本項は高等学校数学Cの「複素数平面」の解説です。
数学Ⅱの複素数と方程式及び三角関数を履修後に学習してください。数学Cのベクトル・二次曲線の先行履修を推奨します。また、数学Ⅲの積分法より前の履修が望ましいです。数学Cの行列とはどちらの順番で履修しても構いません。
複素数
(
は実数)は、複素数平面では直交座標 (a, b) に対応する。"Re" は実軸(real part)、"Im" は虚軸(imaginary part)を意味する。
虚数単位
を
を満たす数とする。2つの実数
によって
と表される数を複素数という。
座標平面上の点
と複素数
を同一視することで、複素数を座標平面上の点と考えることができる。この平面を複素数平面(complex plane)という。[1]
複素数平面において、
軸を実軸(real part)、
軸を虚軸(imaginary part)という。
複素数平面上で複素数
に対応する点
のことを
と表現し、「点
」と呼ぶこともある。
複素数の加法・減法・実数倍を複素数平面上で考えると、それぞれベクトルの加法・減法・実数倍に対応する。
すなわち、
を実数とすると、
- 点
は点
を実軸方向にc、虚軸方向にdだけ平行移動した点である。
- 点
は点
を実軸方向に-c、虚軸方向に-dだけ平行移動した点である。
- 点
は点
の原点からの距離をk倍に拡大した点である。
なお、
のとき、「実軸方向にa、虚軸方向にbだけ平行移動」を「
だけ平行移動」と表現する場合がある。
ベクトルと同様に、3点
が一直線上にある条件は、
となる実数
が存在することである。
複素数
について複素数
を
の共役複素数[2]といい、
で表す。
複素数
と複素数
は原点に対して対称であり、複素数
と複素数
は実軸に対して対称である。
つまり、次のことが成り立つ。
が実数
が純虚数
(ただし
)
また、
である。
- 問題
- 複素数
の実部と虚部をそれぞれ
を用いて表せ。
- 以下を証明せよ





上で証明した性質を用いると、数学Ⅱで習った「実数係数のn次方程式の解の一つが
ならば、
も方程式の解の一つである」ことを証明できる。
複素数平面において、複素数
から原点までの距離を絶対値といい
で表す。三平方の定理より
である。
のとき、実数の絶対値で考えた時と同じ結果になることがわかる。
2点
間の距離(すなわち線分
の長さ
)を考える。平行移動しても線分の長さは変わらないので、点
を原点
に移す平行移動を考えると、
だけ平行移動するので、点
は点
へと移る。
つまり、
である。
である。
が実数のとき、
なので実数の絶対値の2乗の計算と一致する。

に対応する点。
上記のように、複素数平面では、複素数の実部と虚部をそれぞれ平面上の点の直交座標に対応させている。ところで、平面上の点の位置の表し方として、直交座標の他に極座標があった。点の位置を極座標で表すことに対応する複素数の表し方を、極形式という。直交座標と極座標は

で変換することができるのであった。つまり、極形式とは次のような形の複素数の表現である。

ここで、
を複素数
の偏角といい、
で表す。また、
である。
は原点、
、
を頂点とする三角形の原点の角度を表している。
逆三角関数を知っている読者は「偏角は
で求められる」と思うであろうが、逆正接関数の値域は
であり、偏角は基本的に
あるいは
の範囲で表すため、場合分けが必要になってしまい面倒である。なので、偏角を求めるときは素直に
の値からその値をとる
を求めよう。
の極形式は、
である。
つまり、
が成り立つ。
極形式で複素数を表すと、複素数の積が次のように簡単に計算できる。
,
とすると、

- ただし、三行目から四行目への式変形は三角形の加法定理を使った。
- 次に複素数の商を計算してみよう。
とすると、

- なので、

- である。
- これから、複素数
に複素数
をかける操作は、複素数
の原点からの距離を
倍し、原点周りに
だけ回転した点に移す操作であると、複素数
を複素数
で割る操作は、複素数
の原点からの距離を
倍し、原点周りに
だけ回転した点に移す操作であると、幾何学的に理解できる。
- また、この性質から以下の性質が直ちに導かれる。
-




