特許法第105条の3
特許法第105条の3
特許権侵害訴訟における相当な損害額の認定について規定する。本条は実用新案法、意匠法、商標法において準用されている。
条文
[編集](相当な損害額の認定)
第105条の3 特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟において、損害が生じたことが認められる場合において、損害額を立証するために必要な事実を立証することが当該事実の性質上極めて困難であるときは、裁判所は、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、相当な損害額を認定することができる。
解説
[編集]特許権侵害訴訟における損害額の立証負担を軽減するための規定である。
特許権侵害による損害は、経済活動を通じて発生するため、損害の範囲およびその額を立証することは困難な場合がある。
従来、特許法上、102-104条、105条の規定により立証負担の軽減が図られていた。また、平成8年の民訴法の全面改正時には、民事一般の原則として、民訴248条においてその立証負担を軽減する措置が定められた。
しかし、たとえば、102条1項の規定により損害額を立証しようとしても、安価な侵害品の存在により商品の値下げを余儀なくされたときには、被侵害者の逸失利益の額の計算が複雑となる。また、同条2項の規定により損害額を立証しようとしても、他の特許権、製品のデザイン、商標など他の要因も顧客吸引力を発揮するから、特許権の寄与度の立証は困難である。 これらの場合のように計算式を立てることが困難であっても計算が不可能であるとまでは言えず、このため一義的に「損害の性質上……極めて困難」(民訴248条、太字による強調は筆者)であるとは言えず、同条の適用が困難であるとの指摘がなされていた。また、その販売数量を立証するには法外な費用がかかり、そのすべてを証明することが現実的ではない場合も想定される。
そこで、損害額を立証するために必要な事実を立証することが当該事実の性質上極めて困難であるときは、裁判所が口頭弁論の全趣旨および証拠調べの結果に基づいて相当な損害額を認定することができることとした。
いわゆる間接侵害(101条)は特許権または専用実施権の侵害とみなされる(同条柱書)。したがって、いわゆる間接侵害に基づく損害賠償請求の場合にも本条の趣旨から、本条の規定への適用があると考えられる[1]。また、明文上、独占的通常実施権者に本条の適用を認めてはいないが、少なくとも固有の損害賠償請求権は認められる上(民709条)[2]、特許権(専用実施権の設定範囲内であれば専用実施権も)を侵害していることには変わらず、また本条の趣旨は特許権侵害訴訟における損害額の立証負担の軽減にあることから、適用があるものと解すべきであろう(東京地方裁判所平成10年5月29日判決参照)。
なお、「損害額」の文言からすると、本条は本来損害賠償の請求を行う場合に適用されるものと考えられるが、不当利得返還請求の場合に類推適用を認めた例がある(東京地方裁判所平成21年2月18日判決、コンクリート構造物の機械施工方法事件)。
改正履歴
[編集]- 平成11年法律第41号 - 追加
関連項目
[編集]脚注
[編集]- ^ 民709条の規定に従って損害賠償を請求できる以上、仮に、いわゆる間接侵害の場合に、102条や103条の規定の適用が受けられないと解されるとしても、このことは何ら本条の適用の可否の解釈について影響を及ぼすとは考えにくい。
- ^ 独占状態が「法律上保護される利益」にあたるため。平成16年改正前にはこの文言はなかったが、民709条の適用があるものと考えられていた。
参考文献
[編集]特許庁編『工業所有権法(産業財産権法)逐条解説』〔第20版〕発明推進協会、2017、pp. 341-343
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