民法第177条
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法学 > 民事法 > 民法 > コンメンタール民法 > 第2編 物権 (コンメンタール民法) > 民法第177条
条文[編集]
解説[編集]
不動産の物権変動の対抗要件を定めた規定である。「対抗することができない」とは、当該第三者に所有者としての地位を主張できないことを意味する。これは、一物一権主義の要請するところである。
登記を必要とする物権変動[編集]
登記を必要とする物権変動の範囲は判例法理により確定されてきた。意思表示による承継は第三者に対抗するために登記を必要とし、包括承継は必要としないのが原則である。
- 譲渡
- 典型的な意思表示承継であり、登記が必要とされる。
- 相続
- 包括承継である。登記なくして第三者に対抗できる。「相続させる旨の遺言」も同様である。
- 遺産分割協議
- 一種の契約であって意思表示承継であるから、登記が必要である。
- 遺贈
- 遺贈は遺言者の意思による意思表示承継であり、登記が必要である。
- 取消・解除による復帰的物権変動
- 取消・解除後の第三者に対しては、登記なくして対抗できない。
- 取得時効
- 時効完成後の第三者に対しては、登記なくして対抗できない。
登記なくして対抗できない「第三者」の範囲[編集]
本条の「第三者」は、文理解釈すれば当事者(およびその包括承継人)以外のすべての者を指すことになる(無制限説)。判例は当初無制限説を採っていたが、やがて「当事者もしくはその包括承継人以外の者で、登記の欠缺を主張する正当の利益を有する者」とする制限説を採った(大連判明治41年12月15日民録14-1276)。これが現在の一般的な理解である。
「登記の欠缺を主張する正当の利益を有する者」がどのような者を指すかは、その後の判例の積み重ねで確定されつつある。
第三者にあたるとされる例[編集]
- 譲受人
- 二重譲渡が行われた場合の第一譲受人と第二譲受人は互いに本条の「第三者」にあたる(対抗関係に立つ)。従って先に登記を備えた方が所有権を有効に取得できる。二重譲渡類似の関係として詐欺取消(96条)における取消後の第三者と原所有者の関係、契約の解除(541条以下)における解除後の第三者と原所有者の関係がある。
- 差押債権者
- 被相続人からその所有不動産の遺贈を受けた受遺者がその旨の所有権移転登記をしない間に、相続人の一人に対する債権者が、相続人に代位して不動産につき相続による持分取得の登記をなし、ついでこれに対し強制競売の申立をなし、当該申立が登記簿に記入された債権者(昭和39年03月06日最高裁判所判例集)。
- 転得者
第三者にあたらないとされた例[編集]
- 無権原の占有者
背信的悪意者排除論[編集]
「第三者」は悪意でも保護されるが、悪意者がもっぱら真の所有者の権利を害する目的でその登記の欠缺を主張する場合には、そのような主張は信義に反し、認められないとされる(最判昭和43年8月2日民集22-8-1571)。いわゆる背信的悪意者排除論である。
背信的悪意者排除論の原型は不動産登記法第5条にある。同条2項は「他人のために登記を申請する義務を負う第三者は、その登記がないことを主張することができない」とする。この規定は代理人を想定したものだが、同条の趣旨に従って、判例法理としての背信的悪意者排除論が生まれた。
法的構成[編集]
- 法定証拠説
- 不完全物権変動説
- 公信力説
- 第三者主張説(否認権説)
- 法定制度論
参照条文[編集]
- 建物の区分所有等に関する法律第11条(共用部分の共有関係)
判例[編集]
- 家屋明渡請求(最高裁判決 昭和25年12月19日)
- 不動産の不法占有者は、「第三者」には当らない。
- 行政行為取消請求(最高裁判決 昭和28年02月18日)自作農創設特別措置法3条1項
- 不動産所有権移転登記手続等請求 (最高裁判例 昭和30年7月5日)
- 公売処分無効確認等請求(最高裁判決 昭和31年04月24日)
- 国税w:滞納処分による差押については、民法第177条の適用があるものと解される。
- 所有権確認並びに所有権保存登記抹消手続請求(最高裁判決 昭和33年07月22日)民法第668条,民法第249条,民法第252条
- 土地明渡請求(最高裁判決 昭和33年08月28日)
- 時効により不動産の所有権を取得しても、その登記がないときは、時効完成後旧所有者から所有権を取得し登記を経た第三者に対し、その善意であると否とを問わず、所有権の取得を対抗できない。
- 家屋収去土地明渡請求(最高裁判決 昭和33年10月14日)
- 所有権確認並びに所有権移転登記履行請求(最高裁判決 昭和34年02月12日)
- 真正なる不動産の所有者は、所有権に基き、登記簿上の所有名義人に対し、所有権移転登記を請求することができる。
- 公売処分無効確認並びに所有権取得登記の抹消登記手続請求(最高裁判決 昭和35年03月31日)旧国税徴収法(明治30年法律21号)10条,旧国税徴収法(明治30年法律21号)24条,行政事件訴訟特例法1条
