内乱記 第3巻 (下)
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目次
[編集]「内容目次」を参照せよ。
両軍のテッサリアへの転進
[編集]75節
[編集]カエサル勢がアポッロニアへの復路を急ぎ、ポンペイウスの騎兵を退けて、ゲヌスス川岸へたどり着く
まず、輜重と護衛の1個軍団を、アポッロニアへ向けて先遣する
- ①項 Itaque
- このようにして、
- nulla interposita mora
- 何ら時間を置かずに、
- (訳注:「絶対奪格の例文」を参照。)
- 何ら時間を置かずに、
- sauciorum modo et aegrorum habita ratione
- 負傷した者たちや病気の者たちをおもんばかっただけで、
- (訳注:saucius, -a, -um 「負傷した(者)」 > 男性・複数・属格 sauciōrum)
- (訳注:aeger 形容詞 「病気の」または男性名詞 「病人」 > 複数・属格 aegrōrum)
- 負傷した者たちや病気の者たちをおもんばかっただけで、
- impedimenta omnia silentio prima nocte ex castris Apolloniam praemisit
- ac conquiescere ante iter confectum vetuit.
行軍 が成し遂げられる前に休息することを禁じた。- (訳注:conquiēscere 「休息する」)
- (訳注:vetāre 「禁じる」)
- His una legio missa praesidio est.
- これら(の輜重隊)の護衛として、1個軍団が先遣された。
2個軍団を陣営にとどめ、残りの軍団をアポッロニアへ向けて先遣する
- ②項 His explicitis rebus
- これらの事柄を処理すると、
- (訳注:「絶対奪格の例文」を参照。)
- これらの事柄を処理すると、
- duas in castris legiones retinuit,
- 2個軍団を陣営に保持しておき、
- (訳注:retinēre 「引き止める」「保持する」)
- 2個軍団を陣営に保持しておき、
- reliquas de quarta vigilia compluribus portis eductas
- 残り(の軍団)を、第四夜警時の頃に、いくつかの門から進発させて、
- (訳注:第四夜警時は、真夜中から日の出までの間の後半の時間帯「明け方」を指す。『古代ローマの不定時法』を参照。)
- 残り(の軍団)を、第四夜警時の頃に、いくつかの門から進発させて、
- eodem itinere praemisit
- 同じ行程で先遣した。
カエサル自身も2個軍団とともにデュッラキウム近郊から撤退する
- parvoque spatio intermisso,
- わずかな時間をあけただけで、
- (訳注:「絶対奪格の例文」を参照。)
- わずかな時間をあけただけで、
- ut et militare institutum servaretur
- 軍務の取り決め(軍規)が守られるように、
- et quam serissime eius profectio cognosceretur,
- conclamari iussit,
- (陣営からの撤収が)号令されることを、命じた。
- statimque egressus
- すぐさま、進発して、
- et novissimum agmen consecutus
行軍隊列 の最後列に追いついて、
- celeriter ex conspectu castrorum discessit.
- たちどころに、陣営の視界から撤収してしまった。
ポンペイウスが、カエサルの撤収に気づいて、追撃のために出発する
- ③項 Neque vero Pompeius cognito consilio eius moram ullam ad insequendum intulit,
- sed eadem
- しかも、同じ道を
- (訳注:eādem 「同じ道で」「同様に」(by the same way ))
- しかも、同じ道を
- spectans, si itinere impeditos perterritos deprehendere posset,
- exercitum e castris eduxit
- 軍隊を陣営から進発させた。
- equitatumque praemisit ad novissimum agmen demorandum,
- (カエサル勢の)
行軍隊列 の最後列を遅らせるために、騎兵隊を先遣した。- (訳注:dēmorārī 「遅らせる」)
- (カエサル勢の)
- neque consequi potuit,
- が、追いつくことができなかった。
- quod multum expedito itinere antecesserat Caesar.
- というのも、カエサルが、軽装の行軍により、(すでに)大いに先行していたからだ。
- (訳注:antecēdere 「先行する」)
- というのも、カエサルが、軽装の行軍により、(すでに)大いに先行していたからだ。
ポンペイウスの騎兵隊が、カエサルの最後列に追いすがる
- ④項 Sed cum ventum esset ad flumen Genusum,
- けれども、ゲヌスス川のたもとまで到着したときに、
- quod ripis erat inpeditis,
- (その川が)岸により(渡河を)妨げており、
- consecutus equitatus novissimos proelio detinebat.
- (ポンペイウス勢の)騎兵隊が、(カエサル勢の)最後列に追いついて、合戦により遅らせていた。
- (訳注:dētinēre 「遅らせる」)
- (ポンペイウス勢の)騎兵隊が、(カエサル勢の)最後列に追いついて、合戦により遅らせていた。
カエサルの騎兵隊と軽装歩兵が、ポンペイウスの騎兵隊を撃退する
- ⑤項 Huic suos Caesar equites opposuit
- これに対して、カエサルは配下の騎兵たちを対峙させた。
- expeditosque antesignanos admiscuit CCCC,
- qui tantum profecerunt,
- 彼らは、たいへん首尾よくやった。
- ut equestri proelio commisso pellerent omnes
- その結果、騎兵戦をやり合って、総勢を追いやって、
- compluresque interficerent
- かなりの者たちを
殺戮 して、
- かなりの者たちを
- ipsique incolumes se ad agmen reciperent.
- (カエサル配下の兵たち)自身は無傷で
行軍隊列 のもとへ引き上げていた。
- (カエサル配下の兵たち)自身は無傷で
76節
[編集]両軍がゲヌスス川岸のアスパラギウム近辺に陣取るが、カエサル勢が出し抜いて復路を急ぐ
- ①項 Confecto iusto itinere eius diei quod proposuerat Caesar,
- カエサルは、その日に予定していたところの正規の行軍を成し遂げて、
- (訳注1:iūstus, -a, -um 「正規の」)
- (訳注2:prōpōnere 「予定する」)
- カエサルは、その日に予定していたところの正規の行軍を成し遂げて、
- traductoque exercitu flumen Genusum
- 軍隊にゲヌスス川を渡河させて、
- veteribus suis in castris contra Asparagium consedit
- アスパラギウムの向かい側の味方の古い陣営に陣取り、
- militesque omnes intra vallum castrorum continuit
- すべての
兵士 (歩兵)たちを、陣営の防柵 の内側に引き止め、
- すべての
- equitatumque per causam pabulandi emissum
- confestim decumana porta in castra se recipere iussit.
- ②項 Simili ratione Pompeius confecto eius diei itinere
- ポンペイウスも同様の手順で、その日の行軍を成し遂げて、
- in suis veteribus castris ad Asparagium consedit.
- アスパラギウムのそばの味方の古い陣営に陣取った。
カエサル勢が陣営に落ち着いたと思い込み、ポンペイウス勢が分散してしまう
- ③項 Eius milites,
- 彼(ポンペイウス)の兵士たちは、
- quod ab opere integris munitionibus vacabant,
堡塁 が手つかずだったゆえに、堡塁工事 がひまだったので、- (訳注:vacāre ab ~ 「~免れる」「ひまである」)
- alii lignandi pabulandique causa longius progrediebantur,
- ある者たちは、材木集めや
秣 あさりのために、より遠くに出て行ったし、
- ある者たちは、材木集めや
- alii, quod subito consilium profectionis ceperant
- 別のある者たちは、不意に(デュッラキウム近辺からの)出発の
作戦計画 を立てていたので、
- 別のある者たちは、不意に(デュッラキウム近辺からの)出発の
- magna parte impedimentorum et sarcinarum relicta,
輜重 や手荷物 の大部分を放置しており、
- ad haec repetenda invitati propinquitate superiorum castrorum
- depositis in contubernio armis
共有天幕 の中に武器を置きっ放しにして、
- vallum relinquebant.
堡塁 を後にしていた。
カエサル勢が不意に陣営から出発して、ポンペイウス勢を引き離す
- ④項 Quibus ad sequendum impeditis
- その者たちにより、追跡することが妨げられていたときに、
- Caesar, quod fore providerat,
- カエサルは、そうなることを予見していたので、
- meridiano fere tempore signo profectionis dato
- ほぼ真昼の時に、出発の
号令 を出して、
- ほぼ真昼の時に、出発の
- exercitum educit
- 軍隊を進発させて、
- duplicatoque eius diei itinere
- その日の行軍を倍に増やして、
- VIII(octō) milia passuum ex eo loco procedit;
- その場所から8 ローママイル(約12km)進み出る。
- quod facere Pompeius discessu militum non potuit.
- というのも、ポンペイウスは、兵士たちの退出により、(追跡を)行なうことができなかったからだ。
77節
[編集]カエサル勢が、ポンペイウス勢の追跡を振り切って、アポッロニアにたどり着く
- ①項 Postero die Caesar similiter praemissis prima nocte impedimentis
- de quarta vigilia ipse egreditur,
- 第四夜警時の頃に、自身も進発して、
- (訳注:第四夜警時は、真夜中から日の出までの間の後半の時間帯「明け方」を指す。『古代ローマの不定時法』を参照。)
- 第四夜警時の頃に、自身も進発して、
- ut si qua esset imposita dimicandi necessitas, subitum casum expedito exercitu subiret.
- もし、何らかの闘う必要性が負わせられたなら、軍隊が軽装であることにより、不意の
危難 に耐えるようにした。
- もし、何らかの闘う必要性が負わせられたなら、軍隊が軽装であることにより、不意の
- Hoc idem reliquis fecit diebus.
- ほかの日々も、これと同じことを実行した。
- ②項 Quibus rebus perfectum est,
- それらの行動が成し遂げられて、
- ut altissimis fluminibus atque impeditissimis itineribus
- その結果、河川がきわめて深く、道がきわめて通りにくくても、
- nullum acciperet incommodum.
- 何ら災難をこうむることがなかった。
- ③項 Pompeius enim,
- なぜなら、ポンペイウスは、
- primi diei mora inlata
- 1日目の遅れが引き起こされて、
- et reliquorum dierum frustra labore suscepto,
- ほかの日々も、無駄に骨折りを甘んじた。
- cum se magnis itineribus extenderet et praegressos consequi cuperet,
- 強行軍で力を尽くして、先行する者たちに追いつくことを望んだのだが。
- (訳注:magnīs itineribus 「強行軍で」)
- (訳注:extendere 「努力する」)
- (訳注:praegredī 「前を行く」 > 完了受動分詞 praegressus)
- 強行軍で力を尽くして、先行する者たちに追いつくことを望んだのだが。
- quarta die finem sequendi fecit
- 4日目に、追跡することを終わりにして、
- atque aliud sibi consilium capiendum existimavit.
- (ポンペイウス)自らにとって、別の
作戦計画 が立てられるべきだ、と判断したのだ。
- (ポンペイウス)自らにとって、別の
78節
[編集]カエサルがアポッロニア周辺に守備隊を残してドミティウスとの合流を目指し、ポンペイウスもスキピオとの合流を目指す
- ①項 Caesari
- カエサルにとって、
- ad saucios deponendos,
- 負傷した者たちをゆだねるため、
- (訳注:dēpōnere 「預ける、任せる、ゆだねる」 > 動形容詞 dēpōnendus)
- 負傷した者たちをゆだねるため、
- stipendium exercitui dandum,
- 軍隊に
俸給 を支給するため、
- 軍隊に
- socios confirmandos,
- (近隣諸市の)同盟者たちを激励するため、
- (訳注:12節④項において、ビュッリス、アマンティアや周辺の諸都市がカエサルと盟約を結んだことが述べられた。)
- (近隣諸市の)同盟者たちを激励するため、
- praesidium urbibus relinquendum
- (これらの)諸都市に守備隊を残しておくために、
- necesse erat adire Apolloniam.
- アポッロニアを訪れることが、必要であったのだ。
- ②項 Sed his rebus
- しかし、これらの事柄に対しては、
- tantum temporis tribuit, quantum erat properanti necesse;
- 急いでいる者にとって必要であっただけの時間しか割り当てなかった。
- (訳注:tantum ~, quantum ・・・ 「・・・だけ~」)
- 急いでいる者にとって必要であっただけの時間しか割り当てなかった。
- timens Domitio, ne adventu Pompei praeoccuparetur,
- ポンペイウスの到来に先んじられるのではないかと、ドミティウス(・カルウィヌス)を心配して、
- ad eum omni celeritate et studio incitatus ferebatur.
- 彼(ドミティウス)のもとへ、あらん限りの迅速さと意気込みに駆られて、前進させられていた。
カエサルの作戦企図とは
- ③項 Totius autem rei consilium
- ところで、(カエサル勢の)全体の
作戦計画 は、
- ところで、(カエサル勢の)全体の
- his rationibus explicabat,
- 以下の
企図 によって展開していたのだ。
- 以下の
- ut si Pompeius eodem contenderet,
- もし、ポンペイウスが同じところへ急いでいたならば、
- abductum illum a mari
- atque ab iis copiis, quas Dyrrachii comparaverat, frumento ac commeatu, abstractum
- デュッラキウムで(すでに)調達しておいた、穀物や
生活物資 の貯えから引き離して、- (訳注1:commeātus は、兵士の生活に欠かせない食糧や生活必需品などを指す。)
- (訳注2:abstrahere 「引き離す、遠ざける」 > 完了受動分詞 abstractus)
- デュッラキウムで(すでに)調達しておいた、穀物や
- pari condicione belli secum decertare cogeret;
- 対等な戦争条件により、自分(カエサル)と決戦することを(ポンペイウスに)強いるように。
- si in Italiam transiret,
- もし、(ポンペイウスが)イタリアに渡航したならば、
- coniuncto exercitu cum Domitio
- ドミティウスと
(陸上の)軍隊 を合流させて、
- ドミティウスと
- per Illyricum Italiae subsidio proficisceretur;
- イッリュリクムを通ってイタリアへの増援のために出発しよう。
- si Apolloniam Oricumque obpugnare
- もし、(ポンペイウスが)アポッロニアやオリクムを攻囲して、
- et se omni maritima ora excludere conaretur,
- 自分(カエサル)をすべての海岸地帯から排除することを試みたならば、
- (訳注:exclūdere 「締め出す、排除する」)
- 自分(カエサル)をすべての海岸地帯から排除することを試みたならば、
- obsesso Scipione necessario illum suis auxilium ferre cogeret.
カエサルが諸都市に守備隊を残して、エピルスとアタマニアを通って、ドミティウスとの合流のために出発する
- ④項 Itaque praemissis nuntiis ad Cn. Domitium Caesar
- こうして、カエサルは、グナエウス・ドミティウス(・カルウィヌス)のもとへ
伝令 たちを先遣して、
- こうして、カエサルは、グナエウス・ドミティウス(・カルウィヌス)のもとへ
- scripsit et, quid fieri vellet, ostendit
- (書状を)書き送って、(カエサルは)何がなされることを望んでいるかを示して、
- praesidioque Apolloniae cohortibus IIII,
- Lissi una,
- リッススに1個を、
- III Orici relictis,
- オリクムに3個を残して、
- quique erant ex vulneribus aegri depositis,
- 負傷のゆえに病んでいた者たちをゆだねて、
- per Epirum atque Athamaniam iter facere coepit.
- エピルスやアタマニアを通って、行軍をし始めた。
- (訳注:Athamaniam 「アタマニアを」は修正提案されたもので、
写本では Acarnaniam 「アカルナニアを」などとなっているが、
これでは南に寄り過ぎているので、修正提案が支持されている。)
- (訳注:Athamaniam 「アタマニアを」は修正提案されたもので、
- エピルスやアタマニアを通って、行軍をし始めた。
- ⑤項 Pompeius quoque
- ポンペイウスもまた、
- de Caesaris consilio coniectura iudicans
- カエサルの
作戦計画 について、推測 により洞察しながら、
- カエサルの
- ad Scipionem properandum sibi existimabat;
- 自分にとって、スキピオのもとへ急行するべきである、と判断していた。
- si Caesar iter illo haberet,
- もし、カエサルが あちらに進路を取るならば、
- ut subsidium Scipioni ferret,
- スキピオに加勢しよう。
- si ab ora maritima Oricoque discedere nollet,
- もし、(カエサルが)海岸地帯や(港湾都市である)オリクムから遠ざかることを望まないのならば、
- quod legiones equitatumque ex Italia expectaret,
- イタリアからの諸軍団や騎兵隊を待っているということなので、
- ipse ut omnibus copiis Domitium adgrederetur.
- (ポンペイウス)自身が、すべての軍勢をともなって(マケドニア地方にいると思われる)ドミティウスを攻撃しよう、と。
79節
[編集]カエサルの部将ドミティウス・カルウィヌスが、紆余曲折を経て、カエサルとの合流を果たす
- ①項 His de causis
- このような理由のために、
- uterque eorum celeritati studebat,
- 彼ら (カエサルとポンペイウス) の両者ともに、迅速さに努めていたし、
- et suis ut esset auxilio,
- 味方にとっての援軍であらんとし、
- <et> ad opprimendos adversarios
- <かつ>敵対者たちを打ちのめすための
- ne occasioni temporis deesset.
- 時機をおろそかにしないようにしていた。
- ②項 Sed Caesarem Apollonia a derecto itinere averterat;
- しかし、アポッロニア (まで南下したこと) が、カエサルをまっすぐな進路からそらしていた。
- Pompeius per Candaviam iter in Macedoniam expeditum habebat.
ドミティウスに、ポンペイウスとの遭遇の危機が迫る
- ③項 Accessit etiam ex inproviso aliud incommodum,
- そのうえ、想定外の別の厄介なことが付け加わった。
- quod Domitius, <cum> dies complures castris Scipionis castra conlata habuisset,
- ドミティウス(・カルウィヌス)、多くの日々にわたって、スキピオの陣営に、陣営を対峙させておいた<のに>、
- rei frumentariae causa ab eo discesserat
- 穀物の調達のために、彼 (スキピオ) のもとから(すでに)撤退しており、
- et Heracliam [Senticam], quae est subiecta Candaviae,
- カンダウィアに接しているヘラクリア[・センティカ]へ、
- (訳注:写本の記述では、Heracliam Senticam 「ヘラクリア・センティカ へ」とあるが、
これはトラキアの町(現在のブルガリア領)であって北東に寄り過ぎるため、
ヘラクリア・リュンケスティス Heraclea Lyncestis (現在のマケドニア共和国領内)が正しいと判断され、[ ]内が削除提案されている。)
- (訳注:写本の記述では、Heracliam Senticam 「ヘラクリア・センティカ へ」とあるが、
- カンダウィアに接しているヘラクリア[・センティカ]へ、
- iter fecerat,
- (すでに)行軍していた。
- ut ipsa fortuna illum obicere Pompeio videretur.
- その結果、まさに運命が彼 (ドミティウス)をポンペイウス(の攻勢)にさらすように思われていた。
- Haec ad id tempus Caesar ignorabat.
- カエサルは、その当時、このことを知らなかったのだ。
ポンペイウスが勝報を各地に広めたため、カエサル勢の移動が困難になる
- ④項 Simul a Pompeio litteris per omnes provincias civitatesque dimissis
- 他方では、ポンペイウスによって(周辺の)すべての属州や都市を通って書状が送り出されて、
- de proelio ad Dyrrachium facto
- デュッラキウムの辺りで行なわれた合戦について、
- latius inflatiusque multo, quam res erat gesta,
- fama percrebruerat pulsum fugere Caesarem paene omnibus copiis amissis.
- カエサルはほとんど全軍勢を失い、駆逐されて敗走している、という風評が広まっていたのだ。
- (訳注:percrēbrescere > 3人称・単数・過去完了・能動・直説法 percrēbruerat という記述の写本のほかに、
percrēbēscere > 3人称・単数・過去完了・能動・直説法 percrēbuerat という記述の写本もある。)
- (訳注:percrēbrescere > 3人称・単数・過去完了・能動・直説法 percrēbruerat という記述の写本のほかに、
- カエサルはほとんど全軍勢を失い、駆逐されて敗走している、という風評が広まっていたのだ。
- Haec itinera infesta reddiderat,
- このことが、(カエサル勢の)行軍を危険な状態にしていたし、
- haec civitates nonnullas ab eius amicitia avertebat.
- このことが、少なからぬ諸都市を彼 (カエサル) との
同盟関係 から離反させていたのだ。
- このことが、少なからぬ諸都市を彼 (カエサル) との
- ⑤項 Quibus accidit rebus,
- そのような事態により、以下のことが生じた。
- ut pluribus dimissi itineribus a Caesare ad Domitium et a Domitio ad Caesarem
- 多くの道筋により、カエサルからドミティウスへ、ドミティウスからカエサルへ、(伝令として)送り出された者たちが、
- nulla ratione iter conficere possent.
