民法第177条

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法学 > 民事法 > 民法 > コンメンタール民法 > 第2編 物権 (コンメンタール民法) > 民法第177条

条文[編集]

(不動産に関する物権の変動の対抗要件)

第177条
不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成16年法律第123号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。

解説[編集]

不動産の物権変動の対抗要件を定めた規定である。「対抗することができない」とは、当該第三者に所有者としての地位を主張できないことを意味する。これは、一物一権主義の要請するところである。

登記を必要とする物権変動[編集]

登記を必要とする物権変動の範囲は判例法理により確定されてきた。意思表示による承継は第三者に対抗するために登記を必要とし、包括承継は必要としないのが原則である。

譲渡
典型的な意思表示承継であり、登記が必要とされる。
相続
包括承継である。登記なくして第三者に対抗できる。「相続させる旨の遺言」も同様である。
遺産分割協議
一種の契約であって意思表示承継であるから、登記が必要である。
遺贈
遺贈は遺言者の意思による意思表示承継であり、登記が必要である。
取消・解除による復帰的物権変動
取消・解除後の第三者に対しては、登記なくして対抗できない。
取得時効
時効完成後の第三者に対しては、登記なくして対抗できない。

登記なくして対抗できない「第三者」の範囲[編集]

本条の「第三者」は、文理解釈すれば当事者(およびその包括承継人)以外のすべての者を指すことになる(無制限説)。判例は当初無制限説を採っていたが、やがて「当事者もしくはその包括承継人以外の者で、登記の欠缺を主張する正当の利益を有する者」とする制限説を採った(大連判明治41年12月15日民録14-1276)。これが現在の一般的な理解である。

「登記の欠缺を主張する正当の利益を有する者」がどのような者を指すかは、その後の判例の積み重ねで確定されつつある。

第三者にあたるとされる例[編集]

譲受人
二重譲渡が行われた場合の第一譲受人と第二譲受人は互いに本条の「第三者」にあたる(対抗関係に立つ)。従って先に登記を備えた方が所有権を有効に取得できる。二重譲渡類似の関係として詐欺取消(96条)における取消後の第三者と原所有者の関係、契約の解除(541条以下)における解除後の第三者と原所有者の関係がある。
差押債権者
被相続人からその所有不動産の遺贈を受けた受遺者がその旨の所有権移転登記をしない間に、相続人の一人に対する債権者が、相続人に代位して不動産につき相続による持分取得の登記をなし、ついでこれに対し強制競売の申立をなし、当該申立が登記簿に記入された債権者(昭和39年03月06日最高裁判所判例集)。
転得者

第三者にあたらないとされた例[編集]

背信的悪意者排除論[編集]
「第三者」は悪意でも保護されるが、悪意者がもっぱら真の所有者の権利を害する目的でその登記の欠缺を主張する場合には、そのような主張は信義に反し、認められないとされる(最判昭和43年8月2日民集22-8-1571)。いわゆる背信的悪意者排除論である。
背信的悪意者排除論の原型は不動産登記法第5条にある。同条2項は「他人のために登記を申請する義務を負う第三者は、その登記がないことを主張することができない」とする。この規定は代理人を想定したものだが、同条の趣旨に従って、判例法理としての背信的悪意者排除論が生まれた。

法的構成[編集]

  • 法定証拠説
  • 不完全物権変動説
  • 公信力説
  • 第三者主張説(否認権説)
  • 法定制度論

参照条文[編集]

判例[編集]

