民法第710条
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条文[編集]
(財産以外の損害の賠償)
- 第710条
- 他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。
解説[編集]
「財産以外の損害」についても不法行為責任により賠償されるべき損害に含まれることを規定している。 財産以外の損害とは、慰謝料など、精神的損害のことをさすのが通常であるが、広く無形的な損害も含まれると解されているため、法人や幼児など精神的苦痛を感じないであろう法主体にも、本条により賠償の対象となる損害が発生すると理解されている。
慰謝料請求権の相続の可否[編集]
生命侵害の場合に、被害者に固有の慰謝料請求権が発生し、これが相続されるという構成(相続構成)を取るべきかどうかは争いがある。判例は相続肯定説をとっている。その根拠としては、不法行為と被害者の死亡との間には(たとえ即死であっても一瞬の)時間があり、その間に被害者が慰謝料請求をすることを観念できること、また、被害者が障害を負った場合には慰謝料請求権が発生し、死亡した場合には発生しないとすると、障害より死亡のほうが賠償額が小さくなりかねないこと、等が挙げられる。なお、かつての判例では被害者が死亡の前に慰謝料請求の意思を表示している必要があるとされたが、現在の判例は、被害者の意思表示の有無に関わらず慰謝料請求権が発生するとしている(最大判昭和42年11月1日民集21-9-2249)。
これに対し、生命侵害において被害者に固有の慰謝料請求権は相続されないとする見解(相続否定説)も有力である。その根拠としては、生命侵害の場合は711条が近親者に固有の慰謝料請求権を規定しているから、わざわざ被害者の慰謝料請求権まで相続させる必要はないこと、また相続肯定説をとると、被害者と生活関係上疎遠な相続人にも慰謝料が転がり込むこと(このことを称して「笑う相続人」という)、等が挙げられる。
関連条文[編集]
判例[編集]
- 損害賠償請求(最高裁判決 昭和38年2月1日)民法第709条
- 村道供用妨害排除請求(最高裁判決 昭和39年1月16日)地方自治法(昭和38年6月8日法律99号による改正前のもの)10条、民法第198条、民法第709条
- 謝罪広告並びに慰藉料請求(最高裁判決 昭和39年1月28日)民法第723条
- 名誉および信用毀損による損害賠償および慰藉料請求(最高裁判決 昭和41年6月23日)
- 慰藉料請求(最高裁判決 昭和42年11月1日)民法第711条
- 不法行為による慰藉料請求権は、被害者が生前に請求の意思を表明しなくても、相続の対象となる。
- 損害賠償請求(最高裁判決 昭和48年4月5日)民訴法186条/民事訴訟法第246条,民事訴訟法第117条,民訴法224条1項/民事訴訟法第113条,民法第709条,民法第722条2項
- 損害賠償(最高裁判決 昭和58年10月6日)民法第423条,民訴法(昭和54年法律第4号による改正前のもの)570条1項,民訴法(昭和54年法律第4号による改正前のもの)618条1項,破産法(昭和54年法律第5号による改正前のもの)6条3項,破産法(昭和54年法律第5号による改正前のもの)283条1項後段
- 損害賠償(最高裁判決 昭和62年7月10日)労働基準法第84条2項,労働者災害補償保険法第12条の4,労働者災害補償保険法第14条,労働者災害補償保険法第18条,厚生年金保険法第40条,厚生年金保険法(昭和60年法律第34号による改正前のもの)47条,民法第709条
- 損害賠償(最高裁判決 平成9年5月27日)民法第709条
- 損害賠償(最高裁判決 平成9年9月9日)国家賠償法第1条1項,憲法第51条,衆議院規則45条1項
- 損害賠償請求事件(最高裁判決 平成14年1月29日)民法第709条,刑法第230条の2第1項
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