民事訴訟法第220条
表示
条文
[編集](文書提出義務)
- 第220条
- 次に掲げる場合には、文書の所持者は、その提出を拒むことができない。
- 当事者が訴訟において引用した文書を自ら所持するとき。
- 挙証者が文書の所持者に対しその引渡し又は閲覧を求めることができるとき。
- 文書が挙証者の利益のために作成され、又は挙証者と文書の所持者との間の法律関係について作成されたとき。
- 前三号に掲げる場合のほか、文書が次に掲げるもののいずれにも該当しないとき。
- イ 文書の所持者又は文書の所持者と第196条各号に掲げる関係を有する者についての同条に規定する事項が記載されている文書
- ロ 公務員の職務上の秘密に関する文書でその提出により公共の利益を害し、又は公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがあるもの
- ハ 第197条第1項第2号に規定する事実又は同項第3号に規定する事項で、黙秘の義務が免除されていないものが記載されている文書
- ニ 専ら文書の所持者の利用に供するための文書(国又は地方公共団体が所持する文書にあっては、公務員が組織的に用いるものを除く。)
- ホ 刑事事件に係る訴訟に関する書類若しくは少年の保護事件の記録又はこれらの事件において押収されている文書
解説
[編集]- 第196条(証言拒絶権)
- 第197条
参照条文
[編集]判例
[編集]- 文書提出命令申立て却下決定に対する許可抗告事件(最高裁決定 平成12年3月10日)民訴法220条4号ロ,民訴法221条,民訴法223条4項
- 証拠調べの必要性を欠くことを理由として文書提出命令の申立てを却下する決定に対し不服の申立てをすることの許否
- 証拠調べの必要性を欠くことを理由として文書提出命令の申立てを却下する決定に対しては、右必要性があることを理由として独立に不服の申立てをすることはできない。
- 民訴法197条1項3号所定の「技術又は職業の秘密」の意義
- 民訴法197条1項2号所定の「技術又は職業の秘密」とは、その事項が公開されると、当該技術の有する社会的価値が下落しこれによる活動が困難になるもの又は当該職業に深刻な影響を与え以後その遂行が困難になるものをいう。
- 証拠調べの必要性を欠くことを理由として文書提出命令の申立てを却下する決定に対し不服の申立てをすることの許否
- 文書提出命令申立て却下決定に対する抗告審の取消決定に対する許可抗告事件(最高裁決定 平成16年2月20日)民訴法191条,民訴法197条1項1号
- 県が漁業協同組合との間で漁業補償交渉をする際の手持ち資料として作成した補償額算定調書中の文書提出命令申立人に係る補償見積額が記載された部分が民訴法220条4号ロ所定の文書に該当するとされた事例
- 県が,漁業協同組合との間でその所属組合員全員が被る漁業損失の総額を対象とする漁業補償交渉をする際の手持ち資料として作成した補償額算定調書中,その総額を積算する過程で算出した文書提出命令申立人に係る補償見積額が記載された部分は,県が各組合員に対する補償額の決定,配分を同組合の自主的な判断にゆだねることを前提とし,そのために上記総額を算出する課程の個別の補償見積額は上記の交渉の際にも明らかにしなかったこと,上記部分が開示されることにより,上記前提が崩れ,同組合による補償額の決定,配分に著しい支障を生じるおそれがあり,今後,県が同様の漁業補償交渉を円滑に進める際の著しい支障ともなり得ることなど判示の事情の下においては,民訴法220条4号ロ所定の文書に該当する。
- 民訴法220条4号ロに該当する文書と同条3号に基づく提出義務
- 公務員の職務上の秘密に関する文書であって,その提出により公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがあるものについては,民訴法220条3号に基づく提出義務を認めることはできない。
- 県が漁業協同組合との間で漁業補償交渉をする際の手持ち資料として作成した補償額算定調書中の文書提出命令申立人に係る補償見積額が記載された部分が民訴法220条4号ロ所定の文書に該当するとされた事例
- 文書提出命令申立て一部認容決定に対する許可抗告事件(最高裁決定 平成16年11月26日)民訴法197条,保険業法(平成11年法律第160号による改正前のもの)242条3項,保険業法(平成11年法律第160号による改正前のもの)313条1項