  1. 家屋明渡請求(最高裁判決 昭和25年12月19日)
    不法占有者と民法第177条の「第三者」
    不動産の不法占有者は、「第三者」には当らない。
  2. 行政行為取消請求(最高裁判決 昭和28年02月18日)自作農創設特別措置法3条1項
    自作農創設特別措置法による農地買収処分と民法第177条
    自作農創設特別措置法による農地買収処分については、民法第177条は適用がない。
    • 政府の同法に基く農地買収処分は、国家が権力的手段を以て農地の強制買上を行うものであつて、対等の関係にある私人相互の経済取引を本旨とする民法上の売買とは、その本質を異にするものである。従つて、かかる私経済上の取引の安全を保障するために設けられた民法177条の規定は、自作法による農地買収処分には、その適用を見ないものと解すべきである。
  3. 不動産所有権移転登記手続等請求 (最高裁判決  昭和30年7月5日)
    不動産登記簿上の所有名義人に対し真正の所有者は移転登記を請求し得るか
    不動産の登記簿上の所有名義人は、真正の所有者に対し、その所有権の公示に協力すべき義務を有するものであるから、真正の所有者は、所有権に基き所有者名義人に対し、所有権移転登記の請求を為し得るものと解すのが相当である。
  4. 公売処分無効確認等請求(最高裁判決 昭和31年04月24日)
    国税滞納処分による差押の関係において法第177条の適用はあるか
    国税滞納処分による差押については、民法第177条の適用があるものと解される。
  5. 所有権確認並びに所有権保存登記抹消手続請求(最高裁判決 昭和33年07月22日)民法第668条民法第249条民法第252条
    1. 組合財産共有の性質。
      組合財産についても、民法第667条以下において特別の規定のなされていない限り、民法民法第249条以下の共有の規定が適用される。
    2. 組合員の一人のなす登記抹消請求の許否。
      組合員の一人は、単独で、組合財産である不動産につき登記簿上の所有名義者たる者に対して登記の抹消を求めることができる。
  6. 土地明渡請求(最高裁判決 昭和33年08月28日)
    不動産所有権の時効取得と対抗要件。
    時効により不動産の所有権を取得しても、その登記がないときは、時効完成後旧所有者から所有権を取得し登記を経た第三者に対し、その善意であると否とを問わず、所有権の取得を対抗できない。
  7. 家屋収去土地明渡請求(最高裁判決 昭和33年10月14日)
    被相続人の不動産の譲渡と民法第177条の第三者。
    被相続人が不動産の譲渡をなした場合、その相続人から同一不動産の譲渡を受けた者は、民法第177条にいう第三者に該当するものと解すべきである。
  8. 所有権確認並びに所有権移転登記履行請求(最高裁判決 昭和34年02月12日)
    1. 登記簿上所有名義を有するにすぎない者と民法第177条の第三者
      不動産につき実質上所有権を有せず、登記簿上所有者として表示されているにすぎない者は、実体上の所有権を取得した者に対して、登記の欠缺を主張することはできない。
    2. 真正な不動産所有者の登記簿上の所有名義人に対する所有権移転登記請求の許否
      真正なる不動産の所有者は、所有権に基き、登記簿上の所有名義人に対し、所有権移転登記を請求することができる。
  9. 公売処分無効確認並びに所有権取得登記の抹消登記手続請求(最高裁判決 昭和35年03月31日)旧国税徴収法(明治30年法律21号)10条,旧国税徴収法(明治30年法律21号)24条,行政事件訴訟特例法1条
    登記簿上不動産の所有名義人となつている国税滞納者に対する滞納処分として右不動産を公売処分に付した国が、登記の欠缺を主張するにつき正当の利益を有する第三者にあたらないとされた場合と公売処分の効力。
    登記簿上不動産の所有名義人となつている国税滞納者に対する滞納処分として右不動産を公売処分に付した国が、登記の欠缺を主張するにつき正当の利益を有する第三者にあたらないとされる場合には、公売処分は、目的不動産の所有権を競落人に取得させる効果を生じないとする意味において、無効と解すべきである。
  10. 建物収去土地明渡請求(最高裁判決 昭和35年06月17日)民法第176条