整数
に対し、複素数
の
乗は、

となることが知られている。これを ド・モアブルの定理 という。数学Iで習ったド・モルガンの法則と混同しないように注意。
これを証明しよう。
まず、
の場合を数学的帰納法で証明する。
のとき、
- (左辺)

- (右辺)

である。
とし、
のとき

が成り立つと仮定すると

となり、
の場合も証明できた。
のとき、

したがって、
が整数のときド・モアブルの定理が成り立つことが証明できた。
ド・モアブルの定理を用いて、
についての
次方程式

の複素数解をすべて求めてみよう。まず、
が正の実数のときを考える。
と極形式で表すとき、ド・モアブルの定理より
である。正の実数
の絶対値は
、偏角は0であることに注意すると、
を満たすとき、

でなければならないことがわかる。
に注意してこの式を解くと、
![{\displaystyle r={\sqrt[{n}]{a}},\ \theta ={\frac {2k\pi }{n}}}](https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/1fc24877d6c9447ab7ec9356e41082429d4cc16f)
であるから、整数
を用いて
![{\displaystyle z={\sqrt[{n}]{a}}\left(\cos {\frac {2k\pi }{n}}+i\sin {\frac {2k\pi }{n}}\right)}](https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/aa573523baa036ed2fb131cf597799746fae117d)
と表される数が複素数解の全てである。
一般の複素数
に対して、
についての
次方程式

を考えると、全く同様の計算により解は整数
を用いて
![{\displaystyle z={\sqrt[{n}]{|\alpha |}}\left(\cos {\frac {\arg \alpha +2k\pi }{n}}+i\sin {\frac {\arg \alpha +2k\pi }{n}}\right)}](https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/e427b488cea6599f69632c5285afa8a0ea266e04)
と表される。
偏角が
の整数倍ずれるだけの複素数は同じ複素数であることに注意すると、いずれの場合も異なる解はちょうど
個存在することがわかる。その
個の解を複素数平面上で考えると、
の
乗根は原点を中心とする正
角形を描くことが確かめられる。
このことを数学的に確かめてみよう。
の解のうち、
乗して初めて
となるものを
の原始
乗根という。
1の原始
乗根
のうち、
を除く各
について以下が成り立つ。
①
のとき、
は1の原始
乗根の一つであり、各
は点1を頂点に持ち単位円に内接する正
角形を描く。
②
のとき、
は1の原始
乗根ではない。
①の前半と②

・・・(*)
- (1)

- 故に、
は1の原始
乗根である。
- (2)


のとき


- 故に、
は1の原始
乗根でない。
①の後半
- 1の原始
乗根
について、
は順に
であり、
- 隣り合う2つの偏角の差は全て
であり、任意の2つの偏角の差は
と表される。
と仮定すると

- これは
に反する。
- よって
より任意の2つの偏角の差は
の整数倍にならず、各
は相異なることから各
は点1を頂点に持ち単位円に内接する正
角形を描く。
Q.E.D.
これに関連して、以下が成り立つ。
③単位円に内接する正
角形の1つの頂点から他の頂点に引いた
本の線分の長さの積は
に等しい。
- 1の
乗根の一つを
とおく。
- 各
は相異なり、
より、各
は
次方程式
の解である。
より、各
は方程式
の解である。
- よって
・・・(@)と因数分解できる。
を代入すると
- 両辺の絶対値をとると複素数の積の絶対値の性質より

- 複素数平面上の点
を考えると、
より

- ここで①から各
は点1を頂点に持ち単位円に内接する正
角形を描くため、③が成り立つことが示された。
が1の原始n乗根であるときは(@)が常に成り立ち、特にnが素数のときは全ての
について(@)が成り立つ。
なお、1の原始
乗根の個数はオイラーのトーシェント関数
の値に等しいことが知られている。
ここでは、複素数平面を利用して幾何学的な問題を解くことを考える。
とすると、複素数平面とベクトルの対応から点
の位置ベクトルはそれぞれ
となる。
このとき、線分
を
に内分する点、外分する点の位置ベクトルはそれぞれ
と求まる。
もう一度ベクトルと複素数平面の対応を考えると、それぞれ
と変形できる。
つまり、線分
を
に内分する点、外分する点を表す複素数は
である。
中点・重心に関しても位置ベクトルと同様の公式が成り立つ。
を複素数、
を正の実数とする。 方程式
を満たす複素数
の軌跡は、
を中心とし、
を半径とする円である。これは円のベクトル方程式の複素数表示である。
を複素数とする、方程式
を満たす複素数
の軌跡は、
を通る線分の垂直二等分線である。
異なる2点からの距離の比がm:nである点全体の集合はm=nのときは2点を結ぶ線分の垂直二等分線であるが、m≠nのときは2点を直径の両端に持つ円となる。この円をアポロニウスの円という。
例えば、方程式
を満たす点zの集合は、