- どのような方策によっても、往来を果たせなかったのだ。
アッロブロゲス族の兄弟の従者たちが、ドミティウスの斥候たちに機密をしゃべってしまう
- ⑥項 Sed Allobroges, Roucilli atque Aeci familiares,
- quos perfugisse ad Pompeium demonstravimus,
- ── その者たちがポンペイウスのもとへ寝返ったことは前述したが、──
- conspicati in itinere exploratores Domiti,
- 道中において、ドミティウスの斥候たちを見出すと、
- seu pristina sua consuetudine, quod una in Gallia bella gesserant,
- ガリアで一緒に戦争を闘った往時の自分らの付き合いからか、
- seu gloria elati,
- あるいは、
功名 に高ぶっていたからか、
- あるいは、
- cuncta, ut erant acta, exposuerunt
- 行なわれていたことの全部を語ってしまい、
- et Caesaris profectionem, adventum Pompei docuerunt.
- カエサルの(デュッラキウム周辺からの)出発、ポンペイウスの到来を教えてしまったのだ。
ドミティウスが、無事にテッサリア近くのアエギニウムでカエサルと合流する
- ⑦項 A quibus Domitius certior factus
- ドミティウスは、その者たちから報告されて、
- vix IIII horarum spatio antecedens
- かろうじて4時間の距離を進んで、
- hostium beneficio periculum vitavit
- 敵方のおかげで危険を免れた。
- et ad Aeginium, quod est obiectum oppositumque Thessaliae,
- そして、テッサリアに面して向かい合うアエギニウムの辺りで、
- Caesari venienti occurrit.
- やって来るカエサルと出くわしたのである。
80節
[編集]カエサル勢が、同盟を反故にしたテッサリア辺境の城市ゴンピを攻め落とす
- ①項 Coniuncto exercitu Caesar
- カエサルは、(配下の二つの)軍隊を合流させると、
- Gomphos pervenit,
- ゴンピに到着する。
- quod est oppidum primum Thessaliae venientibus ab Epiro;
- quae gens paucis ante mensibus ultro ad Caesarem legatos miserat,
- その(ゴンピの)住民は、数か月前には、自発的に、カエサルのもとへ使節たちを(すでに)遣わして、
- ut suis omnibus facultatibus uteretur,
- 自分たちのすべての能力を用いてくれるように(と頼み)、
- praesidiumque ab eo militum petierat.
- 彼 (カエサル) に兵士たちの守備隊(の配備)を要求していた。
- ②項 Sed eo fama iam praecurrerat, quam supra docuimus, de proelio Dyrrachino,
- けれども、そこには、デュッラキウムの戦いについて、前述したような風聞がすでに先行していて、
- (訳注:praecurrere 「先行する」 > 3人称・単数・過去完了・能動・直説法 praecucurrerat > 別形 praecurrerat)
- けれども、そこには、デュッラキウムの戦いについて、前述したような風聞がすでに先行していて、
- quod multis auxerat partibus.
- (その風聞は、戦いについて)大部分において、大げさに言っていた。
ゴンピの武将アンドロステネスが、ポンペイウスとスキピオに救援を求める
- ③項 Itaque Androsthenes, praetor Thessaliae,
- こうして、テッサリアの将であるアンドロステネスは、
- cum se victoriae Pompei comitem esse mallet quam socium Caesaris in rebus adversis,
- 苦境にあるカエサルの
同盟者 であるよりも、むしろポンペイウスの勝利の仲間 であることを望んでいたので、
- 苦境にあるカエサルの
- omnem ex agris multitudinem servorum ac liberorum in oppidum cogit
- 耕地から奴隷たちや自由民たちの群集のすべてを、
城市 に徴集し、
- 耕地から奴隷たちや自由民たちの群集のすべてを、
- portasque praecludit
- 諸門を閉ざす。
- et ad Scipionem Pompeiumque nuntios mittit,
- スキピオやポンペイウスのもとへ伝令たちを遣わして、
- ut sibi subsidio veniant:
- 自分たちの増援として来てくれるように(頼んだ)。
- se confidere munitionibus oppidi,
- 自分らは、
城壁都市 の塁壁 を信じている。
- 自分らは、
- si celeriter succurratur;
- もし、速やかに救援に駆けつけてくれるならば(の話だが)。
- longinquam oppugnationem sustinere non posse.
- 長期間の
包囲攻撃 を持ちこたえることはできない、と(伝令たちを通じて伝えた)。
- 長期間の
スキピオが、テッサリア北東部のラリサに到着
- ④項 Scipio discessu exercituum ab Dyrrachio cognito
- Larisam legiones adduxerat;
- ラリサへ諸軍団を(すでに)率いて行っていた。
- Pompeius nondum Thessaliae adpropinquabat.
- ポンペイウスは、テッサリアにまだ接近していなかった。
カエサルが、城市ゴンピの攻囲の準備を命じる
- ⑤項 Caesar, castris munitis,
- カエサルは、陣営を(堡塁で防御を)固めて、
- scalas musculosque ad repentinam oppugnationem fieri
- はしごや
攻城歩廊 を、不意の包囲攻撃のために造られること、- (訳注:ムスクルス(攻城歩廊)については、第2巻10節を参照せよ。)
- はしごや
- et crates parari iussit.
- 編み細工が準備されること、を命じた。
カエサルが、城市ゴンピの攻囲の有益性を説く
- ⑥項 Quibus rebus effectis
- それらの物が作られると、
- cohortatus milites docuit,
- 兵士たちに
発破 をかけて(以下のように)説いた。
- 兵士たちに
- quantum usum haberet ad sublevandam omnium rerum inopiam
- あらゆる物の欠乏を和らげるために、どれほど有益であることか。
- potiri oppido pleno atque opulento,
- 豊かで富のある城市を獲得することが。
- simul reliquis civitatibus huius urbis exemplo inferre terrorem
- 同時に、この
都市 を見せしめ とすることで、ほかの都市国家 に畏怖心を誘発することが、
- 同時に、この
- et id fieri celeriter, priusquam auxilia concurrerent.
- そのことが、(スキピオとポンペイウスらが)救援に急行するより前に、速やかになされることが(どれほど有益であることか)。
カエサルが、城市ゴンピを攻略して、ただちに隣のメトロポリスに急行する
- ⑦項 Itaque usus singulari militum studio
- このようにして、兵士たちの類いまれなる
意気込み を役立てて、
- このようにして、兵士たちの類いまれなる
- eodem, quo venerat, die post horam nonam
- (ゴンピのそばに)到着した同日の第9時の後に、
- (訳注:「第9時」は、正午から日の入りまでの間の3分の1が経過した頃。夏季なら、現代の午後2時よりも後の時間。
『古代ローマの不定時法』を参照。)
- (訳注:「第9時」は、正午から日の入りまでの間の3分の1が経過した頃。夏季なら、現代の午後2時よりも後の時間。
- (ゴンピのそばに)到着した同日の第9時の後に、
- oppidum altissimis moenibus oppugnare adgressus
- この上なく高い
防壁 の城市 を攻囲することに着手して、- (訳注:adgredī ~[不定法] 「~に着手する」)
- この上なく高い
- ante solis oocasum expugnavit
- 日没の前には攻略した。
- et ad diripiendum militibus concessit
- そして、兵士たちに(ゴンピの城内を)略奪することを許可した。
- statimque ab oppido castra movit
- そして、すぐさま、城市から陣営を引き払って、
- (訳注:castra movēre 「陣営を引き払う」)
- そして、すぐさま、城市から陣営を引き払って、
- et Metropolim venit, sic ut nuntios expugnati oppidi famamque antecederet.
- 攻略された城市(ゴンピ)の伝令たちや風聞に先行するように、メトロポリスに到着した。
81節
[編集]城市メトロポリスをはじめ諸都市がカエサルに帰順。カエサルはテッサリア平原を決戦地と想定する
- ①項 Metropolitae,
- メトロポリスの住民たちは、
- (訳注:Mētropolītae, [属格] Mētropolītārum 「メトロポリス (Mētropolis ;希 Μητρόπολις ) の住民たち」)
- メトロポリスの住民たちは、
- primum eodem usi consilio,
- はじめのうちは、(ゴンピの住民たちと)同じ判断を採用して、
- isdem permoti rumoribus,
- (カエサルの敗戦についての)同じ風評に揺り動かされて、
- portas clauserunt
- 諸門を閉ざして、
- murosque armatis compleverunt;
- 城壁を武装した者たちで埋め尽くした。
- sed postea
- けれども、後に、
- casu civitatis Gomphensis cognito ex captivis, quos Caesar ad murum producendos curaverat,
- カエサルが城壁のたもとに連行されるように手配した 捕虜たちから、都市ゴンピの
災厄 を悟って、
- カエサルが城壁のたもとに連行されるように手配した 捕虜たちから、都市ゴンピの
- portas aperuerunt.
- 諸門を開いた。
城市メトロポリスと周辺の諸都市が、カエサルの軍門に降る
- ②項 Quibus diligentissime conservatis,
- 彼ら(メトロポリスの住民たち)が 念には念を入れて 保護されると、
- (訳注:dīligenter 副詞 「注意深く、入念に」 > 最上級 dīligentissimē)
- 彼ら(メトロポリスの住民たち)が 念には念を入れて 保護されると、
- conlata fortuna Metropolitum cum casu Gomphensium
- メトロポリスの
境遇 がゴンピの災厄 と比較されて、- (訳注:cōnferre ~ cum ・・・ 「~を・・・と比較する」)
- メトロポリスの
- nulla Thessaliae fuit civitas
- テッサリアの都市国家は、
- praeter Larisaeos, qui magnis exercitibus Scipionis tenebantur,
- スキピオの多勢の軍隊により占領されていたラリサの住民たちを除けば、
- (訳注:Lārīssaeī, -ōrum 「ラリサ (Lārīsa または Lārīssa) ; 希 Λάρισα または Λάρισσα ) の住民たち」)
- スキピオの多勢の軍隊により占領されていたラリサの住民たちを除けば、
- quin Caesari parerent atque imperata facerent.
- ことごとくカエサルに服従して、命令されたことを実行していた。
- (訳注:nūllus (nūlla, nūllum) ~ est, quīn ・・・
「・・・でない~はない」
nūlla cīvitās fuit, quīn ・・・
「・・・でない都市国家はなかった」
=「都市国家はことごとく・・・であった」)
- (訳注:nūllus (nūlla, nūllum) ~ est, quīn ・・・
- ことごとくカエサルに服従して、命令されたことを実行していた。
- ③項 Ille idoneum locum in agris nactus <ad frumentorum commeatus>,
- 彼は、耕作地に<糧秣供給のために>ふさわしい土地を獲得して、
- (訳注:< >内は写本にはなく、挿入提案されたもの。)
- 彼は、耕作地に<糧秣供給のために>ふさわしい土地を獲得して、
- quae prope iam matura erant,
- ── それら(の穀物)は、ほぼすでに成熟していたわけだが、──
- ibi adventum expectare Pompei
- そこにて、ポンペイウスの到来を待ち受けること、
- eoque omnem belli rationem conferre constituit.
- そこに、戦略のすべてをかけること、を決意した。
82節
[編集]ポンペイウスがテッサリアに到着して、スキピオと合流。元老院派の高位の者たちが勝利後の皮算用を始める
- ①項 Pompeius paucis post diebus in Thessaliam pervenit
- contionatusque apud cunctum exercitum
- 軍隊全員の面前で演説をして、
- (訳注:cōntiōnārī 「演説をする」 > 完了受動分詞 contiōnātus)
- 軍隊全員の面前で演説をして、
- suis agit gratias,
- Scipionis milites cohortatur, ut parta iam victoria praedae ac praemiorum velint esse participes,
- receptisque omnibus in una castra legionibus
- 諸軍団すべてを一つの陣営に収容して、
- suum cum Scipione honorem partitur
- (将軍としてのポンペイウス)自らの
職権 をスキピオと分配して、- (訳注:partīrī 「割り当てる、分配する」 > 3人称・単数・現在・能動・直説法 partītur )
- (将軍としてのポンペイウス)自らの
- classicumque apud eum cani
- 彼(スキピオ)の面前で
戦闘らっぱ が吹奏されることと、
- 彼(スキピオ)の面前で
- et alterum illi iubet praetorium tendi.
大軍を頼みとする元老院派の将兵たちが、勝利を確信して、慎重なポンペイウスをやゆする
- ②項 Auctis copiis Pompei duobusque magnis exercitibus coniunctis,
- 二つの多勢の軍隊が合流して、ポンペイウスの軍勢が増大したので、
- pristina omnium confirmatur opinio
- 以前からの皆の思いが確固たるものとされて、
- et spes victoriae augetur,
- 勝利への期待が増されたので、
- adeo ut, quidquid intercederet temporis,
- 介在していた時間がどのようなものであれ、
- id morari reditum in Italiam videretur,
- それは、イタリアへの帰還を遅延させている、と思われていたほどであった。
- et si quando quid Pompeius tardius aut consideratius faceret,
- もし、ポンペイウスが よりぐずぐずと、あるいは より慎重に 何かをしているときは、
- (訳注1:tardē 副詞「ゆっくりと、ぐずぐずと」 > 比較級 tardius 「よりぐずぐずと」)
- (訳注2:cōnsīderātē 副詞「慎重に」 > 比較級 cōnsīderātius 「より慎重に」)
- もし、ポンペイウスが よりぐずぐずと、あるいは より慎重に 何かをしているときは、
- unius esse negotium diei,
- 一日分の務めである(と思われていた)
- sed illum delectari imperio
- et consulares praetoriosque servorum habere numero dicerent.
元老院派の高位の者たちが、戦勝後の論功行賞について言い争い始める
- ③項 Iamque inter se palam de praemiis ac de sacerdotiis contendebant
- もはや、(高位の者たちは)互いに、公然と、
報酬 について、祭司職 (への任官)について、争っていたり、
- もはや、(高位の者たちは)互いに、公然と、
- in annosque consulatum definiebant,
- 何年間にもわたって
執政官職 (に任官する者たち)を指定していたり、
- 何年間にもわたって
- alii domos bonaque eorum, qui in castris erant Caesaris, petebant;
- 別の者たちは、カエサルの陣営にいた者たちの邸宅や財産を要求していた。
- ④項 magnaque inter eos in consilio fuit controversia,
- 会議において、彼らの間で、(以下のような)大きな論争があった。
- oporteretne Lucili Hirri,
- quod is a Pompeio ad Parthos missus esset,
- ── 彼は、ポンペイウスによって、パルティア人たちのもとへ派兵されていたので、 ──
- proximis comitiis praetoriis absentis rationem haberi,
- cum eius necessarii fidem implorarent Pompei,
- そのとき、彼の縁者たちは、ポンペイウスの
誓約 に助けを求めていた。
- そのとき、彼の縁者たちは、ポンペイウスの
- praestaret, quod proficiscenti recepisset,
- (ポンペイウスは、ヒッルスが)出発しようとしているときに(法務官選挙について)約束していたことを、保証するべきだ。
- ne per eius auctoritatem deceptus videretur,
- (ヒッルスが)彼 (ポンペイウス) の影響力にだまされたと、思われないようにしてくれ。
- reliqui, in labore pari ac periculo ne unus omnes antecederet, recusarent.
- (これに反して)ほかの者たちは、同じ労苦や危険の中にあるのに(ヒッルス)一人だけを皆より厚遇しないでくれ、と異議を唱えた。
83節
[編集]ポンペイウスの陣営で、元老院派のレントゥルス、ドミティウス、スキピオらが戦勝後の賞罰をめぐって言い争う
- ①項 Iam de sacerdotio Caesaris
- もはや、カエサルの
祭司職 について、- (訳注:カエサルは、37歳頃のBC63年に、終身職である最高神祇官 (Pontifex Maximus)に
立候補して当選・任官している。
カエサルが戦死するか、ローマ国家に対する謀反人として刑死しない限り、
ほかの者が就任することはできなかった。)
- (訳注:カエサルは、37歳頃のBC63年に、終身職である最高神祇官 (Pontifex Maximus)に
- もはや、カエサルの
- Domitius, Scipio Spintherque Lentulus
- ドミティウス (・アヘノバルブス)、スキピオ、およびスピンテル・レントゥルスは、
- cotidianis contentionibus
- 毎日のように競い合って、
- ad gravissimas verborum contumelias palam descenderunt,
- こっぴどい悪態をつくまでに落ちぶれていた。
- (訳注:dēscendere ad ~[対格] 「身を落として~する」)
- こっぴどい悪態をつくまでに落ちぶれていた。
- cum Lentulus aetatis honorem ostentaret,
- そのとき、レントゥルス(・スピンテル)は、
年功序列 による高官職 (就任案)を提示していたし、- (訳注1:ostentāre 「自慢する」あるいは「指し示す、注意を向けさせる」)
- (訳注2:レントゥルス・スピンテル Publius Cornelius Lentulus Spinther はBC57年の執政官。
第1巻23節ではコルフィニウム陥落とともに、カエサルの捕虜となったが、放免された。)
- そのとき、レントゥルス(・スピンテル)は、
- Domitius urbanam gratiam dignitatemque iactaret,
- ドミティウス (・アヘノバルブス) は、首都 (ローマ) での
信望 や地位 を誇示し、- (訳注1:iactāre 「自慢する、誇示する」)
- (訳注2:ドミティウス・アヘノバルブス Lucius Domitius Ahenobarbus は、
レントゥルスと同様にコルフィニウムで捕虜となり、マッシリアにも籠城したが、逃亡していた。)
- ドミティウス (・アヘノバルブス) は、首都 (ローマ) での
- Scipio adfinitate Pompei confideret.
- スキピオ は、ポンペイウスとの
姻戚関係 に頼り切っていた。- (訳注:スキピオの娘 コルネリア・メテッラ Cornelia Metella は、ポンペイウスの5人目の妻となっていた。)
- スキピオ は、ポンペイウスとの
アクティウス・ルフスが、アフラニウスのヒスパニアでの降伏を裏切りと非難
- ②項 Postulavit etiam L. Afranium proditionis exercitus Acutius Rufus apud Pompeium,
- さらに、アクティウス・ルフスは、ポンペイウスがいる所で、軍隊への裏切りのとがでルキウス・アフラニウスを訴えた。
- (訳注1:postulāre 「告訴する」「非難する」)
- (訳注2:アクティウス氏族 Acutii は、
平民 だったが、ルフスは騎士階級だったとされている。) - (訳注3:ルキウス・アフラニウス Lucius Afranius は、第1巻~第2巻で語られたように、
マルクス・ペトレイウス Marcus Petreius とともにヒスパニアでカエサルと戦ったが、降伏していた。)
- さらに、アクティウス・ルフスは、ポンペイウスがいる所で、軍隊への裏切りのとがでルキウス・アフラニウスを訴えた。
- quod <neglegenter bellum> gestum in Hispania diceret.
- ヒスパニアで<戦争がぞんざいに>遂行されたことを(アフラニウスが)語っていた限りでは(軍隊への裏切りに当たると訴えた)。
- (訳注1:quod ~[接続法] 「~限り」)
- (訳注2:<neglegenter bellum> <戦争がぞんざいに> は、写本にはなく、挿入提案されている。)
- ヒスパニアで<戦争がぞんざいに>遂行されたことを(アフラニウスが)語っていた限りでは(軍隊への裏切りに当たると訴えた)。
ドミティウス・アヘノバルブスが、三枚ずつの投票札で各人の賞罰を評決することを提案する
- ③項 Et L. Domitius in consilio dixit
- ドミティウス (・アヘノバルブス)は、会議において(次のように)述べた。
- placere sibi bello confecto ternas tabellas dari ad iudicandum
- 戦争が(勝利で)完遂されたら、評価するための三枚ずつの
投票札 が与えられることが、自分にとっては好ましい。
- 戦争が(勝利で)完遂されたら、評価するための三枚ずつの
- iis, qui ordinis essent senatorii belloque una cum ipsis interfuissent,
- 元老院議員の階級にあって、自分らと一緒に戦争に参加していた者たちに(三枚ずつの投票札が与えられることが好ましい)。
- sententiasque de singulis ferrent,
- (彼らをして)それぞれについて
評決 をさせるためだ。- (訳注:sententiam ferre 「投票する」)
- (彼らをして)それぞれについて
- qui Romae remansissent
- (ポンペイウスに従わず、首都)ローマに残留していた者たち、
- quique intra praesidia Pompei fuissent neque operam in re militari praestitissent:
- および、ポンペイウスの
陣地 内にいたが、軍事において務め を果たさなかった者たちを(評決させるためだ)。
- および、ポンペイウスの
- unam fore tabellam, qui liberandos omni periculo censerent,
- (三枚ずつのうちの)一つの
投票札 は、あらゆる訴追 から放免されるべきだと(評決者たちが)評価するために、- (訳注:perīculum 「危険」あるいは「訴訟、裁判」)
- (三枚ずつのうちの)一つの
- alteram, qui capitis damnarent,
- 二枚目は、
死刑 を宣告するために、
- 二枚目は、
- tertiam, qui pecunia multarent.
