民法第715条
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条文[編集]
(使用者等の責任)
- 第715条
- ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
- 使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。
- 前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。
解説[編集]
不法行為責任の特殊類型のうち、使用者責任と呼ばれる類型につき規定している。
この責任の根拠としては、報償責任と危険責任という二つの見解が挙げられている。
また、それぞれの要件・効果についての解釈論も多岐にわたっている。
要件[編集]
使用関係[編集]
「事業のために他人を使用する者」という要件である。この要件を満たすためには、被告と行為者の間に指揮命令関係があることを要する。雇用関係(企業と従業員)がある場合には問題なくこれが認められる。委任関係の場合は独立性が強いので原則として認められない。請負関係については第716条によって本条の適用が廃除されている。ただし、請負関係であっても、元請け・下請けのように実質的な指揮命令関係が認められる場合には、716条の適用を廃除し、本条を適用した判例もある(最判昭和37年12月14日)。
「事業の執行について」[編集]
この要件につき、加害行為は、実際に被用者の職務の範囲内で生じなければならないのかという問題がある。特に取引行為的な不法行為(手形振出しの権限のない経理課長が偽造手形を振出して被害を与えた場合など)について問題になる。判例は外形標準説をとり、実際に被用者の職務の範囲内でなくとも、外形上職務の範囲内であると判断される行為であれば、この要件を満たすとしている。被害者側の信頼を保護する趣旨である。
一方、事実行為的な不法行為(交通事故など)については、そもそも外形に対する信頼といったものを観念できないから、別の法理が必要となる。この点につき、たとえば、事業の執行を契機とした暴行傷害について使用者責任を認めた例(最判昭和44年11月18日)、勤務時間外の帰宅途中、社用車で事故を起こした場合に使用者責任を認めた例(最判昭和37年11月8日)などがある。
被用者の不法行為[編集]
「被用者が…第三者に加えた損害」という要件である。被用者の行為が、一般不法行為(第709条)の要件を満たすことが必要であると解されている。
免責事由[編集]
1項但書は2つの免責事由を定めている。これら免責事由については被告(使用者)側に立証責任がある。いわゆる立証責任の転換を図ったものであり、中間責任を定めたものである。
- 「使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき」
- 但書前段の免責事由である。使用者が監督過失がないことを立証できれば責任を免れるが、特に大規模な組織などではこの免責事由は認められにくいといわれる。
- 「相当の注意をしても損害が生ずべきであったとき」
- 但書後段の免責事由である。これは、監督過失と損害関係との間に因果関係がない場合を意味していると解されている。
効果[編集]
使用者責任が認められた場合も、被用者自身が免責されるわけではない。すなわち、使用者と被用者は被害者に対して連帯債務を負うことになる。したがって、使用者が全額を賠償した場合には被用者に対する求償権を獲得することになり、信義則上相当な限度で行使できる(判例:最判昭和51年7月8日)。
関連条文 [編集]
判例 [編集]
- 損害賠償等請求(最高裁判決 昭和30年12月22日)
- 売掛代金請求(最高裁判決 昭和32年3月5日) 商法第42条(現24条),商法第38条(現21条),民法第709条
- 損害賠償請求(最高裁判決 昭和32年4月30日)民法第509条
- 損害賠償請求(最高裁判決 昭和34年4月23日)
- 損害賠償請求(最高裁判決 昭和36年1月24日)
- 損害賠償請求(最高裁判決 昭和39年2月4日)
- 私用のため会社の自動車の運転が「事業の執行について」生じたものとされた事例。
- 被用者の手形偽造行為が「事業の執行について」なした行為にあたるとされた事例。
- 法人の代表者は、現実に被用者の選任・監督を担当していたときにかぎり、当該被用者の行為について民法第715条第2項による責任を負う。
- 被用者が重大な過失によつて火を失したときは、使用者は、賠償責任を負う。
- 損害賠償請求(最高裁判決 昭和42年11月2日)
- 損害賠償請求(最高裁判決 昭和44年11月18日)
- 損害賠償請求(最高裁判決 昭和44年11月27日)民法第724条
- 損害賠償請求(最高裁判決 昭和45年2月12日)
- 約束手形金請求(最高裁判決 昭和45年5月22日) 民法第709条,手形法第43条
- 損害賠償請求(最高裁判決 昭和46年6月22日)
- 損害賠償請求(最高裁判決 昭和48年2月16日)民法第690条,船舶法第35条
- 預金返還等請求(最高裁判決 昭和50年1月30日) 民法第666条
- 損害賠償請求(最高裁判決 昭和51年07月08日) 民法第1条2項,民法第709条
- 使用者が業務上車両を多数保有しながら対物賠償責任保険及び車両保険に加入せず、また、右事故は被用者が特命により臨時的に乗務中生じたものであり、被用者の勤務成績は普通以上である等判示の事実関係のもとでは、使用者は、w:信義則上、右損害のうち四分の一を限度として、被用者に対し、賠償及び求償を請求しうるにすぎない。
- 違法建築物についての給水装置新設工事申込の受理の事実上の拒絶につき市が不法行為法上の損害賠償責任を負わないとされた事例
- 損害賠償本訴、同反訴(最高裁判決 昭和56年11月27日)
- 損害賠償(最高裁判決 昭和57年4月1日)国家賠償法第1条1項
- 損害賠償請求本訴、同反訴(最高裁判決 昭和63年7月1日)
- 求償金(最高裁判決 平成3年10月25日)
- 預託金返還請求、民訴法第一九八条二項の申立(最高裁判決 平成9年04月24日)民法第708条,民法第709条,証券取引法(平成3年法律第96号による改正前のもの)50条1項,証券会社の健全性の準則等に関する省令(昭和40年大蔵省令第60号。平成3年大蔵省令第55号による改正前のもの)1条
- 損害賠償請求事件(通称 電通損害賠償)(最高裁判決 平成12年03月24日)民法第709条,民法第722条2項
- 債務不存在確認請求事件(最高裁判決 平成15年3月25日)
- 損害賠償請求事件(最高裁判決 平成16年11月12日)
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