    敷地不法占有と家屋収去請求の相手方。
    仮処分申請に基き、裁判所の嘱託により家屋所有権保存登記がなされている場合であつても、仮処分前に家屋を未登記のまま第三者に譲渡しその敷地を占拠していない右保存登記名義人に対し、敷地所有者から敷地不法占有を理由として家屋収去請求をすることは許されない。
  11. 登記抹消請求 (最高裁判決 昭和35年11月29日)
    予告登記の存在と民法第177条。
    不動産売買契約が解除され、その所有権が売主に復帰した場合、売主はその旨の登記を経由しなければ、たまたま右不動産に予告登記がなされていても、契約解除後に買主から不動産を取得した第三者に対し所有権の取得を対抗できない。
  12. 所有権移転登記手続履行請求(最高裁判決 昭和36年07月20日)
    時効による不動産の所有権取得とその対抗要件。
    不動産の取得時効が完成しても、その登記がなければ、その後に所有権取得登記を経由した第三者に対しては時効による権利の取得を対抗しえないが、第三者の右登記後に占有者がなお引続き時効取得に要する期間占有を継続した場合には、その第三者に対し、登記を経由しなくとも時効取得をもつて対抗しうるものと解すべきである。
  13. 家屋収去土地明渡請求(最高裁判決 昭和36年11月24日) 建物保護ニ関スル法律1条
    登記の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者にあたらない事例。
    甲乙丙と順次譲渡された土地の上に、丁が甲所有当時同人との間に締結した賃貸借契約に基き建物を建設所有しているが、その建物保存登記は右土地につき乙名義の所有権取得登記がなされた後初めてなされたものであるときは、丁は、丙の土地所有権取得登記の欠缺を主張し得べき正当な利益を有する第三者にあたらない。
  14. 不動産所有権確認等請求(最高裁判決 昭和37年12月25日)
    登記欠缺を主張しえない背信的悪意者と認められなかつた事例。
    代金支払が契約の数ケ月後であるとの一事によつては、登記欠缺を主張しえない背信的悪意者とはいえない。
  15. 登記抹消登記手続請求(最高裁判決 昭和38年02月22日)民法第249条民法第898条
    1. 共同相続と登記
      甲乙両名が共同相続した不動産につき乙が勝手に単独所有権取得の登記をし、さらに第三取得者丙が乙から移転登記をうけた場合、甲は丙に対し自己の持分を登記なくして対抗できる。
    2. 共有持分に基づく登記抹消請求の許否
      右の場合、甲が乙丙に対し請求できるのは、甲の持分についてのみの一部抹消(更正)登記手続であつて、各登記の全部抹消を求めることは許されない。
    3. 当事者が所有権取得登記の全部抹消を求めている場合に更正登記を命ずる判決をすることの可否
      右の場合、甲が乙丙に対し右登記の全部抹消登記手続を求めたのに対し、裁判所が乙丙に対し前記一部抹消(更正)登記手続を命ずる判決をしても、民訴法第186条に反しない。
  16. 所有権保存登記等抹消請求(最高裁判決 昭和38年05月31日)
    主たる建物の登記部分のみが無効である場合と附属建物を含めた全部の登記の抹消の許否。
    主たる建物の登記部分のみが無効である場合は、その部分のみの抹消を許すべきであつて、附属建物を含めた全部の登記の抹消を許すべきではない。
  17. 建物収去土地明渡等請求(最高裁判決 昭和39年02月04日)民法第378条民法第577条旧借地法第10条
    1. 建物買取請求権行使によつて成立する売買と民法第577条適用の有無
      借地法第10条(現、借地借家法第13条)に基づく建物買取請求権行使によつて成立する売買についても民法第577条の適用がある。
    2. 買取請求権行使の対象たる建物に抵当権が設定されている場合と当該建物の時価
      建物買取請求の対象たる建物の時価は、建物に抵当権の設定があつても減額されるべきではない。
    3. 滌除権の取得と所有権所得登記の要否
      抵当不動産の買主が売主に対する関係で滌除権の取得を主張するためには、右不動産の所有権取得登記を経ることを要しない。
  18. 第三者異議(最高裁判決 昭和39年03月06日)
