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民法第708条

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』

法学民事法コンメンタール民法第3編 債権 (コンメンタール民法)

条文

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(不法原因給付)

第708条
不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができない。ただし、不法な原因が受益者についてのみ存したときは、この限りでない。

改正経緯

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現代語化前

不法ノ原因ノ為メ給付ヲ為シタル者ハ其給付シタルモノノ返還ヲ請求スルコトヲ得ズ。但不法ノ原因ガ受益者ニ付テノミ存シタルトキハ此限リニ在ラス。

解説

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Wikipedia
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ウィキペディア不法原因給付の記事があります。

意義

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  1. 民法第703条以下に定める不当利得に該当する場合、即ち法律上の原因なく財産等が移転し、その結果、損失が発生したものがいる場合であっても、移転の原因が不法なものであるときは、原因のないことを理由に返還の請求を成すことはできない。
  2. 但し、衡平を斟酌し、不法の原因が、もっぱら「受益者」のみにある場合、例えば、不法原因について受益者が作出した場合、この限りでなく、不当利得として返還を請求することができる。
  3. 法は、不法をなすものには手を貸さないという「クリーンハンズの原則」の表明。

要件

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  1. 給付が存在していること 
    「給付」があるといえるためには、相手方に終局的な利益を与えるものでなければならない。
    動産:「引渡し」があること。
    不動産:「引渡し」で足りるか否か、争いあり。
    債権:移転、変動などの意思表示
  2. 給付の原因が、不法なものであること。
    「不法な原因」とは、公序良俗に反してなされた給付とされる(判例)。なお、強行規定に反しているだけでは、「不法」とまで言いえず、態様が倫理感覚に反していることが求められる(最判昭和37年03月08日)。
  3. 不法の原因に給付者が自らの意思で加担していること。
    意思形成過程に瑕疵等があれば、錯誤などを理由として加担の意思の不存在を主張しうる。

具体例

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  1. 典型例としては、賭博の支払返還がある。私的な賭博は違法であるから、それが原因で発生した債権債務関係は公序良俗違反として無効であり、これに基づく支払を受けた者は不当利得を得ている状態となっている。しかしながら、この給付は賭博と言う、不法な原因により給付されているため、本条項により返還を請求することはできない。
  2. しかし、これが、いわゆる「いかさま賭博」であった場合、これは一方的に負けることが確定しているのであるから、そもそも賭博ではなく「詐欺」の類である(刑法論としても同旨)。従って、これは、詐欺取消しの上、但書が適用され、返還を請求できる事例となる。

効果

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不当利得として、返還を請求することはできない。
給付者は、であれば所有権を失い、債権であれば、その権利を失う。

