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聖書ヘブライ語入門/前置詞(1)/前置詞の形

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』

10.5 前置詞の形

10.5.1 ‏לְ‎ や ‏בְּ‎ のように一字で書かれる前置詞は、 冠詞の ‏ה‎ や接続詞の ‏ו‎ と同じく、 その次に来る語との間を空けずに続けて書かれ、 その母音が後続の音の影響を受ける。 次の課で学ぶ前置詞 ‏כְּ‎ もこの点では同じである。すなわち、


10.5.1.1 冠詞 ‏ה‎ の前では、冠詞の h がその直後の母音(= v) と前置詞の母音 (= v') とに挟まれて消失し、 そのため v' と v とが連続するので3.1 の規則(2)に従って v'v は v となり、 結果として冠詞の h を前置詞の子音に置き換えた形になる。例えば

‎*‏בְּהַדָּבָר‎ bəhaddābār→ *bəaddābār → baddābār ‏ בַּדָּבָר

‎*‏לְהָאָדָם‎ ləhā'ādām → *ləā'ādām → lā'ādām ‏ לָאָדָם

‎*‏כְּהֶעָפָר‎ kəhe`āār → *kəe`āār → ke`āār ‏ כֶּעָפָר ‎《塵の如く》

‏*‏לְהַיְלָדִים‎ ləhaylādīm → laylādīm ‏ לַיְלָדִים ‎ (4.4.1.3参照。)


10.5.1.2 直後にシェワーを含む音節 Cə が続くと、CəCə → CiC (7.5.6) だから、前置詞の母音は i になり名詞の最初の ə は消失する(すなわち、有音シェワーが無音シェワーに変わる)。例えば *‏לְבְרִית‎ ləbərīt → librīt ‏לִבְרִית‎《契約に》。さらに名詞の語頭子音が y のときは Cəyə → Ciy → Cī。例えば *‏ בְּיְהוּדָה ‎→‏ בִּיְהוּדָה ‎→‏ בִּיהוּדָה ‎bīhūdā 《ユダで》(6.5.(2)参照)。ついでながら yəhūdā の h も母音に挟まれているから実際には殆ど発音されず、yəhūdā → yūdā となる。ラテン語では Iuda で、我々もユダと言う。ただし我々が kawae を「川へ」と書くように、綴字には ‏ה‎ が残されている。

10.5.1.3 直後に複合シェワーの付いた喉音が来ると、וְ の場合(6.5.(3))と同じく複合シェワーの母音に同化される。例えば、

‎*‏ בְּחֲלוֹם ‎→‏ בַּחֲלוֹם ‎ baḥalōm《夢に》

‎*‏ כְּאֳנִיָּה ‎→‏ כָּאֳנִיָּה ‎ ko'onīyyā《船のように》

‎*‏ לְאֱכֹל ‎→‏ לֶאֱכׂל ‎ le'ekōl《食べるのに》

ただし ‏ אֱלׂהִים ‎ の前では、*‏ וְאֱלֹהִים ‎ が ‏ וֵאלֹהִים ‎ wēlōhīm となる (6.5.(3))。

10.5.2 ‏ מִן ‎ がこの形で現れるのは冠詞の前に限られ、マッケーフ ‏־‎(3.2.2)でつないで書かれる。例:‏ מִן־הַמֶּ֫לֶךְ ‎ min hammélek。 それ以外では、min の語末の n が次の子音(すなわち名詞の語頭子音)に完全同化し、二重子音が生じる。ヘブライ文字では ‏ מן ‎ の ‏ ן ‎ が消えて ‏ מ ‎ だけになるので、‏ לְ ‎ や ‏ בְּ ‎ と同じく(10.5.1) 次の語を続けて書かれ、その最初の字に強ダゲシュが付く。 例えば *‏ מִן־קוֹל ‎ min qōl → miqqōl ‏ מִקּוֹל ‎、*‏ מִן־דָּבָר ‎ min dābār → middābār ‏ מִדָּבָל ‎。その際 miyyə → mī- (10.5.1.2参照)。例:‏ מִן־יְרוּשָׁלִַם ‎ → *‏ מִיְּרוּשָׁלִַם ‎ → ‏ מִירוּשָׁלִַם ‎ mīrūšalayim