- 三枚目は、
財産 を没収するために。
- 三枚目は、
- ④項 Postremo omnes
- 結局のところ、(高位の者たち)皆が、
- aut de honoribus suis
- 自分たちの
高官職 について、
- 自分たちの
- aut de praemiis pecuniae
- あるいは、金銭的な恩賞について、
- aut de persequendis inimicitiis agebant,
敵対関係 を処罰することについて、協議していた。
- nec quibus rationibus superare possent,
- どのような戦法で(カエサルを)打ち負かしえるか、ではなくて、
- sed, quemadmodum uti victoria deberent, cogitabant.
- どんな風に
勝利 を享受するべきか、を思案していたのだ。- (訳注:quemadmodum = quem ad modum 「どのようなやり方で」)
- どんな風に
両軍のパルサルス周辺での小競り合いと駆け引き
[編集]84節
[編集]戦機が熟したと判断したカエサルが、騎兵の間に軽装歩兵を混ぜる戦術を、小競り合いで試す
- ①項 Re frumentaria praeparata
- 糧秣調達があらかじめ準備され、
- (訳注:praeparāre 「前もって用意する」 > 完了受動分詞 praeparātus)
- 糧秣調達があらかじめ準備され、
- confirmatisque militibus
- 兵士たちも元気づけられて、
- et satis longo spatio temporis a Dyrrachinis proeliis intermisso,
- quo satis perspectum habere militum <animum> videretur,
- 兵士たちの<心が>じゅうぶんに見通しがついたと思われて、
- (訳注:<animum> <心が> は写本になく、挿入提案されたもの。)
- 兵士たちの<心が>じゅうぶんに見通しがついたと思われて、
- temptandum <Caesar> existimavit, quidnam Pompeius propositi aut voluntatis ad dimicandum haberet.
- ポンペイウスが、闘うためにどのような企てまたは意思を持っているのか、試してみるべきだと<カエサルは>判断した。
- (訳注:<Caesar> <カエサルは> は、挿入提案されたもの。)
- ポンペイウスが、闘うためにどのような企てまたは意思を持っているのか、試してみるべきだと<カエサルは>判断した。
カエサル勢が、ポンペイウスの陣営に迫って、士気を高める
- ②項 Itaque exercitum ex castris eduxit
- そんなわけで、(カエサルは)軍隊を陣営から進発させて、
- aciemque instruxit,
戦列 を整えた。
- primum suis locis pauloque a castris Pompei longius,
- まずは、味方の土地に、ポンペイウスの陣営からは少し遠いところに(進み)、
- continentibus vero diebus,
- さらに、引き続く日々には、
- ut progrederetur a castris suis
- 味方の陣営から前進するようにして、
- collibusque Pompeianis aciem subiceret.
- ポンペイウス勢の(陣営がある)丘陵のそばに
戦列 を置いていた。- (訳注:sūbicere 「~の下に置く」)
- ポンペイウス勢の(陣営がある)丘陵のそばに
- Quae res in dies confirmatiorem eius exercitum efficiebat.
- その事は、日増しに、彼 (カエサル) の軍隊を確固たるものにしていた。
カエサル勢の前衛の軽装歩兵たちが、騎兵たちに交じって闘う戦術を会得する
- ③項 Superius tamen institutum in equitibus, quod demonstravimus, servabat,
- しかしながら、騎兵たちにおいては、前述した 以前からの
慣行 を維持していた。- (訳注:75節⑤項では、騎兵たちの間に 軽装の
軍旗前の散開歩兵 400名を混ぜ加えた、と述べられている。)
- (訳注:75節⑤項では、騎兵たちの間に 軽装の
- しかしながら、騎兵たちにおいては、前述した 以前からの
- ut, quoniam numero multis partibus esset inferior,
- (カエサルの騎兵隊は、ポンペイウスのより)数の面でかなり劣勢であったので、
- adulescentes atque expeditos ex antesignanis electis ad pernicitatem armis
- すばやさのために選り抜かれた
軍旗前の散開歩兵 の部隊 のうちから若くて軽武装の者たちを、
- すばやさのために選り抜かれた
- inter equites proeliari iuberet,
- 騎兵たちの間で交戦することを命じていた。
- qui cotidiana consuetudine usum quoque eius generis proeliorum perciperent.
- 彼らは、毎日の習慣により、その類いの戦いの経験さえも習得していたのだ。
軽装歩兵を混ぜ加えたカエサルの騎兵1000騎が、ポンペイウスの7000騎と互角以上に闘う
- ④項 His erat rebus effectum,
- これらの事が成し遂げられると、
- ut equitum mille etiam apertioribus locis VII milium Pompeianorum impetum,
- (カエサル勢の)騎兵1000騎が、開けた場所においてさえ、ポンペイウス勢の7000(の騎兵)の突撃に、
- cum adesset usus, sustinere auderent
- 経験が助けとなっていたので、あえて持ちこたえて、
- neque magnopere eorum multitudine terrerentur.
- 彼ら (ポンペイウスの騎兵) の多勢に、あまり動じなかった。
- (訳注:neque magnoperē ~ 「あまり~ない」)
- 彼ら (ポンペイウスの騎兵) の多勢に、あまり動じなかった。
- ⑤項 Namque etiam per eos dies proelium secundum equestre fecit
- 現に、(カエサルは)その日々を通してさえも、好調な騎兵戦を行ない、
- atque unum Allobrogem ex duobus, quos perfugisse ad Pompeium supra docuimus,
- cum quibusdam interfecit.
- 幾人かの者たちとともに殺害した。
85節
[編集]カエサルが、行軍の駆け引きによって、慎重なポンペイウスを決戦に誘い出そうとする
- ①項 Pompeius, qui castra in colle habebat,
- ポンペイウスは、
丘陵 に陣営を保持しており,
- ポンペイウスは、
- ad infimas radices montis aciem instruebat,
- (その)
小山 の最も下のふもとに戦列 を整えていて、
- (その)
- semper, ut videbatur, expectans, si iniquis locis Caesar se subiceret.
- もしやカエサルが不利な所に身をさらすのではないかと、常に待ち望んでいるように思われていた。
- (訳注:si ~[接続法・未完了過去] 「もしや~ではないかと」)
- (訳注:sūbicere 「(危険などに)さらす」)
- もしやカエサルが不利な所に身をさらすのではないかと、常に待ち望んでいるように思われていた。
カエサルが、ポンペイウスを陣営から誘い出す策を企てる
- ②項 Caesar nulla ratione ad pugnam elici posse Pompeium existimans
- カエサルはどのような方法によっても、ポンペイウスを戦いに誘い出すことができない、と判断して、
- (訳注:ēlicere 「おびき出す、誘い出す」)
- カエサルはどのような方法によっても、ポンペイウスを戦いに誘い出すことができない、と判断して、
- hanc sibi commodissimam belli rationem iudicavit, uti castra ex eo loco moveret semperque esset in itineribus,
- その場所から陣営を動かして、常に行軍中であることが、自分にとって最も有利な戦法だ、と洞察した。
- haec spectans, ut movendis castris pluribusque adeundis locis commodiore re frumentaria uteretur,
- これは、陣営を動かして より多くの地点を訪れることによって、糧抹補給をより好都合に享受するように、
- simulque in itinere ut aliquam occasionem dimicandi nancisceretur
- 他方では、行軍中に、何らかの闘う好機にでくわすように、
- et insolitum ad laborem Pompei exercitum cotidianis itineribus defatigaret.
- 労苦に慣れていない ポンペイウスの軍隊を、毎日の行軍により疲弊させるように、もくろんでいた。
ついに、ポンペイウス勢が陣営から前進して来る
- ③項 His constitutis rebus,
- このような
軍事行動 が決められ、
- このような
- signo iam profectionis dato
- すでに出発の
号令 が発せられて、
- すでに出発の
- tabernaculisque detensis
天幕 がたたまれたときに、- (訳注:dētendere 「(天幕を)たたむ」 > 完了受動分詞 detensus)
- animum adversum est paulo ante extra cotidianam consuetudinem longius a vallo esse aciem Pompei progressam,
- 少し前に、ポンペイウスの
戦列 が、毎日の習慣より外側へ、堡塁からより遠くへ、進み出ていたことに気づいた。
- 少し前に、ポンペイウスの
- ut non iniquo loco posse dimicari videretur.
- その結果、(カエサル勢にとって)不利でない場所でも闘うことができると思われていた。
カエサルが雄弁を振るって、軍勢を出陣させる
- ④項 Tum Caesar apud suos,
- そのとき、カエサルは、配下の者たちの前で、
- cum iam esset agmen in portis,
- すでに、
行軍隊列 は(陣営から出るために)諸門のところにいたのだが、
- すでに、
- "differendum est" inquit "iter in praesentia nobis
- (カエサルは)発言した:「目下のところ、我が方にとって、行軍は延期されるべきだ。」
- et de proelio cogitandum, sicut semper depoposcimus;
- 「我々が常に求めてきたような合戦について、考えるべきである。」
- animo simus ad dimicandum parati:
- 「闘うための心の準備はできている。」
- non facile occasionem postea reperiemus.";
- 「(今を逃したら)後になっては、たやすく好機を見いだせないぞ。」
- confestimque expeditas copias educit.
- すぐさま、軽装のまま軍勢を進発させた。
86節
[編集]ポンペイウスが、せがまれて戦いを決意、騎兵の機動力を活かした速戦即決の戦法を提案する
- ①項 Pompeius quoque,
- ポンペイウスもまた、
- ut postea cognitum est,
- ── 後に知られたように ──
- suorum omnium hortatu statuerat proelio decertare.
- 配下の者たち一同から
焚 き付けられて、合戦で決着を付けることを決心していた。
- 配下の者たち一同から
- Namque etiam in consilio superioribus diebus dixerat,
- 確かに、過ぎし日々の
軍議 において(次のように)さえ言っていた。
- 確かに、過ぎし日々の
- priusquam concurrerent acies,
戦列 が激突するより前に、
- fore uti exercitus Caesaris pelleretur.
- カエサルの
軍隊 が駆逐されるようになるであろう、と。
- カエサルの
- ②項 Id cum essent plerique admirati,
- (ポンペイウスが述べた)そのことに、たいていの者たちがビックリしていたときに、
- "scio me" inquit "paene incredibilem rem polliceri;
- (ポンペイウスは)言った:「私が ほとんど信じがたい事を明言しているということを、私は心得ている。」
- (訳注:以下、ポンペイウスの発言が直接話法で描写されている部分を、うすい水色でマーキングする。)
- (ポンペイウスは)言った:「私が ほとんど信じがたい事を明言しているということを、私は心得ている。」
- sed rationem consilii mei accipite,
- quo firmiore animo in proelium prodeatis.
- そのことによって、より強固な闘志をもって、合戦に進み出るようにせよ。」
ポンペイウスが、速戦即決の作戦を提案
- ③項 Persuasi equitibus nostris,
- 「我が方の騎兵たちに、(以下のような戦法を)私は促したし、
- (訳注:persuādēre ~ [与格] , ut ・・・ 「・・・するように、~を説得する/促す」
> 1人称・単数・完了・能動・直説法 persuāsī )
- (訳注:persuādēre ~ [与格] , ut ・・・ 「・・・するように、~を説得する/促す」
- 「我が方の騎兵たちに、(以下のような戦法を)私は促したし、
- idque mihi facturos confirmaverunt,
- そのことを遂行するでありましょう、と(騎兵たちも)私に確言した。
- ut cum propius sit accessum,
- より近くに進軍している間に、
- dextrum Caesaris cornu ab latere aperto adgrederentur
- et circumventa a tergo acie
- かつ、
戦列 を背後から包囲することによって、
- かつ、
- prius perturbatum exercitum pellerent, quam a nobis telum in hostem iaceretur.
- 我が方によって飛び道具が敵陣に投げ込まれるよりも前に、混乱させられた(カエサルの)軍隊を敗走せしめよ。
- ④項 Ita sine periculo legionum et paene sine vulnere bellum conficiemus.
- それゆえ、諸軍団の
危険 がなく、ほとんど負傷 もなしに、戦争を我が方は成し遂げるであろう。
- それゆえ、諸軍団の
- Id autem difficile non est, cum tantum equitatu valeamus."
- さらに、そのことは、困難ではない。これほどにも、騎兵隊において、我が方はまさっているのだから。
兵士たちよ、決戦において、われら元老院派を失望させてくれるな
- ⑤項 Simul denuntiavit,
- 一方で、(ポンペイウスは、以下のように)告示した。
- ut essent animo parati in posterum,
- 翌日に向けて、心の準備をせよ。
- et quoniam fieret dimicandi potestas, ut saepe rogitavissent,
- (ポンペイウスの部下たちが)しばしば要求していたように、決着をつける機会が生じるのであるから、
- ne suam neu reliquorum opinionem fallerent.
- 自分 (ポンペイウス) やほかの者たちの(勝利の)
予想 を裏切らないように、と。- (訳注1:nē ~ neu ・・・ ○○ 「~も・・・も○○するな」)
- (訳注2:fallere 「(期待を)裏切る、失望させる」)
- 自分 (ポンペイウス) やほかの者たちの(勝利の)
87節
[編集]ラビエヌスが、カエサル勢は弱体化していると士気を高めて、必勝を誓う
- ①項 Hunc Labienus excepit
- et, cum Caesaris copias despiceret,
- カエサルの軍勢を見下しており、
- Pompei consilium summis laudibus efferret,
- "noli", inquit "existimare, Pompei, hunc esse exercitum, qui Galliam Germaniamque devicerit.
- (次のように)言った:ポンペイウスよ、これが、ガリアとゲルマニアを征伐した軍隊であると判断してはいけない。
- (訳注:以下、ラビエヌスの発言が直接話法で描写されている部分を、うすい水色でマーキングする。)
- (次のように)言った:ポンペイウスよ、これが、ガリアとゲルマニアを征伐した軍隊であると判断してはいけない。
- ②項 Omnibus interfui proeliis
- 合戦にはことごとく、私は居合わせたし、
- neque temere incognitam rem pronuntio.
- 知らない事を、むやみに私は公言しているのではない。
- Perexigua pars illius exercitus superest;
- (ガリアとゲルマニアを征伐した)あの軍隊のうち、ごくわずかな
部隊 しか生き残っていないし、- (訳注:superesse 「生き残る、生き残っている」)
- (ガリアとゲルマニアを征伐した)あの軍隊のうち、ごくわずかな
- magna pars deperiit,
- 多くの
部隊 は、壊滅してしまった。
- 多くの
- quod accidere tot proeliis fuit necesse,
- そのことは、あれだけ多数の
合戦 によっては、起こることが不可避であったのだ。
- そのことは、あれだけ多数の
- multos autumni pestilentia in Italia consumpsit,
- イタリアにおいては、
秋季 の伝染病 が、多くの者たちを衰弱死させてしまったし、
- イタリアにおいては、
- multi domum discesserunt,
- 多くの者たちが、故郷に立ち去ってしまったし、
- multi sunt relicti in continenti.
- 多くの者たちが、間隔を置かずに置き去りにされたままである。
- (訳注:in continentī 「間隔を置かずに」
※「大陸に」とする訳書もあるが、その場合は in continente でなければならない。)
- (訳注:in continentī 「間隔を置かずに」
- 多くの者たちが、間隔を置かずに置き去りにされたままである。
- ③項 An non audistis
- あるいは、君らは聞いていないのか?
- ex iis qui per causam valetudinis remanserunt, cohortes esse Brundisii factas?
- ④項 Hae copiae quas videtis,
- 君らが見ているこの軍勢は、
- ex dilectibus horum annorum in citeriore Gallia sunt refectae,
- この数年のキテリオル・ガリアにおける
徴兵 によって再建されて、- (訳注:キテリオル・ガリア citeriore Gallia は、アルプス山脈とルビコン川の間の属州のこと。)
- この数年のキテリオル・ガリアにおける
- et plerique sunt ex coloniis Transpadanis.
- たいていの者たちは、トランスパダナの植民諸市からの出身者であり、
- (訳注:トランスパダナ・ガリア Transpadana Gallia は、パドゥス川(現・ポー川)の北岸地域のこと。)
- たいていの者たちは、トランスパダナの植民諸市からの出身者であり、
- Ac tamen, quod fuit roboris,
- それらは、
精鋭部隊 であったにもかかわらず、- (訳注:ac tamen 「それにもかかわらず」)
- それらは、
- duobus proeliis Dyrrachinis interiit."
- デュッラキウムでの二度の合戦により、壊滅してしまったのだ。
- ⑤項 Haec cum dixisset,
- (ラビエヌスは)これらを語って、
- iuravit se nisi victorem in castra non reversurum,
- 自分は 勝利者としてでない限り 陣営には戻らないであろう、と宣誓して、
- reliquosque ut idem facerent hortatus est.
- ほかの者たちも、同じことをするように、と激励した。
- ⑥項 Hoc laudans Pompeius idem iuravit;
- ポンペイウスは、これを ほめたたえて、同じことを宣誓した。
- nec vero ex reliquis fuit quisquam qui iurare dubitaret.
- 現に、ほかの者たちのうちから、宣誓することをためらう者は、誰もいなかった。
- ⑦項 Haec cum facta sunt in consilio,
- これらのことが、軍議においてなされたので、
- magna spe et laetitia omnium discessum est;
- 一同は、大きな期待と喜びとともに、散会した。
- ac iam animo victoriam praecipiebant,
- そして、すでに、心では、勝利を予感していた。
- quod de re tanta et a tam perito imperatore
- というのも、これほどの大事について、これほどの老練なる
将軍 によって、
- というのも、これほどの大事について、これほどの老練なる
- nihil frustra confirmari videbatur.
- わけもなく、何ら断言されることはない、と思われていたからである。
ついに両雄が雌雄を決する (パルサルスの戦い)
[編集]88節
[編集]ポンペイウス麾下の戦列の陣容。カエサルがその歩兵数を4万7000人ほどと見積もる
- ①項 Caesar cum Pompei castris adpropinquasset,
- カエサルは、ポンペイウスの陣営に接近していたときに、
- (訳注:cum +接続法・過去完了 「(歴史的に)~した時に」)
- カエサルは、ポンペイウスの陣営に接近していたときに、
- ad hunc modum aciem eius instructam animum advertit.
- ②項 Erant in sinistro cornu legiones duae traditae a Caesare initio dissensionis ex senatus consulto;
- 左翼には、(両者の)
紛争 のはじめに、元老院決議 に基づき、カエサルによって引き渡された2個軍団があった。
- 左翼には、(両者の)
- quarum una prima, altera tertia appellabatur.
- それらのうち一つは
第1 (軍団)、もう一つは第3 (軍団)と呼ばれていた。
- それらのうち一つは
- In eo loco ipse erat Pompeius.
- その陣地には、ポンペイウス自身がいた。
- (訳注:その左翼の2個軍団は、カエサルの仇敵ルキウス・ドミティウス・アヘノバルブスが指揮していた、などとする史料もある。)
- その陣地には、ポンペイウス自身がいた。
- ③項 Mediam aciem Scipio cum legionibus Syriacis tenebat.
- 戦列の中央部を、スキピオがシリアの(2個)軍団とともに占めていた。
- Ciliciensis legio coniuncta cum cohortibus Hispanis, quas traductas ab Afranio docuimus,
- in dextro cornu erant conlocatae.
- 右翼に配列されていた。
- (訳注:右翼は、レントゥルス・スピンテル Publius Cornelius Lentulus Spinther が指揮していた、などとする史料もある。)
- 右翼に配列されていた。
- ④項 Has firmissimas se habere Pompeius existimabat.
- ポンペイウスは、これらが、自分が保持している最も精強(な部隊)だと、判断していた。
- Reliquas inter aciem mediam cornuaque interiecerat
- (ポンペイウスは)
戦列 の中央部と両翼の間に、ほかの者たちを(すでに)挿入しておいた。
- (ポンペイウスは)
- numeroque cohortes CX expleverat.
- 数にして、110個
歩兵大隊 を満たしていた。
- 数にして、110個
- ⑤項 Haec erant milia XLV,
- これらは、4万5000名であり、
- evocatorum circiter duo,
(再召集の)古参兵 たち、約2000名、
- quae ex beneficiariis superiorum exercituum ad eum convenerant;
- ── 彼らは(ポンペイウスの)以前の軍隊の
雑用免除兵士 のうちから、彼のもとへ集結していたのだが、 ──- (訳注:beneficiarius「雑用を免除された兵士」。第1巻75節②項で既述。)
- ── 彼らは(ポンペイウスの)以前の軍隊の
- quae tota acie disperserat.
- (ポンペイウスは)彼らを、すべての
戦列 に、分散させていた。
- (ポンペイウスは)彼らを、すべての
- Reliquas cohortis VII castris propinquisque castellis praesidio disposuerat.
