制御と振動の数学/Laplace 変換/有理関数の原像/有理関数の原像の求め方

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』

前項で述べたように,真の分数式は,

のような項の和であらわされた.ところで,

と変形できるから、真分数は、

ような項の 1 次結合で表されることが分かる.これらの原像を求めることができれば,我々の問題は解けたことになるのである. ところで 第一移動定理

を想い起こせば,

の原像が計算できればよい.第 1 のものの原像,および第 2, 第 3 のものの に対する原像はすでに分かっているから,

の原像が求まればよいことになる.もっともこれらの原像は形式的には,

および,

と知られているのであるが,この右辺の合成積を計算するのがやっかいである.その簡単な計算法が見つかればよい.


まず合成積の微分の公式

を思い出そう.そうすれば

とおくとき,

(2.32b)
[1]

となるから,

(2.32c)

を得る.この結果は は明らか[2]であるから,対応 からも直ちに出る. の場合にすでに用いた技法である.

さて,後で必要になるもう一つの公式を導いておこう.上述の記号を用いると,

であるが,これをもう一度微分する.

[3]

よって次の結果を得る.

公式 1

(2.33)
[4]

さて,合成積の微分の公式は,通常の積の微分の構造:

を持っていない.同様な構造を持つものは,単に を掛けるという演算である.

補題 2.3

証明

合成積に対しては を掛けるという演算が微分の構造を持っているので,次のような計算ができる.

とおくと,

(2.33b)

を得る[5].とくに,

のときは,

(2.34)

となる.


なぜ合成積に対しては を掛けることが微分することを意味するのかは,Laplace 変換の像関数の世界で考えてみれば納得できるが,それは後ほど説明することにして,本題に入ろう.

公式 2

とおけば,
(1)
(2.34b)
(2)

証明

(1) を示せばよい[6]

(2.21)

であったから,

(2.32b)

となる.これに式 (2.34) を考慮すれば,

[7]
を得る.


(2) 上の結果 (1) を二度用いると、

となるが,これと式(2.33) の結果,

を等置すれば,求める結果を得る.


例54

から, を計算すると,

となる.



  1. ^ 合成積の微分の公式にて, とおくと,,また
  2. ^
  3. ^
  4. ^ 漸化式の終端では,
  5. ^ 数学的帰納法にて証明しておく.
    補題 2.3
    例19(i)
    …①
    補題 2.3

    例19(i)および(iii)
    …② 例19(ii)を援用
    今, のとき,…③
    補題 2.3

    例19(ii)を援用
    例19(iii)
    例19(i)
    例19(ii)を援用
    …④例19(ii)を援用
    ②③④より について③が成立する.
    また、特に と定義すれば について③が成立する.合成積 * は二項間の演算として定義しているのだから,①は必要な記述と考える.
  6. ^ なぜならば式(2.32c)より.
  7. ^ 式(2.34) より,
    両辺を で割ると,例19(ii)より,