \hbar

が成り立つことが知られている。ここで、\hbarは、w:プランク定数と呼ばれ 単位は[J\cdot s]で与えられる。ここでプランク定数はきわめて小さい数であり、 xやpがある程度大きい量を持つような運動については上の方程式の右辺は 0と等しいものとして扱ってよく、このときにはxとpは交換可能であり、 2つの量を同時に定めることが出来る。このことは古典力学では2つの量を 同時に定めることが可能であることに対応しており、上のようなx,pの交換関係が 古典力学とよく適合していることが分かる。

ここまでで量子的な状態\psi


\hat H \psi = E \psi

の固有方程式で与えられることが分かり、xとpには


[\hat x, \hat p] = i \hbar

の交換関係が存在することが分かった。実際にはxとpについて上のような交換関係を 満たすような行列を用意することはしばしば困難である。この困難に対応する

数学的手法として、ヒルベルト空間の1つとしてw:関数空間が存在することが あげられる。関数空間とはある変数に関する関数をベクトルとして取る手法である。 このとき、ベクトルの和は関数の和で表わされ、ベクトルの内積は適当な 範囲での関数の積分を用いる。詳しくはw:関数空間を参照。

このような仕方で行列とベクトルを取るとき、固有状態である\psiはある変数の 関数となり、それにかかる\hat x,\hat p,\hat Hなどの行列は その関数にかかるオペレーターとして表わされる。オペレーターの取り方は 元の関数にある関数をかけたり、元の関数を微分したりと様々だが、 上の交換関係を満たすような方法は、例えば、 xについて


\hat x \rightarrow x

のかけ算を対応させ、pに対して、


\hat p \rightarrow -i\hbar \frac{\partial{{}}}{\partial{{x}}}

を対応させることがあげられる。一方、 pについて


\hat p \rightarrow p

のかけ算を対応させ、xに対して、


\hat x \rightarrow -i\hbar \frac{\partial{{}}}{\partial{{x}}}

としても同様の結果が得られることが知られており、 xとpが互いに入れ換え可能であるという解析力学の結果に適合している。

仮に自由に動く質量mの粒子を考えたとき


H = \frac {p^2} {2m}

に対して


\hat H = -\frac {\hbar ^2}{2m} \frac {\partial ^2}{\partial x ^2}

が対応することが分かる。このとき上の固有方程式は


-\frac {\hbar ^2}{2m} \frac {\partial ^2}{\partial x ^2} \psi (x) = E \psi (x)

となり\psi (x)に関する2階微分方程式になる。ここでいうEのように 未知数が含まれている形の微分方程式を特に固有関数方程式と呼ぶことがある。

ここまでで、量子的な状態を計算する手法が1つ得られた。まず、ある古典的な ハミルトニアンを選び、それに対して


p \rightarrow -i \hbar \frac{\partial{{}}}{\partial{{x}}}

の置き換えをする。これについて


\hat H \psi = E \psi

の微分方程式を解き、対応する微分方程式を解くことで、量子的状態が計算される。

ここで、最後の固有値方程式を時間に依存しないシュレーディンガー方程式 (time-independent Schrödinger equation) と呼ぶ。 後に量子力学における時間発展の方程式も扱うが、この名称はそれと比較しての ことである。

  • 問題例
    • 問題

1次元の系で質量mの物体が、0<x<aで、


V(x) = 0

を満たし、x<0,a<xで、


V(x) = \infty

を満たすとする。このときシュレーディンガー方程式を解いて、この系に対する 波動関数を求めよ。

    • 解答

後に波動関数が0で無い地点では、物体が見つかる可能性があることを解説する。 ここで、


V(x) = \infty

の地点で粒子が見つかってしまうと、その地点で粒子は無限に大きいエネルギーを 持っていることになってしまうが、無限のエネルギーというようなことは 考えづらいので、ここでは、x<0,a<xで波動関数\psiは、0となることにする。 また、量子論でよく用いられる関数空間の要請により、波動関数は連続であることが 必要となる。そのため、


\psi (0) = \psi(a) = 0

が必要となる。さて、このときのシュレーディンガー方程式は0<x<aで、 V(x)=0より、


-\frac {\hbar ^2}{2m} \frac {\partial ^2}{\partial x ^2} \psi (x) = E \psi (x)

\frac {\partial ^2}{\partial x ^2} \psi (x) = -\frac {2mE}{\hbar ^2}  \psi (x)

となることが分かるが、これを満たす\psi(x)


\psi(x) = A\sin (kx ) + B\cos (kx)

で与えられることが分かる。ただし、A,Bは任意の定数であり、


k = \sqrt { \frac {2mE}{\hbar ^2} }

とする。更に、


\psi (0) = \psi(a) = 0

を用いると、


\psi (0) =  B  = 0

よりB = 0が分かり、


\psi (a) = A\sin (ka) = 0

より、nを任意の整数として、


ka = n\pi

が得られる。よって、それぞれの整数nに対して波動関数\psi _n(x)


\psi  _n (x) = A \sin (k _n x)

で与えられる。ただし、


k _n = \frac {\pi n} a

である。また、上で波動関数の前の任意定数をそのままにしたが、これは関数空間では 関数そのものがベクトルであり、それの定数倍はベクトルの性質を変えないことから そのままに残したものである。ただし、後に分かる通り、波動関数の規格化を 考えると、この定数は1通りに決まることが示される。

更に、この系において粒子が持つことが出来るエネルギーE _nも、


k _n = \sqrt { \frac {2mE _n}{\hbar ^2} }

を解くことで得ることが出来る。答えは、


E _n = \frac {\hbar ^2}{2m} k _n^2

= \frac {\hbar ^2}{2m} \{ \frac {\pi n} a \}^2

= \frac {\hbar ^2}{2m} \frac {\pi^2 n^2} {a^2}

となり、ある整数nに対して


n^2

に比例するエネルギーを持つようになる。このように量子的な系が取り得る エネルギーのことをエネルギー準位と呼ぶことがある。

波動関数の性質[編集]