点1を中心とする半径2の円
と求まる。
この円は点-3, 点0からの距離の比が2:1なアポロニウスの円である。
複素数平面上の点
に対し、
はベクトル
とベクトル
のなす角である。特に、
が実数のときベクトル
とベクトル
は平行。
が純虚数のときはベクトル
とベクトル
は垂直である。
異なる3点
に対し、半直線
から半直線
までの正の回転角を
のように書く(つまり、
分の摺れを無視すれば
)。点
を原点に移す平行移動により、点
はそれぞれ点
に移る。よって
と求まる。
これと平行移動を組み合わせることで、上で述べた条件は、
と表せる。
が描く図形の問題は入試でよく見られる。
与えられた条件からzの方程式を導き、wの関係式に変形して解いていく。
例えば、zが点
を通り実軸に垂直な直線上を動くとき、点zは原点と点1を結ぶ線分の垂直二等分線上を動くので、
である。
より
なので、
である。よって、点wは原点を除いた、点1を中心とする半径1の円を描く。
- 発展:反転
中心
, 半径
の円
を考える。
と異なる点
に対し、
を端点とする半直線
上の点
を、
となるように定める。このとき、
の対応を円
に関する反転、この円
を反転円、点
を点
の鏡像という。また、点
の軌跡が図形
であるとき、
の軌跡である図形
を
の円
に関する反形という。
反転により、
内部の点は外部に、外部の点は内部に移される。円周上の点は反転で移されない。中心の移動先は無限遠点である。
鏡像は、以下のように作図することができる。
- 点
を通り
に垂直な直線と円の交点を
とする。
- 点
に於ける円の接線と半直線
の交点が
である。



点
が外部にあるときは、点
から円に引いた接線の接点から
に下した垂線の足が
である。
円や直線の反形には、以下のような性質がある。
円や直線の反形の性質
①反転円の中心
を通る円の反形は、
を通らない直線。
②反転円の中心
を通らない直線の反形は、
を通る円。
③反転円の中心
を通らない円の反形は、
を通らない円。
④反転円の中心
を通る直線の反形は、その直線自身。
- 反転円の方程式を
とする。
- 点
の鏡像を点
とすると、3点
は
を端点とする同一半直線上にある。
- よって、
となる実数
が存在し、反転の定義から
。
- 故に
(実数なので適する)なので
。
- これは
・・・(*)と同値である。
- ここで
の軌跡が反転前の図形であるとすると、0でない異なる複素数
及び実数
を用いて各図形は以下のように表される。
- ①
、②
、③
、④
- 各方程式に(*)を代入すると、
- ①
の両辺に
を掛けて
。
- 両辺複素共軛をとって
。
- これは原点と点
の垂直二等分線を表すので、点
の軌跡則ち反形は原点を通らない直線である。
- ②
の両辺に
を掛けて
。
- 両辺複素共軛をとって
。
- これは原点と点
を通る円を表すので、点
の軌跡則ち反形は原点を通る円である。
- ③
の両辺に
を掛けて変形して
。
- 両辺複素共軛をとって
。
- これは直径の両端を点
とするアポロニウスの円なので、点
の軌跡則ち反形は原点を通らない円である。
- ④
の両辺に
を掛けて変形して
。
- これは
(
は実数)と書けるので、点
の軌跡則ち反形は元の直線自身である。
Q.E.D
先述の
の例は②のパターンに当たる。但し、
より反形から原点が除かれる。
- 発展:メビウス変換
複素定数
を用いて次の式で表される
の変換をメビウス変換(一次分数変換)という。
・・・(@)(但し、メビウス行列
は正則とする。)
メビウス変換は一次変換やアフィン変換よりも守備範囲の広い変換であり、基本的な変換(平行移動、回転移動、相位変換、反転、実軸対称移動)の合成で表される。
- [1]
のとき
- (@)の右辺の分母分子を
で割って
- よって、
から
を求めるためには以下の①~④の変換を順次行えばよい。
- ①

