特許法第90条

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』

特許法第90, 91条

裁定の取消について規定する。本条は、実用新案法、意匠法で準用されている。

条文[編集]

(裁定の取消し)

第90条 特許庁長官は、第83条第2項の規定により通常実施権を設定すべき旨の裁定をした後に、裁定の理由の消滅その他の事由により当該裁定を維持することが適当でなくなつたとき、又は通常実施権の設定を受けた者が適当にその特許発明実施をしないときは、利害関係人の請求により又は職権で、裁定を取り消すことができる。

2 第84条第84条の2第85条第1項、第86条第1項及び第87条第1項の規定は前項の規定による裁定の取消しに、第85条第2項の規定は通常実施権の設定を受けた者が適当にその特許発明の実施をしない場合の前項の規定による裁定の取消しに準用する。

第91条 前条第1項の規定による裁定の取り消しがあつたときは、通常実施権は、その後消滅する。

解説[編集]

通常実施権を設定すべき旨の裁定の取消しについて規定する。


通常実施権を設定すべき旨の裁定を受けても、その者が特許発明を実施しないとき、裁定の理由が消滅したとき、などの理由により裁定を維持することが適当でなくなったときは、もはや通常実施権を設定しておく意義がないため裁定を取り消すことができることとした(90条1項)。このような趣旨から、取消しは利害関係人の請求をきっかけにしてだけでなく、職権によっても取り消すことができるものとしている(同項)。

この場合の手続は裁定をするときの手続と同様である(同条2項)。最初の提出書面は裁定請求書の代わりに裁定取消請求書(施規43条、様式60)であるが、請求書の副本が特許権者又は専用実施権者その他その特許に関し登録した権利を有する者に送達される(準84条)。指定期間内に、これらの者は裁定事件答弁書(施規44条、様式61)を提出でき(同条)、何らかの理由により裁定の取消しが請求されたことを知った通常実施権者は意見をを述べることができる(準84条の2)。工業所有権審議会の意見を聴いた上で(準85条1項、令7条)特許庁長官(公共の利益のための通常実施権の設定の裁定の取消しの場合は経済産業大臣)が裁定をする。裁定は理由を付した文書でなされ(準86条1項)、その謄本が当事者、当事者以外の者であってその特許に関し登録した権利を有するもの、意見を述べた通常実施権者に送達される(準87条1項)。

結論が裁定を取り消すか否かであるため86条2項、87条2項、88, 89条の規定を準用する必要はない。85条2項については、通常実施権の設定を受けた者が適当にその特許発明の実施をしない場合における裁定の取消しの際にのみ準用される(90条2項)。通常実施権の設定を受けた者が適当にその特許発明の実施をしないとしても、正当な理由(これについては特許法第85条#解説を参照のこと)があるときは、当初特許発明を実施しようとして通常実施権の裁定を受けたにもかかわらず、その理由により実施が妨げられているのであるから、そのような場合にまで通常実施権を取り消すのは問題であると考えられているためである。


裁定の取り消しがあったときは、裁定による通常実施権はその確定後に消滅する(91条)。


90, 91条は本来、不実施の場合の通常実施権の設定の裁定についての規定であるが、自己の特許発明の実施をするための通常実施権の設定の裁定の場合(92条7項)、公共の利益のための通常実施権の設定の場合(93条3項)でも本条が準用されているため、すべての通常実施権の設定の裁定について適用される。

改正履歴[編集]

90条

  • 平成6年法律第116号 - 裁定を取り消しできる条件を追加(1項)、この場合の準用規定の整備(2項)、送り仮名の追加(見出し)
  • 平成23年法律第63号 - 新設の84条の2の準用を追加(2項)

91条 - なし

平成6年改正は、TRIPS31条(g)の規定に従い、裁定を取り消すことができる条件を追加したものである。 なお、平成23年改正前は予告登録、職権登録の対象であった(改正前登令3条2号、16条5号)。

関連条文[編集]

前条:
89条
特許法
第4章 特許権 第1節 特許権
次条:
91条の2