コンテンツにスキップ

民法第146条

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』

法学民事法コンメンタール民法第1編 総則 (コンメンタール民法)

条文[編集]

時効の利益の放棄)

第146条
時効の利益は、あらかじめ放棄することができない。

解説[編集]

時効の利益をあらかじめ放棄させることを可能にしてしまうと、消滅時効において債権者が債務者にあらかじめ時効の利益を放棄させることを強要して貸付を行う恐れがあるからである。
時効の利益を受ける者(消滅時効でいえば債権者)が時効の利益を放棄することは自由である。
  • (事例1)時効期間が経過したのち主債務者が債務の一部を弁済したので債権者が債務の残り全額について主債務者と連帯保証人の資産を差し押さえた。主債務者はこれに対して請求異議の訴えを起こし消滅時効を援用し、146条(の反対解釈)については、自らが時効期間の経過を知らなかったことを立証し、時効の利益の放棄の意思がないので適用が無いと主張した。また、連帯保証人も主債務について消滅時効を援用した。
    通説・判例は(たとえ当該事案で146条(の反対解釈)の適用がないとしても、)時効制度の趣旨を永続した事実状態に対する当事者の信頼の保護ととらえ(実体法説)、この事案では、一部弁済した主債務者が(もはや債権行使をしないだろうという)事実状態の信頼をしていないことを理由に、主債務者の時効の援用を信義則違反とする(最判昭和41年04月20日)。しかし(連帯)保証人については、主債務者が時効を援用できないからといって、援用権を失うかは別であり、この事案では援用が信義則違反にならず消滅時効を援用できるとされる(ただし連帯保証人も債務を承認した事案では信義則違反と認定された例がある)。
  • (事例2)時効期間が経過したのち連帯保証人が保証債務の一部を弁済したので債権者が保証債務の残り全額について連帯保証人の資産を差し押さえた。連帯保証人はこれに対して請求異議の訴えを起こし消滅時効を援用し、146条(の反対解釈)については、自らが時効期間の経過を知らなかったことを立証し、時効の利益の放棄の意思がないので適用が無いと主張した。
    もし連帯保証人に援用権を認めないと、主債務者が消滅時効を援用すると連帯保証人が求償することができなくなるので、連帯保証人に援用権を認める裁判例がある(最判昭和42年10月27日)。

参照条文[編集]

判例[編集]

  1. 約束手形金請求(最高裁判決  昭和35年06月23日)
    1. 時効利益の放棄の要件
      時効利益の放棄があつたとするためには、債務者において時効完成の事実を知つていたことを要する。
    2. 債務者が時効完成の事実を知つていたものと推定された事例
      債務者が弁済期後にした債務の内入弁済は、時効完成の事実を知つてこれをしたものと推定すべきである。
  2. 請求異議(最高裁判決 昭和41年04月20日)
    1. 消滅時効完成後に債務の承認をした場合において右承認はその時効の完成を知つてしたものと推定することの可否
      消滅時効完成後に債務の承認をした場合において、そのことだけから、右承認はその時効が完成したことを知つてしたものであると推定することは許されないと解すべきである。
    2. 消滅時効完成後における債務の承認と当該時効援用の許否
      債務者が、消滅時効完成後に債権者に対し当該債務の承認をした場合には、時効完成の事実を知らなかつたときでも、その後その時効の援用をすることは許されないと解すべきである。
      • 承認により時効は更新される。時効は完成しても権利者が援用しない限りは法的効力は認められないので、援用せず承認すれば時効は更新され債務は存続することとなる。時効が完成したであろうことの事実を知らないことは、権利者の動機の錯誤であり救済に及ぶものではない。
  3. 土地建物所有権移転登記手続等請求(最高裁判決 昭和42年10月27日)民法第369条民法第145条
    1. 他人の債務のため自己の所有物をいわゆる弱い譲渡担保に供した者は右債務の消滅時効を援用することができるか
      他人の債務のため自己の所有物をいわゆる弱い譲渡担保に供した者は、右債務の消滅時効を援用することができる。
    2. 債務者の時効の利益の放棄は当該債務のため自己の所有物をいわゆる弱い譲渡担保に供した者に影響を及ぼすか
      債務者の時効の利益の放棄は、当該債務のため自己の所有物をいわゆる弱い譲渡担保に供した者に影響を及ぼさない。
  4. 貸金請求(最高裁判決 昭和45年05月21日)
    消滅時効完成後の債務承認と再度完成した時効の援用
    債務者が、消滅時効の完成後に、債権者に対し当該債務を承認した場合においても、以後ふたたび時効は進行し、債務者は、再度完成した消滅時効を援用することができる。
    • 2017年改正により「時効の更新」概念が明確化され、自明の事象となっている。

前条:
民法第145条
(時効の援用)
民法
第1編 総則

第7章 時効

第1節 総則
次条:
民法第147条
(裁判上の請求等による時効の完成猶予及び更新)
このページ「民法第146条」は、まだ書きかけです。加筆・訂正など、協力いただける皆様の編集を心からお待ちしております。また、ご意見などがありましたら、お気軽にトークページへどうぞ。