上で波動関数を計算する方法を得た。ここでは、波動関数の性質について考える。 上ではある量子論的な状態をベクトルと見て、ある量子力学の演算子を それらによって張られた行列として扱った。 ここでは一般的にある量子論的な状態を、それらを代表する量子論的な量iを用いて


|i>

と書く。後に述べられる通り、この記法はブラケット記法と呼ばれ、 元はw:ディラックによるものである。 ここで、量子論的な状態を定めるiのような量をその状態の量子数と呼ぶ。 例えば、無限大のポテンシャルによって束縛されている粒子では整数nが量子数 となっている。一般には量子数は整数のような離散的な量である場合も 任意の実数で与えられる連続的な量であることもある。

ここで、ある状態|i>と、それと異なる状態|j>を取る。ただし、これらの状態は ハミルトニアン演算子の、互いに異なった固有値を持つ固有ベクトルであるとする。 ここで、ハミルトニアンの固有値は必ず実数でなければならないことが分かる。 なぜなら、そうでないときにはエネルギーが虚数になるような量子論的状態が 存在することになってしまうからである。一般に、複素数の行列要素を持っており、 しかもその固有値が実数になる行列の種類として、エルミート行列があげられる。

エルミート行列については物理数学Iを参照。 ここでは、ハミルトニアンはエルミート行列で与えられるものとする。一般に 量子論の演算子は通常エルミート演算子である。

更に、あるエルミート行列に対してその行列は必ず対角化され、その固有ベクトルは 互いに直交することが知られている。この結果を用いると、 エルミート演算子であるハミルトニアンの固有ベクトルである|i>|j>は、 互いに直交することが知られる。更に、それぞれの状態の長さを適切に 変更することで、任意の状態|i>,|j>についてこれらの内積を\delta _{ij}と することが出来る。\delta _{ij}については、物理数学Iを参照。 ここで、状態の長さを調整することを量子状態の規格化と呼ぶ。 ただし、慣習的に状態|i>,|j>の内積は<i|j>のように書くことが多い。 この記法を用いると、任意の|i>,|j>に対して、


<i|j> = \delta={ij}

が成り立つ。ここで、ある状態|i>とそれに対応する波動関数f(x)の関係を、


f(x) = <x|i>

で取る。ここで、|x>は対応する粒子がちょうどxで表わされる点にある 状態である。この記法は、関数空間の内積の定義と、上で述べた量子論的状態の内積の 定義を整合的にすることが分かる。 このことを述べるためにまず、関数空間の内積について説明する。 ここでは、一般的に波動関数がある複素関数であるとして考える。 関数空間の性質によるとある元f(x),g(x)を関数空間の元としたとき ある積分\intが存在して、


\int f^* (x) g(x) dx

を元f(x),g(x)の内積と呼ぶ。ここで、xについての積分の範囲は、 -\infty <x<\inftyとする。ただし、無限大のポテンシャルがある場合のように、 波動関数が0となる範囲については積分しなくてもよい。このときには積分範囲は より狭い範囲になるのである。ここで、上の記法を用いると


\int f^* (x)  g(x) dx = \int dx <i|x><x|j>

= <i|j> = \delta _{ij}

となる。ここで、


\int dx <i|x><x|j>

についてはまず、 <i|x><x|j> は、任意のxについてもともと|j>の状態にあった粒子が、 xで表わされる点を通過して|i>の状態に変化することを表わしている。 ここで、上では全てのxについてその結果を足し合わせているので、 結局、その結果は、|j>の状態にあった粒子が、 |i>の状態に変化すること方法の全てをつくしていると考えるのである。上で得た


\int |x><x| = 1

のような表式はベクトルの完全性と呼ばれ、このあと頻繁にでてくる性質である。 特に、エルミート演算子に対しては対応する固有ベクトルが完全性の要請を 満たすことが知られており、あるエルミート演算子の固有ベクトル|i>に対して、


\Sigma _i |i><i| = 1

が知られている。しかし、特に対応するベクトルが無限個あるときにはこの性質の 数学的な証明は難しい場合が多い。

さて、上のことから分かる通り、


\int f^* (x)  g(x) dx =  <i|j> = \delta _{ij}

となって、量子論的ベクトルの正規化と対応させるために、 波動関数の長さも、1つに定める必要があることが分かる。この条件は 全ての波動関数\psi(x)に対して、


\int |\psi(x)|^2 dx =1

とすることで満たされる。このことを波動関数の正規化と呼ぶ。

ここまでで粒子がどの状態にいるのかを指定する方法が分かった。 それぞれのエネルギーの固有状態は|i>などの表示で表わされ、 それらの量はどれも対応する波動関数を持つのである。ただし、これらの量は どれも正規化されていなければならない。 次に粒子がある状態にいるときに、粒子が実際にどの位置にいるのかを 知る方法を考える。ここでいう位置とは古典的な座標の意味であり、 あるエネルギー固有値を持った状態にいる粒子が古典的に見たときには どの位置で発見されるのかという意味である。仮に対応するエネルギーの固有状態が 偶然位置の演算子に対しても固有ベクトルとなっていたとすると、その状態は 位置の演算子に対してただ1つの値を持つため、その状態にある粒子が発見される 位置は決定している。一方、仮に対応するエネルギーの固有状態が 位置の演算子に対して固有ベクトルとなっていなかったとすると、 そのときにその粒子は様々な位置で発見されるように思える。 実際実験的な結果はそのとおりであり、ある位置の固有状態でない状態にあるとき その物体は位置の演算子が値を取り得る位置全体で見つかる確率がある。 そして、実際にどの位置にあるかは実際に観測をしてみるまでは、 知ることが出来ないのである。このことは全く不思議な結果であるが、 例えば量子論的なヤングの実験などにおいてこの結果は確かに確認 されているのである。

ここで、あるエネルギーの固有状態|i>からある位置に発見されてその位置に あることが確定している状態に移行する過程は、対応する位置をxとすると、


<x|i>

で与えられることが予想される。しかし、この値はちょうどある固有状態に 対応する波動関数f(x)であった。


<x|i> = f(x)

このことから、波動関数f(x)は対応するエネルギーの固有状態にある粒子が ある場所xに発見される位置に見つかる過程について関係していることがわかる。 実際には更に、この量の絶対値を2乗した量が、ちょうどこの対応する状態に ある粒子がその位置に見つかる確率となっているのである。


