日本国憲法第20条

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条文[編集]

【信教の自由・政教分離】

第20条
  1. 信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。
  2. 何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。
  3. 国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。

解説[編集]

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信教の自由[編集]

信教の自由も参照。

政教分離[編集]

政教分離規定の本質
政教分離規定は、いわゆる制度的保障の規定であって、信教の自由そのものを直接保障するものではなく、国家・地方公共団体と宗教との分離を制度として保障することにより、間接的に信教の自由の保障を確保しようとするものである。そして、憲法の政教分離規定の基礎となり、その解釈の指導原理となる政教分離原則は、国家等が宗教的に中立であることを要求するものではあるが、国家等が宗教とのかかわり合いを持つことを全く許さないとするものではなく、宗教とのかかわり合いをもたらす行為の目的及び効果にかんがみ、そのかかわり合いが、我が国の社会的、文化的諸条件に照らし、信教の自由の保障の確保という制度の根本目的との関係で相当とされる限度を超えるものと認められる場合にこれを許さないとするものと解すべき。(箕面忠魂碑訴訟 最高裁判決平成5年2月16日
「宗教的活動」の要件等(津地鎮祭訴訟 最高裁判決昭和52年7月13日 他)
  1. 主体
    国及びその機関
  2. 行為の目的
    宗教的意義をもっていること。
  3. 行為の効果
    宗教に対する援助、助長、促進又は圧迫、干渉等になる。
  4. 該否の判断基準
    ある行為が宗教的活動に該当するか否かを検討するに当たっては、当該行為の主宰者が宗教家であるかどうか、その順序作法(式次第)が宗教の定める方式に従ったものであるかどうかなど、当該行為の外形的側面のみにとらわれることなく、当該行為の行われる場所、当該行為に対する一般人の宗教的評価、当該行為者が当該行為を行うについての意図、目的及び宗教的意識の有無、程度、当該行為の一般人に与える効果、影響等、諸般の事情を考慮し、社会通念に従って、客観的に判断しなければならない。(箕面忠魂碑訴訟

参照条文[編集]

判例[編集]

判例[編集]