- これは
を
だけ平行移動する操作である。
- ②

- これは
の単位円に関する反転と実軸に関する対称移動の合成である。
- ③

- これは定数部分を
とおくと、原点を中心とした回転角
の回転移動と、
倍だけ拡大・縮小する相位変換の組み合わせである。
- ④

- これは
だけの平行移動である。
- [2]
のとき
より、
- よって(@)の右辺は
となり、[1]の①の型、③の型の変換の合成であることがわかる。
Q.E.D
直線を半径が∞の円と捉えると、メビウス変換は複素数平面上の円を円に移す変換といえる。
- 上で述べたように、メビウス変換は①~④の変換の合成である。
- ①、③、④は全て相似変換なので円が円に移ることは明らかである。
- ②について、実軸に関する対称移動は合同変換なので円が円に移ることは明らかである。
- 反転は先述の性質より円・直線を直線・円に移すが、ここでは直線も円に含めるので、円を円に移す変換といえる。
Q.E.D
なお、後述の「異なる4点が同一円周上にある条件」からも証明できる。
- 参考:ジューコフスキー変換
正の実数
を用いて
と表される変換をジューコフスキー変換という。
この変換により、円
は
のとき、2点
を結ぶ長さ4aの線分
のとき、長軸の長さ
、短軸の長さ
の楕円
に移される。
点
を中心とし点
を通る円
は、
のジューコフスキー変換により曲線
に移される(証明略)。
ここで、
としたこの図形は、飛行機の翼に酷似した形である。
ジューコフスキー変換の逆変換を用いることで、この図形の周りの気流を円
の周りの気流として計算することができる。よって、気流が翼に生じさせる揚力を流体力学の知識から計算できる。このような理論は、飛行機の安全な運航のための基礎になっている。
複素数
に複素数
をかけた複素数
は、複素数
を原点を中心に
だけ回転した点を表す。これはド・モアブルの定理を用いて証明できる。
「負の数に負の数を掛けたら正の数になる」という中学1年生で習った事実の数学的な説明はこの定理を用いて初めてできる。
一般に、複素数
を複素数
を中心に
だけ回転した点
は、
である。
の形にすると覚えやすいだろう。
複素数
に
を掛ける操作は
の位置ベクトルに回転行列
を掛ける一次変換に対応する。
一般に複素数
は二次行列
に対応することが知られている。
回転移動の計算は、行列を用いる場合に比べて複素数を用いた方が楽な場合が多い。
特に、回転の中心が原点ではない場合、行列の場合は余計な次元を追加して計算する必要がある(詳しくはアフィン変換を参照)。それに比べ、複素数の場合は比較的単純な計算で一般の点を中心とした回転を求めることができる。
- 発展:図形の回転
図形は点の集合なので、図形の回転移動は点の回転移動に帰結する。つまり、点の座標が定数から変数に変わるだけである。図形を表す方程式がわかっていれば、回転移動した図形を表す方程式を求められる。
回転前の点をX(x,y)、回転後の点をY(x', y')とする。
このとき、「Xをθだけ回転したらYに移った」と考えると最終的に出てくる式はそれぞれ左辺にx',y'、右辺に(xの式),(yの式)が来る形となる。
xとyの関係式(回転前の図形を表す方程式)に代入するためにはそれぞれ左辺にx,y、右辺に(x'の式),(y'の式)が来る形にする方が望ましい。
そのため、発想を逆転させて「Yを-θだけ回転したらXに移った」と考える。
こうすると、最終的に出てくる式はそれぞれ左辺にx,y、右辺に(x'の式),(y'の式)が来る形となる。
具体的に計算すると、