- (ポンペイウスは)残りの7個
歩兵大隊 を、陣営および近隣の城砦に、守備隊として配置しておいた。
- (ポンペイウスは)残りの7個
- ⑥項 Dextrum cornu eius rivus quidam impeditis ripis muniebat;
- 彼 (ポンペイウス) の右翼を、とある
小川 が、越えにくい川岸 により、防御していた。- (訳注:この川は、エニペウス川 Enipeas のことだと考えられている。)
- 彼 (ポンペイウス) の右翼を、とある
- quam ob causam
- その理由のために、
- cunctum equitatum, sagittarios funditoresque omnes
- 騎兵隊、弓兵たち、投石兵たちの全体すべてを
- sinistro cornu obiecerat.
- 左翼に置いていた。
89節
[編集]カエサル麾下の戦列の陣容。歩兵2万2000人のうちから、第四戦列を編制する
- ①項 Caesar superius institutum servans
- カエサルは、以前からの
慣習 を保持して、
- カエサルは、以前からの
- X (decimam) legionem in dextro cornu,
第10 軍団を右翼に、
- nonam in sinistro conlocaverat,
第 9 (軍団) を左翼に、配列しておいた。
- tametsi erat Dyrrachinis proeliis vehementer adtenuata,
- (第9軍団は)デュッラキウムの戦いで極度に消耗させられていたけれども、
- (訳注1:adtenuāre 「消耗させる」 > 完了受動分詞 adtenuātus)
- (訳注2:67節③項で、カエサルは第9軍団を含む部隊を進軍させたが、大敗している。)
- (第9軍団は)デュッラキウムの戦いで極度に消耗させられていたけれども、
- et huic sic adiunxit octavam,
- これに対して、
第 8 (軍団) を付け加えて、
- これに対して、
- ut paene unam ex duabus efficeret,
- 2個(軍団)から、ほとんど1個(軍団)となるようにして、
- (訳注:sīc ~ ut ・・・ 「・・・ように~」「~なので、・・・ほどである」)
- 2個(軍団)から、ほとんど1個(軍団)となるようにして、
- atque alteram alteri praesidio esse iusserat.
- 一方が他方の助けとなるように命じていた。
- ②項 Cohortes in acie LXXX constitutas habebat,
- 80個
歩兵大隊 を、戦列 に配置しておいた。
- 80個
- quae summa erat milium XXII;
- それらの総計は、2万2000名であった。
- cohortes VII castris praesidio reliquerat.
- 7個
歩兵大隊 を、陣営の守備隊として残留させておいた。
- 7個
- ③項 Sinistro cornu Antonium,
- 左翼に、(マルクス・) アントニウスを、
- dextro P. Sullam,
- 右翼に、プブリウス・スッラを、
- (訳注:プブリウス・コルネリウス・スッラ Publius Cornelius Sulla は、有名な独裁官スッラの甥に当たる。51節で既述。)
- 右翼に、プブリウス・スッラを、
- mediae aciei Cn. Domitium praeposuerat.
戦列 の中央部に、グナエウス・ドミティウス(・カルウィヌス)を、指揮官としていた。- (訳注:カエサルは、戦列の中央部について詳しく言及していないが、
34節③項で、ドミティウス・カルウィヌスは 第11・第12の2個軍団と騎兵500騎を率いていたので、
これら2個軍団が中央部にいたと考えられるし、カエサルの騎兵隊がわずか1000騎というのも過少申告ではなかろうか。)
- (訳注:カエサルは、戦列の中央部について詳しく言及していないが、
- Ipse contra Pompeium constitit.
- (カエサル)自身は、ポンペイウスと
相対 してとどまった。
- (カエサル)自身は、ポンペイウスと
カエサルが、第四戦列を編制して、勝負をかける
- ④項 Simul his rebus animadversis, quas demonstravimus,
- 同時に(カエサルは)前述した事情に着目したので、
- (訳注:前節=88節 でカエサルが着目した ポンペイウス勢の陣容のこと。)
- 同時に(カエサルは)前述した事情に着目したので、
- timens, ne a multitudine equitum dextrum cornu circumveniretur,
- (ポンペイウスの)騎兵たちの多勢によって、(カエサル勢の)右翼が取り囲まれるのではないか、と恐れて、
- celeriter ex tertia acie singulas cohortes detraxit
第三戦列 から、一つずつの歩兵大隊 を、速やかに引き離して、- (訳注:後述されるように 6個 歩兵大隊で、3000名ほどだと考えられている。余力のある軍団から1個ずつ引き出したのであろう。)
- atque ex his quartam instituit equitatuique opposuit
- これら(の歩兵大隊)から、
第四 (戦列)を編制し、(ポンペイウスの)騎兵隊に立ち向かわせた。
- これら(の歩兵大隊)から、
- et, quid fieri vellet, ostendit
- そして、(カエサルが)何をして欲しいか、を指図して、
- monuitque eius diei victoriam in earum cohortium virtute constare.
- その日の
勝利 が、それらの歩兵大隊 の武勇 にかかっている、と告げた。
- その日の
- ⑤項 Simul tertiae aciei totique exercitui imperavit,
- 同時に、
第三戦列 および全軍隊に(以下のように)命令した。
- 同時に、
- ne iniussu suo concurrerent;
- 自分の命令なしには、(敵勢と)ぶつかるな。
- (訳注:iniussu 副詞 「命令なしに」)
- 自分の命令なしには、(敵勢と)ぶつかるな。
- se, cum id fieri vellet, vexillo signum daturum.
- (カエサル自身が)そうなって欲しいときに、自分が
軍旗 により号令 を出すであろう、と。
- (カエサル自身が)そうなって欲しいときに、自分が
90節
[編集]カエサルが、自らの和平を求めるこれまでの努力を強調してから、開戦の号令を発する
- ①項 Exercitum cum militari more ad pugnam cohortaretur
- suaque in eum perpetui temporis officia praedicaret,
カエサルが、自らの和平の追求について、兵士たちに確認を求める
- in primis commemoravit
- 特に、(以下のことを、軍隊の軍団兵たちに)思い出させた。
- (訳注1:in prīmīs = imprīmīs 「特に、とりわけ」)
- (訳注2:commemorāre 「思い出させる」あるいは「述べる」)
- 特に、(以下のことを、軍隊の軍団兵たちに)思い出させた。
- testibus se militibus uti posse,
- quanto studio pacem petisset,
- quae per Vatinium in conloquiis,
- ウァティニウスを通じて、会談において、どんなこと(を協議したか)、
- (訳注:19節で、副官プブリウス・ウァティニウス Publius Vatinius を通じて、対岸のポンペイウス勢に対して和平を協議させようとした。)
- ウァティニウスを通じて、会談において、どんなこと(を協議したか)、
- quae per Aulum Clodium cum Scipione egisset,
- quibus modis ad Oricum cum Libone de mittendis legatis contendisset.
- ②項 Neque se umquam abuti militum sanguine
- 自分 (カエサル) は、これまで兵士たちの血を無駄づかいしたことはないし、
- (訳注:abūtī 「浪費する」)
- 自分 (カエサル) は、これまで兵士たちの血を無駄づかいしたことはないし、
- neque rem publicam alterutro exercitu privare voluisse.
- 国家から、(カエサル勢とポンペイウス勢の)どちらか一方の軍隊を取り上げようと望んだこともない。
- (訳注1:alteruter 「(二つのうちの)いずれか一つ」)
- (訳注2:ローマ国家の二つの軍隊のどちらか一方を、決戦によって葬り去る積もりではない、ということか。)
- 国家から、(カエサル勢とポンペイウス勢の)どちらか一方の軍隊を取り上げようと望んだこともない。
カエサルが、ラッパで開戦の号令を発する
- ③項 Hac habita oratione
- (カエサルは)このような演説をすると、
- exposcentibus militibus et studio pugnae ardentibus
- tuba signum dedit.
- ラッパで
号令 を出した。- (訳注:前節 89節⑤項では、カエサルは、軍旗を使って号令を出すと言っていた。)
- ラッパで
91節
[編集]カエサル配下の再召集の古参兵クラスティヌスが、熱弁を振るってから、突撃する
- ①項 Erat Crastinus evocatus in exercitu Caesaris,
- カエサルの軍隊に、クラスティヌスという
再召集された古参兵 がいた。
- カエサルの軍隊に、クラスティヌスという
- qui superiore anno apud eum primum pilum in legione X duxerat,
- その者は、先年、彼 (カエサル) のもとで、
第10 軍団で首席百人隊長 (の地位)を獲得していたのだが、
- その者は、先年、彼 (カエサル) のもとで、
- vir singulari virtute.
- 類いまれなる武勇をもつ男であった。
クラスティヌスが、兵士たちを鼓舞する
- ②項 Hic signo dato,
- 彼は、(開戦の)
号令 が発せられると、
- 彼は、(開戦の)
- "sequimini me", inquit,
- 「私について来い」 と言って。
- "manipulares mei qui fuistis,
- 「私の
歩兵中隊 にいた者たちよ、
- 「私の
- et vestro imperatori, quam constituistis operam date.
- 君らの
大将軍 に、(君らが)決心した働き を捧げよ。
- 君らの
- Unum hoc proelium superest;
- (今や)たった一つの合戦が残っているだけだ。
- quo confecto
- それが成し遂げられたら、
- et ille suam dignitatem et nos nostram libertatem recuperabimus."
- 彼 (カエサル) は自らの名誉を、我らは我々の自由をとりもどすであろう」と。
- (訳注:recuperāre 「取り戻す」 > 1人称・複数・未来・能動・直説法 recuperābimus)
- 彼 (カエサル) は自らの名誉を、我らは我々の自由をとりもどすであろう」と。
クラスティヌスが、カエサルに戦功を誓う
- ③項 Simul respiciens Caesarem
- 一方で、カエサルを振り返って、
- (訳注:respicere 「振り返る」 > 現在分詞 respiciens)
- 一方で、カエサルを振り返って、
- "faciam", inquit, "hodie, imperator, ut aut vivo mihi aut mortuo gratias agas."
クラスティヌスと120名ほどの兵士たちが、右翼から突撃する
- ④項 Haec cum dixisset,
- (クラスティヌスは)これらを、言い放つと、
- primus ex dextro cornu procucurrit
一番手 として、右翼から、突き進んだ。- (訳注:prōcurrere 「突き進む、進撃する」 > 3人称・単数・完了・能動・直説法 prōcurrit = prōcucurrit)
- atque eum electi milites circiter CXX voluntarii [eiusdem centuriae] sunt prosecuti.
- そして、彼に[同じ
歩兵小隊 の]選抜された兵士たち約120名が自発的に、付き従った。- (訳注1:voluntārius 「自発的な」)
- (訳注2:prōsequī 「付き従う、同行する」 > prōsecūtus)
- (訳注3:[eiusdem centuriae] [同じ歩兵小隊の] は、写本にあるが、削除提案されている。)
- そして、彼に[同じ
92節
[編集]ポンペイウスが指示したという受け身の戦法を、カエサルが口を極めて批判する
- ①項 Inter duas acies
- (両軍の)二つの
戦列 の間には、
- (両軍の)二つの
- tantum erat relictum spatii, ut satis esset ad concursum utriusque exercitus.
- 双方の軍隊の
激突 にじゅうぶんであるだけの広がり が残されていた。- (訳注:tantum ~, ut ・・・ 「・・・だけの~」)
- 双方の軍隊の
- ②項 Sed Pompeius suis praedixerat,
- けれども、ポンペイウスは、配下の者たちに(以下のように)あらかじめ指図していた。
- (訳注:praedīcere 「あらかじめ言う」「指図する、命じる」)
- けれども、ポンペイウスは、配下の者たちに(以下のように)あらかじめ指図していた。
- ut Caesaris impetum exciperent
- カエサルの突進を持ちこたえるように、
- (訳注:excipere 「(攻撃などを)持ちこたえる」)
- カエサルの突進を持ちこたえるように、
- neve se loco moverent
- 陣地から動かないようにして、
- (訳注:movēre 「動かす」 ⇒ 再帰 sē movēre 「動く」)
- 陣地から動かないようにして、
- aciemque eius distrahi paterentur;
- 彼 (カエサル) の
戦列 が(ポンペイウスの騎兵隊に包囲されて)引き裂かれるままにしておくように。- (訳注:distrahere 「分散させる、引き裂く」 > 現在・受動・不定法 distrahī)
- (訳注:patī 「(~の状態に)しておく」 > 3人称・複数・未完了過去・能動・接続法 paterentur)
- 彼 (カエサル) の
ポンペイウスの作戦の意図
- idque admonitu C. Triarii fecisse dicebatur,
- (ポンペイウスは)ガイウス・トリアリウスの忠告により、そのように(指示)したのだ、と言われていた。
- (訳注:admonitus 第4変化名詞 「忠告」 > 奪格 admonitū 「忠告により」)
- (ポンペイウスは)ガイウス・トリアリウスの忠告により、そのように(指示)したのだ、と言われていた。
- ut primus excursus visque militum infringeretur
- (カエサルの)兵士たちの最初の
出撃 と攻勢 がくじかれるように、- (訳注1:excursus 「出撃、突撃」「奇襲、急襲」)
- (訳注2:īnfringere 「くじく、弱める」)
- (カエサルの)兵士たちの最初の
- aciesque distenderetur,
- (カエサルの)
戦列 がてんでバラバラにされるようにして、- (訳注:distendere 「広げる、伸ばす」あるいは「ばらばらにする、乱す」 > 3人称・単数・未完了過去・受動・接続法 distenderētur)
- (カエサルの)
- atque in suis ordinibus dispositi dispersos adorirentur;
- (ポンペイウスの)味方の
戦闘隊形 に配置された者たちが、(カエサル勢の)四散させられた者たちを、襲撃するように(意図していた)。- (訳注1:dispōnere 「配置する」 > 完了受動分詞 dispositus 「配置された(もの)」)
- (訳注2:dispergere 「分散させる」 > 完了受動分詞 dispersus 「分散させられた(もの)」)
- (訳注3:adorīrī デポネンティア動詞 「襲撃する、攻撃する」 > 3人称・複数・未完了過去・能動・接続法 adorīrentur)
- (ポンペイウスの)味方の
- ③項 leviusque casura pila sperabat in loco retentis militibus,
- quam si ipsi inmissis telis occurrissent,
- simul fore ut duplicato cursu Caesaris milites exanimarentur
- 他方では、カエサルの兵士たちは、走路が倍増されたことで、消耗させられて、
- (訳注1:duplicāre 「二倍にする、増やす」 > 完了受動分詞 duplicātus)
- (訳注2:exanimāre 「消耗する」 > 3人称・複数・未完了過去・受動・接続法 exanimārentur)
- 他方では、カエサルの兵士たちは、走路が倍増されたことで、消耗させられて、
- et lassitudine conficerentur.
- 疲労により、衰弱させられる(と、ポンペイウスは期待していた)。
- (訳注1:lassitūdō 「疲労」 > 単数・奪格 lassitūdine)
- (訳注2:cōnficere 「消耗する、衰弱する」 > 3人称・複数・未完了過去・受動・接続法 cōnficerentur)
- 疲労により、衰弱させられる(と、ポンペイウスは期待していた)。
カエサルが、ポンペイウスの受け身の戦法を批判する
- ④項 Quod nobis quidem nulla ratione factum a Pompeio videtur,
- propterea quod est quaedam animi incitatio atque alacritas naturaliter innata omnibus,
誰にとっても 、本来 生まれつきの何らかの心の激情や熱意があるのであるから、- (訳注1:proptereā quod ~ 「~であるから」)
- (訳注2:incitātiō 「興奮、激情」)
- (訳注3:alacritās 「熱心、熱意、活発さ」)
- (訳注4:nātūrāliter 副詞「本来、生まれつき」)
- (訳注5:innātus, -a, -um 「生来の、生まれつきの」)
- quae studio pugnae incenditur.
- それは、戦いへの意気込みにより、燃え上がらされるものなのだ。
- (訳注:incendere 「(感情を)燃え上がらせる」)
- それは、戦いへの意気込みにより、燃え上がらされるものなのだ。
将軍は、兵士の戦闘意欲を高めるべきだ、とカエサルが主張する
- ⑤項 Hanc non reprimere, sed augere imperatores debent;
将軍 たちは、これを抑えつけるのではなく、高めるべきなのである。- (訳注:reprimere 「抑制する、妨げる」)
- neque frustra antiquitus institutum est, ut signa undique concinerent clamoremque universi tollerent;
- quibus rebus et hostes terreri et suos incitari existimaverunt.
- それらの理由により、敵方が威圧され、味方が駆り立てられる、と(古人は)判断したのだ。
ほかの史料、たとえば、帝政期のギリシア人史家プルタルコスの『対比列伝』の「ポンペイウス」の章の69および「カエサル」の章44 では、
ポンペイウスは、野戦に不慣れな兵士たちが冷静さを失って動揺しているのを見たので、敵に圧倒されることを恐れて、
槍を低く構え、地歩を固めて敵襲を待ち受けることを命じたという。村川堅太郎 編『プルタルコス英雄伝 下』(ちくま学芸文庫) などを参照。)
93節
[編集]側面から攻撃して来るポンペイウスの騎兵隊らを、カエサルの第四戦列が駆逐する
カエサル勢の兵士たちが、疲れ果てないように、一旦休憩してから再び突撃する
- ①項 Sed nostri milites dato signo
- けれども、我が方の兵士たちは、
号令 が発せられて、
- けれども、我が方の兵士たちは、
- cum infestis pilis procucurrissent
- atque animum advertissent non concurri a Pompeianis,
- ポンペイウス勢がぶつかって来ないことに気づいたので、
- (訳注:concurrere 「衝突する、ぶつかる、戦う」 > 現在・受動・不定法 concurrī)
- ポンペイウス勢がぶつかって来ないことに気づいたので、
- usu periti ac superioribus pugnis exercitati
- 実戦経験により熟練し、従来の合戦により
鍛 えられた者たち (=古参兵) は、- (訳注:exercitāre 「訓練する、鍛える」 > 完了受動分詞 exercitātus 「訓練された、鍛えられた」)
- 実戦経験により熟練し、従来の合戦により
- sua sponte cursum represserunt
- et ad medium fere spatium constiterunt,
走路 のほぼ中央の辺りでとどまった。
- ne consumptis viribus adpropinquarent,
- 力を使い果たしてしまったまま(敵方に)接近することがないように、
- parvoque intermisso temporis spatio
- わずかな時間間隔をあけてから、
- ac rursus renovato cursu
- pila miserunt
投げ槍 を投げ放って、
- celeriterque, ut erat praeceptum a Caesare, gladios strinxerunt.
- カエサルから命令されていたように、速やかに、
長 剣 を(さやから)抜いたのだ。
- カエサルから命令されていたように、速やかに、
ポンペイウスの戦列が、カエサルの戦列に応戦する
- ②項 Neque vero Pompeiani huic rei defuerunt.
- Nam et tela missa exceperunt
- たとえば、放り投げられた
飛び道具 に持ちこたえもしたし、- (訳注:et ~ et ・・・ 「~でもあるし、・・・でもある」)
- たとえば、放り投げられた
- et impetum legionum tulerunt
- (カエサル勢の)諸軍団の突進に耐えもしたし、
- et ordines conservarunt
戦闘隊形 を維持したし、
- pilisque missis
投げ槍 を投げ放つと、
- ad gladios redierunt.
長 剣 (を抜く)に至った。
ポンペイウス勢の左翼の騎兵隊と弓兵らが進撃を開始する
- ③項 Eodem tempore
- 同じ頃、
- equites ab sinistro Pompei cornu,
- ポンペイウスの騎兵たちが、左翼から(※すなわち カエサル勢にとっては右翼から)、
- ut erat imperatum, universi procucurrerunt,
- 命令されていたように、総勢で進撃して来た。
- omnisque multitudo sagittariorum se profudit.
- かつ、弓兵たちの多勢すべてが、なだれ込んで来た。
- (訳注:prōfundere 「流す、あふれ出させる」「分散させる」 > se prōfundere 「あふれ出る」「分散する」)
- かつ、弓兵たちの多勢すべてが、なだれ込んで来た。
ポンペイウスの騎兵隊らが、カエサル勢の騎兵隊を蹴散らす
- ④項 Quorum impetum noster equitatus non tulit,
- その者らの突撃に、我が方の騎兵隊は、踏ん張れずに、
- sed paulum loco motus cessit,
- equitesque Pompei hoc acrius instare
- et se turmatim explicare
- aciemque nostram a latere aperto circumire coeperunt.
- 我が方の
戦列 を、開いた側面から、包囲し始めた。- (訳注:戦列を構成する軍団兵=重装歩兵にとって、開いた側面とは、盾でおおわれていない右側のこと。)
- 我が方の
カエサルが、命運を賭けて、切り札ともいうべき第四戦列を繰り出す
- ⑤項 Quod ubi Caesar animum advertit,
- カエサルは、そのことに気づくや否や、
- quartae aciei, quam instituerat sex cohortium numero, dedit signum.