  1. 雇傭契約解除無効確認俸給支払請求(最高裁判決 昭和27年02月22日)日本国憲法第19条,日本国憲法第21条
    政治活動をしないことを条件とする雇傭契約と基本的人権の制限
    憲法で保障されたいわゆる基本的人権も絶対のものではなく、自己の自由意思に基く特別な公法関係または私法関係上の義務によつて制限を受けるものであつて、自己の自由意思により、校内において政治活動をしないことを条件として教員として学校に雇われた場合には、その契約は無効ではない。
  2. 傷害致死加持祈祷事件 最高裁判決昭和38年5月15日)刑法第205条
    加持祈祷の結果人を死亡させた行為と憲法第20条第1項
    精神異常者の平癒を祈願するために宗教行為として加持祈祷行為がなされた場合でも、それが原判決の認定したような他人の生命、身体等に危害を及ぼす違法な有形力の行使に当るものであり、それにより被害者を死に致したものである以上、憲法第20条第1項の信教の自由の保障の限界を逸脱したものというほかなく、これを刑法第205条に該当するものとして処罰することは、何ら憲法の右条項に反するものではない。
  3. 行政処分取消等津地鎮祭訴訟 最高裁判決昭和52年7月13日)憲法第89条
    1. 憲法における政教分離原則
      憲法の政教分離原則は、国家が宗教的に中立であることを要求するものではあるが、国家が宗教とのかかわり合いをもつことを全く許さないとするものではなく、宗教とのかかわり合いをもたらす行為目的及び効果にかんがみ、そのかかわり合いがわが国の社会的・文化的諸条件に照らし信教の自由の保障の確保という制度の根本目的との関係で相当とされる限度を超えるものと認められる場合にこれを許さないとするものである。
    2. 憲法20条3項にいう宗教的活動の意義
      憲法20条3項にいう宗教的活動とは、国及びその機関の活動で宗教とのかかわり合いをもつすべての行為を指すものではなく、当該行為の目的が宗教的意義をもち、その効果が宗教に対する援助、助長、促進又は圧迫、干渉等になるような行為をいう。
    3. 市が主催し神式に則り挙行された市体育館の起工式が憲法20条3項にいう宗教的な活動にあたらないされた事例
      市が主催し神式に則り挙行された市体育館の起工式は、宗教とかかわり合いをもつものであることを否定することはできないが、その目的が建築着工に際し土地の平安堅固、工事の無事安全を願い、社会の一般的慣習に従つた儀礼を行うという専ら世俗的なものと認められ、その効果が神道を援助、助長、促進し又は他の宗教に圧迫、干渉を加えるものとは認められない判示の事情のもとにおいては、憲法20条3項にいう宗教的活動にあたらない。
  4. 自衛隊らによる合祀手続の取消等請求事件自衛官合祀訴訟 最高裁判決昭和63年6月1日)
    1. 私的団体が護国神社に対し殉職自衛隊員の合祀を申請する過程において自衛隊職員のした行為が憲法20条3項にいう宗教的活動に当たらないとされた事例
      社団法人E会のF支部連合会がa県護国神社に対して殉職自衛隊員の合祀を申請する過程において、自衛隊Aiの職員が合祀実現により自衛隊員の社会的地位の向上と士気の高揚を図る意図、目的の下に右連合会に協力して、他のAiに対し殉職自衛隊員の合祀状況等を照会し、その回答を右連合会会長に閲覧させるなどした行為は、宗教とのかかわり合いが間接的で、職員の宗教的意識もどちらかといえば希薄であり、その行為の態様からして国又はその機関として特定の宗教への関心を呼び起こし、あるいはこれを援助、助長、促進し、又は他の宗教に圧迫、干渉を加える効果をもつものと一般人かち評価される行為とは認められず、憲法20条3項にいう宗教的活動に当たらない。
    2. 死去した配偶者の追慕、慰霊等に関して私人がした宗教上の行為によつて信仰生活の静謐が害された場合と法的利益の侵害の有無
      死去した配偶者の追慕、慰霊等に関して私人がした宗教上の行為によつて信仰生活の静謐が害されたとしても、それが信教の自由の侵害に当たり、その態様、程度が社会的に許容し得る限度を超える場合でない限り、法的利益が侵害されたとはいえない。
  5. 運動場一部廃止決定無効確認等、同附帯及び慰霊祭支出差止(箕面忠魂碑訴訟 最高裁判決平成5年2月16日)