- 建物収去土地明渡請求(最高裁判決 昭和35年06月17日)民法第176条
- 登記抹消請求(最高裁判決 昭和35年11月29日)
- 不動産売買契約が解除され、その所有権が売主に復帰した場合、売主はその旨の登記を経由しなければ、たまたま右不動産に予告登記がなされていても、契約解除後に買主から不動産を取得した第三者に対し所有権の取得を対抗できない。
- 所有権移転登記手続履行請求(最高裁判決 昭和36年07月20日)
- 家屋収去土地明渡請求(最高裁判決 昭和36年11月24日) 建物保護ニ関スル法律1条
- 不動産所有権確認等請求(最高裁判決 昭和37年12月25日)
- 登記抹消登記手続請求(最高裁判決 昭和38年02月22日)民法第249条、民法第898条
- 所有権保存登記等抹消請求(最高裁判決 昭和38年05月31日)
- 建物収去土地明渡等請求(最高裁判決 昭和39年02月04日)民法第378条,民法第577条,旧借地法第10条
- 第三者異議(最高裁判決 昭和39年03月06日)
- 不動産の遺贈と第三者。
- 土地所有権移転仮登記抹消手続請求(最高裁判決 昭和39年11月19日)自作農創設特別措置法3条1項本文,自作農創設特別措置法11条
- 抵当権設定登記抹消等請求(最高裁判決 昭和40年05月04日)旧不動産登記法第93条,旧不動産登記法第93条の6,旧不動産登記法第100条
- 所有権移転登記等請求(最高裁判決 昭和40年09月21日)
- 所有権確認請求(最高裁判決 昭和41年11月22日)民法第162条
- 土地所有権確認等請求(最高裁判決 昭和41年12月23日)自作農創設特別措置法30条
- 第三者異議(最高裁判決 昭和42年01月20日)
- 農地買収、売渡計画、同売渡処分の無効確認等請求(最高裁判決 昭和42年04月13日)町村制147条,地方自治法附則11条,自作農創設特別措置法40条ノ2 4項4号,自作農創設特別措置法41条1項1号
- 建物収去、土地明渡請求(最高裁判決 昭和42年07月21日)民法第162条
- 所有権確認請求(最高裁判決 昭和43年08月02日)
- 不動産登記抹消登記等請求(最高裁判決 昭和43年10月31日)民法第601条、民法第612条、旧借地法第1条
- 自由競争の範囲を逸脱した背信的悪意者は、登記の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者にあたらない。
- 強制執行の目的物に対する第三者異議(最高裁判決 昭和44年03月28日)民法第87条,民法第370条
- 家屋収去土地明渡請求(最高裁判決 昭和44年05月02日)
- 持分更正登記手続承諾請求(最高裁判決 昭和46年01月26日)民法第909条
- 相続財産中の不動産につき、遺産分割により権利を取得した相続人は、登記を経なければ、分割後に当該不動産につき権利を取得した第三者に対し、法定相続分をこえる権利の取得を対抗することができない。
- 共有物分割請求(最高裁判決 昭和46年06月18日)民法第258条1項,民法第258条2項
- 遺産確認等請求(最高裁判決 昭和46年11月16日)
- 通行権確認請求(最高裁判決 昭和47年04月14日)民法第210条
- 建物収去土地明渡請求(最高裁判決 昭和47年12月07日)
- 建物の登記簿上の所有名義人にすぎない者は、たとえ、所有者との合意により名義人となつた場合でも、建物の敷地所有者に対して建物収去義務を負わないと解すべきである。
- 建物収去土地明渡等請求および建物退去土地明渡等反訴請求(最高裁判決 昭和48年09月18日) 民法第388条
- 所有権移転登記手続等請求(最高裁判決 昭和49年03月19日)民法第605条
- 建物収去等土地明渡(最高裁判決 昭和53年09月29日) 民法第388条
- 建物収去土地明渡(最高裁判決 平成6年02月08日)民法第200条、民法第206条
- 甲所有地上の建物を取得し、自らの意思に基づいてその旨の登記を経由した乙は、たとい右建物を丙に譲渡したとしても、引き続き右登記名義を保有する限り、甲に対し、建物所有権の喪失を主張して建物収去・土地明渡しの義務を免れることはできない。
- 賃借権設定登記抹消登記手続(最高裁判決 平成7年01月19日)建物の区分所有等に関する法律第1条,不動産登記法第94条ノ2,不動産登記法第96条ノ2
- 公道確認等(最高裁判決 平成8年10月29日)
- 二重売買において、背信的悪意者からの転得者でも、登記を完了した場合は、対抗することができる。
- 通行地役権設定登記手続等(最高裁判決 平成10年02月13日)民法第280条
- 不当利得返還(最高裁判決 平成10年03月26日)
- 通行地役権確認等(最高裁判決 平成10年12月18日)民法第280条
- 各第三者異議事件(最高裁判決 平成14年06月10日)民法第908条,民法第985条
- 所有権確認請求本訴,所有権確認等請求反訴,土地所有権確認等請求事件(最高裁判決 平成18年01月17日)民法第162条
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