- 保険管理人によって設置された弁護士及び公認会計士を委員とする調査委員会が作成した調査報告書が民訴法220条4号ニ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たらないとされた事例
- 破たんした保険会社につき選任された保険管理人が,金融監督庁長官から,保険業法(平成11年法律第160号による改正前のもの)313条1項,242条3項に基づき,当該保険会社の破たんについての旧役員等の経営責任を明らかにするために弁護士,公認会計士等の第三者を委員とする調査委員会を設置して調査を行うことを命じられたため,上記命令の実行として弁護士及び公認会計士を委員とする調査委員会を設置し,当該調査委員会から上記調査の結果が記載された調査報告書の提出を受けたという事実関係の下では,当該調査報告書は,民訴法220条4号ニ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たらない。
- 民訴法197条1項2号所定の「黙秘すべきもの」の意義
- 民訴法197条1項2号所定の「黙秘すべきもの」とは,一般に知られていない事実のうち,弁護士等に事務を行うこと等を依頼した本人が,これを秘匿することについて,単に主観的利益だけではなく,客観的にみて保護に値するような利益を有するものをいう。
- 保険管理人によって設置された弁護士及び公認会計士を委員とする調査委員会が作成した調査報告書が民訴法220条4号ハ所定の「第197条第1項第2号に規定する事実で黙秘の義務が免除されていないものが記載されている文書」に当たらないとされた事例
- 破たんした保険会社につき選任された保険管理人が,金融監督庁長官から,保険業法(平成11年法律第160号による改正前のもの)313条1項,242条3項に基づき,当該保険会社の破たんについての旧役員等の経営責任を明らかにするために弁護士,公認会計士等の第三者を委員とする調査委員会を設置して調査を行うことを命じられたため,上記命令の実行として弁護士及び公認会計士を委員とする調査委員会を設置し,当該調査委員会から上記調査の結果が記載された調査報告書の提出を受けたという事実関係の下では,当該調査報告書は,民訴法220条4号ハ所定の「第197条第1項第2号に規定する事実で黙秘の義務が免除されていないものが記載されている文書」に当たらない。
- 保険管理人によって設置された弁護士及び公認会計士を委員とする調査委員会が作成した調査報告書が民訴法220条4号ニ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たらないとされた事例
- 文書提出命令に対する抗告審の変更決定に対する許可抗告事件(最高裁決定 平成19年11月30日)
- 銀行が法令により義務付けられた資産査定の前提として債務者区分を行うために作成し,保存している資料は,民訴法220条4号ニ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たるか
- 銀行が,法令により義務付けられた資産査定の前提として,監督官庁の通達において立入検査の手引書とされている「金融検査マニュアル」に沿って債務者区分を行うために作成し,保存している資料は,民訴法220条4号ニ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たらない。
- 文書提出命令に対する抗告審の取消決定に対する許可抗告事件(最高裁決定 平成19年12月11日)民訴法197条
- 金融機関が民事訴訟において訴訟外の第三者として開示を求められた顧客情報について,当該顧客自身が当該民事訴訟の当事者として開示義務を負う場合に,同情報は,民訴法197条1項3号にいう職業の秘密として保護されるか
- 金融機関が民事訴訟において訴訟外の第三者として開示を求められた顧客情報について,当該顧客自身が当該民事訴訟の当事者として開示義務を負う場合には,同情報は,金融機関がこれにつき職業の秘密として保護に値する独自の利益を有するときは別として,民訴法197条1項3号にいう職業の秘密として保護されない。
- 金融機関と顧客との取引履歴が記載された明細表が,民訴法197条1項3号にいう職業の秘密として保護されるべき情報が記載された文書とはいえないとして,同法220条4号ハ所定の文書に該当しないとされた事例
