刑法第178条
条文[編集]
(準強制わいせつ及び準強制性交等)
- 第178条
- 人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、わいせつな行為をした者は、第176条の例による。
- 人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、性交等をした者は、前条の例による。
改正経緯[編集]
2017年改正により、以下のとおり改正。処罰対象の行為及び被害対象が改正されたことに伴う(刑法第177条#改正経緯参照)。
- 見出し
- (改正前)準強制わいせつ及び準強姦
- (改正後)準強制わいせつ及び準強制性交等
- 第2項 行為の客体
- (改正前)女子の心神喪失
- (改正後)人の心神喪失
- 第2項 行為の主体
- (改正前)姦淫した者は
- (改正後)性交等をした者
解説[編集]
強制わいせつ罪及び強制性交等罪においては、「暴行又は脅迫」により、相手が抵抗できないことに乗じてわいせつ行為・性交等を行うことであるが、これらによらず、相手が昏倒・泥酔・薬物摂取等により意識がないことに乗じてわいせつ行為・性交等を行う場合も、その意識障害が加害者の行為によるか否かに関わらず、強制わいせつ罪及び強制性交等罪同様に取り扱う。
改正試案[編集]
法制審議会・刑事法(性犯罪関係)部会は、第10回会議(令和4年10月24日開催)において配布された「試案」において刑法上の性犯罪規定の改正試案が提示された。 178条に関する項目は以下のとおりである。
- 第1-1 暴行・脅迫要件、心神喪失・抗拒不能要件の改正
- 第1-2 刑法第176条後段及び第177条後段に規定する年齢の引上げ
- 第1-3 (欠落)
- 第1-4 刑法第176条の罪に係るわいせつな挿入行為の同法における取扱い の見直し
- 第1-5 配偶者間において強制性交等罪などが成立することの明確化
この1-1により、178条に規定されていた「抗拒不能」は「拒絶困難 」(拒絶の意思を形成し、表明し又は実現することが困難な状態)に変更され、例示とともに176条および177条に組み込まれることになり現行の178条は、削除され、おそらくそこに「第1-6 第1-6 性交等又はわいせつな行為をする目的で若年者を懐柔する行為(いわゆるグルーミング行為)に係る罪が新設されるものと思われる(第3項は別条となる可能性もある。なお号番号は参議院法制局「条・項・号・号の細分」に従って変更した)。
新178条(試案)
① わいせつの目的で、16歳未満の者に対し、次の各号でのいずれかに掲げる行為をした者(当該16歳未満の者が13歳以上で ある場合については、その者が生まれた日より5年以上前の日に生 まれた者に限る。)は、1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処する。
- 一 威迫し、偽計を用い又は誘惑して面会を要求する行為
- ニ 拒まれたにもかかわらず、反復して面会を要求する行為
- 三 金銭その他の利益を供与し、又はその申込み若しくは約束をして面会を要求する行為
2 前稿の罪を犯し、よってわいせつの目的で当該16歳未満の者と面会をしたときは、2年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金に処する。
3 16歳未満の者に対し、次の各号のいずれかに掲げる姿態をとってその映像を送信する行為を要求した者(第一号に掲げる姿態をとって その映像を送信する行為を要求した場合については、その要求した行為をさせることがわいせつなものであるときに限り、当該16歳未満の者が13歳以上である場合については、その者が生まれた日より5年以上 前の日に生まれた者に限る。)は、1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処する。
- 一 性交、肛門性交又は口腔性交をする姿態
- 二 前号に掲げるもののほか、膣又は肛門に身体の一部又は物を挿入し又は挿入される姿態、性的な部位(性器若しくは肛門若しくはこれら の周辺部、臀部又は胸部をいう。)を触り又は触られる姿態、性的な部位を露出した姿態その他の姿態
参照条文[編集]
- 第180条(未遂罪)
- 未遂は、罰する。
判例[編集]
・名古屋地岡崎支判平成31.3.26(評釈:佐藤陽子・刑事法ジャーナル 62号(2019年)144-152頁;安田拓人・法学教室 469号(2019年)138頁;前田雅英・WLJ判例コラム臨時号[[1]]
- 被告人が、かねてより被告人による暴力や性的虐待等により被告人に抵抗できない精神状態で生活していた同居の実子A(当時19歳)に対し、その抗拒不能に乗じて性交したとして2件の準強制性交等罪に問われた事案において、Aが本件各性交当時に抗拒不能の状態にあったと認定することはできないとして、無罪が言い渡された事例
・名古屋高判令2・3・12判時 2467号137頁(評釈:前田雅英・捜研69巻5号30頁;谷田川知恵・法民547号46頁;仲道祐樹・法時92巻5号4頁;嘉門優・刑事法ジャーナル 66号115頁;斉藤豊治「実父による継続的な性的虐待と抗拒不能の判断(名古屋高裁判決)」新・判例解説 Watch・刑法 |No.168 (2021)]
・広島高判昭33年12月24日高刑集11巻10号701頁
- 半睡半覚状態の被害者が夫と誤認して行為者と性交した(松原89事例10:)→法益関係的錯誤説(西田=橋爪104;山口112;浅田127)
・名古屋地判昭55年7月28日判時1007号140頁
- 産婦人科医を自称する者が女性に対して性病の治療のために必要であると偽って性交に応じさせた(被害者を不安のあまり冷静な判断力を欠いた極めて不安定な心理状態に陥れた)(松原89事例11)
・東京高判昭56年1月27日刑月13巻1=2号50頁
- プロダクションの実質的経営者がモデルとして売り出すために必要だと言って、モデル志望の女性にわいせつな行為を受忍させた(松原89事例12)
・東京地判昭58年3月1日判時1096号145頁
- 霊感による治療と騙して女性に性交を受忍させた(松原89事例13)
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