P(x) = |f(x)|^2

しかし、この量はちょうど


\int dx |f(x)|^2 = P(x) =1

として、波動関数の正規化を行なった量に対応するが、このことはP(x)を確率を 表わす量として扱うための条件とも適合しているのである。

  • 問題例
    • 問題

波動関数f(x)が、


f(x) = \frac 1 {{}^4\sqrt \pi} e^{-x^2/2 }

で与えられるとする。このとき、ある点xで粒子が発見される確率を計算せよ。 また、この波動関数が正しく正規化されていることを示せ。

    • 解答

ある点xで粒子が発見される確率P(x)について、


P(x) = |f(x)|^2

が成り立つことを用いればよい。よって、


P(x) = |f(x)|^2
=\frac 1 {\sqrt \pi} e^{-x^2 }

が得られる。更に、ガウス積分を用いて


\int  _{-\infty }^{\infty} e^{-x^2} = \sqrt \pi

を用いると、


\int dx P(x) = 1

が得られ、正しい正規化がなされていることが分かる。ガウス積分については 物理数学Iを参照。

実際にはある状態|a>からある状態|b>に移行する確率が


|<b|a>|^2

で与えられることはあるエネルギーの固有状態がある位置に移行する場合だけに とどまらず、より広い場合にあてはまる。特に上の場合について


<b|a>

をaからbへの確率振幅と呼ぶ。波動関数は対応するエネルギーの固有状態から ある位置で表わされる状態への確率振幅といえる。

  • 問題例
    • 問題

互いに直交する状態|1>,|2>,|3>がある。 このとき、 (I) |1> (II)


\frac 1 {\sqrt 2} (|1>+|2>)

(III)


\frac 1 {\sqrt 3} (|1>+|2>+|3>)

(IV) |2> で与えられる量子状態と状態|1>との確率振幅を求めよ。それぞれの状態が 正しく正規化されていることを示せ。

    • 解答

与えられた状態と|1>との内積を取ればよい。それぞれの1,2,3で表わされる それぞれの状態は互いに直交していることに注意せよ。 正規化されていることを 調べるにはそれぞれの状態の大きさが1となっていることを調べればよい。

(I) 確率振幅は


<1|1> = 1

となり、正規化も


<1|1> = 1

となり正しいことが分かる。 (II)


<1|\frac 1 {\sqrt 2}  (|1> +|2>)

= \frac 1 {\sqrt 2} (1+0) = \frac 1 {\sqrt 2}

となる。正規化については


\frac 1 {\sqrt 2}  (<1| +<2|) \frac 1 {\sqrt 2}  (|1> +|2>)

= \frac 1 2 (1 + 0 + 0 +1) = 1

となり正しいことが分かる。 (III)


<1|\frac 1 {\sqrt 3}  (|1> +|2>+|3>)

= \frac 1 {\sqrt 3} (1+0+0) = \frac 1 {\sqrt 3}

となる。正規化については


\frac 1 {\sqrt 3}  (<1| +<2|+<3|) \frac 1 {\sqrt 3}  (|1> +|2>+|3>)

= \frac 1 3 (1 + 0 + 0 +0+1+0 +0+0+1) = 1

となり正しいことが分かる。 (IV) 確率振幅は


<1|2> = 0

となる。正規化は


<2|2> = 1

となって正しいことが分かる。


ここで、あるエネルギーの固有状態|i>と、対応する波動関数f(x)に対して


<i|x|i> = \int dx x |f(x)|^2

がどのような意味を持つかを考える。ここで、 |f(x)|^2が、対応する粒子がxで見つかる確率を表わしていることを考えると、 上の式はxの期待値を表わす式そのものである。そのため、 <i|x|i>のようなx演算子の対角成分は、対応する状態に粒子が存在するときの 粒子が見つかる位置の期待値となることが分かる。一方、位置演算子の非対角成分は それほど簡単な解釈は持っていない。ただし、これらの量は量子力学的な 摂動などでよく使われる。詳しくは量子力学IIを参照。

時間に依存するシュレーディンガー方程式[編集]

実際の物理的な系は常に時間に依存して変化する。このため、量子的な状態も 何らかの仕方で時間依存性を持つ必要がある。ここで、量子論的な系の 時間依存性を考える前に、特殊相対論において、 時間と空間を統一的に扱う方法を得たことを思いだす。 上の議論で空間方向の成分に対しては


\vec p _i \rightarrow 
-i \hbar \frac{\partial{{}}}{\partial{{x _i}}}

(ただし、i=1,2,3。) のような置き換えをしたことを考え、エネルギーと時間方向に同じ様な関係が あることを考えると、上の置き換えに対応して


E \rightarrow 
i \hbar \frac{\partial{{}}}{\partial{t}}

のような置き換えが出来ることが予想される。一方、量子論的な系では 特殊相対論的な考え方が適用できるのかということは疑問が残る。 例えば、量子論ではある物体が存在する位置は観測をする前に原理的に知ることが できず、観測をした瞬間に物体の位置が決定することが知られている。 しかし、ある一瞬で物体の位置が決定されるのなら、その瞬間にその物体は もともと物体があった場所から非常に速い速度で移動しているように思え、 その速度は光速を超えてしまうように思える。 この様な事情を考えると、特殊相対論量子力学をお互いに適合させる ことは非常に困難に思え、上のような置き換えをする理由は定かでないように思える。 しかし、実際にはこの様な困難を乗り越えて上の2つを適合させる方法は 既に知られており、その結果を用いるなら確かに上の置き換えは正しい結果を 与えることが知られるのである。詳しくは場の量子論を参照。

上の置き換えを古典的な方程式


E = H

に対して用いるなら、量子論的な方程式は


i \hbar \frac{\partial{{}}}{\partial{t}} = \hat H

のようになる。ここでは、一般に系の量子状態を張るベクトルを\Psiと書いて、 上の方程式を、


i \hbar \frac{\partial{{}}}{\partial{t}} \Psi = \hat H \Psi

と書き換える。仮に\Psiが、エネルギーEを持つハミルトニアンの固有状態だった とする。このとき、上の方程式は


i \hbar \frac{\partial{{}}}{\partial{t}} \Psi = E \Psi

となり、この式は通常の方法で解くことが出来る。仮にt=0で、


\Psi (t=0) = \psi

が成り立つとすると、上の式の解は


\Psi (t) = e^{-i E t/ \hbar } \psi

となる。このことによって、ある時刻t _0において、あるハミルトニアンの 固有状態で張られる状態にいた物体が時間的にどの状態に変化するかが 分かったことになる。一方、ハミルトニアンの固有状態は時間に依存しない シュレーディンガー方程式によって計算されることから、 どの状態がどのような時間発展をするかは時間に依存しないシュレーディンガー 方程式を解くことによって求められることが分かる。