判例

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  1. 約束手形金請求(最高裁判決 昭和28年01月22日)民法第90条
    1. 不法原因給付の返還の特約の効力
      不法原因給付の返還の特約は、有効である。
      • 元来本条が不法の原因のため給付をした者にその給付したものの返還を請求することを得ないものとしたのは、かかる給付者の返還請求に法律上の保護を与えないというだけであつて、受領者をしてその給付を受けたものを法律上正当の原因があつたものとして保留せしめる趣旨ではない。従つて、受領者においてその給付を受けたものをその給付を為した者に対し任意返還することは勿論、先に給付を受けた不法原因契約を合意の上解除してその給付を返還する特約をすることは、本条の禁ずるところでない。
    2. 不法原因給付の返還の特約に基く返還義務の履行のため振り出された手形の請求と民法第708条
      不法原因給付の返還の特約に基く返還義務の履行のため振り出された手形の請求には、民法708条は適用がない。
  2. 貸金請求(最高裁判決 昭和29年08月31日)民法第90条,民法第587条
    消費貸借成立のいきさつに不法の点があつた場合における貸金返還請求と民法第90条および第708条の適用の有無
    消費貸借成立のいきさつにおいて、貸主の側に多少の不法があつたとしても、借主の側にも不法の点があり、前者の不法性が後者のそれに比しきわめて微弱なものに過ぎない場合には、民法第90条および第708条は適用がなく、貸主は貸金の返還を請求することができるものと解するのを相当とする。
    • 当初、貸主は借主と、不法な密輸を企てたが思いとどまり出資を拒絶、借主に懇願され経費の一部として金銭を貸与した。借主はこれを遊蕩に消費、返済を求めると不法の原因により給付された金銭であるとし返済を拒否した事案。
  3. 預金返還請求(最高裁判決 昭和30年10月07日 前借金無効判決)民法第90条
    酌婦としての稼働契約に伴い消費賃借名義で交付された金員の返還請求の許容
    酌婦としての稼働契約が公序良俗に反し無効である場合には、これに伴い消費賃借名義で交付された金員の返還請求は許されない。
  4. 売掛代金請求(最高裁判決 昭和37年03月08日)石油製品配給規則(昭和24年総理庁令、大蔵省令、法務庁令、文部省令、厚生省令、農林省令、商工省令、運輸省令、逓信省令、労働省令、建設省令1号)1条,石油製品配給規則(昭和24年総理庁令、大蔵省令、法務庁令、文部省令、厚生省令、農林省令、商工省令、運輸省令、逓信省令、労働省令、建設省令1号)11条,石油製品配給規則(昭和24年総理庁令、大蔵省令、法務庁令、文部省令、厚生省令、農林省令、商工省令、運輸省令、逓信省令、労働省令、建設省令1号)12条
    石油製品配給規則違反の給付と不法原因給付の成否
    石油製品配給規則第1条、第11条、第12条に違反し配給割当公文書と引換でなしにされた揮発油の譲渡といえども、必ずしも民法第708条にいわゆる不法原因給付に当るとはいえない。
    • 統制法規に違反した行為が、民法708条の不法原因給付に当るものであるというためには、更に右違反行為が、当時の社会における倫理、道徳に反した醜悪なものであつた旨の首肯しうべき理由が示されなければならない。
      「民法708条にいう不法の原因のための給付とは、その原因となる行為が、強行法規に違反した不適法なものであるのみならず、更にそれが、その社会において要求せられる倫理、道徳を無視した醜悪なものであることを必要とし、そして、その行為が不法原因給付に当るかどうかは、その行為の実質に即し、当時の社会生活および社会感情に照らし、真に倫理、道徳に反する醜悪なものと認められるか否かによつて決せらるべきものといわなければならない。」
  5. 債務不存在確認等請求(最高裁判決 昭和40年12月17日)
    不法な契約によつて生じた債権のためにされた抵当権設定登記の抹消請求と民法第708条の適用の有無。
    賭博行為によつて生じた金銭債権のためにされた抵当権設定登記の抹消を請求するについては、民法第708条は適用されないものと解するのが相当である。
    • 不法な契約によつて生じた債権のためにされた抵当権設定が無効であるので、それの表象である抵当権設定登記の抹消請求に民法第708条は適用されない。
  6. 所有権移転登記抹消請求(最高裁判決 昭和41年07月28日) 刑法第96条の2,民訴法58条,民訴法56条
    債権者からの差押を免れるためにした不動産の仮装売買が不法原因給付にあたらないとされた事例
    会社が債権者からの差押をうけるおそれがあつたので、第三者が当該会社の財産管理処分の任にあたつていた取締役と図り、会社所有の不動産につき売買を仮装して、自己の名義に所有権移転登記手続を経由した場合において、やがて会社に対し右不動産の所有名義を返還すべきことを知悉していたなど、判示事実関係のもとでは、第三者は民法第708条本文にいう不法原因給付を主張して不動産所有名義の返還請求を拒むことができない。
  7. 建物明渡等請求 (最高裁判決 昭和45年10月21日)
    1. 不法の原因により未登記建物を贈与した贈与した場合その引渡は民法708条にいう給付にあたるか
