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不正競争防止法

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』

不正競争防止法の教科書。


概要

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不正競争防止法(「不競法」などと本ページでは略記)の内容は、多岐に渡り、一例として、いわゆる「産業スパイ」を禁じた条項や営業秘密の保護などを制定していたり、一方では商標法や著作権法などでは取り締まることができない商品表示の模倣を規制したものや、あるいは特許法では取り締まることができないが他社の商品を真似する事を規制した条項など、内容が多岐にわたる。

法律自体は古く、昭和の初期に制定されているが、しかし産業スパイの規制は平成2年に制定されたり、その後の改正では社会のデジタル化に応じた新しい規制が追加されたりするなど、制定当初と比べ、法の性質が比較的大きく変わってきている。

ブランドの保護

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無許可で、有名ブランドなどの商品表示(商品名や企業名など)にあやかった商品名や企業名や店名などをつける事は、違法である(2条1項2号)[1]。(以下、「2号」と呼ぶことにする) そのような商品を販売する事なども違法である。 商標権法と違い登録を要件としない代わりに、不正競争防止法では周知性(1号)や著名性(2号)などを要件としている[2]

2号の著名性ある表示の保護は、平成5年(1993)の全面改正の際に新設された条項である[3]

スナックシャネル事件

平成の前半、千葉県である飲食店が自店の店名に「スナックシャネル」という名前をつけた。

これがイタリアの有名服飾ブランドのシャネル グループによって訴えられた。

業種や規模の非類似性[4]から、消費者がスナックシャネルとイタリアのシャネルとが混同される可能性は低い[5]だろうが、 しかし最高裁は誤認を引き起こす可能性があるとして、シャネルグループ側の勝訴とした。

商標権の場合は、業種区分などの類似性が議論になる。

しかし不正競争防止法では、業種が類似していなくても対象になる。

この判例の背景として、現代では多くの企業はブランドイメージを重視しており、 たとえ異業種であっても商品名や企業名を真似られる事は、 そのブランドイメージの信用低下につながるおそれのある事などが、 背景として考えられる[6]


なお、ラブホテルのホテルシャネル事件とは異なる事件である[7]

営業秘密

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日本企業など日本の組織[8]が非公開にしている技術などの情報を外部に漏らすと、営業秘密に関する不正競争行為とみなされ、違法である。2条1項4号~10号に該当する。産業スパイの違法性も、これに該当する[9]

製造業などの技術ノウハウや設計図[10]に限らず、顧客名簿や従業員名簿[11]や仕入れリストなども営業秘密になりうる[12]

また、窃取や詐欺などの手法をもちいて技術情報などを取得することも、不正取得とみなされ、それを使用したり開示することは営業秘密に関する不正競争行為であり、違法である[13]。たとえば、自分が直接詐取をしなくとも、たとえば詐取された顧客名簿である事を知りながら取引するなどは違法である[14]

適用範囲

日本の組織でなく、日本でも活動していない外国企業の営業秘密については、処罰の対象から外れる。一方、日本で事業をしている組織の営業秘密でありさえすれば、侵害された場所が外国であっても処罰の対象になる(21条6項)[15][16]

なお、営業秘密の侵害ではなく、日本国の裁判所の発する秘密保持命令に違反した場合は、日本の裁判所の命令に違反した事が問題でもあるので、日本の組織の営業秘密であるかどうかを問わない(21条7項)[17][18]

その他

営業秘密の成立要件としては、有用性、非公知性、秘密管理性の3つがある(不正競争防止法2条6項)。

営業秘密でない情報でも契約書などにより秘密にする事は法的に可能であるが、その場合の根拠法は不正競争防止法ではなく民法その他の法など別の法が根拠法になる[19]

模倣品・海賊版など

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模倣品や海賊版の対策として2条1項3号では、他人の商品の形態を模倣した商品の譲渡が禁止されている。

平成5年以前でも、意匠権などを用いて意匠登録をされているものは取り締まりをすることができたが、意匠は早い時期に模倣をすることができてしまうため、意匠登録がされる前は意匠権によっては取り締まることができないなどの事情もあり、保護が不十分であった。このため、平成5年に上記の規定が新設されることになった。

ただし、日本国内において発売から3年が経過した商品については、(常識的な限度はあるだろうが、)ある程度なら形態の模倣をする事が可能である[20][21](19条5項イ)。

この理由としては、その3年のうちに先行投資がある程度は回収できる事などが理由と考えられる。もちろん3年以内には投資をあまり回収できなかった商品もありうるが、しかし行政上の都合により一律に期間を設定する必要があるため、よって前述のような政策的な見地により一定の期間を定めたと説明されている[22][23]。また3年という長さの根拠については、1993年の欧州共同体における同類の規制でも発売後の模倣禁止の期間が3年であったので、国際的ハーモナイゼーション(国際協調や、国際的なすり合わせのような意味)の観点からも日本でも3年が採用された[24]


商品名などの混同惹起

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商標登録されてない商品名や商号でも、他社がそれを無許可で使用すると、もしその商品名や商号が十分に有名なものの場合、不正競争防止法違反になる場合がある(2条1項1号)。