    不動産の遺贈と民法第177条の第三者。
    甲からその所有不動産の遺贈を受けた乙がその旨の所有権移転登記をしない間に、甲の相続人の一人である丙に対する債権者丁が、丙に代位して同人のために前記不動産につき相続による持分取得の登記をなし、ついでこれに対し強制競売の申立をなし、該申立が登記簿に記入された場合においては、丁は、民法第177条にいう第三者に該当する。
  19. 土地所有権移転仮登記抹消手続請求(最高裁判決 昭和39年11月19日)自作農創設特別措置法3条1項本文,自作農創設特別措置法11条
    1. 自作農創設特別措置法第3条に基づく農地買収処分による国の所有権取得と民法第177条の適用。
      自作農創設特別措置法第3条に基づく農地の買収処分により国が所有権を取得した場合において、その所有権の取得については、民法第177条の適用がある
    2. 自作農創設特別措置法第11条の法意。
      自作農創設特別措置法第11条は、農地の買収計画の樹立以降買収の効果発生までに権利関係の変動があつた場合において、その農地の所有者などの承継人に対してのみ農地の買収手続の効力が及ぶ旨を定めたにすぎない、と解するのが相当である。
  20. 抵当権設定登記抹消等請求(最高裁判決 昭和40年05月04日)旧不動産登記法第93条旧不動産登記法第93条の6旧不動産登記法第100条
    滅失建物の登記を新築建物の所有権保存登記に流用することの可否。
    滅失建物の登記をその跡地に新築された建物の所有権保存登記に流用することは、許されない。
  21. 所有権移転登記等請求(最高裁判決 昭和40年09月21日)
    中間省略の登記を求める請求の許否。
    不動産の所有権が甲乙丙と順次移転したのに、登記名義は依然として甲にある場合には、丙が甲に対し直接自己に移転登記を請求することは、甲および乙の同意がないかぎり、許されない。
  22. 所有権移転登記等請求(最高裁判決 昭和40年12月03日)
    実体関係に符合しないものとして仮登記が無効とされた事例。
    代物弁済の予約をした債権者が、その妻名義で所有権移転請求権保全の仮登記をしたときは、その仮登記は順位保全の効力を有しない。
  23. 根抵当権設定登記抹消登記手続請求(最高裁判決 昭和41年11月18日)民法第110条,不動産登記法第25条(申請主義 現・不動産登記法第16条),不動産登記法第26条(申請方法 現・不動産登記法第18条他),不動産登記法第35条(登記申請に要する書面 現・不動産登記法第18条他)
    1. 登記申請行為と表見代理
      登記申請行為自体には、表見代理に関する民法の規定の適用はない。
    2. 偽造文書による登記の効力
      偽造文書によつて登記がされた場合でも、その登記の記載が実体的法律関係に符合し、かつ、登記義務者において登記申請を拒むことができる特段の事情がなく、登記権利者において当該登記申請が適法であると信ずるにつき正当の事由があるときは、登記義務者は右登記の無効を主張することができない。
  24. 所有権確認請求(最高裁判決 昭和41年11月22日)民法第162条
    取得時効と登記
    不動産の時効取得者は、取得時効の進行中に原権利者から当該不動産の譲渡を受けその旨の移転登記を経由した者に対しては、登記がなくても、時効による所有権の取得を主張することができる。
  25. 土地所有権確認等請求(最高裁判決 昭和41年12月23日)自作農創設特別措置法30条
    自作農創設特別措置法第30条に基づく未墾地買収処分による国の所有権取得と民法第177条の適用
    自作農創設特別措置法第30条に基づく未墾地買収処分により国がその所有権を取得した場合でも、その所有権の取得については、民法第177条が適用される。
  26. 第三者異議(最高裁判決 昭和42年01月20日)
    相続放棄と登記
    相続人は、相続の放棄をした場合には相続開始時にさかのぼつて相続開始がなかつたと同じ地位に立ち、当該相続放棄の効力は、登記等の有無を問わず、何人に対してもその効力を生ずべきものと解すべきであつて、相続の放棄をした相続人の債権者が、相続の放棄後に、相続財産たる未登記の不動産について、右相続人も共同相続したものとして、代位による所有権保存登記をしたうえ、持分に対する仮差押登記を経由しても、その仮差押登記は無効である。