      不法の原因により未登記建物を贈与した場合、その引渡は、民法708条にいう給付にあたる。
    2. 所有権に基づく返還請求と民法708条
      建物の贈与に基づく引渡が不法原因給付にあたる場合に、贈与者は、目的物の所有権が自己にあることを理由として、右建物の返還を請求することはできない。
    3. 建物の所有者のした贈与に基づく履行行為が不法原因給付にあたる場合における右建物の所有権の帰すう
      建物の所有者のした贈与に基づく履行行為が不法原因給付にあたる場合には、贈与者において給付した物の返還を請求できないことの反射的効果として、右建物の所有権は、受贈者に帰属するに至ると解するのが相当である。
    4. 建物の贈与が不法原因給付であつてその所有権が受贈者に帰属した場合における受贈者に対する登記手続請求の許否
      未登記建物の贈与が不法原因給付であつてその所有権が受贈者に帰属した場合において、贈与者が右建物につき所有権保存登記を経由したときは、受贈者が贈与者に対し建物の所有権に基づいて右所有権保存登記の抹消登記手続を請求することは、不動産物権に関する法制の建前からいつて許されるものと解すべきである。
  8. 建物所有権移転登記手続等請求(最高裁判決 昭和46年10月28日)
    民法708条にいう給付と既登記建物の贈与に基づく引渡
    不法の原因により既登記建物を贈与した場合、その引渡をしただけでは、民法708条にいう給付があつたとはいえない。
    • 贈与が不法の原因に基づくものであり、同条にいう給付があつたとして贈与者の返還請求を拒みうるとするためには、本件のような既登記の建物にあつては、その占有の移転のみでは足りず、所有権移転登記手続が履践されていることをも要するものと解するのが妥当(上記判例と事情が異なるか?)。
  9. 預託金返還請求、民訴法第一九八条二項の申立(最高裁判決 平成9年4月24日)民法第708条民法第715条,証券取引法(平成3年法律第96号による改正前のもの)50条1項,証券会社の健全性の準則等に関する省令(昭和40年大蔵省令第60号。平成3年大蔵省令第55号による改正前のもの)1条
    証券会社の従業員が顧客に利回り保証の約束をして株式等の取引を勧誘し一連の取引をさせた場合に右取引による顧客の損失について証券会社が不法行為責任を免れないとされた事例
    証券会社の営業部員が、株式等の取引の勧誘をするに際し、取引の開始を渋る顧客に対し、法令により禁止されている利回り保証が会社として可能であるかのように装って利回り保証の約束をして勧誘し、その旨信じた顧客に取引を開始させ、その後、同社の営業部長や営業課長も右約束を確認するなどして取引を継続させ、これら一連の取引により顧客が損失を被ったもので、顧客が右約束の書面化や履行を求めてはいるが、自ら要求して右約束をさせたわけではないなど判示の事実関係の下においては、顧客の不法性に比し、証券会社の従業員の不法の程度が極めて強いものと評価することができ、証券会社は、顧客に対し、不法行為に基づく損害賠償責任を免れない(不法原因給付としない)。
  10. 損害賠償請求事件(最高裁判決 平成20年06月10日)民法第709条(2につき)出資の受入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律(平成15年法律第136号による改正前のもの)5条2項
    1. 社会の倫理,道徳に反する醜悪な行為に該当する不法行為の被害者が当該醜悪な行為に係る給付を受けて利益を得た場合に,被害者からの損害賠償請求において同利益を損益相殺等の対象として被害者の損害額から控除することの可否
      社会の倫理,道徳に反する醜悪な行為に該当する不法行為の被害者が,これによって損害を被るとともに,当該醜悪な行為に係る給付を受けて利益を得た場合には,同利益については,加害者からの不当利得返還請求が許されないだけでなく,被害者からの不法行為に基づく損害賠償請求において損益相殺ないし損益相殺的な調整の対象として被害者の損害額から控除することも,民法第708条の趣旨に反するものとして許されない。
    2. いわゆるヤミ金融業者が元利金等の名目で違法に金員を取得する手段として著しく高利の貸付けの形をとって借主に金員を交付し,借主が貸付金に相当する利益を得た場合に,借主からの不法行為に基づく損害賠償請求において同利益を損益相殺等の対象として借主の損害額から控除することは,民法708条の趣旨に反するものとして許されないとされた事例
      いわゆるヤミ金融の組織に属する業者が,借主から元利金等の名目で違法に金員を取得して多大の利益を得る手段として,年利数百%〜数千%の著しく高利の貸付けという形をとって借主に金員を交付し,これにより,当該借主が,弁済として交付した金員に相当する損害を被るとともに,上記貸付けとしての金員の交付によって利益を得たという事情の下では,当該借主から上記組織の統括者に対する不法行為に基づく損害賠償請求において同利益を損益相殺ないし損益相殺的な調整の対象として当該借主の損害額から控除することは,民法第708条の趣旨に反するものとして許されない。

前条:
民法第707条
(他人の債務の弁済)
民法
第3編 債権
第4章 不当利得
次条:
民法第709条
(不法行為による損害賠償)
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