また、時間に依存するシュレーディンガー方程式と、時間に依存しないシュレーディンガー 方程式は互いに関連している。 仮に、ある状態\Psi(t)の時間発展がある定数Eを用いて、


\Psi(t) = \psi \cdot e^{-i E t/\hbar }

で書かれたとする。この時この\Psi(t)を時間に依存するシュレーディンガー方程式に 代入すると、結果は、


E \psi = \hat H \psi

となり、時間に依存しないシュレーディンガー方程式に等しくなる。

1次元調和振動子[編集]

水素原子模型でのシュレーディンガー方程式の解法[編集]

{{stub} シュレーディンガーの方程式を球座標に変換する必要がある。あとは、方程式を解くだけである。文章で書くと短いが、実際の計算が、なかなか複雑である。 直交座標用の波動方程式の微分方程式を、球座標用に座標変換すると、特殊関数のルシャンドル関数が導かれる。

量子力学でも、シュレーディンガー方程式を球座標に変換する際、座標変換するときに、類似の計算をする。したがって水素原子模型のシュレーディンガー方程式を解く際に、特殊関数のルジャンドル関数を用いる。

量子力学の専門書には、変数分離法とか級数展開法とかをどうこうと書いてあるだろうが、もともとルジャンドル氏などが彼らの関数を導いたときに用いた計算法と同じ事を行っているに過ぎない。計算の本質は、直交座標用の微分方程式を、球座標での微分方程式に変換することである。その微分方程式の球座標への変換の際や、変換後の方程式を解く際に、変数分離や級数展開などが必要になるというだけに過ぎない。

まず、このルシャンドル関数の幾何学的な意味を説明しよう。まず、球座標に座標変換して波動方程式(ここでは古典力学の波動方程式)を導くと必然的にルジャンドル関数が出てくる。

この式を物理学用に導くとき、式中の変数の半径r や角度θ など球座標に由来する変数を、けっして x や y などに直さず、そのまま r や θ の状態で用いる必要が、物理学の場合ではある。数学の教科書では、これらの変数が x や y などに直されている場合が多いので、読者は適宜、物理学用の本を参考にせよ。

学生の勉強では、いきなり3次元の球座標に波動方程式を変換すると難しいので、まず2次元の円柱座標に、波動方程式を変換する方法を勉強するべきである。特殊関数の専門書を見れば、このような計算が載っているだろう。なぜなら2次元の波動方程式を円柱座標に変換した場合は、特殊関数のベッセル関数が導出される。 そもそもベッセル氏は天文学者であり、惑星の二次元的な運動の力学の解析を行いたくて、このようなベッセル関数を発見した。

そして、ともかく、境界条件が微分方程式を解く際に必要になってくる。球座標に変換したシュレーディンガー式に、角度の周期的境界条件などを入れると(角度は一周すると元に戻るという条件)、水素原子のシュレーディンガー式が解けるようになり、なんと大学化学で習う「主量子数」、「方位量子数」などの「量子数」などが導出される。

このように「量子数」は数学的にシュレーディンガー式から導ける。ただしスピンは、シュレーディンガー式からは導けない。スピンを導くには「ディラックの方程式」が必要になり、入門の範囲を超えるので説明を省略する。

1次元井戸型ポテンシャル[編集]

1次元井戸型ポテンシャル

\begin{cases}
 V(x)=\infty(-\infty<x<0)\\
 V(x)=0(0 \le x \le L)\\
 V(x)=\infty(L<x<\infty)
\end{cases}

を考える。このときのシュレーディンガー方程式は

E\psi(x) =-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{d^{2}\psi(x)}{dx^2}+V(x)\psi(x)

となる。このときV(x)=\inftyの領域(-\infty<x<0,L<x<\infty)では粒子侵入不可なので、この領域における波動関数は\psi(x)=0となる。波動関数\psi(x)x=0,x=Lでそれぞれ連続なので、\psi(0)=\psi(L)=0となる。0 \le x \le Lにおける波動関数を考えると

E\psi(x) =-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{d^{2}\psi(x)}{dx^2}V(x)=0
\frac{d^{2}\psi(x)}{dx^2} = -\frac{2mE}{\hbar^2}\psi(x) = -k^2\psi(x)k^2=\frac{2mE}{\hbar^2}
\psi(x)=A\cos kx+B\sin kx

\psi(0)=\psi(L)=0より

\psi(x)=B\sin \frac{n\pi x}{L}A=0,k=\frac{n \pi}{L}

となる。また\int_0^{L}(\psi(x))^2 dx = 1となるようにBを求めると

B=\sqrt{\frac{2}{L}}

となり

\psi(x)=\sqrt{\frac{2}{L}}\sin \frac{n\pi x}{L}

となる。またこのときのエネルギーE

E=\frac{\hbar^2 k^2}{2m}=\frac{\hbar^2 n^2 \pi^2}{2m L^2}

となり、とびとびの値をとることが分かる。

1次元階段型ポテンシャル[編集]

スピン角運動量と磁気モーメント[編集]

かなり天下り的な説明になってしまうが、我慢していただきたい。

実は、電子は磁力をもっている。ただしその磁力は普通の磁石とはちょっと違うらしい。 電子はたとえ静止していても磁力をもち、その磁力をスピンという。注意することは、真空放電管の実験で陰極線に磁石を地被けると陰極線は曲げられるがこれはローレンツ力によるもので、スピンによるものではない。

スピンとは、たとえ磁石が静止していようが電子が磁力を持つことである。では、その磁力は、なぜ通常の電子では感じられないのだろうか。

双極子[編集]