この式を図形の方程式に代入すると、回転後の図形の方程式となる。
陽関数
は陰関数表示
へと変形できる。
図形の回転
図形を表す方程式が
であるとき、原点を中心に
だけ回転させた図形の方程式は
である。
記述式の問題の場合、上の公式に代入するのではなく、先ほど述べた手順で式変形して求めるのが望ましい。
ここでは、これまでの幾何学で習ってきた定理や性質を複素数平面の視点から見ていく。
まずは、幾何的条件の複素数表現を復習しておく。
とする。
図形の性質の複素数表現
| 図形の条件 |
複素数表現 |
(参考)ベクトル表現
|
線分の長さ
 |
 |
|
角の大きさ
 |
 |
|
共線条件 3点 が同一直線上 |
 |
|
垂直条件
 |
 |
|
平行移動
方向に
方向に |
移動前の点 移動後の点 として
 |
移動前の点 移動後の点 として
|
回転移動 原点を中心とする 回転 |
 |
|
平行移動+回転移動 点 を中心とする 回転 |
 |
|
- 方程式の一般形
点
が点
を通る直線上にあるとき、共線条件から

であり、分母を払うと
・・・(@)
に就いて整理すると

このとき定数項は

より、純虚数または0である。
よって、複素数平面上で異なる2点を通る直線の方程式は
(
は0でない複素数、
は0または純虚数)
と表される。
ここで
とすると

より、この方程式は
として

と表される。
これを、複素数平面に於ける直線の方程式の一般形という。
演習問題
点
の二等分線の方程式を一般形で表せ。
点
が点
からの距離の比
であるとき、
の軌跡はアポロニウスの円であり、その方程式は
であった。
両辺二乗すると
であり、整理して
ここで
とおくと
であり、

これを、複素数平面に於ける円の方程式の一般形という。
逆に、方程式
が一般に表す図形について考察する。
のとき、この方程式は直線の方程式の一般形に等しくなるので直線を表す。
のとき、



- よってこの図形は、
のとき点
を中心とする半径
の円
のとき点
のとき半径
の虚円
- を表す。
- 中線定理
中線定理とは、「
に於いて辺
の中点を
とすると
」という定理であった。これを複素数平面で証明する。
とすると
である。
- よって

- 一方、

- 従って、
//
なお、これはベクトルや座標平面で考えると同じ(
を始点にとる)方法ながら記述量が少なく済む。他に余弦定理を用いた証明が有名である。
- 中点連結定理
中線連結定理とは、「
に於いて辺
の中点をそれぞれ
とすると
」という定理であった。これを複素数平面で証明する。
とすると
である。
- よって
なので平行条件より
を計算すると、

- 故に
//
- トレミーの定理
トレミーの定理とは、「円に内接する四角形
に就いて、
」という定理であった。これを複素数平面で証明する。
とする。
- 円に内接する四角形の性質より
なので

- よって分子・分母をそれぞれ
とおくと
より3点
はこの順に一直線上にある。
- 故に

- ここで
より


//
- 五心
の五心とは内心
、外心
、重心
、垂心
、傍心
のことであった。
重心
は位置ベクトルのときと同様にして
と容易に求まる。
それでは、他の4心の複素数表現はどうなるであろうか?
まずは、内心の複素数表示を求める。
について、
とおく。
の二等分線と辺
の交点を
とおくと、角の二等分線定理より

- 故に

- 内心
は
の二等分線と線分
の交点であるから、

- よって
は線分
を
に内分するので、

これは内心の位置ベクトル表示に等しい。
次に、外心の複素数表示を求める。
について、
- 線分
の垂直二等分線上の点
は

- を満たす。
- 同様に、線分
の垂直二等分線上の点
は

- を満たす。
- 外心
は
が一致する場合なので、

の項を消去して

- ここで、
とすると
より
であるが、
- これは3点
が同一直線上にある場合なので三角形を成さない。
- 故に
なので

次に垂心の複素数表示を求める。
について、
- 垂心
は
より

- を満たす。

- ここから
を消去して

ここで外心の複素数表示を用いると、
と非常に綺麗な形になる。
更に変形すると
であり、「重心は外心と垂心を結んだ線分を1:2に内分する」という性質が現れる。ここで、重心・外心・垂心が乗る一直線をオイラー線といった。つまり、オイラー線の存在証明も複素数平面上でできたことになる。
最後に、傍心の複素数表示を求める。
について、
- 辺
と
の二等分線の交点を
とすると角の二等分線定理より

