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商法第576条

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』

法学民事法商法コンメンタール商法第2編 商行為 (コンメンタール商法)

条文

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(損害賠償の額)

第576条
  1. 運送品の滅失又は損傷の場合における損害賠償の額は、その引渡しがされるべき地及び時における運送品の市場価格(取引所の相場がある物品については、その相場)によって定める。ただし、市場価格がないときは、その地及び時における同種類で同一の品質の物品の正常な価格によって定める。
  2. 運送品の滅失又は損傷のために支払うことを要しなくなった運送賃その他の費用は、前項の損害賠償の額から控除する。
  3. 前二項の規定は、運送人の故意又は重大な過失によって運送品の滅失又は損傷が生じたときは、適用しない。

改正経緯

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2018年改正により、運送品の滅失又は損傷の場合の規律について、第580条及び第581条に定められた以下の条文を現代語化の上、統合し改正。なお、本条に定められていた「運送品滅失と運送賃」に関する規定は、2017年民法改正により、民法の危険負担や債務不履行に関する規律が整理・明確化されたことを受けて、商法でもそれに合わせる形で規定の見直しが行われ、改正時の審議において「民法の債権法改正を受け、重複した危険負担に関する規律を商法では記述しない」という意図から、旧条項は、民法の整理により特別に商法で危険負担について個別条項を設ける必要がなくなったため、削除された。改正後は「損害賠償の額の定型化(市場価格基準)」や「支払不要な運送賃等の控除」として整理され、この部分に危険負担の問題が内包されている。

【損害賠償責任】

(旧)第580条
  1. 運送品ノ全部滅失ノ場合ニ於ケル損害賠償ノ額ハ其引渡アルヘカリシ日ニ於ケル到達地ノ価格ニ依リテ之ヲ定ム
  2. 運送品ノ一部滅失又ハ毀損ノ場合ニ於ケル損害賠償ノ額ハ其引渡アリタル日ニ於ケル到達地ノ価格ニ依リテ之ヲ定ム但延著ノ場合ニ於テハ前項ノ規定ヲ準用ス
  3. 運送品ノ滅失又ハ毀損ノ為メ支払フコトヲ要セサル運送賃其他ノ費用ハ前二項ノ賠償額ヨリ之ヲ控除ス
(旧)第581条
運送品カ運送人ノ悪意又ハ重大ナル過失ニ因リテ滅失、毀損又ハ延著シタルトキハ運送人ハ一切ノ損害ヲ賠償スル責ニ任ス

【運送品滅失と運送賃】

旧本条
  1. 運送品ノ全部又ハ一部カ不可抗力ニ因リテ滅失シタルトキハ運送人ハ其運送賃ヲ請求スルコトヲ得ス若シ運送人カ既ニ其運送賃ノ全部又ハ一部ヲ受ケ取リタルトキハ之ヲ返還スルコトヲ要ス
  2. 運送品ノ全部又ハ一部カ其性質若クハ瑕疵又ハ荷送人ノ過失ニ因リテ滅失シタルトキハ運送人ハ運送賃ノ全額ヲ請求スルコトヲ得
(旧法解説)
民法第536条(債務者の危険負担等)の債務者主義を定めた。運送物の滅失によって運送債務が消滅し、牽連関係にある運送賃請求権も消滅する。民法の「債務者」を運送人、「債権者」を荷送人として読むと「・・・当事者双方の責めに帰することができない事由によって運送債務を履行することができなくなったときは、運送人は、運送賃請求権を有しない。」となる。
「不可抗力」とは、民法第536条の注意的規定だから、商法第594条よりも広く「当事者双方の責めに帰することができない事由」と解釈されている。
なお、特約で排除することは可能である。

解説

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物品の運送人が通常損害を賠償する額について客観的、合理的に規定する。商法が民法と異なり定額賠償主義を採用しているのは、通常の運送企業の活動を保護するためである。ただし、悪意・重過失の場合は第3項(旧・第581条を取り込み)によりこれを排除する。
改正前は、滅失・毀損の状況(全部か一部か)、評価の時点(延着の場合など)を分けた規定であったが、改正後は「その引渡しがされるべき地及び時における運送品の市場価格」と総合判断の表現にまとめられた。