N極の磁荷 +q[wb] に距離 d[m] をはなして、同じ大きさのS極の磁荷 -q[wb] を置いて、固定したものを磁気双極子という。つまり普通の棒磁石は磁気双極子のようなものと考えられる。棒磁石の磁化を考えるときなどに用いる。 磁化というのは、電子のスピンが合わさって、磁区というものを作り、さらにその磁区の向きが合わさって、磁性体の磁化が起こる。 つまり、磁化とは、強磁性体(Fe,Ni、Coなど)の内部にもともとあった、ミクロな磁石(電子のスピンのこと)のむきがそろって、大きな磁石として、ふるまう現象だが、ミクロな磁石の長さをdに選ぶのか、それとも大きな磁石の長さをdに選ぶのか、という問題になるのである。

  • 双極子の長さの選び方

さて距離dには、電子半径を選べばよいのか、それとも、磁区の長さを選ぶのか、それとも磁石全体の長さを選ぶのかは、分析する現象によって異なる。 棒磁石全体の吸引力を考えたい場合は、棒磁石の長さL[m]をとることがある。また、磁性体内部のミクロな磁化を解析するときは、dには、電子半径などを取る。具体的にどのようなパラメータをdに選ぶかは、それぞれの目的によって異なる。

  • 電気双極子

また、電荷 +q[c] から距離 d[m] はなれたところに、電荷 -q[c] を置いたものを電気双極子という。これは分極を考えるときのモデルとして用いられる。 電気双極子の d[m] をどう選ぶか? ということも、分析対象により、ことなる。

外部から見ると、誘電体内部の分子の、ミクロな分極が打ち消しあって、誘電体の表面の電荷だけが打ち消しあわずに残るのが静電誘導である。分子スケールの長さをdにとるか、または、誘電体全体の長さ、たとえばコンデンサの間隔などをdにとるかは、目的による。また、qにdをかけた

p=q・d

を 双極子モーメント などという。

磁気モーメント[編集]

棒磁石の吸引力は、磁極の強さq[wb]と磁極の間の距離 d[m] の大きさの積 qd[ Wb・m ]である、磁気モーメント m によって決まる。あるいは磁気双極子モーメント、双極子モーメントなどと呼ぶ。

磁気モーメントによって吸引力が異なる理由は、かりに磁極が近すぎると、外部の磁場は、NとSという反対向きの磁極がつくる磁場のほとんどは、打ち消しあってしまい、ほとんど磁場を感じられないからである。たとえば棒磁石をたてにいくつもつなげると、つなげる前と 磁極の強さq は同じでも、距離dが大きくなるので、 磁気モーメントm は前よりも強まる。

  • スピンの磁気モーメント

電子は磁極の間の距離が電子半径の程度なので、磁気モーメントが小さく、磁気の吸引力が弱いのである。磁石に極がNとSの2つがあるように、スピンも「上向き」という値と「下向き」という値を持つ。

この向きは、実際の方角をあらわしているのではない。そうではなく、電子の外部の磁場 H に対して、Hと同一方向か、180° 反対の方向のことである。

この記事は概論のため不正確であるので、せいぜい参考程度にしてもらって、詳しくは、ほかの文献で確認をしてもらいたい。

光などは電場と磁場を伴うので、電子そのものも磁力を持っている、と考えるのは不思議でないかもしれない。

化学の周期表とスピン[編集]

化学の周期表では最外電子殻に入りうる電子数は、第一周期の電子殻K殻の最外電子数は2個まで、第2周期のL殻は8個まで、第3周期も8個まで、第4周期は18個、第5周期は18個まで、どれも2の倍数つまり偶数になっている。また第2周期のLiとBe、第3周期のNaとMgは、2族の次が13族に飛んでいる。13族から18族までは13,14,15,16,17,18の6個である。この6も2の倍数である。次また水素HはH2のように2個の原子が不対電子をお互いに共有する共有結合によって結合するが、共有結合でも2個の電子が対を作っている。

磁石では逆向きの同じ長さの2つの棒磁石が逆向きに、くっつきあうと、外部からは磁力がほとんど感じられないが、電子のスピンも、1個の電子に、逆向きのスピンを持つ電子が1個くっつくと、外部からは磁力を感じられなくなる。通常の希ガスや分子、磁石を除く大半の金属などが磁力を持っていないのはこのためである。電子が電子殻を埋まるときに18族の閉殻構造のときは電子が打ち消しあっている。また、第2周期や第3周期の2足の元素の電子殻もスピンが打ち消しあっている。14族や16族の元素は原子1個では安定ではないので、おそらくスピンは打ち消しあってはいない可能性がある。

  • 強磁性体

では強磁性を持つ原子FeやNi、Coなどの強磁性体が磁化されるのは、なぜか。2個の電子が対を作ってしまうと逆向きのスピンが打ち消しあうので、金属が磁力を持つためには電子が対を作らなければいいのだが、金属は金属結合をするので原子核の最外殻の原子は自由電子となって結晶全体で共有されるので、最外殻の電子が対を作らないと考えるのは不自然である。

しかし、最外殻よりも内側の電子核なら自由電子にはならないので、この内側の電子のスピンが磁力の原因だと考えても困らないだろう。内側の電子が埋まり終わって閉殻構造になっているとスピンは打ち消しあってしまうので、つまり強磁性体では内側の電子核が埋まり終わる前に外側の電子殻の電子が埋まっている、と考えるべきである。つまり磁性体の磁化とは、短い磁石がいくつもつながって長い磁石になることにより、磁石の吸引力が増えることと大して変わらない(と思う)。

双極子のもつエネルギー・力[編集]

量子的な現象ではエネルギーが量子化される。磁気双極子モーメントmが磁場Hの中で、もつエネルギーは、

U = -m・H = -mHcosθ
-1≦ cosθ ≦+1 なので、
Umax = mH 、Umin = -mH
よって、Umax - Umin = mH-(-mH)= 2mH = 2qd・H

であるので、双極子がためることのできるエネルギーは2mHである。

さて、エネルギー U が離散化されるためには、mかHかθのどれかが、離散化されていなければならない。スピンでは、θが離散化されることにより(「上向き」、「下向き」などのように)、エネルギーUが離散化されたものと思える。

