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高等学校化学II/機能性高分子

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』

吸水性樹脂

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ポリアクリル酸ナトリウム

アクリル酸ナトリウムCH2=CH-COONaを架橋させたポリアクリル酸ナトリウムは、多量の水を吸収する。 吸水の仕組みは、水が加わると、電離によってCOONa部分が、COO-とNa+に電離するが、このときイオンの増加により浸透圧が発生するので、水を吸収する。 また、COO-どうしは同種の電荷なので反発しあい、樹脂が膨張するので、膨張した隙間に水が入り込めるようになり、水を吸収する。

吸水性樹脂の用途としては、紙おむつや土壌保水剤などがある。

感光性樹脂

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光(おもに紫外線)を当てることで急激に重合して硬化し溶媒に溶けにくくなる樹脂がある。

ポリビニルアルコールの樹脂にケイ皮酸 C6H5CHCHCO2Hを結合させた高分子は、紫外線を当てると、架橋反応が起きる。(数研出版チャート式化学でケイ皮酸が紹介されている。)

また、他の樹脂では、光を当てることによって化学変化をして溶媒に溶けるようになる樹脂もある。

このように、光を当てることによって性質が大幅に変化する樹脂のことを感光性樹脂(かんこうせいじゅし、photosenstive polymer)という。

  • 応用例

感光性樹脂は、プリント配線や集積回路の製造、印刷、金属の精密加工、歯科の充填剤などに利用されている。

生分解性樹脂

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自然界で、微生物などにより分解される樹脂を生分解性樹脂(せいぶんかいせい じゅし、biodegradable polymer)という。 また生分解性樹脂などが、自然界で分解されることを生分解という。 分子構造の種類は、おもに、タンパク質のものと、乳酸を重合させて得られるポリ乳酸や、ポリグリコール酸のものや、デンプンやセルロース、キトサンなどからつくられるものがある。微生物などの作用によって、これらの生分解性樹脂は、しぜんに分解される。

ポリ乳酸の合成

外科手術用の縫合糸に、抜糸の必要がないため、ポリ乳酸やポリグリコール酸の糸が使われている(啓林館、東京書籍の検定教科書に記述あり)。

一般に、生分解性樹脂は親水性が高まるほど、生分解されやすくなる。なお、ポリ乳酸の原料の乳酸は、デンプンなどから得られるため、石油系のプラスチックの代替としても期待されている。

導電性高分子

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性質

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アセチレンの重合体であるポリアセチレンの導電率は、ポリアセチレンそのものは、電気をさして通さない。

しかし、ヨウ素I2を加えると、電気を通すようになり、なお、その場合の導電率は銅に近い。

(※ 範囲外: ) 添加物として、ヨウ素でなく、臭素やフッ化アセチレンAsF6 でも良い。が添加されている。ヨウ素もフッ素も臭素もハロゲンである。また、ヨウ素もフッ素も臭素も、それ単体は、大した導電性を持たない。(※ チャート式に記述あり。)ヨウ素も臭素もハロゲン(17族)なので、ハロゲンの電子を吸引する性質が関係しているだろうと考えられている。

しかし、ヨウ素などの添加によって、ポリアセチレンは金属並みの導電性を持つ(銅くらいの導電性とされる)。

このため、ポリアセチレンのような、導電性をもった高分子のことを導電性高分子(どうでんせい こうぶんし、conducting polymer)という。

導電性高分子の産業の応用として、コンデンサー、ポリマー電池などの応用・研究などが進んでいる。

日本の白川英樹(しらかわひでき)は、この導電性ポリアセチレンの発見と研究で、ノーベル賞を2000年に受賞した。


発展: 共役二重結合系

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※ チャート式などで、共役二重結合が紹介されている。

ところで、ポリアセチレンの構造は、長い共役二重結合(きょうやく にじゅう けつごう)をもった化合物である。単結合と二重結合が繰り返している構造を、共役二重結合という。

ポリアセチレンのほか、ベンゼンも、共役二重結合をもっている(なお、このベンゼンの共役二重結合こそが、ベンゼンの安定性の理由の一つである)。

一般に、化合物の価電子は、共役二重結合の内部を動き回れる性質がある。(この共役二重結合を動き回れる価電子をπ電子(「パイでんし」)という。)

この共役二重結合とπ電子が、ヨウ素の加わったポリアセチレンの導電性の理由でもある。

トランス-ポリアセチレンの構造


(※ 範囲外: ) なお、ポリアセチレンのシス型とトランス型とで導電性は異なる。トランス型のほうが導電性が大きい。

備考

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有機EL

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  • ポリオレフィン系

ポリオレフィンビニレンの高分子は導電性高分子であり、さらに電気を通すと発光することから、有機ELなどのディスプレイ発光素子としての研究が進められている。


※ 範囲外: 半導体との類似点と相違点

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半導体産業の用語にならってだろうか、この、導電率をあげるためにポリアセチレンにヨウ素などを加える操作のことを「ドーピング」という。(シリコン半導などの半導体体産業にも「ドーピング」という用語がある。)

