民法第200条
法学>民事法>コンメンタール民法>第2編 物権 (コンメンタール民法)
条文
[編集](占有回収の訴え)
- 第200条
- 占有者がその占有を奪われたときは、占有回収の訴えにより、その物の返還及び損害の賠償を請求することができる。
- 占有回収の訴えは、占有を侵奪した者の特定承継人に対して提起することができない。ただし、その承継人が侵奪の事実を知っていたときは、この限りでない。
解説
[編集]趣旨・概要・意義
[編集]占有訴権に関する規定の一つである。趣旨、意義は占有訴権の項を参照。物権的請求権における物権的返還請求権に相当するが、原則として特定承継人に対し用いることはできないなど、効果はやや弱い。
解釈
[編集]200条の「占有者」の意味
[編集]直接占有者と、賃貸人のような間接占有者が含まれる。
200条の「占有を奪われる(占有侵奪)」の意味
[編集]占有侵奪は「奪う」という字義通り、ある程度荒々しいやり方で、意思にもとづかず占有が侵される事を意味する。その為、以下のような場合には占有侵奪とは言えず、200条の適用はない。
- 占有物を詐取された場合。
- 賃貸借契約の終了などで直接占有者が占有の権原を失った場合。
注意すべきは、たとえ本権を有している者でも「侵奪」と呼べる方法で占有を取り戻した場合には200条の適用がある事である。
200条の「損害の賠償」の意味
[編集]200条で述べられている損害賠償は、200条を根拠にした特別の損害賠償請求権が生じるわけではなく、その性質は不法行為に基づく損害賠償請求権である。その為、損害賠償を求めるためには、民法の原則「過失責任主義」に基づき、占有を侵奪した不法行為に、故意または過失を必要とする事になる。これは民法第198条の占有保持の訴えでも同様である。しかし民法第199条の占有保全の訴えに認められた「損害賠償の担保」の場合は、占有を侵奪する不法行為はまだ起こっていないため、199条に基づく損害賠償の担保を求める時は故意、過失は要しない。
200条の「善意の特定承継人」の意味
[編集]占有侵奪をして占有を得た者が、売買などの特定承継により占有を移転した場合、先占有者は占有回収の訴えは行使できない。
「占有回収の訴え」と「物権的返還請求権」の異同
[編集]提訴期間の有無、及び善意の特定承継人に対する効力に違いがある。占有回収の訴えは侵害の時から1年間しか行使できない(民法第201条)が物権的返還請求権は提訴期間はなく時効消滅する事もない。また、占有回収の訴えは善意の特定承継人に対して起こす事はできないが物権的返還請求権は行使が可能な場合がある。
参照条文
[編集]判例
[編集]- 賃借権確認占有回収請求(最高裁判決 昭和34年01月08日)
- 占有回収の訴の成否。
- 転借人を占有代理人として間接占有を有する債借人が占有を奪われたとするには、占有代理人の所持が意思に反して第三者によつて失わしめられた場合でなければならない。
- 株券引渡(最高裁判決 昭和56年03月19日)
- 民法200条2項但書にいう「承継人カ侵奪ノ事実ヲ知リタルトキ」の意義
- 民法200条2項但書にいう「承継人カ侵奪ノ事実ヲ知リタルトキ」とは、承継人がなんらかの形で占有の侵奪があつたことについて認識を有していた場合をいい、占有の侵奪を単なる可能性のある事実として認識していただけでは足りない。
- 占有回収(最高裁判決 昭和57年3月30日)
- 占有補助者による占有の侵奪を否定した判断に民法200条違背の違法があるとされた事例
- 甲会社がレストラン営業を開始するにつき従業員乙を支配人格とし、同丙をコック長として両名に一任し、外11名の従業員とともに営業に従事させ、営業遂行に必要な限りにおいて継続的にその店舗を専用させていた、との事実関係のもとにおいて、右乙、丙ら13名の従業員をもつて甲会社の占有補助者であるとしながら、乙、丙らが甲会社に対し退職届を提出することにより爾後みずから本件店舗を占有する旨を表明した場合につき、乙、丙らによる右店舗の占有侵奪を肯定するためには、甲会社が他の従業員により右店舗の営業を継続しようとするのを乙、丙らにおいて実力で防止する等占有秩序が力によつて破壊されたと目すべき事情を必要とする[→過誤の判断]との見解を前提にし、右事情の認められないことを理由として、乙、丙らによる占有侵奪を否定したのは、民法200条の解釈適用を誤つたものである。
- 建物収去土地明渡(最高裁判決 平成6年02月08日)民法第177条、民法第206条
- 甲所有地上の建物所有者乙がこれを丙に譲渡した後もなお登記名義を保有する場合における建物収去・土地明渡義務者
- 甲所有地上の建物を取得し、自らの意思に基づいてその旨の登記を経由した乙は、たとい右建物を丙に譲渡したとしても、引き続き右登記名義を保有する限り、甲に対し、建物所有権の喪失を主張して建物収去・土地明渡しの義務を免れることはできない。
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