有名な事例として「勝烈庵」(かつれつあん)事件がある。これは、横浜にある料理屋の「勝烈庵」が、他社に商店名を真似された事件であり、昭和51年の裁判と昭和58年の裁判があるが、昭和58年のほうの裁判では、横浜地方裁判所の判決では横浜を中心とした周辺地域での周知性を根拠にして、裁判所は他店の「かつれつあん」および類似の商店名の使用を差し止めを認めた[25][26][27]。 一方、静岡県富士市所在の「かつれつあん」に対する請求については、周知性が否定されたので、請求が棄却された[28][29][30]

商標法による登録商標の保護は日本全国に及ぶが、一方で不正競争防止法による商標の保護は、上述のように、その商標が周知の地域だけに限られる[31]。不正競争防止法による商標の保護は、商標登録されてないものの保護をするのだから、上述のように集知性という相応の基準があるわけである[32]

原産地などの誤認惹起

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原産地を誤認させる表示は、不正競争とされ違法である。原産地に限らず、品質、内容、製造方法、用途について誤認を引きおこすもの(誤認惹起)は違法である(2条1項20号)。つまり、原産地や品質などの誤認惹起行為は違法である。

説明の簡略化のため、本ページでは主に原産地について説明する。

たとえば日本産のワインであるのにフランス産ワインであると誤認させるような表示は違法である[33] [34]

原産地表示が明記されていなくても、たとえば日本産製品の包装にイタリア国旗など外国国旗をつけて販売するような事は、外国で製造されたものと誤認させるおそれがあるので違法とみなされた判例がある。 (ヘアピン事件)[35][36]


ただし別の判例では、ダイヤモンドの場合は加工によって大きく価値が変わるので、産出国ではなくその加工地が原産地となる場合もある[37][38]。 (昭和53年の原石ベルギーダイヤモンド事件)このように商品価値が大きく付与された地を基準として原産地とする傾向がある[39][40]


品質の誤認惹起の判例としては、酒税法上「ビール」でない発泡酒を「ライナービヤー」として販売した事件が、日本では「ビヤ-」とは「ビール」のこととするのが一般的であるとの理由で誤認惹起行為に該当するとして、判例では違法になった(昭和40年のライナービヤー事件)[41][42]

これら誤認惹起の訴訟や差し止めが可能な請求権者は、その誤認惹起行為により「営業上の利益」を侵害される者に限定されるので、原則として誤認惹起をする者に対する競争者だけが請求可能である。よって、一般消費者には原則として請求の主体にはならない。[43][44][45]

雑題

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裁判公開の例外

裁判は憲法では公開が原則であるが(日本国憲法82条)、しかし営業秘密に関する裁判は公開すべきではない。

そこで、例外的に、営業秘密に関する裁判については、裁判所はその営業秘密を非公開にして、非公開である裁判官室[46]やその他の非公開の場所で処理を進めること等により、もっぱら裁判官自身だけが閲覧できるようにする事ができる(7条2項など)。[47]この制度のことを「インカメラ手続」[48]または「インカメラ審理手続」[49]などという。

ただし、必要に応じて、裁判者の裁量に応じて当事者や訴訟代理人や民事訴訟法で定められる専門委員(民訴第5条第2節第1款)[50]に情報の一部を開示することができる[51](不競法7条4項 など)。

このインカメラ手続きに加えて、さらに秘密保持命令(10条)を当事者などに発する事を併用することにより、より一層に営業秘密を保持させる効果がある[52]。秘密保持命令に違反して営業秘密をもらすと、刑事罰の対象になる(21条2項6号)[53][54]。なお秘密保持命令は、当事者からの申し立てにもとづいて裁判所が発することができ(10条2項)、また決定の通知は決定書による書面で当人に通達しなければならない(10条3項)[55][56]


なお、上記の非公開の条文による非公開方法とは全く異なる他の非公開手段として、民事訴訟を利用せずに仲裁を利用するという手段もある。なぜなら、民事訴訟は公開が原則であるが、一方で仲裁の制度には公開の義務が無いので、民事訴訟を起こさずに仲裁でとどめておく方法で「企業秘密」[57]を非公開にできるからである[58]。実際、国際商事紛争では仲裁もよく使われている[59]。ニューヨーク条約という国際商事紛争の仲裁に関する国際条約があるので、実効性も高い。


ドメイン

他人の商品や他社の企業名などと同じドメインまたは類似のドメインを取得することは違法である(19号)。ドメインに関する本号は平成13年改正で導入された。

なお、19号の条文は 「不正の利益を得る目的で、又は他人に損害を加える目的で、他人の特定商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章その他の商品又は役務を表示するものをいう。)と同一若しくは類似のドメイン名を使用する権利を取得し、若しくは保有し、又はそのドメイン名を使用する行為」とあるが、 これらの目的部分に当たる「不正の利益を得る目的で、又は他人に損害を加える目的」のことを法学用語では図利加害目的と呼んでいる。[60][61]