    1. 市が忠魂碑の存する公有地の代替地を買い受けて右忠魂碑の移設・再建をした行為及び右忠魂碑を維持管理する地元の戦没者遺族会に対しその敷地として右代替地を無償貸与した行為が憲法20条3項により禁止される宗教的活動には当たらないとされた事例
      市が忠魂碑の存する公有地の代替地を買い受けて右忠魂碑の移設、再建をした行為及び右忠魂碑を維持管理する地元の戦没者遺族会に対しその敷地として右代替地を無償貸与した行為は、右忠魂碑が、元来、戦没者記念碑的性格のものであり、特定の宗教とのかかわりが少なくとも戦後においては希薄であること、右戦没者遺族会が宗教的活動をすることを本来の目的とする団体ではないこと、市が右移設、再建等を行つた目的が、右忠魂碑の存する公有地を学校用地として利用することを主眼とするもので、専ら世俗的なものであることなど判示の事情の下においては、いずれも憲法20条3項により禁止される宗教的活動には当たらない。
      • 以下の諸点にかんがみると、箕面市が旧忠魂碑ないし本件忠魂碑に関してした各行為は、いずれも、その目的は、小学校の校舎の建替え等のため、公有地上に存する戦没者記念碑的な性格を有する施設を他の場所に移設し、その敷地を学校用地として利用することを主眼とするものであり、そのための方策として、右施設を維持管理する市遺族会に対し、右施設の移設場所として代替地を取得して、従来どおり、これを右施設の敷地等として無償で提供し、右施設の移設、再建を行ったものであって、専ら世俗的なものと認められ、その効果も、特定の宗教を援助、助長、促進し又は他の宗教に圧迫、干渉を加えるものとは認められない。
        1. 旧忠魂碑は、地元の人々が郷土出身の戦没者の慰霊、顕彰のために設けたもので、元来、戦没者記念碑的な性格のものであり、本件移設・再建後の本件忠魂碑も同様の性格を有するとみられるものであって、その碑前で、戦没者の慰霊、追悼のための慰霊祭が、毎年一回、市遺族会の下部組織である地区遺族会主催の下に神式、仏式隔年交替で行われているが、本件忠魂碑と神道等の特定の宗教とのかかわりは、少なくとも戦後においては希薄であり、本件忠魂碑をS神社又はT神社の分身(いわゆる「村の靖国」)とみることはできない。
        2. 本件忠魂碑を所有し、これを維持管理している市遺族会は、箕面市内に居住する戦没者遺族を会員とし、戦没者遺族の相互扶助・福祉向上と英霊の顕彰を主たる目的として設立され活動している団体であって、宗教的活動をすることを本来の目的とする団体ではない。
        3. 旧忠魂碑は、戦後の一時期、その碑石部分が地中に埋められたことがあったが、大正5年に分会がa村の承諾を得て公有地上に設置して以来、右公有地上に存続してきたものであって、箕面市がした本件移設・再建等の行為は、右公有地に隣接するH小学校における児童数の増加、校舎の老朽化等により校舎の建替え等を行うことが急務となり、そのために右公有地を学校敷地に編入する必要が生じ、旧忠魂碑を他の場所に移設せざるを得なくなったことから、市遺族会との交渉の結果に基づき、N土地開発公社から本件土地を買い受け、従前と同様、本件敷地を代替地として市遺族会に対し無償貸与し、右敷地上に移設、再建したにすぎないものであることが明らかである。
    2. 財団法人D会及びその支部と憲法20条1項後段にいう「宗教団体」及び憲法89条にいう「宗教上の組織若しくは団体」
      財団法人D会及びその支部は、憲法20条1項後段にいう「宗教団体」、憲法89条にいう「宗教上の組織若しくは団体」に該当しない。
      • 憲法20条1項後段にいう「宗教団体」、憲法89条にいう「宗教上の組織若しくは団体」とは、宗教と何らかのかかわり合いのある行為を行っている組織ないし団体のすべてを意味するものではなく、国家が当該組織ないし団体に対し特権を付与したり、また、当該組織ないし団体の使用、便益若しくは維持のため、公金その他の公の財産を支出し又はその利用に供したりすることが、特定の宗教に対する援助、助長、促進又は圧迫、干渉等になり、憲法上の政教分離原則に反すると解されるものをいうのであり、換言すると、特定の宗教の信仰、礼拝又は普及等の宗教的活動を行うことを本来の目的とする組織ないし団体を指すものと解するのが相当である。
    3. 市の教育長が地元の戦没者遺族会が忠魂碑前で神式又は仏式で挙行した各慰霊祭に参列した行為が憲法上の政教分離原則及び憲法20条、89条に違反しないとされた事例