10.5.2.1 既に見たように、r および喉音は二重子音とならない、したがって ‏ר‎、‏א‎、‏ה‎、‏ח‎、‏ע‎ にはダゲシュは付かない (2.3) から、これらの音で始まる語の前に ‏ מִן ‎ が来るときは、‏ מֵ ‎ mē という形をとる。 例えば *‏ מִן־רׂאשׁ ‎ min rōš → *mirrōš → mērōš ‏ מֵרׂאשׁ ‎《頭から》、 ‏ מִן־עוֹלָם ‎ min `ōlām → * mi``ōlām → mē`ōlām ‏ מֵעוֹלָם ‎。 これは冠詞が、例えば *‏ הַרֹּאשׁ ‎ となる代わりに ‏ הָרֹאשׁ ‎ となった(4.4.1) のと、同じ現象で、一般に代償延長と呼ばれる。

ただし冠詞の前では、この規則にしたがって ‏ מֵהַמֶּ֫לֶךְ ‎ となることも、あるいは上に述べたように ‏ מִן־הַמֶּ֫לֶךְ ‎ となることも可能。

10.5.3 前置詞は、上に述べたように、名詞句の連語形の一種であるから、人称代名詞の前に置かれるとき、人称代名詞は接尾形を取る(9.4参照)。‏ל‎、‏ב‎、‏מן‎、‏כ‎ に人称代名詞の接尾した形を下に掲げる。既に学んだ名詞接尾形 (9.4) と比較して、異同を確認せよ。名詞接尾形からの類推による判定はできるはずである。‏מן‎、‏כ‎ は複数二・三人称以外では ‏ מִמְּ ‎~‏ מִמֶּנ ‎ mim(men)-、‏ כָּמ֫וֹ ‎ kāmō- という語幹を取っており、また ‏ מן ‎ の単・三・男と複・一は偶然に同形である。

‏לְ‏ ‏בְּ‎ ‏מִן‎ ‏כְּ‎
単数 一人称 ‏לִי‏ ‏בִּי‎ ‏מִמֶּ֫נִּי‎ ‏כָּמ֫וֹנִי‎
二人称男性 ‏לְךָ‏ ‏בְּךָ‎ ‏מִמְּךָ‎ ‏כָּמ֫וֹךָ‎
二人称女性 ‏לָךְ‏ ‏בָּךְ‎ ‏מִמֵּךְ‎ ‏כָּמוֹךְ‎
三人称男性 ‏לוֹ‎ ‏בּוֹ‎ ‏מִמֶּ֫נּוּ‎ ‏כָּמ֫וֹהוּ‎
三人称女性 ‏לָהּ‎ ‏בָּהּ‎ ‏מִמֶּ֫נָּה‏ ‏כָּמ֫וֹהָ‎
複数 一人称 ‏לָ֫נוּ‎ ‏בָּ֫נוּ‎ ‏מִמֶּ֫נּוּ‏ ‏כָּמ֫וֹנוּ‎
二人称男性 ‏לָכֶם‎ ‏בָּכֶם‎ ‏מִכֶּם‏ ‏כָּכֶם‎
二人称女性 ‏לָכֶן‎ ‏בָּכֶן‎ ‏מִכֶּן‏ ‏כָּכֶן‎
三人称男性 ‏לָהֶם‎ ‏בָּהֶם‎,‏בָּם‎,‏בַּהֵ֫מָּה‎ ‏מֵהֶם‎ ‏כָּהֶם‎
三人称女性 ‏לָהֶן‎ ‏בָּהֶן‎,‏בָּהֵ֫נָּה‎ ‏מֵהֶן‎,‏מֵהֵ֫נָּה‎ ‏כָּהֶן‎