このように、類似点があるが、しかし相違点もある。

相違点のひとつは、下記のとおり。

シリコン半導体の場合、ドーピングさせる元素(通常は価電子3個か価電子5個かの2種類)の種類によって、得られる半導体はP型とN型に分かれる。
しかし、導電性高分子の場合、周期表でハロゲンの反対側の元素はリチウムやナトリウムといった1族の金属である。リチウムなどを1族の金属をポリアセチレンに添加しても導電性が向上するのだが、しかし添加された金属そのものも導電率が高いので、果たして添加後の樹脂の導電率の高さについて、半導体的なメカニズムによって導電性が向上したのか、それとも単に金属を添加したから導電性が向上したのか、いまいち不明確である。

(ここまで相違点。)


※ このように相違点もあるので、検定教科書では半導体との類似点を記述していないことにも、教育的な合理性がある。


導電性樹脂のハロゲン添加において、単体では導電性を持たないヨウ素を添加して導電性が向上するのは、ヨウ素に電子が吸収されるからであるとされている。ヨウ素の他に、ハロゲンであるBr2やFeCl2なども、電子を吸収する。これらの性質を電子求引性(でんし きゅういんせい)という(※ 「吸引」ではなく「求引」)。また電子求引性をもった化合物を「アクセプター」という。(半導体産業にも「アクセプター」という用語がある。)

いっぽう、NaやLiなどは電子を供与する物質であり、これらを添加することでも、ポリアセチレンの導電性を向上できる。ただし、ナトリウムやリチウムの場合、それ自体が金属であるので、果たして共役二重結合的なメカニズムによって導電率が向上したのか、それとも、単に金属が添加されたことで導電率が向上したのか、不明確である。

この電子を供与する性質を電子供与性と言い、また電子供与性のある化合物を「ドナー」という。(半導体産業にも「ドナー」という用語がある。)

この原理は、シリコン半導体などのドーピングの原理と似た原理である。

なので共役π電子系の導電性高分子でも、ドナーやアクセプターの添加を「化学ドーピング」あるいは「ドーピング」という。

範囲外: その他

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なお、ポリアセチレンそのものの合成は、チーグラー触媒を用いてアセチレンガスと有機金属化合物から合成できる。

導電性高分子の例。 ポリアセチレン(左上)、ポリ(p-フェニレンビニレン)(右上)、ポリピロール(X = NH)、 ポリチオフェン (X = S)、ポリアニリン (X = NH/N)、ポリ(p-フェニレンスルフィド (X = S)

ポリアセチレンの他の高分子でも導電性樹脂の開発が進められている。 たとえばポリチオフェンやポリアニリンが有る。

それらも同様に、共役二重結合をもった導電性樹脂の場合は、導電の仕組みは共役二重結合によるものである。


(※ 範囲外: )導電性高分子の産業への実用として、コンデンサの誘電材料への応用がある。(コンデンサの原理については、『高等学校物理/物理II/電気と磁気』を参照せよ。) 導電性高分子コンデンサでは、「導電」という名とは裏腹に、誘電体のかわりとして、導電性高分子が用いられている。従来のアルミ電解コンデンサ(アルミ箔と紙を重ねて誘電体にみたてたコンデンサ)と比べると、導電性高分子コンデンサは、高周波での減衰が少ない。このため、パソコンのCPUの周辺の部品として、すでに高分子コンデンサが実用化している。
しかし、もともと導電性高分子は、その名のとおり「導電性」が特徴である事もあり、導電性高分子コンデンサの短所として、コンデンサには不要な特性である「漏れ電流」(もれでんりゅう)があるという欠点もある。
なお、ここでいう「漏れ電流」とは、直流電圧のときに、電流を流してしまうこと。本来、理想的なコンデンサでは、直流電圧では電流を流さずに、交流電圧のときにだけ電流を流してくれるのが、コンデンサとして望ましい性質である。
だが、産業では、たとえ導電性高分子コンデンサに、そのような「漏れ電流」の欠点があっても、それよりも電気容量の向上のほうが求められる場合のほうが多く、そのため、導電性高分子コンデンサが、すでに実用化されており、(パソコン部品の)CPUの周辺で回路の負荷変動を調節するためのコンデンサとして、すでに実用化されている。
※ しばしば、導電性プラスチックの応用として、タッチパネルなど「液晶ディスプレイへの応用」が言及される。しかし、液晶ディスプレイにつかう透明電極は一般に インジウム金属酸化物とスズ金属酸化物の混合物(ITO) である。おそらく、導電性高分子コンデンサのことを透明電極だろうと勘違いしたデマだろう。たとえタッチパネルに使われていたとしても、はたして表から見える外側の部分に使われてるか、気をつける必要がある。
※ インターネット上で公開されている様々な論文を見ると、2010年前後の時点では導電性高分子フィルム(ポリチオフェン系の導電性高分子)を透明電極とするタッチパネルはまだ研究中・開発中の段階であるとしている。しかし銀行のATMのタッチパネルはそれ以前の1990年代から存在している。また、それらの論文のいくつかでは、銀行のATMなどのタッチパネルはインジウム系の材料だと主張していたり、彼らの研究の意義としてインジウムがレアメタルなのでそれを安価な高分子に置き換えようとするのが意義だと主張していたりする。
※ 後述する「ポリエチレンオキシド」(← これはアルカリ金属との複合体をなすので、電気を通すのは当然)やペルフルオロアルコキシフッ素樹脂と、ポリアセチレンのような共役二重結合による導電性樹脂とを混同した風説も、多そうである。