カエサルの第四戦列が、ポンペイウスの騎兵たちを撃退する
- ⑥項 Illae celeriter procucurrerunt
- それら(の6個歩兵大隊)は、速やかに突き進んで、
- infestisque signis
軍旗 を前へ向けて、
- tanta vi in Pompei equites impetum fecerunt, ut eorum nemo consisteret,
- たいへんな
攻勢 で、ポンペイウスの騎兵たちに突撃を行なったので、彼らの誰一人として立ち止まれないほどであった。- (訳注:tantus, -a, -um ~, ut ・・・ 「・・・ほど、たいへんな~」「たいへんな~ので、・・・ほどだ」)
- たいへんな
- omnesque conversi
- (ポンペイウスの騎兵たち)全員が反転させられて、
- (訳注:convertere 「向きを変えさせる、回転させる」)
- (ポンペイウスの騎兵たち)全員が反転させられて、
- non solum loco excederent,
- sed protinus incitati fuga
- そのまま敗走に駆り立てられて、
- montes altissimos peterent.
- いちばん高い山々を目指した。
カエサルの第四戦列が、無防備なポンペイウスの弓兵や投石兵を皆殺しにする
- ⑦項 Quibus submotis,
- omnes sagittarii funditoresque destituti
- 弓兵たちと投石兵たちの総員が、置き去りにされて、
- (訳注:dēstituere 「置き去りにする、見捨てる」 > 完了受動分詞 dēstitūtus)
- 弓兵たちと投石兵たちの総員が、置き去りにされて、
- inermes sine praesidio interfecti sunt.
護衛 がなく無防備 なままで、殺戮 された。
カエサルの第四戦列が、ついに、ポンペイウス勢の戦列の背後に回り込む
- ⑧項 Eodem impetu cohortes
- 同じ突撃により(カエサルの第四戦列の)諸
歩兵大隊 は、
- 同じ突撃により(カエサルの第四戦列の)諸
- sinistrum cornu pugnantibus etiam tum ac resistentibus in acie Pompeianis,
- circumierunt eosque a tergo sunt adortae.
- 取り囲み、彼らに背後から襲いかかった。
94節
[編集]カエサル勢の総攻撃によりポンペイウス勢が総崩れとなり、戦意を失ったポンペイウスが戦列を離れる
カエサルが、総攻撃を命じる
- ①項 Eodem tempore
- 同じ頃、
- tertiam aciem Caesar, quae quieta fuerat et se ad id tempus loco tenuerat,
- procurrere iussit.
- 進撃することを命じた。
- (訳注:第三戦列は、一般に軍団の中でも古参兵からなる精強な部隊で構成される虎の子部隊であり、
カエサルが勝利を確信したため出撃させた、と思われる。)
- (訳注:第三戦列は、一般に軍団の中でも古参兵からなる精強な部隊で構成される虎の子部隊であり、
- 進撃することを命じた。
カエサル勢の総攻撃により、ポンペイウス勢がついに総崩れとなる
- ②項 Ita cum recentes atque integri defessis successissent,
- alii autem a tergo adorirentur,
- そのうえ、ほかの者たち (=第四戦列) が、(ポンペイウス勢の戦列の)背後から襲いかかっていたので、
- sustinere Pompeiani non potuerunt,
- ポンペイウス勢は、耐え切れなくなって、
- atque universi terga verterunt.
第四戦列を編制した カエサルの作戦意図が適中
- ③項 Neque vero Caesarem fefellit,
- quin ab iis cohortibus, quae contra equitatum in quarta acie conlocatae essent,
- (ポンペイウス勢の)騎兵隊に対抗して
第四戦列 に配置されていた 諸歩兵大隊 によって、
- (ポンペイウス勢の)騎兵隊に対抗して
- initium victoriae oriretur,
- 勝利のきっかけが生じていたし、
- ut ipse in cohortandis militibus pronuntiaverat.
- (カエサル)自身が兵士たちを鼓舞するに当たって、公言していたようになったのだ。
- ④項 Ab his enim primum equitatus est pulsus,
- なぜなら、彼ら (第四戦列) によって、初めに(ポンペイウス勢の)騎兵隊が駆逐され、
- ab isdem factae caedes sagittariorum ac funditorum,
- 同じ者らによって、(ポンペイウス勢の)弓兵たちと投石兵たちの
虐殺 が行なわれ、
- 同じ者らによって、(ポンペイウス勢の)弓兵たちと投石兵たちの
- ab isdem acies Pompeiana a sinistra parte [erat] circumita
- 同じ者らによって、ポンペイウス勢の
戦列 が左翼側から包囲されて、- (訳注:[erat] は写本にあるが、削除提案されている。)
- 同じ者らによって、ポンペイウス勢の
- atque initium fugae factum.
- (ポンペイウス勢の)敗走のきっかけがつくられたのだから。
敗勢に失望したポンペイウスが、戦場を離れる
- ⑤項 Sed Pompeius ut equitatum suum pulsum vidit
- けれども、ポンペイウスは、味方の騎兵隊が駆逐されたのを目撃し、
- atque eam partem, cui maxime confidebat, perterritam animadvertit,
- (ポンペイウス自身が)最も頼りにしていた(戦列中の)部分が、
震 え上がっているのに気付くや否や、
- (ポンペイウス自身が)最も頼りにしていた(戦列中の)部分が、
- <sibi> aliisque diffisus
- acie excessit
戦列 から離脱して、
- protinusque se in castra equo contulit,
- すぐさま、馬で陣営に向かった。
- (訳注:cōnferre 「運ぶ」「向ける」 > se cōnferre 「身を運ぶ」=「行く」)
- すぐさま、馬で陣営に向かった。
ポンペイウスが、陣営の防衛を指示する
- et iis centurionibus, quos in statione ad praetoriam portam posuerat,
- そして、(陣営の)正門のそばで歩哨として配置していた
百人隊長 たちに、
- そして、(陣営の)正門のそばで歩哨として配置していた
- clare, ut milites exaudirent,
- 兵士たちが聞き取れるように はっきりと、
- (訳注1:clārē 副詞「はっきりと」)
- (訳注2:exaudīre 「聞き取る」)
- 兵士たちが聞き取れるように はっきりと、
- "tuemini" inquit "castra et defendite diligenter, siquid durius acciderit.
- Ego reliquas portas circumeo et castrorum praesidia confirmo."
- 「私は、ほかの諸門を巡回して、陣営の守備隊を勇気づける。」
- ⑥項 Haec cum dixisset,
- (ポンペイウスは)これらを言い放って、
- se in praetorium contulit
軍指揮官の天幕 に行った。- (訳注:cōnferre 「運ぶ」「向ける」 > se cōnferre 「身を運ぶ」=「行く」)
- summae rei diffidens
- et tamen eventum expectans.
- それでも、首尾を待ち望んでいたのである。
カエサル勢による追撃とポンペイウス勢の投降
[編集]95節
[編集]カエサル勢がポンペイウスの陣営を攻略し、ポンペイウス勢が山中に逃避する
- ①項 Caesar, Pompeianis ex fuga intra vallum conpulsis,
- カエサルは、ポンペイウス勢が逃亡の結果として
防柵 の内側に駆り立てられると、- (訳注1:ex ~ 「~のため、~の結果として」)
- (訳注2:conpellere = compellere 「駆り立てる」 > 完了受動分詞 conpulsus)
- カエサルは、ポンペイウス勢が逃亡の結果として
- nullum spatium perterritis dari oportere existimans
怖気 づいている者たち (=ポンペイウス勢) に対して、どのような時間的猶予 も与えられるべきではない、と判断して、
- milites cohortatus est, ut beneficio fortunae uterentur castraque oppugnarent.
運命(の女神) の恩恵を役立てて(ポンペイウスの)陣営を攻囲すべし、と兵士たちに発破 をかけた。
- ②項 Qui, etsi magno aestu fatigati
- ── nam ad meridiem res erat perducta ──,
- ── なぜなら、
交戦 は、真昼 の頃まで長引いていたのだ ──、
- ── なぜなら、
- tamen ad omnem laborem animo parati imperio paruerunt.
- それでも、あらゆる労苦に 心構えをしており、指令に服従したのだ。
当時のローマの暦で8月9日であった。天文学者ルヴェリエの説によれば、ユリウス暦BC48年6月29日と算出されている。
これは、現在のグレゴリオ暦に換算すれば 6月27日であり、最も日照時間が長い夏至の数日後であった。)
陣営を守るポンペイウス勢の者たち
- ③項 Castra a cohortibus, quae ibi praesidio erant relictae,
- 陣営は、そこに
守備隊 として残して置かれた諸歩兵大隊 によって、
- 陣営は、そこに
- industrie defendebantur,
- 熱心に防御されていた。
- (訳注:下線部の industriē は古い写本にある記述だが、
より後の写本では industriōsē となっている。意味は同じく「熱心に」。)
- (訳注:下線部の industriē は古い写本にある記述だが、
- 熱心に防御されていた。
- multo etiam acrius a Thracibus barbarisque auxiliis.
- ④項 Nam
- (逃げ込んで来た軍団兵がトラキア人らほど防戦に精力的でなかったのは)なぜなら、
- qui acie refugerant milites,
戦列 から逃げ込んで来ていた兵士たちは、
- et animo perterriti
- 心から
怯 けていたし、
- 心から
- et lassitudine confecti,
疲 労 により消耗しており、
- missis plerique armis signisque militaribus,
- 大半の者たちが、武器も軍旗も投げ出して、
- magis de reliqua fuga quam de castrorum defensione cogitabant.
- 陣営の防御についてよりも、むしろ今後の逃亡について、思いめぐらしていたのだ。
ポンペイウス勢が、陣営を放置して、山中に逃げ込む
- ⑤項 Neque vero diutius, qui in vallo constiterant, multitudinem telorum sustinere potuerunt,
- さらに、
防柵 の中にとどまっていた者たちは、多数の飛び道具に より長くは持ちこたえることができず、
- さらに、
- sed confecti vulneribus locum reliquerunt,
- 負傷により消耗して、その場を放置して、
- protinusque omnes ducibus usi centurionibus tribunisque militum
- in altissimos montis, qui ad castra pertinebant, confugerunt.
- 陣営の辺りに広がっていた山の最高峰に逃げ込んだ。
- (訳注:cōnfugere 「逃げ込む、避難する」)
- 陣営の辺りに広がっていた山の最高峰に逃げ込んだ。
96節
[編集]カエサル勢がポンペイウスの陣営に踏み込む一方で、ポンペイウスは幕僚らとともに船で逃れる
ポンペイウスの陣営のぜいたくさ
- magnum argenti pondus expositum,
- recentibus caespitibus tabernacula constrata,
天 幕 に真新しい芝生 が敷き詰められているのを、- (訳注1:caespes 「芝生」)
- (訳注2:cōnsternere 「敷き詰める」 > 完了受動分詞 cōnstrātus)
- Luci etiam Lentuli et nonnullorum tabernacula protecta hedera,
- さらには、ルキウス・レントゥルスや少なからぬ者たちの天幕が
木蔦 でおおわれているのを、- (訳注:ルキウス・コルネリウス・レントゥルス・クルス Lucius Cornelius Lentulus Crus は、
前年=BC49年の執政官で、4節①項では アシア属州から2個軍団を徴募させたことが述べられた。)
- (訳注:ルキウス・コルネリウス・レントゥルス・クルス Lucius Cornelius Lentulus Crus は、
- さらには、ルキウス・レントゥルスや少なからぬ者たちの天幕が
- multaque praeterea, quae nimiam luxuriam et victoriae fiduciam designarent,
- さらに加えて、節度に欠ける
ぜいたく や勝利への自信 を示す多くのものを(見ることができた)。- (訳注1:nimius, -a, -um 「過度の、節度を欠いた」)
- (訳注2:luxuria 「植物が生い茂ること」あるいは「ぜいたく」)
- (訳注3:dēsignāre 「示す」)
- さらに加えて、節度に欠ける
- ut facile existimari posset nihil eos de eventu eius diei timuisse,
- その結果、彼らがその日の
首 尾 について何ら心配していないことが、たやすく判断され得たのだ。
- その結果、彼らがその日の
- qui non necessarias conquirerent voluptates.
- 連中は、必要のない
悦楽 を追求していたのだから。- (訳注1:conquīrere 「探し求める、追求する」)
- (訳注2:voluptās 「悦び、快楽」)
- 連中は、必要のない
ぜいたくなポンペイウス勢に比べて、カエサル勢は窮乏していた
- ②項 At hi miserrimo ac patientissimo exercitui Caesaris [[luxuriam obiciebant,
- それに対して、彼らは、カエサルの この上なく悲惨で忍耐強い軍隊に対して、ぜいたくさを責めていたのだ。
- (訳注1:miser 「みじめな、悲惨な」 > 最上級 miserrimus)
- (訳注2:patī 「耐える」 > 現在分詞 patiens 「忍耐強い」 > 最上級 patientissimus)
- (訳注3:ōbicere 「責める、非難する」)
- それに対して、彼らは、カエサルの この上なく悲惨で忍耐強い軍隊に対して、ぜいたくさを責めていたのだ。
- cui semper omnia ad necessarium usum defuissent.
ポンペイウスが、ラリサへ逃走する
- ③項 Pompeius, iam cum intra vallum nostri versarentur,
- equum nactus,
- 馬を手に入れて、
- detractis insignibus imperatoriis,
- decumana porta se ex castris eiecit
- 裏門にて陣営から飛び出して、
- (訳注:ēicere 「投げ出す、追い出す」 > sē ēicere 「飛び出す」)
- 裏門にて陣営から飛び出して、
- protinusque equo citato Larisam contendit.
ポンペイウスが同伴者たちとともに海辺に着き、船出する
- ④項 Neque ibi constitit,
- (ポンペイウスは)そこに、とどまることはなかった
- sed eadem celeritate,
- けれども、同じ(逃亡の)速さで、
- paucos suos ex fuga nactus,
- 逃亡中に、味方のわずかな者たちと出くわして、
- nocturno itinere non intermisso
- 夜間の行程も中断せずに、
- comitatu equitum XXX
- ad mare pervenit
- 海辺に到達した。
- navemque frumentariam conscendit,
- そして、穀物船に乗船した。
ポンペイウスが、真っ先に敗走した騎兵隊らについて嘆く
- saepe, ut dicebatur, querens
- tantum se opinionem fefellisse,
- これほどにも(勝利の)
予想 が自分(ポンペイウス)を裏切って、- (訳注1:tantum ~, ut ・・・ 「・・・ほど~」「これほど~ので、・・・だ」)
- (訳注2:fallere 「(期待を)裏切る、失望させる」 > 完了・能動・不定法 fefellisse
この部分は、86節⑤項にて、ポンペイウスの言葉として語られた
ne suam neu reliquorum opinionem fallerent
自分 (ポンペイウス) やほかの者たちの(勝利の)予想を裏切らないように
という言葉にカエサルが対応させたのだと思われる。)
- これほどにも(勝利の)
- ut a quo genere hominum victoriam sperasset,
- あの類いの
輩 に勝利 を期待していたが、
- あの類いの
- ab eo initio fugae facto paene proditus videretur.
これに対して、帝政期のギリシア人史家プルタルコスの『対比列伝』の「ポンペイウス」の章の73 では、次のように伝えている。
ポンペイウスは、陣営を離れてほどなく馬を捨て、わずかな随行者たちと徒歩で進んだ。
ラリサを過ぎてテンペーの渓谷を下って海岸に出た。その晩は、漁師の小屋で休息し、早朝に河船に乗り込んだ。
海岸を小舟で進むうち、顔見知りのペティキウスというローマ人の荷物船の出帆に出くわしたので、乗せてもらって沖に出た。
①項で前述の前執政官L・レントゥルス・クルス、右翼を指揮したといわれる 83節で既述のプブリウス・レントゥルス・スピンテル、
36節と57節で既述のファウォニウス M. Favonius 、および4節で既述のガラティア王デイオタルス Deiotarus らが随行したという。
村川堅太郎 編『プルタルコス英雄伝 下』(ちくま学芸文庫) などを参照。)
97節
[編集]カエサル勢が、6マイル北の山中に立てこもったポンペイウス勢を包囲し、水を絶って、投降に追い込む
- ①項 Caesar castris potitus
- カエサルは(ポンペイウスの)陣営を手中にして、
- a militibus contendit,
- 兵士たちに(以下のように)要求した。
- (訳注:contendere 「要求する、懇願する」)
- 兵士たちに(以下のように)要求した。
- ne in praeda occupati reliqui negotii gerendi facultatem dimitterent.
- ②項 Qua re impetrata
- その事が達成されると、
- montem opere circummunire instituit.
- 山を
堡塁 で取り囲むことに取りかかった。
- 山を
ポンペイウス勢が、飲み水を求めて別の山を目指す
- Pompeiani, quod is mons erat sine aqua,
- ポンペイウス勢は、その山は水を欠いていたので、
- diffisi ei loco
- relicto monte,
- 山を後にして、
- universi iugis eius
- 総勢が、その尾根を通って
- Larisam versus <se> recipere coeperunt.
- ラリサに向けて、引き上げ始めた。
- (訳注:<se> は写本にはないが、挿入提案されている。)
- ラリサに向けて、引き上げ始めた。
カエサル勢が、ポンペイウス勢を先回りして迎え撃とうとする
- ③項 Qua re animadversa,
- その事に気づくと、
- Caesar copias suas divisit
- カエサルは、配下の軍勢を分割して、
- partemque legionum in castris Pompei remanere iussit,
- 諸
軍団 の一部に、ポンペイウスの陣営に残留することを命じ、
- 諸
- partem in sua castra remisit,
- 別の一部に、自分(カエサル)の陣営に送り返して、
- IIII secum legiones duxit
- 4個軍団を自分とともに統率し、
- commodioreque itinere Pompeianis occurrere coepit
- et progressus milia passuum VI
- 6ローママイル(=約9km)前進して、
- aciem instruxit.
戦列 を整えた。
山中で立ち往生するポンペイウス勢を、カエサル勢が水を絶って包囲しようとする
- ④項 Qua re animadversa,
- その事に気づくと、
- Pompeiani in quodam monte constiterunt.
- ポンペイウス勢は、とある山に立ち止まった。
- Hunc montem flumen subluebat.
- 川が、この山のふもとを流れていた。
- (訳注:subluere 「~のふもとを流れる」)
- 川が、この山のふもとを流れていた。
- Caesar milites cohortatus [est],
- カエサルは、兵士たちに
発破 をかけて、
- カエサルは、兵士たちに
- etsi totius diei continenti labore erant confecti
- 一日中 間断なく働いたことで、疲弊しており、
- (訳注:etsi ~, tamen ・・・ 「~としても、それでも・・・」)
- 一日中 間断なく働いたことで、疲弊しており、
- noxque iam suberat,
- すでに夜が差し迫っていたとしても、
- tamen munitione flumen a monte seclusit,
- それでも
塁壁 により、川を山から隔離して、
- それでも
- ne noctu aquari Pompeiani possent.
- ポンペイウス勢が、夜中に給水できないようにした。
ポンペイウス勢が、降伏について交渉しようとする
- ⑤項 Quo perfecto opere,
- その
堡塁 が完成すると、
- その
- illi de deditione missis legatis agere coeperunt.
- 彼ら (ポンペイウス勢) は、使節たちを遣わして、降伏について協議し始めた。
- Pauci ordinis senatorii, qui se cum iis coniunxerant,
- 元老院議員階級の若干の者たちが、彼ら(使節たち)と合流していたが、
- nocte fuga salutem petiverunt.
- 夜間に逃亡することで、身の安全を求めていた。
98節
[編集]カエサルが、投降したポンペイウス勢の将兵たちを助命して、ラリサに赴く
- ①項 Caesar prima luce
- カエサルは、明け方に、
- omnes eos, qui in monte consederant,
- 山中に野営していた者たち全員に、
- ex superioribus locis in planitiem descendere
- 高地から平原に降りて来ることと、
- atque arma proicere iussit.
- 武器を捨てること、を命じた。
- ②項 Quod ubi sine recusatione fecerunt
- (彼らは)拒否することなしに、そうするや、
- passisque palmis proiecti ad terram
- flentes ab eo salutem petiverunt,
- 泣きながら、彼 (カエサル) に救済を求めた。
- consolatus consurgere iussit
- (カエサルは)慰めて、立ち上がることを命じ、
- (訳注1:cōnsōlārī 「慰める」 > 完了受動分詞 cōnsōlātus)
- (訳注2:cōnsurgere 「立ち上がる」)
- (カエサルは)慰めて、立ち上がることを命じ、
- et pauca apud eos de lenitate sua locutus, quo minore essent timore,
- (投降者たちの)恐怖が軽減されるべく、彼らの面前で、(カエサル)自らの寛大さについて、いくらか話して、
- omnes conservavit militibusque suis commendavit,
- 全員を保護して、(カエサル)配下の兵士たちに(以下のように指示して)ゆだねた。
- ne qui eorum violaretur,
- neu quid sui desiderarent.
