民法第621条
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条文
[編集](賃借人の原状回復義務)
- 第621条
- 賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
改正経緯
[編集]2017年改正
[編集]改正前条項
(損害賠償及び費用の償還の請求権についての期間の制限)
- 第600条の規定は、賃貸借について準用する。
改正により第622条に継承された。
2017年改正前
[編集]2004年(平成16年)の民法と破産法の改正前には「賃借人の破産による解約の申し入れ」が定められていたが、同改正により廃止、もともと民法第622条におかれていたものの条数が一つ繰り上がった。
解説
[編集]賃借人の原状回復義務について定める。住宅の賃貸において、しばしば、問題となる事項であり、かつ、比較的少額であるので訴訟で解決する事例が少なく判例に期待することもできない事項であった(原状回復の特約「敷引特約」の有効性について、最高裁判決 平成17年12月16日、最高裁判決 平成23年07月12日)。2017年改正において、これを明文化した。
- 賃貸借が終了した時は、借主は貸借物に損傷が生じた場合には、その損傷を原状に回復する義務がある。
- 当該損傷が、借主の責任でない場合、原状回復義務はない。
以上は、通常の契約理論からの帰結である。重要なのは、以下の箇所である。
- 通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。
- いわゆる、「経年劣化」といわれる、通常の使用等に伴う貸借物の損耗等については、貸主が、それを見込んで賃料に含めておくべきものであり、契約終了に際して借主に新たに要求することはできないことを定める。従前(現在においても)、借主の退去時に、壁紙の交換等の名目で、敷金が返済されなかったり、退去費用を求められたりしたことに対する有力な対抗規定となる。
参照条文
[編集]判例
[編集]- 取立債権請求事件(最高裁判決 平成17年12月16日)民法第597条,民法第598条,民法第616条
- 賃借建物の通常の使用に伴い生ずる損耗について賃借人が原状回復義務を負う場合
- 賃借建物の通常の使用に伴い生ずる損耗について賃借人が原状回復義務を負うためには,賃借人が補修費用を負担することになる上記損耗の範囲につき,賃貸借契約書自体に具体的に明記されているか,賃貸人が口頭により説明し,賃借人がその旨を明確に認識して,それを合意の内容としたものと認められるなど,その旨の特約が明確に合意されていることが必要である。
- 賃借建物の通常の使用に伴い生ずる損耗について賃借人が原状回復義務を負う旨の特約が成立していないとされた事例
- 建物賃貸借契約書の原状回復に関する条項には,賃借人が補修費用を負担することになる賃借建物の通常の使用に伴い生ずる損耗の範囲が具体的に明記されておらず,同条項において引用する修繕費負担区分表の賃借人が補修費用を負担する補修対象部分の記載は,上記損耗を含む趣旨であることが一義的に明白であるとはいえず,賃貸人が行った入居説明会における原状回復に関する説明でも,上記の範囲を明らかにする説明はなかったという事情の下においては,賃借人が上記損耗について原状回復義務を負う旨の特約が成立しているとはいえない。
- 賃借建物の通常の使用に伴い生ずる損耗について賃借人が原状回復義務を負う場合
- 保証金返還請求事件(最高裁判決 平成23年07月12日)消費者契約法第10条
- 消費者契約である居住用建物の賃貸借契約に付されたいわゆる敷引特約が消費者契約法10条により無効となる場合
- 消費者契約である居住用建物の賃貸借契約に付されたいわゆる敷引特約は,信義則に反して賃借人の利益を一方的に害するものであると直ちにいうことはできないが,賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生ずる損耗や経年により自然に生ずる損耗の補修費用として通常想定される額,賃料の額,礼金等他の一時金の授受の有無及びその額等に照らし,敷引金の額が高額に過ぎると評価すべきものであるときは,当該賃料が近傍同種の建物の賃料相場に比して大幅に低額であるなど特段の事情のない限り,信義則に反して消費者である賃借人の利益を一方的に害するものであって,消費者契約法10条により無効となる。
- 消費者契約である居住用建物の賃貸借契約に付されたいわゆる敷引特約が消費者契約法10条により無効ということはできないとされた事例
- 消費者契約である居住用建物の賃貸借契約に付されたいわゆる敷引特約は,保証金から控除されるいわゆる敷引金の額が賃料月額の3.5倍程度にとどまっており,上記敷引金の額が近傍同種の建物に係る賃貸借契約に付された敷引特約における敷引金の相場に比して大幅に高額であることはうかがわれないなど判示の事実関係の下では,消費者契約法10条により無効であるということはできない。
- 消費者契約である居住用建物の賃貸借契約に付されたいわゆる敷引特約が消費者契約法10条により無効となる場合
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