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民法第714条

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』

法学民事法民法コンメンタール民法第3編 債権 (コンメンタール民法)

条文

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(責任無能力者の監督義務者等の責任)

第714条
  1. 前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
  2. 監督義務者に代わって責任無能力者を監督する者も、前項の責任を負う。

解説

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第712条に定める、責任無能力者(以下、「無能力者」と略)の不法行為につき、監督義務者(及びその代行者)の責任を定めた規定。
前二条(第712条第713条)において、無能力者の不法行為について責任がないものとするが、無能力者を監督すべきものが、監督の不備により、無能力者の不法行為を引き起こしたと判断される場合には、同等の責任を負う旨を定めている。
法文上は、監督者責任は無能力者が責任を追わない場合にのみ生じる補充的責任である。しかしながら、これを徹底すると、
  1. 責任能力ある未成年者が不法行為を行った場合、監督義務の履行内容に関わらず、監督義務者への賠償請求はできないこととなる。ほとんどの場合、無資力である未成年者に対してのみ請求が認められるとすると被害者の保護に欠ける。
  2. 被害者が監督義務者に損害賠償を請求するには、無能力者であることを承継しなければならないが、その立証は困難である。
  3. 立証できない場合、改めて行為者である無能力者に対し賠償請求しなければならないが、相手方決定の危険を何ら責任のない被害者側に負わせることとなる。
など不当な帰結が生じる。
そこで、無能力者による加害行為が発生すれば、原則として監督義務違反が存在し、被害者は責任無能力の立証を要せず、監督義務懈怠の責任を問い得るとの学説が登場し、下級審での採用を経て、最高裁判所もこれを認め、判例となった(判例1)。
なお、本判例において、
  1. 「監督義務者の義務違反(監督義務の懈怠)」とは、無能力者を監視するなどして個別の不法行為の発生を防止ないし回避する義務を指すものではなく、親権者が日常、未成年者である子を教育し監督する義務を指す。
  2. 「相当因果関係」とは、監督義務の懈怠と不法行為の事実的因果関係ではなく、監督義務の程度とその及ぶ範囲(法的評価)である。
と理論づけられ、判例により「監督義務違反責任」とも言うべき新たな準則が構成されたものと考えられている(以上、平井)。
したがって、監督義務者には、①法が元々予定する監督の対象者を監督し個別具体的に不法行為を回避する義務と②判例により定立された、日常、未成年者を教育し躾をする義務があることになる。①は不法行為事件の事情等により認否が判断されうるが、②は監督対象である未成年者の行為として広く認めうる。
ただし書き以下は監督義務者に免責事由の証明責任を転換した中間責任、すなわち、過失責任と無過失責任の中間の責任とされている。監督者が過失のなかったことを証明できない場合は無過失責任を負わされるのと同様の結果となる。

参照条文

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判例

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  1. 慰藉料請求(最高裁判決 昭和49年3月22日)民法709条
    責任能力のある未成年者の不法行為と監督義務者の不法行為責任
    未成年者が責任能力を有する場合であつても、監督義務者の義務違反と当該未成年者の不法行為によつて生じた結果との間に相当因果関係を認めうるときは、監督義務者につき民法709条に基づく不法行為が成立する。
    • 未成年者が強盗殺人を犯した事案
  2. 損害賠償(最高裁判決 昭和58年2月24日)民法713条,精神衛生法20条1項,精神衛生法20条2項,精神衛生法22条,精神衛生法23条,精神衛生法24条
    他人に傷害を負わせた精神障害者の両親について民法714条の責任が否定された事例
    既に成年に達しながら両親と同居している精神障害者が心神喪失の状況のもとで他人に傷害を負わせたが、当該傷害事件の発生するまでその行動にさし迫つた危険があつたわけではなく、右両親は老齢でその一方は一級の身体障害者であり、いずれも精神衛生法上の保護義務者にされることを避けて同法20条2項4号の家庭裁判所の選任を免れていたこともなかつた(両親には、あえて保護義務者選任を避ける意思はなかった。)等判示の事実関係のもとでは、右両親に対し民法714条の法定の監督義務者又はこれに準ずべき者としての責任を問うことはできない。
    • 精神衛生法では、第20条で保護義務者を定め、第22条において「保護義務者は、精神障害者に治療を受けさせるとともに、精神障害者が自身を傷つけ又は他人に害を及ぼさないように監督し、且つ、精神障害者の財産上の利益を保護しなければならない。」とされていた。なお、現行法である精神保健及び精神障害者福祉に関する法律では、保護義務者の制度を定めていない。
  3. 損害賠償(最高裁判決 平成7年1月24日)失火ノ責任ニ関スル法律
    責任を弁識する能力のない未成年者の行為により火災が発生した場合における監督義務者の損害賠償責任と失火の責任に関する法律
    責任を弁識する能力のない未成年者の行為により火災が発生した場合において、失火の責任に関する法律にいう重大な過失の有無は、未成年者の監督義務者の監督について考慮され、右監督義務者は、その監督について重大な過失がなかったときは、右火災により生じた損害を賠償する責任を免れると解すべきである。
    • 10歳の児童が火遊びにより火災を起こした事案。

参考文献

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  • 平井宜雄『債権各論Ⅱ 不法行為』(1992年 弘文堂)

前条:
民法第713条
(責任能力)
民法
第3編 債権
第5章 不法行為
次条:
民法第715条
(使用者等の責任)
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