  27. 農地買収、売渡計画、同売渡処分の無効確認等請求(最高裁判決 昭和42年04月13日)町村制147条,地方自治法附則11条,自作農創設特別措置法40条ノ2 4項4号,自作農創設特別措置法41条1項1号
    1. 町村制のもとにおいて村が知事の許可なしに行なつた基本財産処分行為の同法廃止後における効力
      町村制のもとにおいて村が知事の許可なしに行なつた基本財産の処分行為であつても、町村制の廃止後は、地方自治法附則第11条により、完全にその効力を生ずるにいつたと解すべきである。
    2. 自作農創設特別措置法第40条ノ2に基づく牧野の買収処分により国がその所有権を取得した場合と民法第177条適用の有無
      自作農創設特別措置法第40条ノ2に基づく牧野の買収処分により国が所有権を取得した場合において、その所有権の取得およびその後の所有権の取得については、民法第177条の適用があると解すべきである。
  28. 建物収去、土地明渡請求(最高裁判決 昭和42年07月21日)民法第162条
    不動産の取得時効完成前に原所有者から所有権を取得した者が時効完成後に移転登記を経由した場合と民法第177条
    不動産の取得時効完成前に原所有者から所有権を取得し時効完成後に移転登記を経由した者に対し、時効取得者は、登記なくして所有権を対抗することができる。
  29. 所有権確認請求(最高裁判決 昭和43年08月02日)
    登記の欠缺を主張することができないいわゆる背信的悪意者にあたるとされた事例
    甲が乙から山林を買い受けて23年余の間これを占有している事実を知つている丙が、甲の所有権取得登記がされていないのに乗じ、甲に高値で売りつけて利益を得る目的をもつて、右山林を乙から買い受けてその旨の登記を経た等判示の事情がある場合には、丙はいわゆる背信的悪意者として、甲の所有権取得について登記の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者にあたらない。
    • 自由競争の範囲を逸脱した背信的悪意者は、登記の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者にあたらない。
  30. 不動産登記抹消登記等請求(最高裁判決 昭和43年10月31日)民法第601条民法第612条旧借地法第1条
    賃借権の譲渡転貸許容の特約がされその旨の登記がされている土地賃貸借において賃借権の消滅を第三者に対抗するためにはその旨の登記を経ることを要するか
    建物所有を目的とする土地賃貸借において、賃借権の譲渡、賃借物の転貸を許容する旨の特約があり、かつ、その賃借権の設定および右特約について登記がされているときは、賃貸人が右賃借権の消滅を第三者に対抗するためには、民法第177条の規定の類推適用により、その旨の登記を経由しなければならない。
  31. 強制執行の目的物に対する第三者異議(最高裁判決 昭和44年03月28日)民法第87条民法第370条
    宅地上の従物と抵当権の効力
    宅地に対する抵当権の効力は、特段の事情のないかぎり、抵当権設定当時右宅地の従物であつた石燈籠および庭石にも及び、抵当権の設定登記による対抗力は、右従物についても生ずる。
  32. 家屋収去土地明渡請求 (最高裁判決 昭和44年05月02日)
    中間省略登記が中間取得者の同意なしにされた場合と中間取得者以外の者の抹消登記請求権
    中間省略登記が中間取得者の同意なしにされた場合においても、中間取得者でない者は、右登記の無効を主張して、その抹消登記手続を求めることはできない。
  33. 持分更正登記手続承諾請求(最高裁判決 昭和46年01月26日)民法第909条
    遺産分割と登記
    相続財産中の不動産につき、遺産分割により権利を取得した相続人は、登記を経なければ、分割後に当該不動産につき権利を取得した第三者に対し、法定相続分をこえる権利の取得を対抗することができない。
  34. 共有物分割請求(最高裁判決 昭和46年06月18日)民法第258条1項,民法第258条2項
    共有物分割訴訟と持分譲受の登記