の二等分線は
からの距離の比が一定なので、
の軌跡は
の二等分線そのものである。
- 辺
の延長と
の外角の二等分線の交点を
とすると角の二等分線定理より

- 同様に
の軌跡は
の外角の二等分線そのものである。
- 傍心
は
が一致する場合なので、

- 両式の比をとって

- ここで
とメビウス変換すると

- 傍心の性質から
ととれるので、

- 点
に関する傍心も同様。
なお、加重平均法を知っていれば、位置ベクトル表示と同じ形の表示も得られる。
- チェバの定理
チェバの定理とは、「
に於いて、点
がそれぞれ辺
上に存在して線分
が1点で交わる必要十分条件は
」という定理であった。これを複素数平面上で証明する。
について、
がそれぞれ点
がそれぞれ辺
上に存在するとき位置ベクトルと同様に考えて
・・・(*)
- 線分
の方程式は(@)よりそれぞれ

- 線分
が同一点で交わる必要十分条件は、この三元連立一次方程式が線型従属なことである。
- よって

- サラスの公式より

- ここで各
を(*)の右辺で置換すると
より変形して
を得る。
- よって
より

- ここで各分数は各線分の内分比となっているので、
が成り立つ//
- メネラウスの定理
メネラウスの定理とは、「
と直線
に於いて、半直線
と
の交点をそれぞれ
としたとき、
。逆に
となる
は一直線上にある。」という定理であった。これを複素数平面で証明する。
とおく。
- (順定理の証明)
の方向ベクトルに相当する複素数を
とするとパラメータ
を用いて

- よって

- ここで「
が一直線上にある」という仮定から

- が成り立つので、
//
- (逆定理の証明)
- 直線
と半直線
の交点を
とする。
- このとき順定理より
であり、仮定
と比べると

- ここで
より
、則ち
は
に一致し、3点
は一直線上にある//
- 方冪の定理
方冪の定理とは、「点
で交わる2直線
に就て、4点
の共円条件は
。また、直線
上の点
から引いた直線が
を通る円の点
に於ける接線である必要十分条件は
」という定理であった。これを複素数平面で証明する。
とする。
- 直線
の方程式を
とおく。
- 円
の中心・半径をそれぞれ
とすると円と直線の交点は
を満たす。


- これは実数係数の二次方程式であり、初期条件から2実数解
を持つので解と係数の関係から

は
と
の交点に対応するので
が成り立ち、

- 同様に直線
の方程式を
とおくと
なので、

- 逆定理の証明はこの過程を逆に辿ればよい。
- また、
の場合を考えれば
も成り立つ//
- 相似条件
図形
が平行移動・相位変換・回転移動で図形
に一致するとき、
は同じ向きに相似であるという。鏡映も込みで一致するとき、逆向きに相似であるという。
ここでは、三角形に就てそれぞれの相似条件がどう表されるか見ていく。
とする。
∽
のとき、相似比が対応辺の比となるので

- 同じ向きに相似であるとき、

- より絶対値と偏角の条件から
//
- 逆向きに相似であるとき、

- より絶対値と偏角の条件から
//
なお、平行移動・相位変換・回転移動は複素数平面上でアフィン変換
で表される。鏡映は共軛に対応するので、鏡映を含むアフィン変換は
と表せる。
図形の変換は図形を構成する各点の変換の集合と考えられるので、

それぞれから
を消去した式の比をとると

となり、これは再帰則より先ほどの式と同値である。
- 四角形が円に内接する条件
4点
がこの順で同一円周上にあるとき、共円条件は「円の内接四角形
に就て円周角の定理とその逆が成り立つ」ことを利用すれば求まる。
とする。
- 四角形
が円に内接する
(
円周角の定理とその逆)



//
ここで最後の変形は、
を用いた。
一般には、
- 4点
が同一円周上にある
である。
- [1]
、
の順にあるときは先程と同様に示される。
- [2]
の順に円周上にあるときは、対角定理を用いればよい。
- 四角形
が円に内接する
(
対角定理とその逆)




- よって全ての場合に就て

最後の変形には
を用いた。
なお、
のように、比に対して更に比をとったものを複比(クロス比)という。複比は一般に、
のように書く。
この記法を用いると、
- 4点
が同一円周上にある
と簡潔に表せる(
の逆数が実数なので
は実数である)。
直観的には、この条件は「任意の円に対して変換後の図形が実軸になるような、あるメビウス変換が存在する」ことと理解される。
- ^ 複素平面やガウス平面と呼ばれることもある。
- ^ 本来は「共軛」と書く。