コンテンツにスキップ

民法第711条

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』

法学民事法民法コンメンタール民法第3編 債権 (コンメンタール民法)

条文

[編集]

(近親者に対する損害の賠償

第711条
他人の生命を侵害した者は、被害者の父母、配偶者及び子に対しては、その財産権が侵害されなかった場合においても、損害の賠償をしなければならない。

解説

[編集]

不法行為責任の特別規定である。生命を侵害する不法行為が発生した場合において、近親者について発生する損害賠償(遺族の慰謝料請求権)権について規定している。条文上、近親者の範囲は「被害者の父母、配偶者および子」とされている。

本条の要件は判例法理によって拡張されつつある。

生命侵害以外への拡張
被害者が負った重い後遺障害によって、被害者の母親が生命侵害にも等しい精神的苦痛を受けたケースで、本条の慰謝料請求権を認めた判例がある(判例1)。
近親者の範囲の拡張
被害者の夫の妹が、被害者の全面的庇護の下に生計を維持していたケースで、本条の慰謝料請求権を認めた判例がある(判例4)。

また、第710条所定の慰謝料請求権(被害者本人について発生)が、生命侵害の場合に、死亡した被害者の相続人に相続されるかが問題になる。かりに相続されるとすれば、1.被害者が死亡前に損害賠償請求の意思を表示していたことを要するか否か、2.被害者に縁故の薄い相続人が突然多額の賠償金を相続することは公平か、が問題となる。

関連条文

[編集]

関連判例

[編集]
  1. 慰藉料、損害賠償請求(最高裁判決 昭和33年8月5日民集12-12-190)
    不法行為により身体を害された被害者の母の慰藉料請求が認容された事例。
    不法行為により身体を害された者の母は、そのために被害者が生命を害されたときにも比肩すべき精神上の苦痛を受けた場合、自己の権利として慰藉料を請求しうるものと解するのが相当である。
  2. 損害賠償請求、同附帯控訴(最高裁判決 昭和42年6月13日)
    不法行為によつて身体を害された者の配偶者および子が自己の権利として慰藉料の請求ができないとされた事例
    被害者が、不法行為によつて、全治まで1年以上を要する左大腿部骨折等の重傷をこうむり、手術等の治療をうけたが、現在においても、左下肢が約30度外旋位をとつて約3.5センチメートル短縮し、大腿囲、下腿囲とも狭少となり、股、膝関節の運動領域に障害を残し、正座は不能で、歩行も約1キロメートル以上は苦痛のため不可能な状態である等原審認定の事実関係(原判決およびその引用する第一審判決参照)のもとにおいては、まだ、被害者の配偶者および子は、自己の権利として慰藉料を請求することができるものとはいえない。
    • 判例1の程度に達していないとされる例
  3. 慰藉料請求(最高裁判決 昭和42年11月1日)民法第710条
    不法行為による慰藉料請求権は相続の対象となるか
    不法行為による慰藉料請求権は、被害者が生前に請求の意思を表明しなくても、相続の対象となる。
    • 損害賠償請求権発生の時点について、民法は、その損害が財産上のものであるか、財産以外のものであるかによつて、別異の取扱いをしていないし、慰藉料請求権が発生する場合における被害法益は当該被害者の一身に専属するものであるけれども、これを侵害したことによつて生ずる慰藉料請求権そのものは、財産上の損害賠償請求権と同様、単純な金銭債権であり、相続の対象となりえないものと解すべき法的根拠はなく、民法711条によれば、生命を害された被害者と一定の身分関係にある者は、被害者の取得する慰藉料請求権とは別に、固有の慰藉料請求権を取得しうるが、この両者の請求権は被害法益を異にし、併存しうるものであり、かつ、被害者の相続人は、必ずしも、同条の規定により慰藉料請求権を取得しうるものとは限らないのであるから、同条があるからといつて、慰藉料請求権が相続の対象となりえないものと解すべきではない。
  4. 慰藉料請求(最高裁判決 昭和49年12月17日民集28-10-2040)
    1. 民法711条の類推適用により被害者の夫の妹に慰藉料請求権が認められた事例
      不法行為により死亡した被害者の夫の妹であつても、この者が、跛行顕著な身体障害者であるため、長年にわたり被害者と同居してその庇護のもとに生活を維持し、将来もその継続を期待しており、被害者の死亡により甚大な精神的苦痛を受けた等判示の事実関係があるときには、民法711条の類推適用により加害者に対し慰藉料を請求しうる。
    2. 不法行為による生命侵害があつた場合と民法711条所定以外の者の固有の慰藉料請求権
      不法行為による生命侵害があつた場合、民法711条所定以外の者であつても、被害者との間に同条所定の者と実質的に同視しうべき身分関係が存し、被害者の死亡により甚大な精神的苦痛を受けた者は、加害者に対し直接に固有の慰藉料を請求しうる。

参考文献

[編集]
  • 加藤雅信『新民法体系5(第2版)事務管理・不当利得・不法行為』260頁、275頁

前条:
民法第710条
(財産以外の損害の賠償)
民法
第3編 債権
第5章 不法行為
次条:
民法第712条
(責任能力)
このページ「民法第711条」は、まだ書きかけです。加筆・訂正など、協力いただける皆様の編集を心からお待ちしております。また、ご意見などがありましたら、お気軽にトークページへどうぞ。