- (投降者たちが)自分たちの何物も失わないように、と。
- (訳注:nē quod < nē + aliquod)
- (投降者たちが)自分たちの何物も失わないように、と。
- ③項 Hac adhibita diligentia
- ex castris sibi legiones alias occurrere
- ほかの諸軍団に陣営から、自分のところへやって来ることを(命じ)、
- et eas quas secum duxerat, invicem requiescere atque in castra reverti iussit
- 自分と一緒に率いて来た軍団には、交代して、陣営に帰還して休息することを、命じた、
- eodemque die Larisam pervenit.
- (カエサル自身は)同日に、ラリサへ到着した。
99節
[編集]カエサル勢の戦果。古参兵クラスティヌスの戦死。ドミティウス・アヘノバルブスの敗死。
- ①項 In eo proelio
- その戦闘において、
- non amplius ducentos milites desideravit,
- (カエサルは)兵士たち200名ほどしか失わなかった
- sed centuriones, fortes viros, circiter XXX (trecentos) amisit.
再召集された古参兵クラスティヌスの活躍と最期
- ②項 Interfectus est etiam fortissime pugnans Crastinus,
- この上なく勇敢に戦っていたクラスティヌスさえも、戦死した。
- cuius mentionem supra fecimus,
- ── その者には、前に言及したのだが ──、
- (訳注:91節で述べられている。)
- ── その者には、前に言及したのだが ──、
- gladio in os adversum coniecto.
- ③項 Neque id fuit falsum, quod ille in pugnam proficiscens dixerat.
- 彼 (クラスティヌス) が戦いに出発するときに言っていたことは、
法螺 ではなかった。
- 彼 (クラスティヌス) が戦いに出発するときに言っていたことは、
- Sic enim Caesar existimabat
- 確かに、カエサルが(以下のように)評価していた限りにおいては。
- eo proelio excellentissimam virtutem Crastini fuisse
- その戦闘でのクラスティヌスの
武勇 は、誠にあっぱれなものであったし、
- その戦闘でのクラスティヌスの
- optimeque eum de se meritum iudicabat.
ポンペイウス勢の戦死者数と、カエサル勢が奪取した軍旗の数
- ④項 Ex Pompeiano exercitu circiter milia XV cecidisse videbantur,
- ポンペイウスの軍隊のうち、約15,000名が
斃 れた、と見られていた。- (訳注:プルタルコスの『対比列伝』の「ポンペイウス」の章の72 および「カエサル」の章46 では、
カエサル勢に従軍していた ガイウス・アシニウス・ポッリオ Gaius Asinius Pollio が書き残したこととして、次のように伝える。
ローマ市民から成る兵士(軍団兵)で戦死した者は6000名以上ではなく、
そのほか(9000名)は陣営が占領される際に殺された奴隷であった。
なお、アシニウス・ポッリオの著作は現存していない。
さらに、ドイツのローマ史家ゲルツァー[2]が注記しているように、カエサルは93節⑦項で 弓兵と投石兵の全員を殺したと述べている。
弓兵や投石兵は、ローマ市民ではなかったので、容赦なく皆殺しにされたであろう。)
- ポンペイウスの軍隊のうち、約15,000名が
- sed in deditionem venerunt amplius milia XXIIII
- けれども、24,000名より多くの者たちが降伏に至った。
- ── namque etiam cohortes, quae praesidio in castellis fuerant, sese Sullae dediderunt ──,
- ── なぜなら、
城砦 にて守備に就いていた諸歩兵大隊 でさえも、スッラに降伏していたからだが ──、
- ── なぜなら、
- multi praeterea in finitimas civitates refugerunt,
- さらに加えて、多くの者たちが、近隣の諸都市に逃避した。
- signaque militaria ex proelio ad Caesarem sunt relata CLXXX et aquilae VIIII.
ルキウス・ドミティウス・アヘノバルブスの最期
- ⑤項 L. Domitius ex castris in montem refugiens,
- ルキウス・ドミティウスは、陣営から山中に逃避しているときに、
- cum vires eum lassitudine defecissent,
- 体力が疲労により彼を消耗させていたので、
- ab equitibus est interfectus.
- 騎兵たちによって殺害された。
- (訳注:ルキウス・ドミティウス・アヘノバルブス Lucius Domitius Ahenobarbus は、
かつてガリアのアッロブロゲス族が起こしたローマに対する反乱を鎮圧して属州ガリア・トランサルピナを設置したり
ドミティア街道を建設した「ガリア征服者」グナエウス・ドミティウス・アヘノバルブス の孫であった。
第1巻6節⑤項で 元老院は、ガリア征服者の孫であり 反カエサルの強硬派でもあるドミティウスをガリア総督に任命した。
内戦が始まると、ドミティウスはコルフィニウムに立てこもるが、あっけなくカエサルに降伏した(第1巻16節~23節)。
ドミティウスは逃れてマッシリアを頼り、提供された艦隊を率いて海戦を戦うが敗れる(第1巻56節~58節、第2巻3節~7節)。
マッシリアが敗色濃厚になると彼は逐電し、ポンペイウスのもとで左翼を率いてパルサロスの戦いに臨んだが、三度 敗れた。
カエサルにとって軍事的には大した敵ではなかったとはいえ、カエサルを倒してガリア総督になろうと何度も執念を燃やした
ドミティウスに対して、カエサルも攻撃の筆をゆるめなかったのであろう。)
- 騎兵たちによって殺害された。
両軍の南イタリア周辺での小競り合い
[編集]100節
[編集]ブルンディシウム港をめぐる 元老院派ラエリウス と カエサル派ウァティニウス の攻防
元老院派のラエリウスの艦隊が、ブルンディシウム港へ来襲する
- ①項 Eodem tempore
- 同じ時期に、
- D. Laelius cum classe ad Brundisium venit
- デキムス・ラエリウスは、艦隊とともに、ブルンディシウムの辺りにやって来て、
- (訳注:5節③項で、デキムス・ラエリウス Decimus Laelius は、アシアの船団を統率していた、と述べられている。)
- デキムス・ラエリウスは、艦隊とともに、ブルンディシウムの辺りにやって来て、
- eademque ratione, qua factum a Libone antea demonstravimus,
- リボによってなされたと前述したのと同じやり方で、
- (訳注:23節を参照。リボは港の向かいの島を占領した。)
- リボによってなされたと前述したのと同じやり方で、
- insulam obiectam portui Brundisino tenuit.
港を防衛するカエサル派のウァティニウスが、ラエリウスの五段櫂船などを港の水路でからめ取る
- ②項 Similiter Vatinius, qui Brundisio praeerat,
- 同じように、ブルンディシウムを統率していたウァティニウスは、
- (訳注:プブリウス・ウァティニウス Publius Vatinius はカエサルの副官で、
19節ではデュッラキウムに近いアプスス川岸でポンペイウス勢との和平交渉に当たっていたが、
ポンペイウス艦隊の警戒が厳しい中で、どうやってイタリアに渡航できたのか、カエサルは記していない。)
- (訳注:プブリウス・ウァティニウス Publius Vatinius はカエサルの副官で、
- 同じように、ブルンディシウムを統率していたウァティニウスは、
- tectis instructisque scaphis
小形船 を(甲板で)おおい、かつ装備して、
- elicuit naves Laelianas
- ラエリウスの船団を誘い出して、
- atque ex his longius productam unam quinqueremem et minores duas
- これら(の船団)のうちから、より遠くへ誘い出された
五段櫂船 1隻とより小形の2隻を- (訳注:fr:quinqueremis 五段櫂船)
- (訳注:prōdūcere 「連れて行く、連れ出す」「さらに進ませる、誘う」 > 完了受動分詞 prōductus)
- これら(の船団)のうちから、より遠くへ誘い出された
- in angustiis portus cepit
- 港の隘路において とりこにした。
- itemque per equites dispositos
- さらに、配置された騎兵たちによって、
- aqua prohibere classiarios instituit.
- 船員たちに対して、水(の補給)を妨げることにとりかかった。
- (訳注:classiāriī(属格 classiārōrum) 「船員」または「水兵」)
- 船員たちに対して、水(の補給)を妨げることにとりかかった。
ラエリウスが、イッリュリア側から水を運んで補給し、デュッラキウム周辺にとどまろうとする
- ③項 Sed Laelius
- しかし、ラエリウスは、
- tempore anni commodiore usus ad navigandum
- 航海するために より有利な時季を役立てて、
- onerariis navibus Corcyra Dyrrachioque aquam suis subportabat
- neque a proposito deterrebatur
作戦目的 から思いとどまらせられなかったし、- (訳注:neque ~ neque ・・・ 「~でもないし、・・・でもない」)
- (訳注:dēterrēre 「思いとどまらせる」)
- neque ante proelium in Thessalia factum cognitum
- テッサリアにおいてなされた戦闘が知られる以前には、
- aut ignominia amissarum navium
- aut necessariarum rerum inopia
- あるいは、必需品の欠乏によって、
- ex portu insulaque expelli potuit.
- (ブルンディシウムの)港や(対岸の)島から、追い払われ得なかった。
101節
[編集]元老院派カッシウスの艦隊が、シキリア島とブルッティウムのカエサル派艦隊を襲撃する
- ①項 Isdem fere temporibus
- ほぼ同じ時期に、
- Cassius cum classe Syrorum et Phoenicum et Cilicum in Siciliam venit,
- カッシウスは、(属州)シリアとフェニキアとキリキアの艦隊とともに、シキリアにやって着た。
- (訳注:5節③項で、ガイウス・カッシウス・ロンギヌス Gaius Cassius Longinus は、
シリアの船団を率いていると述べられた。)
- (訳注:5節③項で、ガイウス・カッシウス・ロンギヌス Gaius Cassius Longinus は、
- カッシウスは、(属州)シリアとフェニキアとキリキアの艦隊とともに、シキリアにやって着た。
- et cum esset Caesaris classis divisa in duas partes,
- カエサルの艦隊は二つの方面に分割されていて、
- dimidiae parti praeesset P. Sulpicius praetor <ad> Vibonem [ad fretum],
- dimidiae M. Pomponius ad Messanam,
- (別の)半分は、マルクス・ポンポニウスがメッサナの辺りで(統率していた)。
- prius Cassius ad Messanam navibus advolavit, quam Pomponius de eius adventu cognosceret,
- カッシウスは、ポンポニウスが彼の到来について知るようになるより前にメッサナへ船団を襲撃した。
- (訳注:prius ~, quam ・・・ 「・・・より前に~」)
- カッシウスは、ポンポニウスが彼の到来について知るようになるより前にメッサナへ船団を襲撃した。
カッシウスの艦隊が、メッサナにいたカエサル派ポンポニウスの艦隊を急襲する
- ②項 perturbatumque eum nactus nullis custodiis neque ordinibus certis,
- 彼 (メッサナのポンポニウス) が動転していて、
番 兵 もなく、(船団の)確かな隊列もないところに遭遇して、
- 彼 (メッサナのポンポニウス) が動転していて、
- magno vento et secundo
- 強い順風によって、
- conpletas onerarias naves taeda et pice et stuppa reliquisque rebus, quae sunt ad incendia,
- in Pomponianam classem immisit
- ポンポニウスの艦隊に突進させて、
- atque omnes naves incendit XXXV,
- 35隻の全船団を焼き討ちしたが、
- e quibus erant XX constratae.
- それらのうち、20隻は、甲板が張られていた。
- (訳注:cōnsternere 「屋根を
葺 く」en: thatch > 完了受動分詞 cōnstrātus 「屋根が葺 かれた」)
- (訳注:cōnsternere 「屋根を
- それらのうち、20隻は、甲板が張られていた。
かろうじて防戦しているメッサナのポンポニウスのもとへ、カエサル勝利の報が届く
- ③項 Tantusque eo facto timor incessit,
- それ(=襲撃)がなされることにより、たいへんな恐怖心が降りかかったので、
- (訳注:tantus ~, ut ・・・ 「・・・ほど、たいへんな~」「たいへんな~ので、・・・」)
- それ(=襲撃)がなされることにより、たいへんな恐怖心が降りかかったので、
- ut cum esset legio praesidio Messanae, vix oppidum defenderetur,
- (1個)軍団がメッサナにいたのに、やっとのことで城市が守られていたほどだった。
- et nisi eo ipso tempore quidam nuntii de Caesaris victoria per dispositos equites essent adlati,
- existimabant plerique futurum fuisse, uti amitteretur.
- (メッサナの城市は)失われてしまったということになるであろう、と大半の者は判断していたのだ。
カッシウスが、ブルッティウム半島(現カラブリア)のウィボにいたカエサル派スルピキウスの艦隊へ矛先を転じる
(訳注:この項の部分は、写本のテキストに不満な校訂者たちによってさまざまな修正提案が加えられている。)
- ④項 Sed opportunissime nuntiis adlatis oppidum fuit defensum.
- Cassiusque ad Sulpicianam inde classem profectus est Vibonem,
- カッシウスは、その場所から、ウィボのスルピキウスの艦隊の方へ出発した。
- adplicatisque nostri ad terram navibus [propter eundem timorem,]
- [同じような恐怖心から]我が方は陸地に船団を接岸したので、
- (訳注1:adplicāre (= applicāre) 「(船を)接岸させる、上陸させる」 > 完了受動分詞 adplicātus)
- (訳注2:[ ]内は、写本にあるが、削除提案されている。
- [同じような恐怖心から]我が方は陸地に船団を接岸したので、
- pari atque antea ratione egerunt;
- (カッシウスは)前回と同じ方法を実施した。
- Cassius secundum nactus ventum
- カッシウスは、順風を得て、
- onerarias naves circiter XL <in nostras naves> praeparatas ad incendium immisit,
- 引火物の準備をした約40隻の貨物船団を<我が方の船団に>突進させて、
- (訳注:< >内は、写本にはないが、挿入提案されている。)
- 引火物の準備をした約40隻の貨物船団を<我が方の船団に>突進させて、
- et flamma ab utroque cornu comprensa naves sunt combustae quinque.
火炎 が両側から船団を包んで、5隻が焼き尽くされた。- (訳注1:comprendere (= comprehendere) 「包む、つかむ」 > 完了受動分詞 comprensus)
- (訳注2:combūrere 「焼き尽くす」 > 完了受動分詞 combustus)
古参の傷病兵たちが、カッシウスに一矢を報いる
- ⑤項 Cumque ignis magnitudine venti latius serperet,
- milites, qui ex veteribus legionibus erant relicti praesidio navibus ex numero aegrorum,
- 古参の諸軍団のうち、傷病者の
集団 から船団の守備隊として残留させられていた兵士たちが、
- 古参の諸軍団のうち、傷病者の
- ignominiam non tulerunt,
- 恥辱に耐えられず、
- ⑥項 sed sua sponte naves conscenderunt
- しかし自発的に船団に乗り込んで、
- et a terra solverunt
- impetuque facto in Cassianam classem
- カッシウスの艦隊に突撃し、
- quinqueremes duas, in quarum altera erat Cassius, ceperunt;
五段櫂船 2隻を ── それらの一方にはカッシウスがいたのだが ── を捕らえた。
- sed Cassius exceptus scapha refugit;
- けれども、カッシウスは小舟に引き入れられて、逃避した。
- praeterea duae sunt deprensae triremes.
- そのうえ、2隻の
三段櫂船 が捕獲された。- (訳注:dēprehendere 「捕らえる」 > 完了受動分詞 dēprehensus または dēprensus
下線部は、写本では dēprehensae または dēprensae あるいは captae 「捕らえられた」となっているが、
dēpressae 「沈められた」という修正提案もある。)
- (訳注:dēprehendere 「捕らえる」 > 完了受動分詞 dēprehensus または dēprensus
- そのうえ、2隻の
カエサルの勝利を知ったカッシウスの艦隊がイタリアから立ち去る
- ⑦項 Neque multo post de proelio facto in Thessalia cognitum est,
- 少し後で、テッサリアでなされた戦闘について、知られるようになったので、
- ut ipsis Pompeianis fides fieret;
- ポンペイウス勢の当人たちにとっても
確証 が生まれていた。
- ポンペイウス勢の当人たちにとっても
- nam ante id tempus
- なぜなら、その時点より以前には、
- fingi a legatis amicisque Caesaris arbitrabantur.
- Quibus rebus cognitis
- それらの事態を知ると、
- ex his locis Cassius cum classe discessit.
- カッシウスは、艦隊とともに当地から去った。
クィントゥス・カッシウス・ロンギヌス Quintus Cassius Longinus は、第2巻21節で、カエサルから属州ヒスパニア・ウルテリオルの統治を任された。
ルキウス・カッシウス・ロンギヌス Lucius Cassius Longinus は、34節~36節で、カエサルの副官としてテッサリアを帰順させるために派遣されたが、スキピオの来襲を恐れてギリシア西部へ逃げていた。
ガイウス・カッシウス・ロンギヌス Gaius Cassius Longinus(ルキウスの兄、クィントゥスの従兄弟)が有名なのは、カエサル暗殺の首謀者としてである。パルサルスの戦いでカエサルが勝利したことが知られると、カッシウスはカエサルに降伏してゆるされた。ポンペイウスの幕僚としてパルサルスで敗れたマルクス・ユニウス・ブルトゥス Marcus Iunius Brutus もカエサルに投降するが、未亡人である実母セルウィリアがカエサルの愛人となっていたため(彼が敵将として『内乱記』に登場しないのは愛人の子だからか?)、ゆるされて、カエサルの側近となった。
カッシウスとブルトゥスはともにカエサルから首都ローマの
カッシウスとブルトゥスはローマから逃れたが、マケドニアを拠点に東方属州を制圧し、エジプトなど同盟国の支援も得て8万の大軍勢を集めたが、マルクス・アントニウスとカエサルの大甥オクタウィアヌスの同盟軍とマケドニアのピリッポイの近くで対戦して、敗死した(ピリッピの戦い)。)
ポンペイウスのエジプトへの逃避行
[編集]102節
[編集]ポンペイウスの船団が、カエサルの追及を避けて、レスボス島やキュプロス島へ逃げ回る
- ①項 Caesar omnibus rebus relictis
- カエサルは、すべての事柄を放置しても、
- persequendum sibi Pompeium existimavit, quascumque in partes se ex fuga recepisset,
- (ポンペイウスが)どのような地域に敗走のゆえに撤退していたとしても、自分(カエサル)にとってポンペイウスは追撃されるべきだ、と判断した。
- (訳注:quīcumque, quaecumque, quodcumque 「どのような~でも」 > 女性・複数・対格 quāscumque)
- (ポンペイウスが)どのような地域に敗走のゆえに撤退していたとしても、自分(カエサル)にとってポンペイウスは追撃されるべきだ、と判断した。
- ne rursus copias comparare alias et bellum renovare posset,
- (ポンペイウスが) 再び、別の軍勢を召集すること、戦争を再開することができないように。
- et quantumcumque itineris equitatu efficere poterat, cotidie progrediebatur
- 騎兵隊によりどれほどの道のりを完遂することができたとしても、毎日、前進していて、
- (訳注:quantuscumque, quantacumque, quantumcumque 関係形容詞 「どれほどの程度でも」 > 中性・単数・対格 quantumcumque)
- 騎兵隊によりどれほどの道のりを完遂することができたとしても、毎日、前進していて、
- legionemque unam minoribus itineribus subsequi iussit.
- 1個軍団に、より短い道のりで追随することを命じた。
アンピポリスに、ポンペイウスの名で、兵隊徴募の布告が出される
- ②項 Erat edictum Pompei nomine Amphipoli propositum,
- アンピポリスでは、ポンペイウスの名義で、
布 告 が公示されていた。- (訳注1:ēdictum 「布告、宣言、命令」)
- (訳注2:prōpōnere 「公表する」 > 完了受動分詞 prōpositus)
- アンピポリスでは、ポンペイウスの名義で、
- uti omnes eius provinciae iuniores, Graeci civesque Romani, iurandi causa convenirent.
- ③項 Sed utrum avertendae suspicionis causa Pompeius proposuisset,
- ut quam diutissime longioris fugae consilium occultaret,
- (ポンペイウスらの)より遠方への逃亡の
計画 を、できるだけ長く隠すためなのか、- (訳注:diū 「長く」 > 最上級 diūtissimē > quam diūtissimē 「できるだけ長く」)
- (ポンペイウスらの)より遠方への逃亡の
- an novis dilectibus,
- あるいは、新たな徴募により、
- (訳注:dīlēctus 「徴募」)
- あるいは、新たな徴募により、
- si nemo premeret, Macedoniam tenere conaretur,
- もし誰も押しとどめなければ、マケドニアを保持し続けることを企てていたのか、
- existimari non poterat.