(※ 範囲外:) 「イオン伝導性樹脂」

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「イオン伝導性樹脂」と言われるものには、いくつかの種類がある。

この節では、そのうち、いくつかを取り上げる。


ポリエチレンオキシド

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ポリエチレンオキシド (-CH2-CH2-O-)n やポリプロピレンオキシド (CH2-CHCH3-O-)n は、金属塩LiClO4などのアルカリ金属塩と複合体をなす。ポリエチレンオキシドなどとアルカリ金属塩との複合体は、高い導電性を持つ。この導電性の高さの理由は、樹脂内でアルカリ金属塩がイオンに電解していると考えられている。なお、このように固体内で化合した塩をイオンに電解している物質を「固体電解質」という。

ポリエチレンオキシド(PEO)は、PEO系のリチウムイオン電池に利用されている・・・と言われている。

なお、生物実験などで用いられるポリエチレングリコールは、ポリエチレンオキシドの一種である。(※ ポリエチレングリコールについては『高等学校生物/生物II/遺伝情報の発現』)

エチレンオキシド

なお、エチレンオキシドとエチレングリコールは、異なる分子である。(※ エチレングリコールについては『高等学校化学I/脂肪族化合物/アルコール』にて説明してある。)

エチレングリコール

ポリエチレンオキシドは水に溶ける。また、ベンゼンにも、ポリエチレンオキシドは溶ける。

水の中では、ポリエチレンオキシドの分子中にたくさんある酸素原子が、水素結合のような結合によって水分子のH+イオンにまとわりつく、考えられている(このような溶液中での結合を「溶媒和」(ようばいわ)という)。

このように水に水ける性質を利用して、ポリエチレンオキシドをほかの疎水性分子と結合させることにより、界面活性剤としても利用されている。

ポリエチレンオキシドは、いくつかのタンパク質の分解や反応を阻害する作用があり、毒性が小さいので、食品添加物や医薬品などにおいてタンパク質の安定剤などとしても用いられている。

なお、ポリエチレンオキシドを用いた方式のリチウムイオン電池では、 ポリエチレンオキシドのたくさんの酸素原子が Li+ に溶媒和している、考えられている。


  • 関連分野

なお、アルコールがアルカリ金属と化合するように(いわゆるアルコキシド)、アルカリ金属と有機化合物が複合する事自体は、べつに珍しい事ではない。(※ 『高等学校化学I/脂肪族化合物/アルコール』) セッケンや多くの合成洗剤がナトリウム化合物であるように、固形の有機化合物でもアルカリ金属と化合している物質も、多く存在する。(※ 『高等学校化学I/脂肪族化合物/セッケン』)

また、吸水性高分子で、アクリル酸ナトリウムCH2=CH-COONaを架橋させた「ポリアクリル酸ナトリウム」という吸水性高分子があるように、高分子にアルカリ金属が化合している物質がある事自体は、べつに珍しい事ではない。


「ナフィオン」

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一般に「ナフィオン」(デュポン社の商品名)と言われる分子。

右図の分子「ナフィオン」は、イオンを通す。(※ 参考文献: 培風館『step-up 基礎化学』、梶本興亜 編、2015年初版、183ページ)

そのため、この構造の分子は燃料電池(固体高分子型の燃料電池)に用いられる事がある。

分子中のスルホン酸-SO3Hの部分が、イオン導電性に関わってると考えられている。


※ なお、イオン交換性樹脂にも、分子中にスルホン酸が組み込まれているものがある。(『高等学校化学II/イオン交換樹脂』)
※ 実教出版の『化学基礎』の教科書では、「ナフィオン」の物質名は明記してないが、どうやら、このナフィオンを、イオン交換樹脂のように説明したいようだ。
実教出版の教科書では、個体高分子型の燃料電池についての説明で、「イオン交換膜が用いられている」のように説明しており、しかも-SO3Hの部分でイオン交換が行われてる、のような説明をしている。

(※ 範囲外:) その他

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シリコンアルコキシド

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