刑法第176条
条文[編集]
(強制わいせつ)
- 第176条
- 13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、6月以上10年以下の懲役に処する。13歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。
改正経緯[編集]
2022年改正[編集]
2022年改正により、以下のとおり改正。施行日については未定(2022年10月7日時点)。
- (改正前)懲役
- (改正後)拘禁刑
2017年改正[編集]
2017年改正により以下の通り改正。
改正前
- 13歳以上の男女に対し
改正後
- 13歳以上の者に対し
強制わいせつ罪の特別法の位置づけになる強姦罪等については、犯罪の主体は男性のみであった。一般法である強制わいせつ罪は犯罪の主体は男女を問わなかったため、それを明示する意図も含め「男女」と記したものであるが、改正により、強姦罪等の後継である強制性交等の一連の罪の主体は性別を問うことが無くなったので、「男女」の明記を一般的な表記にしたもの。
解説[編集]
改正試案[編集]
法制審議会・刑事法(性犯罪関係)部会は、第10回会議(令和4年10月24日開催)において配布された「試案」において刑法上の性犯罪規定の改正試案が提示された。 176条に関する項目は以下のとおりである。
- 第1-1 暴行・脅迫要件、心神喪失・抗拒不能要件の改正
- 第1-2 刑法第176条後段及び第177条後段に規定する年齢の引上げ
- 第1-3 (欠落)
- 第1-4 刑法第176条の罪に係るわいせつな挿入行為の同法における取扱い の見直し
- 第1-5 配偶者間において強制性交等罪などが成立することの明確化
これらの項目を条文化すれば、新176条以下のようなものになろう(号番号は参議院法制局「条・項・号・号の細分」に従って変更した)。
176条(試案) ① 次の第一号に掲げる行為その他これらに類する行為により人を拒絶困難 (拒絶の意思を形成し、表明し又は実現することが困難な状態をいう。以下同じ。)にさせ、又は次の第二号に掲げる事由その他これらに類する事由により人が拒絶困難であることに乗じて、わいせつな行為をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず。6月以上10年以下の拘禁刑に処する。
一 次に掲げる行為
- イ 暴行又は脅迫を用いること。
- ロ 心身に障害を生じさせること。
- ハ アルコール又は薬物を摂取させること。
- ニ 睡眠その他の意識が明瞭でない状態にすること。
- ホ 拒絶するいとまを与えないこと。
- へ 予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、又は驚愕させること。
- ト 虐待に起因する心理的反応を生じさせること。
- チ 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること。
二 次に掲げる事由
- イ 暴行又は脅迫を受けたこと。
- ロ 心身に障害があること。
- ハ アルコール又は薬物の影響があること。
- ニ 睡眠その他の意識が明瞭でない状態にあること。
- ホ 拒絶するいとまがないこと。
- へ 予想と異なる事態に直面して恐怖し、又は驚愕していること。
- ト 虐待に起因する心理的反応があること。
- チ 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮していること。[試案1-1-1:太字部分は1-5]
2 行為がわいせつなものではないと誤信させ若しくは行為の相手方について人違いをさせて、又は行為がわいせつなものではないと誤信していること若しくは行為の相手方について人違いをしていることに乗じて、わいせつな行為をした者も、前項と同様とする。
3 13歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者は、6月以上10年以下の拘禁刑に処するものとし、13歳以上16歳未満の者に対し、当該者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者が、当該13歳以上 16歳未満の者の対処能力(性的な行為に関して自律的に判断して対処することができる能力をいう。)が不十分であることに乗じてわいせつな行為をしたときも、同様とする。[試案1−2-1]
参照条文[編集]
- 第180条(未遂罪)
- 未遂は、罰する。
判例[編集]
・最決昭45・1・29刑集24巻1号1頁 強制わいせつ事件
- 専ら報復または侮辱虐待の目的をもつて婦女を脅迫し裸にして撮影する行為と強制わいせつ罪の成否
- 裁判要旨
- 強制わいせつ罪が成立するためには、その行為が犯人の性欲を刺戟興奮させまたは満足させるという性的意図のもとに行なわれることを要し、婦女を脅迫し裸にして、その立つているところを撮影する行為であつても、これが専らその婦女に報復し、または、これを侮辱し、虐待する目的に出たときは、強要罪その他の罪を構成するのは格別、強制わいせつの罪は成立しない。
- Xは報復のために女性Vを裸にして写真を撮った(松原87事例9)
・最大判平成29・11・29刑集71巻9号467頁 児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反,強制わいせつ,犯罪による収益の移転防止に関する法律違反被告事件
- 強制わいせつ罪の成立と行為者の性的意図の要否
- 裁判要旨
- 刑法(平成29年法律第72号による改正前のもの)176条にいう「わいせつな行為」に当たるか否かの判断を行うための個別具体的な事情の一つとして,行為者の目的等の主観的事情を判断要素として考慮すべき場合はあり得るが,行為者の性的意図は強制わいせつ罪の成立要件ではない。
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