コピーガードやぶり

DVDのコピーガードをやぶる事などは違法(不競法2条1項17号・18号)。[62] 条文では「技術的制限手段の効果を妨げること」などが違法であるとされる。

DVD等のコピーガードやぶりのほか、衛星放送[63]などのスクランブル放送の不正視聴、購入製品シリアル番号の入力が必要なコンピュータソフトウェアの不正利用などが対象となると考えられている[64]

両罰規定

例として、ある会社の法人の従業員が不正競争防止法違反を行ったとき、国や行政は必要に応じてその従業員の雇い主である法人(例の場合なら会社)または雇用主である自然人も罰する事ができ、こういった規定のことを「両罰規定」という[65][66]

ただし、被害者がその雇用主の法人自身である場合にまで、被害者法人を罰するのは不合理であるので、学説などにより、雇用主地震が被害者である場合は例外と考えられている[67]


主な参考文献

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  • 茶園成樹 編『不正競争防止法 第2版』、有斐閣、2019年9月15日 第2版 第1刷発行、
  • 経済産業省 知的財産政策室 編『逐条解説 不正競争防止法 第2版』、商事法務、2019年7月10日 第2版 第1刷 発行、
  • 角田政芳・辰巳直彦『知的財産法 第9版』、有斐閣、2020年4月20日 第9版 第1刷 発行
  • 愛知靖之ほか、『知的財産法』有斐閣、2018年4月30日 初版第1刷発行
  • 『Q&A 商標・意匠・不正競争防止法 ~大阪の弁護士が解説する知的財産権~』、大阪弁護士会知的財産権委員会 出版プロジェクトチーム、平成28年9月20日 初版第1刷 発行

教科書・コンメンタール

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  • 序論(比較法・改正の歴史など)
  • 目的(1条)
  • 定義(2条)
  • 差止関係(3条)
  • 損害賠償関係(4条〜9条)
  • 秘密保持関係(10条〜13条)
  • 信用回復措置(14条)
  • 消滅時効(15条)
  • 外国国旗・国際機関の標章等の使用禁止(16条・17条)
  • 利益供与の禁止(18条)
  • 適用除外(19条)
  • 経過措置(20条)
  • 罰則(21条・22条)
  • 刑事訴訟手続の特例(23条〜31条)
  • 没収に関する手続等の特例(32条〜34条)
  • 保全手続(35条・36条)
  • 没収及び追徴の裁判の執行及び保全についての国際共助手続等(37条〜40条)

判例集

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他の知的財産法のリンク

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出典などの脚注

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  1. ^ 大阪弁護士会、P174
  2. ^ 愛知、P414
  3. ^ 角田、P303
  4. ^ 角田、P301
  5. ^ 愛知、P417
  6. ^ 大阪弁護士会、P175
  7. ^ 角田、P303
  8. ^ 茶園、P180
  9. ^ 茶園、P74
  10. ^ 『逐条解説 不正競争防止法 第2版』、P91
  11. ^ 『逐条解説 不正競争防止法 第2版』、P99、参考文献では派遣企業の管理名簿が例示されている
  12. ^ 愛知、P43
  13. ^ 茶園、P74
  14. ^ 愛知、P439
  15. ^ 茶園、P180
  16. ^ 逐条、P288
  17. ^ 茶園、P180
  18. ^ 逐条、P290
  19. ^ 逐条、P360
  20. ^ 茶園、P58
  21. ^ 茶園、P234
  22. ^ 茶園、P58
  23. ^ 茶園、P240
  24. ^ 逐条、P240
  25. ^ 茶園、P26
  26. ^ 逐条、P68
  27. ^ 角田、P296
  28. ^ 茶園、P27
  29. ^ 角田、P296
  30. ^ 愛知、P414
  31. ^ 茶園、P26
  32. ^ 逐条、P67
  33. ^ 茶園、P118
  34. ^ 角田、P322
  35. ^ 角田、P322
  36. ^ 逐条、P146
  37. ^ 逐条、P146
  38. ^ 茶園、P118
  39. ^ 逐条、P146
  40. ^ 茶園、P118
  41. ^ 逐条、P149
  42. ^ 角田、P322
  43. ^ 逐条、P152
  44. ^ 茶園、P122
  45. ^ 角田、P322
  46. ^ 茶園、P163
  47. ^ 茶園、P163
  48. ^ 茶園、P163
  49. ^ 逐条、P189
  50. ^ 茶園、P163
  51. ^ 逐条、P190
  52. ^ 茶園、P163
  53. ^ 茶園、P164
  54. ^ 逐条、P197
  55. ^ 茶園、P164
  56. ^ 逐条、P475
  57. ^ 三木、P6
  58. ^ 三木浩一『民事訴訟法』、2021年1月15日 第3版 第8刷 発行、P6
  59. ^ 三木、P6
  60. ^ 茶園、不正競争防止法、P107
  61. ^ 愛知、P446
  62. ^ 愛知、P444
  63. ^ 茶園、P10
  64. ^ 茶園、P100
  65. ^ 逐条、P296
  66. ^ 茶園、P172
  67. ^ 逐条、P297