不動産登記法第105条

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条文[編集]

 (仮登記)
第105条 仮登記は、次に掲げる場合にすることができる。

  1. 第3条各号に掲げる権利について保存等があった場合において、当該保存等に係る登記の申請をするために登記所に対し提供しなければならない情報であって、第25条第九号の申請情報と併せて提供しなければならないものとされているもののうち法務省令で定めるものを提供することができないとき。
  2. 第3条各号に掲げる権利の設定、移転、変更又は消滅に関して請求権(始期付き又は停止条件付きのものその他将来確定することが見込まれるものを含む。)を保全しようとするとき。

解説[編集]

本条の趣旨[編集]

本条は、仮登記をすることができること及びその要件を定めた規定である。

仮登記の意義[編集]

仮登記とは、民法に定められた本登記に対して、将来行われるべき本登記の順位を保全するためにあらかじめ行う登記のことで、手続上又は実体上の要件を具備していない場合に、行われる予備的な登記である。 仮登記をできる場合には

  1. 登記すべき権利変動はすでに生じているが、登記識別情報又は第三者の許可、同意若しくは承諾を証する情報を提供することができない場合(本条1項、不動産登記規則第175条
  2. 権利変動は生じていないが、将来権利変動を生じさせる請求権がすでに存在していて、それを保全しようとする場合(本条2項)
  3. 権利変動それ自体が始期付き又は停止条件付その他将来に置いて確定すべきものである場合

の3種類がある。3番目は条文にはない登記であるが、権利変動が未だ生じていないものに関する登記であって、2号仮登記(本条2号による仮登記をいう、以下同じ)として認められている。その例としては、農地法3条の都道府県知事の許可や仮登記や売買代金完済を条件に所有権が移転するとする停止条件付所有権移転などがある。

仮登記の諸問題[編集]

所有権保存の登記の仮登記[編集]

所有権保存の登記は、単独申請によるのが原則であるから、通常はこれを認める実益はない。しかし、表題部所有者が真の所有者でない場合には、真の所有者には表題部所有者が保存登記することを早期に阻止するという実益があるため、この場合にのみ認められている。もっとも、この仮登記のためには、登記の真性を担保するため仮登記を命ずる処分(108条)を得て申請すべきものとされ、それ以外には認められていない。

仮登記された権利の移転[編集]

先例は、1号仮登記(本条1号による仮登記をいう、以下同じ)のされた所有権の移転の登記は主登記による仮登記をもってし、2号仮登記のされた所有権移転請求権の移転の登記は当該仮登記の付記登記により、その請求権の移転請求権保全の仮登記は当該仮登記に付記して仮登記をもってなすべきであるとしている(大正6年6月8日民1043号局長回答大正13年6月13日民事局長回答、昭和36年12月27日民甲1600号局長通達)。

仮登記された所有権に対する制限物権設定の仮登記[編集]

仮登記された所有権の所有権者は、実体法上の所有権を有している以上それに制限物権の設定ができる。ただし、登記上はあくまで仮登記であるのだから、これに対する制限物権の登記は仮登記としてすることができるに止まる(昭和39年2月27日民甲204号局長通達)。

仮登記がされた所有権移転請求権の移転の対抗要件[編集]

所有権移転請求権は債権であるから、これが仮登記されている場合に、所有権移転請求権を他に移転した場合の対抗要件は、権利移転の付記登記なのかそれとも債権譲渡の対抗要件(民法467条)なのかが問題となるが、判例は付記登記であるとした(最判昭和35年11月24日民集第14巻13号2853頁)

登記識別情報又は第三者の許可、同意若しくは承諾を証する情報の要否[編集]

1号仮登記において登記識別情報又は第三者の許可、同意若しくは承諾を証する情報の提供を要しないのは自明であるが、2号仮登記においては明らかではない。先例は仮登記を共同申請する場合においては、1号仮登記・2号仮登記のいずれについても、これらを要しないものとした(昭和39年3月3日民甲291号局長通達)。

将来において確定すべき請求権[編集]

2号仮登記は、将来登記されるべき権利変動の請求権を保全するためにされる仮登記であるが、この請求権には始期付き又は停止条件付きのものその他将来確定することが見込まれるものも許容されている。しかし、この将来における確定の見込みの程度は、ただ漫然と将来生ずる可能性があるという程度では足りない。判例は、推定相続人が相続開始前に遺留分減殺請求権を理由に受贈者に対して当該受贈物件について所有権移転請求権保全の仮登記を求めた件でこれを否定し(大判大正6年7月18日民録23輯1161頁)、また先例は、離婚前に財産分与の予約を登記原因として所有権移転請求権の仮登記を申請した件で、これを否定した(昭和57年1月16日民三第251号局長回答)。一方、判例は、当事者が一定の時期までに金銭の授受を了して消費貸借を成立させることとして、これを担保するため抵当権を設定する旨を約したという場合には、債権者は貸借成立以前にこの抵当権設定請求権を保全するために請求権保全の仮登記をすることができるとしている(大判昭和6年2月27日新聞3246号13頁)。

買戻しの特約の登記[編集]

買戻しの特約の登記は、所有権移転の登記1と同時に登記することで第三者対抗力を有する(民法581条)のであるが、先例は所有権移転の登記が仮登記である場合には、この仮登記に付記した仮登記をもってするのであり、かつ買戻しの特約の登記は所有権移転の仮登記と同時である必要はないとしている(昭和36年5月30日民甲1257号局長通達)。

参照条文[編集]

参照判例[編集]

最判昭和35年11月24日民集第14巻13号2853頁


前条:
不動産登記法第104条の2
(権利の変更の登記等の特則)
不動産登記法
第4章 登記手続

第3節 権利に関する登記

第6款 仮登記
次条:
不動産登記法第106条
(権利の変更の登記等の特則)


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