  • 双極子の受ける力

通常の棒磁石を、電子に近づけても、電子の磁気モーメントが小さいので、ローレント力以外の力は電子はほとんど受けないのだが、磁石が通常でない場合は別である。

ポテンシャルU をつくる力F は、

F=-∂U/∂x

よって、

F= -∂(-m・H)/∂x = -∂(-mHcosθ)/∂x

よって、m か H か θ の変化率をおおきくすれば、電子は磁石によって、おおきな力を受ける。mは電子固有の値なので、変えようがないので、つまり定数だとおもう。 とすると、残りの、変えうるのは、 H か θ のどちらかになる。

N極の先端のとがったかたちをした棒磁石と、S極の先端のくぼんだ棒磁石を用意して、とがった、N極と、くぼんだS極の軸を一致させ、この2つの磁極の間隔をせまくした不対磁極をつくる。、この不対磁極のすきまに電子を打ち込むと、この磁極の隙間はHの変化率がかなり大きいので、ローレンツ力以外のちから、Fを感じ取ることができる。

このような実験をシュテルン・ゲルラッハの実験という。

量子論の基礎法則:スピンを例にとって[編集]

量子論の基礎法則は数学的にはむしろ単純で、線形代数に他ならない。但し、扱う系によりベクトル空間の次元が無限大になったり関数空間になったりするので、そこからくる複雑さが大きい。ここでは有限次元(2次元!)の線形代数で完全に扱うことができる系、「電子のスピン」を例にとりながら、基礎法則を導入する。

スピン[編集]

電子は点粒子であり位置という属性を持つが、実はそれだけでなく「自転する棒磁石」が持つような属性も持っている。棒磁石がN極とS極を結ぶ線を軸として自転しているとしよう。そこに磁場をかけると(1)棒磁石はその向きに応じたエネルギーを持ち、また(2)磁場を軸としてコマのようにプリセッション(首振運動)を行う。(1)は磁石であることから起き、(2)は((1)に加えて)角運動量を持つことから起きる。

電子も「向き」を持っており、磁場の中に入れると(1)その向きに応じたエネルギーをもち、かつ(2)その向きが棒磁石の向きと同様のプリセッションを起こす。このような事実を称して「電子はスピンをもつ」といい、「向き」を「スピンの向き」と呼ぶ。スピンの起源(Diracによる)や物性との関係は重要な主題となるのだが、ここでは量子力学の法則を説明する例として用いるだけなので、単に 「電子は位置だけでなく、向きという属性を持つ」 という点にのみ着目する。ダイナミクスの説明を行う時に物理的な意味 「電子を棒磁石とみなした時の向きであり、かつ電子のもつ角運動量の向き」 を使う。なお、角運動量の大きさは一定(hbar/2)であり、変わりうるのはその向きだけである。

この向きを単位ベクトル\hat{s}で表し、その成分を(s_x,s_y,s_z)と書く。単位ベクトルなのでs_x^2+s_y^2+s_z^2=1。普通に考えるとこの成分(3つの実数、動く範囲はそれぞれ-1から1)を指定すればスピンの状態を記述したことになるはずである。ところがスピンは量子力学の法則に従うのでそうはならない。

スピンの測定:量子力学的な特徴[編集]

スピンの向きの測定方法で代表的なのはStern-Gerlach型実験と呼ばれるもの。空間的な勾配を持つ磁場をかけることでスピンの向きに依存した力が電子にかかるようにする。大雑把に理解するには、棒磁石に磁場をかけることを考えればよい。磁場が一様だとN極とS極にかかる力が正反対かつ同じ大きさになるので全体としてキャンセルしてしまう。そこでz方向に勾配を持つ、つまり上に行くほど強くなる磁場をかけるとしよう。すると磁石の向きがz軸方向の成分をもつ(s_z\ne 0)ならば上側の極により大きな力がかかるので全体にかかる力が残る。適切に磁場を設定することで、近似的にszに比例した力  \vec{F}\approx(0,0,k s_z) が磁石にかかるようにできる。そのような磁場の中に小さい磁石を飛ばすと、磁石の向きのz成分に比例した力がかかり、軌道がそれる。従って軌道が上下にどれだけそれたかを調べれば磁石のs_zが分かるのである。もちろん同じ議論がz軸方向以外でも成り立つ。まとめると、

\vec{u}方向(\vec{u}は単位ベクトル)の勾配を持つ磁場を使うことで、\vec{s}\vec{u}成分s_u\equiv\vec{s}\cdot\vec{u}を測定することができる。

z方向に勾配を持つ磁場にランダムな向きの磁石をたくさんいれると、たまたまsz=1だったものの軌道は大きく上にそれ、sz=-1だったものは大きく下にそれる。そしてその中間、特にsz=0に近いものでは軌道はほとんどそれない。磁石の出口に磁石がきたことを感知するスクリーンをおけば、そこには上から下までほぼまんべんなく磁石がきた後が残るであろう。

量子力学の特徴1:観測値の離散化(「量子化」)[編集]

これで舞台は整ったので、磁石の代りに向きがばらばらの電子を通してみる。すると、驚くべきことに磁石の場合とは全く異なる結果になる。スクリーンの一番上(sz=1に対応)と一番下(sz=-1に対応)にしか電子がこないのである! あたかもsz=1の電子とsz=-1の電子しかないかのような結果になってしまう。それではと、今度は装置を90度回して、sxに応じて軌道が変わるようにしてみる。すると今度は(同じ源からきた電子なのに)sx=1とsx=-1のものしかないかのような結果になる。つまり一番右と左にしか電子がこない。

これは測定法を変えても成り立つ一般的な結果である。即ち、

・電子スピン\vec{s}\vec{u}方向成分\vec{s}\cdot\vec{u}を測定すると、その結果は必ず1か-1のどちらかにしかならない。本来連続的な値をとるはずの量\vec{s}\cdot\vec{u}の測定結果が、1,-1という離散的な値だけになる。

この、「連続的であるはず物理量の測定値が離散的になる」ことが微視的スケールの物理の大きな特徴である。但し、あらゆる量の測定値が離散的になるわけではない。例えば電子の位置の測定値は連続的な値をとりえるし、エネルギーの測定値は系によって連続的な場合も離散的な場合も、両者が混合する場合もある。量子力学の大きな成果(の一つ)は、物理量の測定値がとりえる値のセット(スペクトルという)を求めるための首尾一貫した計算法として与えたことにある。