    不動産の共有物分割訴訟においては、共有者間に持分の譲渡があつても、その登記が存しないため、譲受人が持分の取得をもつて他の共有者に対抗することができないときは、共有者全員に対する関係において、右持分がなお譲渡人に帰属するものとして共有物分割を命ずべきである。
  35. 遺産確認等請求(最高裁判決 昭和46年11月16日)
    被相続人が同一不動産をある相続人に贈与するとともに他の相続人にも遺贈したのち相続が開始した場合と民法177条
    被相続人が、生前、不動産をある相続人に贈与するとともに、他の相続人にもこれを遺贈したのち、相続の開始があつた場合、右贈与および遺贈による物権変動の優劣は、対抗要件たる登記の具備の有無をもつて決すると解するのが相当である。
  36. 通行権確認請求(最高裁判決 昭和47年04月14日)民法第210条
    袋地の未登記所有者と囲繞地通行権の主張
    袋地の所有権を取得した者は、所有権取得登記を経由していなくても、囲繞地の所有者ないし利用権者に対して、囲繞地通行権を主張することができる。
  37. 建物収去土地明渡請求(最高裁判決 昭和47年12月07日)
    建物の登記簿上の所有名義人にすぎない者と建物収去義務
    建物の登記簿上の所有名義人にすぎない者は、たとえ、所有者との合意により名義人となつた場合でも、建物の敷地所有者に対して建物収去義務を負わないと解すべきである。
  38. 建物収去土地明渡等請求および建物退去土地明渡等反訴請求(最高裁判決 昭和48年09月18日) 民法第388条
    土地およびその地上建物の所有者が建物の所有権移転登記を経由しないまま土地につき抵当権を設定した場合と法定地上権の成否
    土地およびその地上建物の所有者が建物の取得原因である譲受につき所有権移転登記を経由しないまま土地に対し抵当権を設定した場合であつても、法定地上権の成立を妨げない。
  39. 所有権移転登記手続等請求(最高裁判決 昭和49年03月19日)民法第605条
    賃貸中の宅地を譲り受けた者の賃貸人たる地位の対抗要件
    賃貸中の宅地を譲り受けた者は、その所有権の移転につき登記を経由しないかぎり、賃貸人たる地位の取得を賃借人に対抗することができない。
  40. 建物収去等土地明渡(最高裁判決 昭和53年09月29日) 民法第388条
    土地及びその地上建物の所有者が土地につき所有権移転登記を経由しないまま建物に抵当権を設定した場合と法定地上権の成否
    土地及びその地上建物の所有者が建物につき抵当権を設定したときは、土地の所有権移転登記を経由していなくても、法定地上権の成立を妨げない。
  41. 建物収去土地明渡(最高裁判決 平成6年02月08日)民法第200条民法第206条
    甲所有地上の建物所有者乙がこれを丙に譲渡した後もなお登記名義を保有する場合における建物収去・土地明渡義務者
    甲所有地上の建物を取得し、自らの意思に基づいてその旨の登記を経由した乙は、たとい右建物を丙に譲渡したとしても、引き続き右登記名義を保有する限り、甲に対し、建物所有権の喪失を主張して建物収去・土地明渡しの義務を免れることはできない。
  42. 賃借権設定登記抹消登記手続(最高裁判決 平成7年01月19日)建物の区分所有等に関する法律第1条,不動産登記法第94条ノ2,不動産登記法第96条ノ2
    一棟の建物のうち構造上及び利用上の独立性のある建物部分に賃借権が設定されたにもかかわらず建物全部について賃借権設定登記がされている場合に右登記の抹消登記手続請求を認容すべき範囲
    一棟の建物のうち構造上及び利用上の独立性のある建物部分に賃借権が設定されたにもかかわらず、建物全部について賃借権設定登記がされている場合、右登記の抹消登記手続請求は、右建物部分を除く残余の部分に関する限度において認容すべきである。
  43. 公道確認等(最高裁判決 平成8年10月29日)
    背信的悪意者からの転得者と民法177条の第三者
    所有者甲から乙が不動産を買い受け、その登記が未了の間に、甲から丙が当該不動産を二重に買い受け、更に丙から転得者丁が買い受けて登記を完了した場合に、丙が背信的悪意者に当たるとしても、丁は、乙に対する関係で丁自身が背信的悪意者と評価されるのでない限り、当該不動産の所有権取得をもって乙に対抗することができる。