- 判定できかねるものであった。
ポンペイウスが、アンピポリスに投錨するが、カエサルの接近を恐れて、レスボス島へ逃避する
- ④項 Ipse ad ancoram una nocte constitit
- (ポンペイウス)自身は、一晩 錨を下して停泊し、
- (訳注:ad ancoram 「(船の)錨を下して」=「停泊して」)
- (ポンペイウス)自身は、一晩 錨を下して停泊し、
- et vocatis ad se Amphipoli hospitibus
- アンピポリスの自分のもとへ、
客人 たちを招待して、
- アンピポリスの自分のもとへ、
- et pecunia ad necessarios sumptus conrogata
不可欠なこと に費やされる金銭 が集められたが、- (訳注:conrogāre (=corrogāre) 「(金を)集める」 > 完了受動分詞 conrogātus)
- cognitoque Caesaris adventu,
- (ポンペイウスは)カエサルの到来を察知すると、
- ex eo loco discessit
- その地から離れて、
- et Mytilenas paucis diebus venit.
- (訳注:カエサルの記述では、カエサル接近を恐れたポンペイウスが、アンピポリスからミュティレナエに逃げたとしている。
これに対して、プルタルコスの『対比列伝』の「ポンペイウス」の章の66と74~75 では、次のように伝えている。
ポンペイウスは、新婚の妻コルネリア(スキピオの娘 Cornelia Metella)と次男セクストゥスを、戦場から離れたこの島に
秘かに送り届けていた。デュッラキウムの戦いで夫が勝ったと思っていたコルネリアは、今度の敗戦を知らされると、
前夫プブリウス・クラッススがパルティアで戦死した後に自害していれば、「大」ポンペイウスに災いをもたらさなかった
のにと嘆いた。そして、なぐさめ合う夫婦の情愛が描かれる。
ポンペイウスの船団が、小アジアのキリキア属州から、キュプルス島へ回航する
- ⑤項 Biduum tempestate retentus
- navibusque aliis additis actuariis in Ciliciam
- atque inde Cyprum pervenit.
- そして、そこからキュプルス(島)に到達した。
- (訳注:キュプルス島(キプロス島)は、プトレマイオス朝の領土だったが、
ローマが併合してシキリア属州に編入していたが、カエサルが女王クレオパトラに返還する。後に、再びローマが奪取して、キュプルス属州となる。)
- (訳注:キュプルス島(キプロス島)は、プトレマイオス朝の領土だったが、
- そして、そこからキュプルス(島)に到達した。
シリアのアンティオキア住民とローマ人たちが、ポンペイウス派の者たちを締め出そうとする
- ⑥項 Ibi cognoscit
- そこにて、(ポンペイウスが)知ることには、
- consensu omnium Antiochensium civiumque Romanorum, qui illic negotiarentur,
- アンティオキア(の住民たち)と、その地で商取引していたローマ市民たちの
合 意 により、- (訳注1:Antiochensis = Antiochēnus 「アンティオキアの」)
- (訳注2:cōnsēnsus 「合意、一致」 > 奪格 cōnsēnsū 「合意により、満場一致で」)
- アンティオキア(の住民たち)と、その地で商取引していたローマ市民たちの
- arma capta esse excludendi sui causa
- 自分 (ポンペイウス) を排除するために武器を取ること(が決議されたこと)、
- (訳注:exclūdere 「締め出す、排除する」 > 動形容詞 exclūdendus)
- 自分 (ポンペイウス) を排除するために武器を取ること(が決議されたこと)、
- nuntiosque dimissos ad eos, qui se ex fuga in finitimas <civitates> recepisse dicerentur,
- および、近隣<の諸都市>に、敗走のゆえに退避していた と言われていた者たちのところへ、伝令たちが遣わされて、
- ne Antiochiam adirent:
- アンティオキアに近づくべからず。
- id si fecissent, magno eorum capitis periculo futurum.
- もし、そうしたならば、彼らの
生命 を大いなる危険にさらすであろう(と伝えた)。
- もし、そうしたならば、彼らの
ロドゥス島に着いた両レントゥルスらも、島民から退去を強いられる
- ⑦項 Idem hoc
- これと同じことが、
- L. Lentulo, qui superiore anno consul fuerat,
- 前年に
執政官 であったルキウス・レントゥルスと、
- 前年に
- et P. Lentulo consulari ac nonnullis aliis acciderat Rhodi;
元執政官 プブリウス・レントゥルスや、ほかの少なからぬ者たちに、ロドゥス島で生じた。- (訳注1:cōnsulāris 「前執政官、元執政官」)
- (訳注2:プブリウス・コルネリウス・レントゥルス・スピンテル Publius Cornelius Lentulus Spinther は、BC57年の執政官。
コルフィニウムに立てこもるが、カエサルに降伏して許され(第1巻21節~23節)、
パルサルスの決戦ではポンペイウス勢の右翼を指揮していたとされる。)
- qui cum ex fuga Pompeium sequerentur atque in insulam venissent,
- その者たちは、敗走のゆえにポンペイウスの後を追っていて、(ロドゥス)島に到達していたのだが、
- oppido ac portu recepti non erant
- 城市や港に受け入れられず、
- missisque ad eos nuntiis, ut ex his locis discederent,
- 彼らのもとへ、当地から立ち去るように、と伝令たちが遣わされて、
- contra voluntatem suam naves solverunt.
- ⑧項 Iamque de Caesaris adventu fama ad civitates perferebatur.
- すでに、カエサルがやって来ることについての風評が、諸都市へもたらされていたのである。
103節
[編集]ポンペイウスがエジプトのペルシウムに到着し、少年王プトロマエウスに保護を求める
- ①項 Quibus cognitis rebus
- そのような事態を知ると、
- Pompeius deposito adeundae Syriae consilio
- pecunia societatibus sublata
- et a quibusdam privatis sumpta
- et aeris magno pondere ad militarem usum in naves inposito
- duobusque milibus hominum armatis,
- 武装した兵士たち2,000名も(乗船させ)、
- partim quos ex familiis societatum delegerat,
- ──(彼らの)一部は、
業者組合 の家内奴隷 のうちから選んでおいたものであり、- (訳注:dēligere 「選ぶ」)
- ──(彼らの)一部は、
- partim a negotiatoribus coegerat, quosque ex suis quisque ad hanc rem idoneos existimabat,
- (別の)一部は、(商人)各自が配下から この事変にふさわしいと判断していた者たちを、商人たちから徴用しておいたのだが、 ──
- (訳注:negōtiātor 「商人」)
- (別の)一部は、(商人)各自が配下から この事変にふさわしいと判断していた者たちを、商人たちから徴用しておいたのだが、 ──
- Pelusium pervenit.
- ペルシウムに到着した。
- (訳注:ペルシウム Pelusium は、エジプトのナイル川の三角州の東端にあった都市。右図を参照。)
- ペルシウムに到着した。
エジプト王 プトロマエウス13世 と クレオパトラ7世 の内戦
- ②項 Ibi casu rex erat Ptolomaeus,
- そこには、偶然に、王であるプトロマエウスがいた。
- (訳注1:cāsus 「偶然」 > 奪格 cāsū 「偶然に」)
- (訳注2:Ptolomaeus は、プトレマイオス朝代々の王名で、
ラテン語形は プトレマエウス Ptolemaeus だが、
写本ではしばしば プトロマエウス Ptolomaeus になる。)
- そこには、偶然に、王であるプトロマエウスがいた。
- puer aetate,
- (王は)年齢上は少年だが、
- magnis copiis cum sorore Cleopatra bellum gerens,
- かなりの軍勢を伴って、
姉妹 であるクレオパトラと戦争を遂行しており、
- かなりの軍勢を伴って、
- quam paucis ante mensibus per suos propinquos atque amicos regno expulerat;
- 彼女を数か月前に、自らの親族たちや腹心の者たちを介して、王国から追い出していたのだ。
- castraque Cleopatrae non longo spatio ab eius castris distabant.
- クレオパトラの陣営は、彼 (プトロマエウス) の陣営からあまり遠くに離れてはいなかった。
- (訳注:)
ポンペイウスが、少年王プトロマエウスに助けを求める使節団を派遣する
- ③項 Ad eum Pompeius misit,
- ポンペイウスは、彼 (少年王) のもとへ(使節団を)遣わして、
- ut pro hospitio atque amicitia patris Alexandria reciperetur
- (少年王の)父との
客人待遇 と盟友関係 に応じて、アレクサンドリアに受け入れてくれるように、
- (少年王の)父との
- atque illius opibus in calamitate tegeretur.
- (訳注:)
- ④項 Sed qui ab eo missi erant,
- けれども、彼 (ポンペイウス) によって遣わされた者どもは、
- confecto legationis officio
使節団 の職責を成し遂げてしまうと、
- liberius cum militibus regis conloqui coeperunt
- 王の兵士たちとより自由に会話をし始めて、
- (訳注:līberē 副詞「自由に」 > 比較級 līberius 「より自由に」)
- 王の兵士たちとより自由に会話をし始めて、
- eosque hortari,
- 彼らを(以下のように)促した。
- ut suum officium Pompeio praestarent
- ポンペイウスに対する自らの職責を遂行すべし、
- (訳注:praestāre 「遂行する、果たす」)
- ポンペイウスに対する自らの職責を遂行すべし、
- neve eius fortunam despicerent.
- 彼 (ポンペイウス) の命運をあなどるべからず、と。
- (訳注:dēspicere 「見下す、軽蔑する」)
- 彼 (ポンペイウス) の命運をあなどるべからず、と。
- ⑤項 In hoc erant numero complures Pompei milites,
- この
部隊 の中には、ポンペイウス配下のかなりの兵士たちがいた。
- この
- quos ex eius exercitu acceptos in Syria Gabinius Alexandriam traduxerat
- belloque confecto
- 戦争が完遂されても、
- apud Ptolomaeum, patrem pueri, reliquerat.
- 少年の父であるプトロマエウスのもとに、残しておいたのだ。
- (訳注:)
104節
[編集]エジプト王プトロマエウスの廷臣たちが一計を案じて、ポンペイウスを暗殺する
- ①項 His tunc cognitis rebus
- amici regis, qui propter aetatem eius in procuratione erant regni,
王の僚友 たちは、彼の(幼い)年齢のために、王政 の監督官職 についていたのだが、- (訳注1「王の僚友」は側近の地位で、古代ギリシア語で ピロス・バシリコス φίλος βασιλικός と呼ばれていたらしい。)
- (訳注2prōcūrātiō 「世話、管理、監督」または「監督官の職」)
- sive timore adducti, ut postea praedicabant, sollicitato exercitu regio, ne Pompeius Alexandriam Aegyptumque occuparet,
- 後で申し立てたように、王の軍隊を扇動してポンペイウスがアレクサンドリアやエジプトを占領するのではないか、という恐れに駆られて、
- (訳注1:sive ~, sive ・・・ 「~あるいは・・・」)
- (訳注2:praedicāre 「公表する」「主張する」)
- (訳注3:sollicitāre 「扇動する、そそのかす」)
- 後で申し立てたように、王の軍隊を扇動してポンペイウスがアレクサンドリアやエジプトを占領するのではないか、という恐れに駆られて、
- sive despecta eius fortuna, ut plerumque in calamitate ex amicis inimici exsistunt,
- あるいは、
敗勢 においては、たいてい友人たちのうちから敵対者たちが生じるように、彼 (ポンペイウス) の不運をなめきっていて、
- あるいは、
- iis qui erant ab eo missi, palam liberaliter responderunt
- 彼 (ポンペイウス) によって遣わされていた者たちには、公けには親切に返答して、
- eumque ad regem venire iusserunt;
- 彼 (ポンペイウス) に、王のもとへ参上することを要請した。
- (訳注:iubēre 「命じる」あるいは「促す、乞う」)
- 彼 (ポンペイウス) に、王のもとへ参上することを要請した。
王の廷臣たちが、ポンペイウスを暗殺するために、近衛隊長アキッラスおよびローマ人軍団次官セプティミウスを派遣する
- ②項 ipsi clam consilio inito
- (王の腹心たち)自身は、秘密裏に、
謀略 に取りかかって、- (訳注:inīre 「開始する、着手する」)
- (王の腹心たち)自身は、秘密裏に、
- Achillam, praefectum regium, [singium] singulari hominem audacia,
- 王の指揮官であり、類いまれなる豪の者であるアキッラスと、
- (訳注:アキッラス Achillas(Ἀχιλλᾶς)は、王の護衛官で近衛兵たちの隊長であった。)
- 王の指揮官であり、類いまれなる豪の者であるアキッラスと、
- et L. Septimium, tribunum militum,
軍団次官 であるルキウス・セプティミウスを、- (訳注:ルキウス・セプティミウス Lucius Septimius は、アウルス・ガビニウスがエジプトに駐留させたローマ軍の高官だった。)
- ad interficiendum Pompeium miserunt.
- ポンペイウスを殺害するために、遣わした。
- (訳注:)
ポンペイウスが、アキッラスとセプティミウスによって殺害される
- ③項 Ab his liberaliter ipse appellatus
- (ポンペイウス)自身は、彼らにより親切にあいさつされて、
- (訳注:appellāre 「呼びかける、あいさつする」 > 完了受動分詞 appellātus)
- (ポンペイウス)自身は、彼らにより親切にあいさつされて、
- et quadam notitia Septimi productus,
- quod bello praedonum apud eum ordinem duxerat,
- ── というのも、
海賊 との戦争で、彼(ポンペイウス) の下で部隊を率いていたのだ ──- (訳注:BC67年にポンペイウスが海賊を討伐した戦争のこと。
「海賊征討戦」Campaign against the pirates を参照。)
- (訳注:BC67年にポンペイウスが海賊を討伐した戦争のこと。
- ── というのも、
- naviculam parvulam conscendit cum paucis suis:
- ちっぽけな
小舟 に、数名の配下とともに、乗船した。
- ちっぽけな
- ibi ab Achilla et Septimio interficitur.
- そこで、アキッラスとセプティミウスによって討ち取られる。
前年のローマ執政官ルキウス・レントゥルスも、捕えられて殺害される
- Item L. Lentulus comprehenditur ab rege et in custodia necatur.
- ルキウス・レントゥルスもまた、王によって拘束されて、
監 獄 にて殺される。- (訳注:ルキウス・コルネリウス・レントゥルス・クルス
Lucius Cornelius Lentulus Crus は、前年(BC49年)の執政官。
プルタルコスの『対比列伝』の「ポンペイウス」の章の80 によれば、レントゥルスは、キュプロス島から陸地沿いに船で航行して来て、ポンペイウスが暗殺された翌日にこの地に着いて、ポンペイウスの死を悟り、捕らえられて処刑されたという。)
- ルキウス・レントゥルスもまた、王によって拘束されて、
- (訳注:)
カエサルがエジプトの内紛に介入する (アレクサンドリア攻囲戦前夜)
[編集]105節
[編集]カエサルがアシア属州へ到着して、神殿を災難から救い、東地中海岸の各地で 神々の御璽(みしるし)が現われる
- ①項 Caesar, cum in Asiam venisset,
- カエサルが、アシア(属州)に(すでに)到着していたときに、
- reperiebat
- 見出していたことには、
- T. Ampium conatum esse pecunias tollere Epheso ex fano Dianae
- ティトゥス・アンピウスが、エペススで、ディアナの
神殿 から浄財 を運び出すことを企てて、- (訳注:ティトゥス・アンピウス・バルブス it:Tito Ampio Balbo は、
BC59年に法務官、BC57年にアシア属州の総督を務めている。)
- (訳注:ティトゥス・アンピウス・バルブス it:Tito Ampio Balbo は、
- ティトゥス・アンピウスが、エペススで、ディアナの
- eiusque rei causa senatores omnes ex provincia evocavisse,
- そのことのために、(アシア)属州から元老院議員たちを呼び集めて、
- ut his testibus in summam pecuniae uteretur,
- 彼らを
浄財 の総額の立会い証人 として利用しようとしたが、
- 彼らを
- sed interpellatum adventu Caesaris profugisse.
- しかし、カエサルの到来に阻まれて、逃げ去った、というのである。
- (訳注:interpellāre 「妨害する」 > 完了受動分詞 interpellātus)
- しかし、カエサルの到来に阻まれて、逃げ去った、というのである。
- ②項 Ita duobus temporibus Ephesiae pecuniae Caesar auxilium tulit.
- このようにして、カエサルは、再度にわたってエペススの
浄財 に救いをもたらしたのである。- (訳注:33節を参照。なお、二度とも、カエサルは直接的関与はしていない。)
- このようにして、カエサルは、再度にわたってエペススの
エリス(オリュンピア)のアテナ神殿にあるニケの神像が、向きを変える奇跡
- ③項 Item constabat
- さらにまた、(以下のことも)明白であった。
- Elide in templo Minervae
- repetitis atque enumeratis diebus, quo die proelium secundum Caesar fecisset,
- 日々をさかのぼって、計算すると、カエサルが戦勝をなした その当日に、
- (訳注1:repetere 「戻る」「繰り返す」または「さかのぼる」 > 完了受動分詞 repetītus)
- (訳注2:ēnumerāre 「計算する」 > 完了受動分詞 ēnumeratus)
- 日々をさかのぼって、計算すると、カエサルが戦勝をなした その当日に、
- simulacrum Victoriae, quod ante ipsam Minervam conlocatum esset
- ミネルウァの真ん前に配置されていた、(女神)ウィクトリアの像が、
- et ante ad simulacrum Minervae spectavisset,
- 従前には、ミネルウァの像の方を向いていたのだが、
- (訳注:spectāre 「(ある方向を)向く、面する」)
- 従前には、ミネルウァの像の方を向いていたのだが、
- ad valvas se templi limenque convertisse.
アンティオキアで、ときの声などが聴こえ、市民たちがあわてて城壁の守りにつく
- ④項 Eodemque die Antiochiae in Syria
- bis tantus exercitus clamor et signorum sonus exauditus est,
- ut in muris armata civitas discurreret.
- 武装した市民団が、城壁(の持ち場)に散らばって行ったほどであった。
- (訳注:discurrere 「走り回る」「散らばる」)
- 武装した市民団が、城壁(の持ち場)に散らばって行ったほどであった。
- Hoc idem Ptolomaide accidit.
ペルガムムの神域で、小太鼓が鳴り響く
- ⑤項 Pergamique in occultis ac reconditis templi,
- ペルガムムでは、
寺院 の秘された、人目につかないところで、- (訳注1:occulere 「隠す、秘密にする」 > 完了受動分詞 occultus 「秘された」)
- (訳注2:recondere 「隠す」 > 完了受動分詞 reconditus 「隠された」「人目につかない」)
- ペルガムムでは、
- quo praeter sacerdotes adire fas non est,
- quae Graeci adyta appellant,
- ギリシア人が
至聖所 と呼んでいるのだが ──- (訳注:adytum 「至聖所」)
- ギリシア人が
- tympana sonuerunt.
小太鼓 が鳴り響いた。- (訳注1:tympanum 「小太鼓」。en:Tympanum (hand drum) を参照。)
- (訳注2:sonāre 「音がする」)
- ⑥項 Item Trallibus
- in templo Victoriae, ubi Caesaris statuam consecraverant,
- (市民たちが)カエサルの
彫像 を奉納していたウィクトリアの寺院 において、- (訳注1:statua 「彫像」)
- (訳注2:cōnsecrāre 「奉納する」)
- (市民たちが)カエサルの
- palma per eos dies [in tecto] inter coagmenta lapidum ex pavimento exstitisse ostendebatur.
106節
[編集]カエサルがエジプトの都アレクサンドリアに到着して、ポンペイウスの死を知るが、民衆の暴動によりローマ兵が殺される
- ①項 Caesar paucos dies in Asia moratus
- カエサルは、数日をアシア(属州)において滞在したが、
- cum audisset Pompeium Cypri visum,
- coniectans eum <in> Aegyptum iter habere propter necessitudines regni reliquasque eius loci opportunitates
- 王国の親しい人たちとのつながりや、その地の利の良さのために、エジプトに進路を取る、と予想して、
- (訳注1:coniectāre 「推測する」 > 現在分詞 coniectāns)
- (訳注2:<in> は写本にはないが、挿入提案されている。)
- (訳注3:necessitūdō 「親しい関係」または「(複数形で)親類、友人、関係者」)
- (訳注4:opportūnitās 「都合の良さ、便宜」)
- 王国の親しい人たちとのつながりや、その地の利の良さのために、エジプトに進路を取る、と予想して、
- cum legione una, quam se ex Thessalia sequi iusserat,
- テッサリアから自分の後に続くことを命じていた1個軍団や、
- et altera, quam ex Achaia a Q. Fufio legato evocaverat,
- アカイアから、
副官 クィントゥス・フフィウスによって(すでに)呼び寄せておいた、別の1個(軍団)と、- (訳注1:56節②項で、クィントゥス・フフィウス・カレヌス Quintus Fufius Calenus がアカイアを帰順させるために派遣されていた。)
- (訳注2:ēvocāre 「呼び寄せる」あるいは「召集する」)
- アカイアから、
- equitibusque DCCC
- 騎兵たち800騎、
- et navibus longis Rhodiis X et Asiaticis paucis
- およびロドゥス(島)の軍船10隻とアシア(属州)の数隻とともに、
- Alexandriam pervenit.