      市の教育長が地元の戦没者遺族会が忠魂碑前で神式又は仏式で挙行した各慰霊祭に参列した行為は、右忠魂碑が、元来、戦没者記念碑的性格のものであること、右戦没者遺族会が宗教的活動をすることを本来の目的とする団体ではないこと、右参列の目的が戦没者遺族に対する社会的儀礼を尽くすという専ら世俗的なものであることなど判示の事情の下においては、憲法上の政教分離原則及び憲法20条、89条に違反しない。
  6. 宗教法人解散命令に対する抗告棄却決定に対する特別抗告宗教法人オウム真理教解散命令事件 最高裁決定平成8年1月30日)宗教法人法第81条
    宗教法人法81条1項1号及び2号前段に規定する事由があるとしてされた宗教法人の解散命令が憲法20条1項に違反しないとされた事例
    大量殺人を目的として計画的、組織的にサリンを生成した宗教法人について、宗教法人法81条1項1号及び2号前段に規定する事由があるとしてされた解散命令は、専ら宗教法人の世俗的側面を対象とし、宗教団体や信者の精神的・宗教的側面に容かいする意図によるものではなく、右宗教法人の行為に対処するには、その法人格を失わせることが必要かつ適切であり、他方、解散命令によって宗教団体やその信者らが行う宗教上の行為に何らかの支障を生ずることが避けられないとしても、その支障は解散命令に伴う間接的で事実上のものにとどまるなど判示の事情の下においては、必要でやむを得ない法的規制であり、憲法20条1項に違反しない。
  7. 進級拒否処分取消、退学命令処分等取消神戸高専剣道実技拒否事件 最高裁判決平成8年3月8日)
    信仰上の理由により剣道実技の履修を拒否した市立高等専門学校の学生に対する原級留置処分及び退学処分が裁量権の範囲を超える違法なものであるとされた事例
    市立高等専門学校の校長が、信仰上の理由により剣道実技の履修を拒否した学生に対し、必修である体育科目の修得認定を受けられないことを理由として二年連続して原級留置処分をし、さらに、それを前提として退学処分をした場合において、右学生は、信仰の核心部分と密接に関連する真しな理由から履修を拒否したものであり、他の体育種目の履修は拒否しておらず、他の科目では成績優秀であった上、右各処分は、同人に重大な不利益を及ぼし、これを避けるためにはその信仰上の教義に反する行動を採ることを余儀なくさせるという性質を有するものであり、同人がレポート提出等の代替措置を認めて欲しい旨申し入れていたのに対し、学校側は、代替措置が不可能というわけでもないのに、これにつき何ら検討することもなく、右申入れを一切拒否したなど判示の事情の下においては、右各処分は、社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を超える違法なものというべきである。
  8. 損害賠償代位愛媛県靖国神社玉串料訴訟 最高裁判決平成9年4月2日)憲法第89条
    1. 県がD神社又はE神社の挙行した例大祭、みたま祭又は慰霊大祭に際し玉串料、献灯料又は供物料を県の公金から支出して奉納したことが憲法20条3項、89条に違反するとされた事例
      愛媛県が、宗教法人D神社の挙行した恒例の宗教上の祭祀である例大祭に際し玉串料として9回にわたり各5,000円(合計45,000円)を、同みたま祭に際し献灯料として4回にわたり各7,000円又は8,000円(合計31,000円)を、宗教法人愛媛県E神社の挙行した恒例の宗教上の祭祀である慰霊大祭に際し供物料として9回にわたり各10,000円(合計90,000円)を、それぞれ県の公金から支出して奉納したことは、一般人がこれを社会的儀礼にすぎないものと評価しているとは考え難く、その奉納者においてもこれが宗教的意義を有する者であるという意識を持たざるを得ず、これにより県が特定の宗教団体との間にのみ意識的に特別のかかわり合いを持ったことを否定することができないのであり、これが、一般人に対して、県が当該特定の宗教団体を特別に支援しており右宗教団体が他の宗教団体とは異なる特別のものであるとの印象を与え、特定の宗教への関心を呼び起こすものといわざるを得ないなど判示の事情の下においては、憲法20条3項、89条に違反する。