    • 二重売買において、背信的悪意者からの転得者でも、登記を完了した場合は、対抗することができる。
  44. 通行地役権設定登記手続等(最高裁判決 平成10年02月13日)民法第280条
    設定登記のされていない通行地役権について承役地の譲受人が登記の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者に当たらないと解すべき場合
    通行地役権の承役地が譲渡された場合において、譲渡の時に、右承役地が要役地の所有者によって継続的に通路として使用されていることがその位置、形状、構造等の物理的状況から客観的に明らかであり、かつ、譲受人がそのことを認識していたか又は認識することが可能であったときは、譲受人は、通行地役権が設定されていることを知らなかったとしても、特段の事情がない限り、地役権設定登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有する第三者に当たらない。
  45. 不当利得返還(最高裁判決 平成10年03月26日)
    債権について一般債権者の差押えと抵当権者の物上代位権に基づく差押えが競合した場合における両者の優劣の判断基準
    債権について一般債権者の差押えと抵当権者の物上代位権に基づく差押えが競合した場合には、両者の優劣は、一般債権者の申立てによる差押命令の第三債務者への送達と抵当権設定登記の先後によって決すべきである。
  46. 通行地役権確認等(最高裁判決 平成10年12月18日)民法第280条
    通行地役権の承役地の譲受人が地役権設定登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有する第三者に当たらない場合に地役権者が譲受人に対して地役権設定登記手続を請求することの可否
    通行地役権の承役地の譲受人が地役権設定登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有する第三者に当たらない場合には、地役権者は、譲受人に対し、同権利に基づいて地役権設定登記手続を請求することができる。
  47. 各第三者異議事件(最高裁判決 平成14年06月10日)民法第908条,民法第985条
    「相続させる」趣旨の遺言による不動産の取得と登記
    「相続させる」趣旨の遺言による不動産の権利の取得については,登記なくして第三者に対抗することができる。
  48. 所有権確認請求本訴,所有権確認等請求反訴,土地所有権確認等請求事件(最高裁判決 平成18年01月17日)民法第162条
    不動産の取得時効完成後に当該不動産の譲渡を受けて所有権移転登記を了した者が背信的悪意者に当たる場合
    甲が時効取得した不動産について,その取得時効完成後に乙が当該不動産の譲渡を受けて所有権移転登記を了した場合において,乙が,当該不動産の譲渡を受けた時に,甲が多年にわたり当該不動産を占有している事実を認識しており,甲の登記の欠缺を主張することが信義に反するものと認められる事情が存在するときは,乙は背信的悪意者に当たる。
  49. 第三者異議事件(最高裁判決 平成24年3月16日)民法第162条, 民法第397条
    不動産の取得時効の完成後,所有権移転登記がされることのないまま,第三者が原所有者から抵当権の設定を受けて抵当権設定登記を了した場合における,再度の取得時効の完成と上記抵当権の消長
    不動産の取得時効の完成後,所有権移転登記がされることのないまま,第三者が原所有者から抵当権の設定を受けて抵当権設定登記を了した場合において,上記不動産の時効取得者である占有者が,その後引き続き時効取得に必要な期間占有を継続し,その期間の経過後に取得時効を授用したときは,上記占有者が上記抵当権の存在を容認していたなど抵当権の消滅を妨げる特段の事情がない限り,上記占有者が,上記不動産を時効取得する結果,上記抵当権は消滅する。

前条:
民法第176条
(物権の設定及び移転)
民法
第2編 物権
第1章 総則
次条:
民法第178条
(動産に関する物権の譲渡の対抗要件)
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