量子力学の特徴2:観測結果のランダム性[編集]

szの測定値は1,-1しか取り得ないと述べた。では、例えばスピンがx方向を向いている場合にszを測ると測定値はどうなるだろうか。常識的な答である0は取れない。しかも1,-1のどちらを取るにしても妙である。答は「1,-1を全くランダムに取る。つまり等確率で1,-1が現れる」となる(一回ごとでは常識的な値0は取らないが、多数回実験を行った平均値としては常識的な値0になる)。このように、測定結果が確率的になることが微視的世界の法則のもう一つの大きな特徴。

但し上の実験を行うには「スピンがx方向を向いた状態」を作らなければならない。どうするか。実験装置自身を「フィルタ」として使う。例えば上記Stern-Gerlachの実験ではsz=1の電子は軌道が上に曲げられ、-1のものは下に曲げられる。よって上に来た電子だけを集めれば、それらは全てsz=1である、といえる。実際、もう一つ実験装置を用意し、最初の装置で上に曲げられた電子だけを通してszをもう一度測る。すると、確かに全ての電子でsz=1になるのである。もちろん最初の装置と二つの装置の間に磁場などを掛けてしまうと向きが変わることもあるが、そのような「スピンの向きを変える要因」がなければ、一度目と二度目の測定値は必ず同じ値になる。以上のことを踏まえ次の定義を行う。

「sz=1の状態を取っている」電子とは、実験によりsz=1という測定値を取り、その後向きを変えられていない電子のこととする。

任意の向きへの一般化は自明であろう。任意の単位ベクトル\vec{u}に対し、

\vec{u}方向を向いた電子とは、\vec{s}\cdot\vec{u}の測定で測定値1を取り、その後向きを変えられていない電子である。

この定義が意味をなす理由は、上記の通りこの定義に従う電子でもう一度\vec{s}\cdot\vec{u}を測定すれば必ず1を取る、という実験的裏づけがあるためである。但しこの定義に従う電子で\vec{u}と垂直な成分を測っても測定結果は決して0にはならないことを忘れてはならない。

この定義を使うと、上記のランダム性を実験で確かめるには、まずStern-Gerachの装置を横に倒してsxの値に応じて軌道が曲げられるようにする。そして、右(sx=1に対応)に来た電子だけを第2の装置に通してszを測る。すると、半分はsz=1、残り半分はsz=-1となるのである。

より一般的な場合、つまり\vec{u}とz軸との角度が任意の角度A(0<=A<=\pi) の場合を述べよう。z方向を向いた電子スピンの\vec{u}方向の成分\vec{s}\cdot\vec{u}を測るとする。すると、

測定値が1になる確率は\cos^2(A/2)、-1になる確率は\sin^2(A/2)となる。(特にA=\pi/2の場合には上記の結果に帰着することに注意)。

スピンの数学的な記述[編集]

このような観測値の離散化をどう説明するか。一つの素直な考え方は、本来連続的な値をとるものが観測過程での何かのメカニズムで離散的になると考え、そのメカニズムを追求することだろう。根底では連続なものが何かの原因で離散化すると考えるのである。しかし量子力学ではそのような方針はとらない。観測値が離散化することこそが根底の法則、自然の本性であると捉え、それを適切に記述する数学的な法則を与えるのである。以下でその法則を述べるが、これは別の法則(例えば古典力学)から論理的に導かれるものではない。これ自身がいわば「公理」であり、それが正しいかどうかは実験結果を予言・再現できるかにより判定される。特に古典力学や電磁気学はある範囲内で実験と合うことが確立された理論であるから、それらもこの「公理」から導出されなければならない。

以下、まずスピンという特殊な場合について述べる。一般的な場合への拡張は、少なくとも形式上は単純なこととなる。

スピンの量子力学公理1 物理量の数学的表現は行列、測定値が取りうる値はその固有値[編集]

スピンがもつ物理量はそのx成分sx、y成分sy, z成分szである(一般の方向の成分はこれらの一次結合となる)。これらの物理量はある2x2行列(Pauli行列と呼ばれる)に対応する。sxに対応する行列をXと書き、sy,szそれぞれに対応する行列をY,Zと書くことにすると、

	X=\begin{pmatrix} 0 & 1 \\ 1 & 0 \end{pmatrix} 	Y=\begin{pmatrix} 0 & -i \\ i & 0 \end{pmatrix} 	Z=\begin{pmatrix} 1 & 0 \\0 & -1 \end{pmatrix}

「対応する」の意味は段階的に説明していく。まず重要なのは観測値が取り得る値が決められることである。物理量szを例にとると

szの測定値になりえるのは対応する行列Zの固有値のみ。つまりszの測定値が1,-1に限られるのは、対応するZの固有値が1,-1だけだからである。

sx,syについても同様。どちらも対応する行列X,Yの固有値が1,-1しかないので測定値としては1,-1しか現れない。

一般的に言うと、スピンに限らず物理量はある行列(より一般的には線形演算子)に対応する。つまりその物理量の観測値は対応する行列の固有値に限られる。逆にいうとある物理量がとりうる測定値を知りたいと思ったら、それに対応する行列を求めその固有値を求めればよい、ということである。

では対応する行列(線形演算子)をどう求めるかという疑問が当然浮かぶが、それは扱う物理系個々の問題になる。基本的なのは正準量子化と呼ばれる手法で、古典力学のポアソン括弧と呼ばれるものから演算子が満たすべき交換関係を推測し、それを満たすような演算子を探す。特にそのような手法から角運動量の一般論を展開でき、上で導入したスピンのPauli行列はその特別な場合として得られる。

但し基本的な物理量の行列が分かれば、それらの関数になっている物理量の行列は行列代数により得られる。例えばsx+syという物理量に対応する行列はX+Yになる。その固有値は(普通の線形代数の方法で計算すると)\pm\sqrt2 なのでsx+syがとりえる観測値は\pm\sqrt2 のどちらかになる。従って扱う系で基本的な物理量(例えば位置xと運動量p)に対応する演算子が分かれば、その系の任意の物理量(基本的な物理量の関数になっている量、例えばエネルギー p^2/(2m)+V(x))が対応する行列は演算子の代数(線形代数)で分かってしまうのである。

