Fortran/なぜFortranを学ぶのか?

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』
2020年のスーパーコンピューターモデルによる海洋流速と海面温度のモデル。このモデルはFortranコードで生成されました。Fortranは、科学的プログラミングを含むさまざまな分野で広く使用され続けています。

Fortran(フォートラン)は科学コミュニティで広く利用されるプログラミング言語で、高速かつ移植性があり、配列や並列処理をスムーズに扱えます。 最初期の高水準言語の一つで、パンチカードや紙テープを使用してプログラムをエンコードする初期のバージョンは広く知られています。 Fortranの名前は「FORmula TRANslation」の略で、数学的な表現を低水準のアセンブリ言語よりも簡単に実現できることを示しています。 Fortran90より古いバージョンは、しばしばFORTRANと綴られます。 Fortranは今でも数値天気予測、物理学や化学のモデリング、応用数学、および他の高性能コンピューティング目的で広く利用されています。 Fortranは豊富な数学ライブラリと科学的なコードベースを備えており、新しい標準では現代的な機能が追加されつつも、完全な後方互換性が保たれています。

この本は、現代のFortranでコードを書くのを支援することを意図しています。 適切な場合には、古いバージョンと現代の標準との使用方法の違いが強調されます。 これは FORTRAN 77などの古いバージョンで書かれた重要なコードベースが存在するためです。

Fortranの特徴[編集]

  • 数値計算プログラムを簡潔に書くことができる: Fortranは、数値計算に特化したシンプルな構文を持っており、数学的なアルゴリズムや計算手法を直接表現するのに適しています。
  • 数値計算のための豊富なライブラリ: Fortranには、数値計算のための多くのライブラリが充実しています。例えば、LAPACKFFTPACKなどの高度な数学関数や行列演算ライブラリが利用できます。
  • 無料のGNUコンパイラ: GNUプロジェクトには、Fortranの無料のコンパイラが提供されています。これにより、Fortranのプログラムを開発し、実行するための環境を手軽に構築することができます。
  • スーパーコンピュータでの使用: Fortranは、スーパーコンピュータを含む高性能計算環境で広く使用されています。特に数値気象予報などの大規模な計算において、Fortranが主要な言語として採用されています。
  • 複素数のサポート: Fortranでは、言語レベルで複素数の演算をサポートしています。これにより、複雑な数学的処理や信号処理などのアプリケーションを簡単に記述できます。
  • 配列処理のサポート: Fortranでは、言語レベルで配列同士の加減算などがサポートされており、行列やベクトルの操作が簡単に行えます。また、部分配列を使用することもできます。
    ガウスの消去法をFortranで簡潔に記述する例を以下に示します。この例では、行列 A とベクトル b に対して、前進消去と後退代入のステップを行います。
    program gaussian_elimination
        implicit none
        
        integer, parameter :: N = 3
        real :: A(N, N), b(N)
        integer :: i, j, k
        real :: factor
        
        ! 係数行列 A と定数ベクトル b の初期化
        A = reshape([2, 1, -1, 3, 4, 1, 1, -1, 3], [N, N])
        b = [8, 7, 5]
        
        ! 前進消去
        do k = 1, N - 1
            do i = k + 1, N
                factor = A(i, k) / A(k, k)
                A(i, k:N) = A(i, k:N) - factor * A(k, k:N)
                b(i) = b(i) - factor * b(k)
            end do
        end do
        
        ! 後退代入
        do i = N, 1, -1
            b(i) = (b(i) - dot_product(A(i, i+1:N), b(i+1:N))) / A(i, i)
        end do
        
        ! 解の出力
        print *, 'Solution:'
        do i = 1, N
            print '(A, I1, A, F5.2)', 'x(', i, ') = ', b(i)
        end do
        
    end program gaussian_elimination
    
    このFortranコードでは、前進消去と後退代入のステップをシンプルで直感的な構文で表現しています。ループや配列操作において、Fortranは数学的なアルゴリズムを自然な形で記述できるため、アルゴリズムが簡潔に表現できるという特徴がよく示されています。
  • 新しい機能の導入: 最新のFortran規格では、新しい機能や構文が導入されています。例えば、InterfaceやIntentといった機能が追加され、コードの安全性や信頼性が向上しました。
  • 暗黙の型宣言の停止: Fortranでは、Implicit none ステートメントを使用することで、暗黙の型宣言を停止することができます。これにより、変数名のタイプミスを見つけやすくなります。
  • 4倍精度のサポート: 多くのFortran処理系では、4倍精度を正式にサポートしており、悪条件の連立一次方程式などの計算に必須です。これに対して、C/C++言語では4倍精度のサポートがオプションであり、実装によっては精度が低下する可能性があります。

以上が、Fortranの主な特徴です。数値計算や科学技術計算などの分野で広く使用されており、高い性能と効率性を提供しています。

他の言語が適している場合[編集]

Fortranは非常に冗長で、静的型付けされたコンパイル言語です。他の動的型付けおよびインタープリター言語よりも書くのに、コンパイルするのに、およびデバッグするのに時間がかかる場合があります。

Fortranを置き換えることができる言語には、主に次のようなものがあります。

  1. C/C++: C言語C++は、Fortranと同様に高性能な数値計算を行うことができます。特に、C++ではオブジェクト指向プログラミングの機能を活用して、より複雑な計算を簡潔に記述することができます。しかし、Fortranと比較して数学関数や行列演算に対するライブラリが豊富ではない場合があります。
  2. Python: Pythonは、Fortranと比較してより柔軟で使いやすい言語であり、科学技術計算にも広く使用されています。特に、NumPySciPyといったライブラリを使用することで、高度な数値計算やデータ解析を行うことができます。また、Pythonのシンプルな構文や豊富なライブラリ群は、Fortranよりも開発効率を向上させることができます。
  3. Julia: Juliaは、高度な数値計算を目的とした新しいプログラミング言語であり、Fortranと同様に高性能なコードを記述することができます。Juliaは、動的な型推論やジェネリック関数などの機能を活用して、効率的な数値計算を実現します。また、JuliaにはFortranと互換性のあるコードを実行するための機能も提供されています。
  4. MATLAB/Octave: MATLABOctaveは、数値計算やデータ解析に特化したプログラミング言語です。これらの言語は、線形代数や統計解析などの数学的な処理を簡単に記述することができます。ただし、Fortranと比較して実行速度が遅い場合があります。
  5. R: Rは、統計解析やデータマイニングなどの分野で広く使用されているプログラミング言語です。Rには豊富な統計関数やグラフィカルなデータ表示機能が提供されており、科学技術計算にも活用されています。ただし、大規模な数値計算や高性能コンピューティングには向いていない場合があります。

これらの言語は、Fortranと同様の数値計算や科学技術計算のニーズを満たすことができますが、各言語にはそれぞれ特徴や適用範囲があります。選択する際には、プロジェクトの要件や開発者の経験、コミュニティのサポートなどを考慮することが重要です。