    2. 委任又は専決により県の補助職員らが公金支出を処理した場合において知事は指揮監督上の義務に違反したものであり過失があったが補助職員らは判断を誤ったけれども重大な過失があったということはできないとされた事例
      愛媛県が憲法20条3項、89条に違反して宗教法人D神社等に玉串料等を県の公金から支出して奉納したことにつき、右支出の権限を法令上本来的に有する知事は、委任を受け又は専決することを任された補助職員らが右支出を処理した場合であっても、同神社等に対し、右補助職員らに玉串料等を持参させるなどしてこれを奉納したと認められ、当該支出には憲法に違反するという重大な違法があり、地方公共団体が特定の宗教団体に玉串料等の支出をすることについて、文部省自治省等が、政教分離原則に照らし、慎重な対応を求める趣旨の通達、回答をしてきたなどの事情の下においては、その指揮監督上の義務に違反したものであり、過失があったというのが相当であるが、右補助職員らは、知事の右のような指揮監督の下でこれを行い、右支出が憲法に違反するか否かを極めて容易に判断することができたとまではいえないという事情の下においては、その判断を誤ったものであるが、重大な過失があったということはできない。
  9. 大分県に代位して行う損害賠償等請求事件(最高裁判決平成14年7月9日)刑法第205条
    知事らが主基田の儀に参列した行為が憲法20条3項に違反しないとされた事例
    知事,副知事及び県農政部長が県内で行われた主基田の儀に参列した行為は,主基田の儀が皇位継承の際に通常行われてきた皇室の伝統儀式である大嘗祭の一部を構成する一連の儀式の一つであること,他の参列者と共に参列して拝礼したにとどまること,参列が公職にある者の社会的儀礼として天皇の即位に祝意,敬意を表する目的で行われたことなど判示の事情の下においては,憲法20条3項に違反しない。
  10. 靖国参拝違憲確認等請求事件(最高裁判決平成18年6月23日)
    内閣総理大臣の地位にある者が靖國神社に参拝した行為による法的利益の侵害の有無
    内閣総理大臣の地位にある者が靖國神社に参拝した行為によって個人の心情ないし宗教上の感情が害されたとしても,損害賠償の対象となり得るような法的利益の侵害があったとはいえない。
    • 人が神社に参拝する行為自体は,他人の信仰生活等に対して圧迫,干渉を加えるような性質のものではないから,他人が特定の神社に参拝することによって,自己の心情ないし宗教上の感情が害されたとし,不快の念を抱いたとしても,これを被侵害利益として,直ちに損害賠償を求めることはできないと解するのが相当である。上告人らの主張する権利ないし利益も,上記のような心情ないし宗教上の感情と異なるものではないというべきである。このことは,内閣総理大臣の地位にある者が靖國神社を参拝した場合においても異なるものではないから,本件参拝によって上告人らに損害賠償の対象となり得るような法的利益の侵害があったとはいえない。したがって,上告人らの損害賠償請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がないものとして棄却すべきである(なお,以上のことからすれば,本件参拝が違憲であることの確認を求める訴えに確認の利益がなく,これを却下すべきことも明らかである。)。
  11. 財産管理を怠る事実の違法確認請求事件砂川政教分離訴訟・富平神社訴訟 最高裁判決平成22年1月20日)
    市が町内会に対し無償で神社施設の敷地としての利用に供していた市有地を同町内会に譲与したことが憲法20条3項,89条に違反しないとされた事例
    市が町内会に対し無償で神社施設の敷地としての利用に供していた市有地を同町内会に譲与したことは,次の1.〜3.など判示の事情の下では,憲法20条3項,89条に違反しない。
    1. 上記神社施設は明らかに神道の神社施設であり,そこでは神道の方式にのっとった宗教的行事が行われており,上記のような市有地の提供行為をそのまま継続することは,一般人の目から見て,市が特定の宗教に対して特別の便益を提供し,これを援助していると評価されるおそれがあった。
    2. 上記譲与は,市が,監査委員の指摘を考慮し,上記1.のような憲法の趣旨に適合しないおそれのある状態を是正解消するために行ったものである。
    3. 上記市有地は,もともと上記町内会の前身の団体から戦前に小学校の教員住宅用地として寄附されたが,戦後,上記教員住宅の取壊しに伴いその用途が廃止されたものである。