参照条文

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標準貨物自動車運送約款

(運賃請求権)
第35条
  1. 当店は、貨物の全部又は一部が天災その他やむを得ない事由又は当店が責任を負う事由により滅失したときは、その運賃、料金等を請求しません。この場合において、当店は既に運賃、料金等の全部又は一部を収受しているときは、これを払い戻します。
  2. 当店は、貨物の全部又は一部がその性質若しくは欠陥又は荷送人の責任による事由によって滅失したときは、運賃、料金等の全額を収受します。
(損害賠償の額)
第47条
  1. 貨物に全部滅失があった場合の損害賠償の額は、その貨物の引渡すべきであった日の到達地の価額によって、これを定めます。
  2. 貨物に一部滅失又はき損があった場合の損害賠償の額は、その引渡しのあった日における引き渡された貨物と一部滅失又はき損がなかったときの貨物との到達地の価額の差額によってこれを定めます。
  3. 第35条第1項の規定【上記運賃請求権】により、貨物の滅失のため荷送人又は荷受人が支払うことを要しない運賃、料金等は、前2項の賠償額よりこれを控除します。
  4. 第1項及び第2項の場合において、貨物の到達地の価額又は損害額について争いがあるときは、公平な第三者の鑑定又は評価によりその額を決定します。
  5. 貨物が延着した場合の損害賠償の額は、運賃、料金等の総額を限度とします。

関連条文

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判例

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  1. 損害賠償本訴、不当利得返還反訴(最高裁判決 昭和53年4月20日)(旧)商法577条,(旧)商法580条1項【現本条】
    • 荷送人・荷受人に所有権がなく、運送人が誤って本来の所有権者に配送し、荷送人に損害賠償を求められた案件
    運送品が全部滅失したがこれによる損害が全く生じない場合と運送人の損害賠償責任
    運送品が全部滅失したが荷送人又は荷受人に全く損害が生じない場合には、商法580条1項【現本条】の規定の適用がなく、運送人は損害賠償責任を負わない。
    • 【本条】が運送品の価格による損害賠償責任を定めている趣旨は、運送品の全部滅失により荷送人又は荷受人に損害が生じた場合、これによる運送人の損害賠償責任を一定限度にとどめて大量の物品の運送にあたる運送人を保護し、あわせて賠償すべき損害の範囲を画一化してこれに関する紛争を防止するところにあるものと解される。したがつて、実際に生じた損害が右条項所定の運送品の価格を下回る場合にも、原則として運送人は右価格相当の損害賠償責任を負うのであつて、運送人に悪意又は重過失がありその損害賠償責任について同法581条【本条第3項】が適用される場合にも、その責任が右価格より軽減されることがないのは、もちろんである。しかしながら、前記のような立法趣旨からして、【本条】は、運送品が全部減失したにもかかわらず荷送人又は荷受人に全く損害が生じない場合についてまで運送人に損害賠償責任を負わせるものではなく、このような場合には、運送人はなんら損害賠償責任を負わないものと解するのが相当である。
  2. 損害賠償(最高裁判決 平成10年4月30日)民法1条2項,民法91条民法709条(旧)商法577条(旧)商法578条,(旧)商法580条1項【現本条】,(旧)商法583条
    宅配便の荷受人が運送会社に対して運送中の荷物の紛失を理由として運送契約上の責任限度額を超える損害の賠償を請求することが信義則に反し許されないとされた事例
    荷受人甲が、宅配便を利用して宝石類を送付することができないことを知りながら、荷送人乙が運送会社丙の宅配便を利用してダイヤモンド等を送付することを容認していたなど判示の事実関係の下においては、運送中の右ダイヤモンド等の紛失を理由として甲が丙に対し乙丙間の運送契約上の責任限度額30万円を超える損害の賠償を請求することは、信義則に反し、許されない。

前条:
商法第575条
(運送人の責任)
商法
第2編 商行為

第8章 運送営業

第2節 物品運送
次条:
商法第577条
(高価品の特則)
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