スピンの量子力学公理2 物理状態の数学的表現は複素列ベクトル=ケット、確率は固有ベクトルとの内積の絶対値自乗[編集]

次に、離散的な観測値(物理量に対応する行列の固有値)のどれが観測されるかの規則を述べる。まず、スピンの状態はスピンの物理量に対応する行列(X,Y,Z)が作用するベクトル、即ち2行1列の複素列ベクトル 	\begin{pmatrix}  \alpha_0 \\ \alpha_1 \end{pmatrix} で表される。ここで\alpha_0, \alpha_1はどぢらも複素数だが、次の正規化条件を満たすものとする  |\alpha_0~|^2+|\alpha_1|^2=1 。このような複素列ベクトルをDiracによる「ブラケット記号」を使い、「ケット」  | \alpha > で表す。

 |\alpha > =\begin{pmatrix}  \alpha_0 \\ \alpha_1 \end{pmatrix}

線形代数によると、複素列ベクトル同士の間には自然に内積が定義される。ケット |\alpha > =\begin{pmatrix}  \alpha_0 \\ \alpha_1 \end{pmatrix} |\beta > =\begin{pmatrix}  \beta_0 \\ \beta_1 \end{pmatrix} の間の内積  ( |\alpha>, |\beta> ) は次で与えられる:

 (|\alpha>,|\beta>)=\alpha_0^* \beta_0 + \alpha_1^* \beta_1

この内積は、成分が実数の場合には普通の実ベクトル同士の内積になるが、複素数の場合には左側の要素に複素共役を取る。こう定義する理由は、「自分自身との内積  (|\alpha>,|\alpha>) 」が必ず0以上の実数になるようにするためである。特に上記の規格化条件は  (|\alpha>,|\alpha>)=1 と書くことができる。

では、このケットの物理的意味について述べよう。上で導入した「z向きの状態」、即ちszを観測すれば必ずsz=1の結果を得られる状態は、行列Zの固有値1の固有ベクトル(で規格化されたもの)で記述される。つまり「szを測定すれば、結果が必ずsz=1になる状態を表すケット」を|sz=1>と書くことにすると次が成立:

 |sz=1> =\begin{pmatrix} 1 \\ 0 \end{pmatrix}

(実際にはこの成分で1の代わりに絶対値1の任意の複素数e^{i\theta} をおいても同じなのだが、その任意性については後で述べる。とりあえず単位固有ベクトルの中で一番成分が簡単なものを選んだと考えてほしい。)

これは一般的に拡張される。即ち、

任意の物理量Aに対して、Aを測定したときに確実に測定値aが得られる状態は、数学的にはAに対応する行列(または演算子)の 固有値aの固有ベクトル(で規格化されたもの)で記述される。このような状態を、やや略した言い方で物理量Aの固有値aの固有状態と呼ぶ。

スピンの例に戻ると、sxを測定して必ずsx=1の結果を得られる状態|sx=1>は、行列Xの固有値1の固有状態なので

 |sx=1> =2^{-1/2}\begin{pmatrix} 1 \\ 1 \end{pmatrix}

必ずsx=-1の結果を得られる状態は

 |sx=-1> =2^{-1/2}\begin{pmatrix} 1 \\ -1 \end{pmatrix}

非固有状態の測定[編集]

では、szを測定する際に、状態がszの固有状態でなかったら結果はどうなるだろうか。ここで始めて実験と比べられる記述が現れる。量子力学が与える予言は次の通り。

スピンの状態|\alpha>がszの固有状態とは限らない場合にszを測定すると、その結果(測定値が1になるか-1になるか)はランダムな事象となり、確率的にしか予言できない。その確率はもとの状態と固有状態の内積の絶対値自乗で与えられる。例えばsz=1となる確率P(sz=1)は

 P(sz=1)=|(|sz=1>, |\alpha>)|^2 = |\alpha_0|^2

同様に、sx=1になる確率P(sx=1)は

 P(sx=1)=|(|sx=1>, |\alpha>)|^2 = |\frac{\alpha_0+\alpha_1}{2}|^2

特に前の例として取り上げた、スピンがx方向を向いている場合にszを測定した結果は、

 P(sz=1)=|(|sz=1>, |sx=1>)|^2 = |2^{-1/2}|^2=\frac{1}{2}

となり、実験結果とあう確率が与えられる。

さらに、実験例として取り上げた「z方向を向いた電子スピンの\vec{u}方向の成分\vec{s}\cdot\vec{u}を測る」場合の結果を計算してみる。法則から

 P(\vec{s}\cdot\vec{u}=1)=|(|sz=1>, |\vec{s}\cdot\vec{u}=1>)|^2

問題は|\vec{s}\cdot\vec{u}=1>だが、\vec{u}の成分を球座標での方向\theta,\phiを使い (\sin\theta\cos\phi, \sin\theta\sin\phi, \cos\theta)と表すと

\vec{s}\cdot\vec{u}=u_x X+u_y Y+u_z Z=
\begin{pmatrix} u_z & u_x-i u_y \\ u_x + i u_y & -u_z \end{pmatrix}=
\begin{pmatrix} \cos\theta & e^{-i\phi}\sin\theta \\ e^{i\phi}\sin\theta & -\cos\theta \end{pmatrix}

その固有値1の固有ベクトル(で規格化されているもの)は \begin{pmatrix} \cos\frac{\theta}{2} \\ e^{i^\phi}\sin\frac{\theta}{2} \end{pmatrix}

これを使うと次が得られ、実験結果をきちんと再現する計算結果となる。

 P(\vec{s}\cdot\vec{u}=1)=|(|sz=1>, |\vec{s}\cdot\vec{u}=1>)|^2=\cos^2\frac{\theta}{2}

運動法則[編集]

ここまで状態の数学的な記述と測定の関係を書いた。次は状態の運動法則である。簡単な例としてスピンに一様な磁場をかけた場合を考える。

このページ「量子力学」は、書きかけです。加筆・訂正など、協力いただける皆様の編集を心からお待ちしております。また、ご意見などがありましたら、お気軽にノートへどうぞ。
  1. ^ 後藤憲一ほか『基礎物理学演習』共立出版、1998年発行、初版、p.64の類題 54.1 およびp.196での解答。