  12. 財産管理を怠る事実の違法確認請求事件砂川政教分離訴訟・空知太神社訴訟 最高裁判決平成22年1月20日)
    1. 市が連合町内会に対し市有地を無償で神社施設の敷地としての利用に供している行為が憲法89条,20条1項後段に違反するとされた事例
      市が連合町内会に対し市有地を無償で建物(地域の集会場等であるが,その内部に祠が設置され,外壁に神社の表示が設けられている。),鳥居及び地神宮の敷地としての利用に供している行為は,次の1.,2.など判示の事情の下では,上記行為がもともとは小学校敷地の拡張に協力した地元住民に報いるという世俗的,公共的な目的から始まったものであるとしても,一般人の目から見て,市が特定の宗教に対して特別の便益を提供し,これを援助していると評価されてもやむを得ないものであって,憲法89条,20条1項後段に違反する。
      1. 鳥居,地神宮,神社と表示された建物入口から祠に至る上記各物件は,一体として神道の神社施設に当たるもので,そこで行われている諸行事も,このような施設の性格に沿って宗教的行事として行われている。
      2. 上記各物件を管理し,祭事を行っている氏子集団は,祭事に伴う建物使用の対価を連合町内会に支払うほかは,上記各物件の設置に通常必要とされる対価を支払うことなく,その設置に伴う便益を長期間にわたり継続的に享受しており,前記行為は,その直接の効果として,宗教団体である氏子集団が神社を利用した宗教的活動を行うことを容易にするものである。
    2. 市が連合町内会に対し市有地を無償で神社施設の敷地としての利用に供している行為が憲法の定める政教分離原則に違反し,市長において同施設の撤去及び土地明渡しを請求しないことが違法に財産の管理を怠るものであるとして,市の住民が怠る事実の違法確認を求めている住民訴訟において,上記行為が違憲と判断される場合に,その違憲性を解消するための他の合理的で現実的な手段が存在するか否かについて審理判断せず,当事者に対し釈明権を行使しないまま,上記怠る事実を違法とした原審の判断に違法があるとされた事例
      市が連合町内会に対し市有地を無償で神社施設の敷地としての利用に供している行為が憲法の定める政教分離原則に違反し,市長において同施設の撤去及び土地明渡しを請求しないことが違法に財産の管理を怠るものであるとして,市の住民が怠る事実の違法確認を求めている住民訴訟において,上記行為が違憲と判断される場合に,次の1.〜3.など判示の事情の下では,その違憲性を解消するための他の合理的で現実的な手段が存在するか否かについて審理判断せず,当事者に対し釈明権を行使しないまま,上記怠る事実を違法とした原審の判断には,違法がある。
      1. 上記神社施設を直ちに撤去させるべきものとすることは,氏子集団の同施設を利用した宗教的活動を著しく困難なものにし,その構成員の信教の自由に重大な不利益を及ぼすものとなる。
      2. 神社施設の撤去及び土地明渡請求以外に,例えば土地の譲与,有償譲渡又は適正な対価による貸付け等,上記行為の違憲性を解消するための他の手段があり得ることは,当事者の主張の有無にかかわらず明らかである。
      3. 原審は,当事者がほぼ共通する他の住民訴訟の審理を通じて,上記行為の違憲性を解消するための他の手段が存在する可能性があり,市長がこうした手段を講ずる場合があることを職務上知っていた。
  13. 財産管理を怠る事実の違法確認請求事件砂川政教分離訴訟・空知太神社訴訟差戻審上告審 最高裁判決平成24年2月16日)
    市が連合町内会に対し市有地を無償で神社施設の敷地としての利用に供している行為の違憲性を解消するための手段として,氏子集団による上記神社施設の一部の移設や撤去等と併せて市が上記市有地の一部を上記氏子集団の氏子総代長に適正な賃料で賃貸することが,憲法89条,20条1項後段に違反しないとされた事例
    市が連合町内会に対し市有地を無償で神社施設の敷地としての利用に供している行為が憲法89条,20条1項後段に違反する場合において,市が,上記神社施設の撤去及び上記市有地の明渡しの請求の方法を採らずに,氏子集団による上記神社施設の一部の移設や撤去等と併せて上記市有地の一部を上記氏子集団の氏子総代長に適正な賃料で賃貸することは,上記氏子集団が当該賃貸部分において上記神社施設の一部を維持し,年に数回程度の祭事等を今後も継続して行うことになるとしても,次の1.〜3.など判示の事情の下では,上記の違憲性を解消するための手段として合理的かつ現実的であって,憲法89条,20条1項後段に違反しない。