- A,Bを当事者とする民事訴訟の手続の中で,Aが金融機関Cを相手方としてBとCとの間の取引履歴が記載された明細表を対象文書とする文書提出命令を申し立てた場合において,Bが上記明細表を所持しているとすれば民訴法220条4号所定の事由のいずれにも該当せず提出義務が認められること,Cがその取引履歴を秘匿する独自の利益を有するものとはいえないことなど判示の事情の下では,上記明細表は,同法197条1項3号にいう職業の秘密として保護されるべき情報が記載された文書とはいえず,同法220条4号ハ所定の文書に該当しない。
- 金融機関が民事訴訟において訴訟外の第三者として開示を求められた顧客情報について,当該顧客自身が当該民事訴訟の当事者として開示義務を負う場合に,同情報は,民訴法197条1項3号にいう職業の秘密として保護されるか
- 文書提出命令に対する抗告審の変更決定に対する許可抗告事件(最高裁決定 平成20年11月25日)民訴法197条,民訴法223条,民訴法337条
- 金融機関を当事者とする民事訴訟の手続の中で,当該金融機関が顧客から守秘義務を負うことを前提に提供された非公開の当該顧客の財務情報が記載された文書につき,文書提出命令が申し立てられた場合において,上記文書が民訴法220条4号ハ所定の文書に該当しないとされた事例
- 金融機関を当事者とする民事訴訟の手続の中で,当該金融機関が顧客から守秘義務を負うことを前提に提供された非公開の当該顧客の財務情報が記載された文書につき,文書提出命令が申し立てられた場合において,次の1.,2.の事情の下では,上記文書は,当該金融機関の職業の秘密が記載された文書とはいえず,民訴法220条4号ハ所定の文書に該当しない。
- 当該金融機関は,上記情報につき職業の秘密として保護に値する独自の利益を有しない。
- 当該顧客は,上記民事訴訟の受訴裁判所から上記情報の開示を求められたときは,次のア,イなどの理由により,民訴法220条4号ハ,ニ等に基づきこれを拒絶することができない。
- ア 当該顧客は,民事再生手続開始決定を受けており,それ以前の信用状態に関する上記情報が開示されても,その受ける不利益は軽微なものと考えられる。
- イ 上記文書は,少なくとも金融機関に提出することを想定して作成されたものであり,専ら内部の者の利用に供する目的で作成され,外部の者に開示することが予定されていないものとはいえない。
- 金融機関を当事者とする民事訴訟の手続の中で,当該金融機関が顧客から守秘義務を負うことを前提に提供された非公開の当該顧客の財務情報が記載された文書につき,文書提出命令が申し立てられた場合において,次の1.,2.の事情の下では,上記文書は,当該金融機関の職業の秘密が記載された文書とはいえず,民訴法220条4号ハ所定の文書に該当しない。
- 金融機関を当事者とする民事訴訟の手続の中で,当該金融機関が行った顧客の財務状況等についての分析,評価等に関する情報が記載された文書につき,文書提出命令が申し立てられた場合において,上記文書が民訴法220条4号ハ所定の文書に該当しないとされた事例
- 金融機関を当事者とする民事訴訟の手続の中で,当該金融機関が顧客の財務情報等を基礎として行った財務状況,事業状況についての分析,評価の過程及びその結果並びにそれを踏まえた今後の業績見通し,融資方針等に関する情報が記載された文書につき,文書提出命令が申し立てられた場合において,次の1.,2.などの判示の事情の下では,上記情報は,当該金融機関の職業の秘密には当たるが,保護に値する秘密には当たらないというべきであり,上記文書は,民訴法220条4号ハ所定の文書に該当しない。
- 当該顧客は,民事再生手続開始決定を受けており,それ以前の財務状況等に関する上記情報が開示されても,その受ける不利益は小さく,当該金融機関の業務に対する影響も軽微なものと考えられる。
- 上記文書は,上記民事訴訟の争点を立証する書証として証拠価値が高く,これに代わる中立的・客観的な証拠の存在はうかがわれない。
- 金融機関を当事者とする民事訴訟の手続の中で,当該金融機関が顧客の財務情報等を基礎として行った財務状況,事業状況についての分析,評価の過程及びその結果並びにそれを踏まえた今後の業績見通し,融資方針等に関する情報が記載された文書につき,文書提出命令が申し立てられた場合において,次の1.,2.などの判示の事情の下では,上記情報は,当該金融機関の職業の秘密には当たるが,保護に値する秘密には当たらないというべきであり,上記文書は,民訴法220条4号ハ所定の文書に該当しない。
- 金融機関を当事者とする民事訴訟の手続の中で,当該金融機関が顧客から守秘義務を負うことを前提に提供された非公開の当該顧客の財務情報が記載された文書につき,文書提出命令が申し立てられた場合において,上記文書が民訴法220条4号ハ所定の文書に該当しないとされた事例
|
|