      1. 上記賃貸がされると,上記氏子集団が利用する市有地の部分が大幅に縮小され,当該賃貸部分の範囲を外見的にも明確にする措置により利用の範囲が事実上拡大することも防止される上,上記神社施設の一部の移設や撤去等の措置により上記市有地の他の部分からは上記神社施設に関連する物件や表示は除去されることとなる。
      2. 上記氏子集団が上記1.の移設や撤去等の後に国道に面している当該賃貸部分において祭事等を行う場合に,上記市有地の他の部分を使用する必要はない。
      3. 上記神社施設の前身は上記市有地が公有となる前からその上に存在しており,上記市有地が公有となったのも,小学校敷地の拡張に協力した用地提供者に報いるという目的によるものであった。
    1. 上記神社施設が全て直ちに撤去されると,上記氏子集団がこれを利用してごく平穏な態様で行ってきた祭事等の継続が著しく困難になるのに対し,上記賃貸がされると,上記氏子集団は当該賃貸部分において従前と同様の祭事等を行うことが可能となる。
    2. 上記賃貸の実施は市議会の議決を要するものではなく,上記賃貸の方針は上記氏子集団や連合町内会の意見聴取を経てその了解を得た上で策定されたものであり,賃料の額も年3万円余であって,その支払が将来滞る蓋然性があるとは考え難い。
  14. 固定資産税等課税免除措置取消(住民訴訟)請求事件孔子廟訴訟 最高裁判決令和3年2月24日)
    市長が市の管理する都市公園内に孔子等を祀った施設を所有する一般社団法人に対して同施設の敷地の使用料の全額を免除した行為が憲法20条3項に違反するとされた事例
    市長が市の管理する都市公園内の国公有地上に孔子等を祀った施設を所有する一般社団法人に対して上記施設の敷地の使用料の全額を免除した行為は,次の1.~5.など判示の事情の下では,上記施設の観光資源等としての意義や歴史的価値を考慮しても,一般人の目から見て,市が上記法人の上記施設における活動に係る特定の宗教に対して特別の便益を提供し,これを援助していると評価されてもやむを得ないものであって,憲法20条3項に違反する。
    1. 上記施設は,上記都市公園の他の部分から仕切られた区域内に一体として設置され,上記施設の本殿と位置付けられている建物は,その内部の正面には孔子の像及び神位(神霊を据える所)が配置され,家族繁栄,学業成就,試験合格等を祈願する多くの人々による参拝を受けているほか,上記建物の香炉灰が封入された「学業成就(祈願)カード」が上記施設で販売されていたこともあった。
    2. 上記施設で行われる儀式は,孔子の霊の存在を前提として,これを崇め奉るという宗教的意義を有するものであり,上記施設の建物等は,上記儀式を実施するという目的に従って配置されたものである。
    3. 市が策定した上記都市公園周辺の土地利用計画案においては,同計画案の策定業務に係る委員会等で孔子等を祀る廟の宗教性を問題視する意見があったこと等を踏まえて,前記1.の建物を建設する予定の敷地につき上記法人の所有する土地との換地をするなどして,同建物を私有地内に配置することが考えられる旨の整理がされていた。
    4. 上記法人に対する上記施設の設置許可に係る占用面積は1335㎡であり,免除の対象となる敷地の使用料に相当する額は年間で576万7200円であり,また,上記設置許可の期間は3年であるが,公園の管理上支障がない限り更新が予定されている。
    5. 上記法人は,上記施設の公開や前記2.の儀式の挙行を定款上の目的又は事業として掲げている。
    • 本判決後、施設所有法人は市に使用料を支払い敷地を継続して使用。その後、敷地の提供自体が違憲との訴えがなされたが、同訴訟は合憲で確定した。

前条:
日本国憲法第19条
【思想・良心の自由】
日本国憲法
第3章 国民の権利及び義務
次条:
日本国憲法第21条
【集会・結社・表現の自由、検閲の禁止、通信の秘密】
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