- アレクサンドリアに到着した。
- ②項 In his erant legionibus hominum milia III(tria) CC;
- これらの諸軍団には、3,200名がいた。
- (訳注:共和制末期において、
歩兵小隊 (百人隊)の定員が80名とすると、
60個歩兵小隊から成る1個軍団の定員は4800名、2個軍団で9,600名のはずであるが、
死傷による欠員は補充されないことになっているほか、以下の理由により著しく減じていたのであろう。)
- (訳注:共和制末期において、
- これらの諸軍団には、3,200名がいた。
- reliqui vulneribus ex proeliis
- ほかの者たちは、戦闘による負傷により、
- et labore ac magnitudine itineris
- および、かなりの行程で疲労したことにより、
- confecti consequi non potuerant.
- 消耗して、後から続くことができなかったのだ。
- ③項 Sed Caesar confisus fama rerum gestarum
- infirmis auxiliis proficisci non dubitaverat,
- 非力な
兵 力 で出発することをためらわなかったし、
- 非力な
- aeque omnem sibi locum tutum fore existimans.
- 自分にとっては、あらゆる場所が等しく安全になるであろう、と判断していたのだ。
ポンペイウスの死を知ったカエサルが上陸するが、兵士たちが抗議のため群がり集まる
- ④項 Alexandriae de Pompei morte cognoscit
- (カエサルは)アレクサンドリアにて、ポンペイウスの死について知る。
- atque ibi primum e navi egrediens
- clamorem militum audit, quos rex in oppido praesidii causa reliquerat,
- 王(プトロマエウス)が城市に守備のために残していた 兵士たちのどよめきを聞き、
- et concursum ad se fieri videt, quod fasces anteferrentur.
- In hoc omnis multitudo maiestatem regiam minui praedicabat.
- これにより、すべての群衆が、王の
威 厳 が損なわれることだ、と主張していた。- (訳注1:māiestās 「威厳、尊厳」)
- (訳注2:rēgius, -a, -um 「王の」)
- (訳注3:praedicāre 「主張する」)
- これにより、すべての群衆が、王の
群衆が連日のように押し寄せて、多くのローマ人兵士が殺傷される
- ⑤項 Hoc sedato tumultu
- crebrae continuis diebus ex concursu multitudinis concitationes fiebant
- 連日にわたって、大勢の者たちがたびたび群がり集まったため、暴動が発生していて、
- (訳注:concitātiō 「暴動」)
- 連日にわたって、大勢の者たちがたびたび群がり集まったため、暴動が発生していて、
- conpluresque milites huius urbis omnibus partibus interficiebantur.
- この都市のあらゆる方面で、多数の兵士たちが、殺害されていた。
- (訳注:下線部は、写本では huius 「この」であるが、in viis 「道々において」とする修正提案がある。)
- この都市のあらゆる方面で、多数の兵士たちが、殺害されていた。
107節
[編集]カエサルが、アシアからの増援を指図し、エジプト王家の内紛を知って介入を決意する
- ①項 Quibus rebus animadversis,
- (カエサルは)それらの事態に気が付くと、
- legiones sibi alias ex Asia adduci iussit,
- アシア(属州)から、別の諸軍団が自分のもとに率いて来られることを命じた。
- quas ex Pompeianis militibus confecerat.
- それら(の諸軍団)は、(降伏した)ポンペイウス勢の兵士たちから、構成していた。
- (訳注:cōnficere 「構成する」)
- それら(の諸軍団)は、(降伏した)ポンペイウス勢の兵士たちから、構成していた。
- Ipse enim necessario etesiis tenebatur,
- qui navigantibus Alexandria flant adversissimi venti.
カエサルが、ペルシウムで対峙する王プトロマエウスとクレオパトラに、調停案を示す
- ②項 Interim controversias regum
- ad populum Romanum et ad se, quod esset consul, pertinere existimans
- ローマ人民および、
執政官 である自分 (カエサル) に関連がある、と判断して、
- ローマ人民および、
- atque eo magis officio suo convenire,
- quod superiore consulatu cum patre Ptolomaeo et lege et senatus consulto societas erat facta,
- ── というのも、以前の執政官職にあったとき、父のプトロマエウスと、法と元老院決議により
同盟関係 が成っていたためだが、 ──
- ── というのも、以前の執政官職にあったとき、父のプトロマエウスと、法と元老院決議により
- (訳注: )
- ostendit sibi placere
- (カエサルは、以下のことが)よろしいと思う、と指示した。
- (訳注:sibi placēre 直訳は「自分(カエサル)にとって喜ばしい」)
- (カエサルは、以下のことが)よろしいと思う、と指示した。
- regem Ptolomaeum atque eius sororem Cleopatram exercitus, quos haberent, dimittere
- et de controversiis iure apud se potius quam inter se armis disceptare.
- および、(王家の)紛争について、互いに武力で(争う)よりも、むしろ自分 (カエサル) のもとで
公正さ により討論すること。- (訳注:disceptāre 「議論する、討論する」)
- および、(王家の)紛争について、互いに武力で(争う)よりも、むしろ自分 (カエサル) のもとで
108節
[編集]エジプト王政を牛耳る宦官ポティヌスが、アキッラスを司令官として軍を都に呼び寄せる。前王プトロマエウスの遺言状が開封される
- ①項 Erat in procuratione regni propter aetatem pueri
少年 (王プトロマエウス) の年齢のために、王政 の監督官職 に就いていたのは、- (訳注:prōcūrātiō 「管理、監督」または「監督官の職」)
- nutricius eius, eunuchus nomine Pothinus.
宦官ポティヌスが、近衛隊長アキッラスを全軍の指揮官とし、軍をアレクサンドリアに呼び戻す
- ②項 deinde adiutores quosdam consilii sui nactus ex regis amicis
- exercitum a Pelusio clam Alexandriam evocavit
- 軍隊を秘密裏にペルシウムからアレクサンドリアに呼び戻して、
- atque eundem Achillam, cuius supra meminimus, omnibus copiis praefecit.
- ③項 Hunc incitatum suis et regis [inflatum] pollicitationibus,
- quae fieri vellet, litteris nuntiisque edocuit.
- 何をして欲しいのか、書状や伝令により、知らせた。
- (訳注:ēdocēre 「教える、知らせる」)
- 何をして欲しいのか、書状や伝令により、知らせた。
前王プトロマエウス12世の遺言状とは
- ④項 In testamento Ptolomaei patris
- (現王の)父であるプトロマエウスの
遺言状 において、- (訳注:testāmentum 「遺言、遺言状」)
- (現王の)父であるプトロマエウスの
- heredes erant scripti
- ex duobus filiis maior
- 二人の
息子 たちのうちの年長者、- (訳注:プトレマイオス12世の息子は、長男で現王のプトレマイオス13世と次男のプトレマイオス14世がいた。)
- 二人の
- et ex duabus filiabus ea, quae aetate antecedebat.
- ⑤項 Haec uti fierent,
- このことが成就するように、
- per omnes deos
- (エジプトで信仰されていた)すべての神々を介して、
- perque foedera, quae Romae fecisset,
- および、(ローマ人の都である)ローマにて締結してあった
盟約 を介して、- (訳注:foedus 「同盟、盟約」)
- および、(ローマ人の都である)ローマにて締結してあった
- eodem testamento Ptolomaeus populum Romanum obtestabatur.
- (前王)プトロマエウスは、ローマ人民を証人に挙げていたのだ。
- (訳注:obtestārī 「証人として引き合いに出す」 デポネンティア動詞)
- (前王)プトロマエウスは、ローマ人民を証人に挙げていたのだ。
- ⑥項 Tabulae testamenti unae
遺 言 の文書 の一つは、
- per legatos eius Romam erant adlatae, ut in aerario ponerentur
国 庫 に保管されるように、彼 (前王プトロマエウス) の使節たちを通じてローマに運ばれて、
- ── hae cum propter publicas occupationes poni non potuissent,
- ── これは、政変のため、保管することができなかったので、
- apud Pompeium sunt depositae ──,
- ポンペイウスのもとにゆだねられていたのだが ──
- alterae eodem exemplo relictae atque obsignatae Alexandriae proferebantur.
- 同じ写しのもう一つは、アレクサンドリアに残されて封印されていて、提示されていたのである。
109節
[編集]カエサルが王室の紛争を仲裁していると、アキッラスの軍勢が都に差し迫って来たので、王を手元に置いて備える
- ①項 De his rebus cum ageretur apud Caesarem,
- これらの事柄について、カエサルがいるところで談判されていて、
- (訳注:agere 「談判する、協議する」)
- これらの事柄について、カエサルがいるところで談判されていて、
- isque maxime vellet pro communi amico atque arbitro controversias regum componere,
- subito exercitus regius equitatusque omnis venire Alexandriam nuntiatur.
兵力の少ないカエサルが、都に陣地を確保して、アキッラスの軍勢に備えようとする
- ②項 Caesaris copiae nequaquam erant tantae, ut eis, extra oppidum si esset dimicandum, confideret.
- カエサルの軍勢は、もし城市の外で闘わなければならぬ場合に信頼するほど、じゅうぶんでは決してなかった。
- (訳注1:nēquāquam 「決して~ない」)
- (訳注2:tantus, -a, -um ~, ut ・・・ 「これほど~、・・・ほどである」「・・・ほどの~」)
- カエサルの軍勢は、もし城市の外で闘わなければならぬ場合に信頼するほど、じゅうぶんでは決してなかった。
- Relinquebatur, ut se suis locis oppido teneret
- (カエサルにとって)残されていたのは、城市にて味方の場所を掌握して、
- consiliumque Achillae cognosceret.
- アキッラスの考えを知ることであった。
カエサルが、部下たちに武装させながら、王の使節を介してアキッラスの意向を知ろうとする
- ③項 Milites tamen omnes in armis esse iussit
- しかしながら、(カエサルは)すべての兵士たちに武装することを命じて、
- regemque hortatus est,
- 王に(以下のことを)促した。
- ut ex suis necessariis, quos haberet maximae auctoritatis, legatos ad Achillam mitteret
- 配下の
親しい者 たちのうちから、最大の権勢を持つ者たちを、使節としてアキッラスのもとへ遣わして、
- 配下の
- et, quid esset suae voluntatis, ostenderet.
- (王)自らの意思が何であるかを、示すように、と。
カエサルの意を受けた王プトロマエウスが、側近のディオスコリデスとセラピオンを、アキッラスのところへ派遣する
- ④項 A quo missi Dioscorides et Serapion,
- 彼 (王プトロマエウス) によって遣わされたのは、ディオスコリデスとセラピオンで、
- (訳注:ギリシア語名は、ディオスコリデス Διοσκουρίδης と、セラピオン Σεραπίων 。)
- 彼 (王プトロマエウス) によって遣わされたのは、ディオスコリデスとセラピオンで、
- qui ambo legati Romae fuerant
- ── その者らは、両者とも、使節としてローマにいたことがあり、
- magnamque apud patrem Ptolomaeum auctoritatem habuerant,
- (現王の)父であるプトロマエウスのもとで大きな権威を持っていたのだが、 ──
- ad Achillam pervenerunt.
- アキッラスのもとへ到着した。
- ⑤項 Quos ille, cum in conspectum eius venissent,
- あの者 (アキッラス) は、彼ら (二人の使節) が彼の眼前にやって来たときに、
- priusquam audiret aut, cuius rei causa missi essent, cognosceret,
- 彼らが遣わされたところの事由を 聞き取ったり、あるいは、知るよりも前に、
- corripi atque interfici iussit;
- とっ捕まえて、殺してしまうことを、命じた。
- (訳注:corripere 「ひっつかむ」)
- とっ捕まえて、殺してしまうことを、命じた。
- quorum alter accepto vulnere occupatus per suos pro occiso sublatus,
- 彼らの一方は、傷を受けたが、仲間によってつかまれて、殺された者として運び去られた。
- alter interfectus est.
カエサルが、少年王プトロマエウスを自らの盾にしようとする
- ⑥項 Quo facto,
- それを
遣 られてしまうと、
- それを
- regem ut in sua potestate haberet, Caesar effecit,
- カエサルは、王を自らの
影響力 の下に保持するように した。
- カエサルは、王を自らの
- magnam regium nomen apud suos auctoritatem habere existimans,
- 王の名が、臣下たちの前では大いなる権威を持っていると判断していたし、
- et ut potius privato paucorum et latronum quam regio consilio susceptum bellum videretur.
- 王の考えによる、というよりも、むしろ わずかな
逆賊 の私的な考えにより、戦争が企てられたと思われるようにしたのだ。
- 王の考えによる、というよりも、むしろ わずかな
110節
[編集]アキッラス麾下の軍勢(ローマ人のガビニウス兵など2万余と騎兵2000騎)の内情
- ①項 Erant cum Achilla eae copiae,
- アキッラスとともに、(以下のような)軍勢がいた。
- ut neque numero
- 兵数においても、
- neque genere hominum
- 兵種においても、
- neque usu rei militaris
- 軍隊経験においても
- contemnendae viderentur.
- 過小評価されるべきではないと思われていた。
- (訳注:contemnere 「
侮 る、過小評価する」 > 未来受動分詞(動形容詞) contemnendus)
- (訳注:contemnere 「
- 過小評価されるべきではないと思われていた。
ガビニウスの兵士たちの現状
- ②項 Milia enim XX in armis habebat.
- 確かに、武装した20,000名の兵士を保持していた。
- Haec constabant ex Gabinianis militibus,
- これは、ガビニウスの兵士たちから成っていた。
- (訳注1:cōnstāre ex ~ 「~から成る」)
- (訳注2: ●編集中● )
- これは、ガビニウスの兵士たちから成っていた。
- qui iam in consuetudinem Alexandrinae vitae ac licentiae venerant
- その者らは、もはや、アレクサンドリアでの自由気ままな生活が習慣になっていて、
- (訳注1:licentia 「自由、気まま」)
- (訳注2:cōnsuētūdō 「習慣」 > in cōnsuētūdinem venīre 「習慣になる」)
- その者らは、もはや、アレクサンドリアでの自由気ままな生活が習慣になっていて、
- et nomen disciplinamque populi Romani dedidicerant
- ローマ人の国民であることや
規 律 を(すでに)忘れてしまっていて、- (訳注1:nōmen 「名前」あるいは「国民(であること)」)
- (訳注2:disciplīna 「規律」)
- (訳注3:dēdiscere 「忘れる」)
- ローマ人の国民であることや
- uxoresque duxerant,
- ex quibus plerique liberos habebant.
- めいめいの妻たちから、子供たちをもうけていた。
集められていた多数のアウトローたち
- ③項 Huc accedebant
- これに、付け加わっていたのが、
- collecti ex praedonibus latronibusque Syriae Ciliciaeque provinciae finitimarumque regionum.
- Multi praeterea capitis damnati exulesque convenerant.
ローマからの逃亡奴隷たち
- ④項 Fugitivis omnibus nostris
- 我が方のすべての
逃亡奴隷 にとって、- (訳注:fugitīvus 「逃亡者」特に「逃亡奴隷」 runaway slave )
- 我が方のすべての
- certus erat Alexandriae receptus certaque vitae condicio, ut dato nomine militum essent numero;
- quorum si quis a domino prehenderetur,
- もし、彼らのうちのある者が、(奴隷時代の)雇い主によって捕らえられたならば、
- (訳注:si quis = si + aliquis 「もし、ある者が」)
- もし、彼らのうちのある者が、(奴隷時代の)雇い主によって捕らえられたならば、
- consensu militum eripiebatur,
- 兵士たちの合意により、救い出されていた。
- (訳注:ēripere 「奪い取る」あるいは「救う、解放する」)
- 兵士たちの合意により、救い出されていた。
- qui vim suorum, quod in simili culpa versabantur, ipsi pro suo periculo defendebant.
アレクサンドリアの軍隊における古くからの慣習とは
- ⑤項 Hi regum amicos ad mortem deposcere,
- この者らは、
王の僚友 たちへの賜死を要求したり、
- この者らは、
- hi bona locupletum diripere,
裕福な者 たちの資産 を略奪したり、
- stipendii augendi causa regis domum obsidere,
- regno expellere alios, alios arcessere
- ある者たちを
王位 から退けて、別のある者たちを(王位に)呼び寄せたり、- (訳注:ガードナー訳(J. P. Gardner, 1976)は These men ... to drive some from the throne and summon others to fill it
カーター訳(J. M. Carter, 1993)は these men ... removed some and appointed other to the throne )
- (訳注:ガードナー訳(J. P. Gardner, 1976)は These men ... to drive some from the throne and summon others to fill it
- ある者たちを
- vetere quodam Alexandrini exercitus instituto consueverant.
- アレクサンドリアの軍隊の、いわば長年にわたる慣習に慣れっこになっていたのだ。
- (訳注:consuēverant は、動詞 cōnsuēscō の直説法・過去完了・3人称複数形だが、
多くの写本では r の前の ve が脱落した形態 consuērant になっている。)
- (訳注:consuēverant は、動詞 cōnsuēscō の直説法・過去完了・3人称複数形だが、
- アレクサンドリアの軍隊の、いわば長年にわたる慣習に慣れっこになっていたのだ。
- Erant praeterea equitum milia duo.
- そのうえ、騎兵2,000騎がいた。
ガニビウスの兵士やアレクサンドリアの軍勢の軍事経験
- ⑥項 Inveteraverant hi omnes compluribus Alexandriae bellis,
- この者たちは、皆、アレクサンドリアで、いくつもの戦争とともに歳を重ねていたのであったし、
- (訳注:inveterāre(fr)「年を取る」devenir vieux, prendre de l’âge, vieillir. )
- この者たちは、皆、アレクサンドリアで、いくつもの戦争とともに歳を重ねていたのであったし、
- Ptolomaeum patrem in regnum reduxerant,
- (現王の)父であるプトロマエウスを
王位 に復帰させていたし、- (訳注:redūcere 「連れ戻す、引き戻す、復帰させる」)
- (現王の)父であるプトロマエウスを
- Bibuli filios duos interfecerant,
- bella cum Aegyptiis gesserant.
- エジプト人たちとも交戦していた。
- Hunc usum rei militaris habebant.
111節
[編集]アキッラスの軍勢がアレクサンドリアの街と港を制圧しようとして、カエサル勢との戦いの火ぶたが切られる
- ①項 His copiis fidens Achillas
- アキッラスは、このような軍勢を頼みとして、
- paucitatemque militum Caesaris despiciens
- カエサルの兵士たちの少なさをなめきっていて、
- (訳注:dēspicere 「見下す、軽蔑する」)
- カエサルの兵士たちの少なさをなめきっていて、
- occupabat Alexandriam praeter eam oppidi partem, quam Caesar cum militibus tenebat,
- カエサルが兵士たちとともに掌握していた城市の
街区 を除く アレクサンドリアを占領していたのだが、
- カエサルが兵士たちとともに掌握していた城市の
- primo impetu domum eius inrumpere conatus;
- sed Caesar dispositis per vias cohortibus impetum eius sustinuit.
- しかし、カエサルは、通りに諸
歩兵大隊 を配置して、彼 (アキッラス) の突撃を持ちこたえた。- (訳注:dispōnere 「配置する」 > 完了受動分詞 dispositus)
- しかし、カエサルは、通りに諸
- ②項 Eodemque tempore pugnatum est ad portum,
- 同時に、港の周辺でも闘われており、
- ac longe maximam ea res adtulit dimicationem.
- その
事態 は、はるかに大がかりな戦闘状態 を引き起こした。
- その
エジプト艦隊の陣容
- ③項 Simul enim diductis copiis pluribus viis pugnabatur,
- et magna multitudine navis longas occupare hostes conabantur;
敵方 は大勢により、軍船を占領することを試みていた。
- quarum erant L auxilio missae ad Pompeium
- それら(の軍船)の50隻は、ポンペイウスのもとへ援軍として派遣されていたが、
- proelioque in Thessalia facto domum redierant,
- テッサリアにおいて(ポンペイウスが敗れた)合戦が行なわれたので、故国 (エジプト) に帰還していた。
- quadriremes omnes et quinqueremes aptae instructaeque omnibus rebus ad navigandum,
- すべてが四段櫂船と五段櫂船で、あらゆるもので装備され、航行する準備ができていた。
- (訳注1:quādrirēmis 「四段櫂船」)
- (訳注2:quinquerēmis 「五段櫂船」)
- (訳注3:aptus, -a, -um 「装備された」)
- (訳注4:īnstruere 「準備する、装備する」 > 完了受動分詞 īnstrūctus)
- すべてが四段櫂船と五段櫂船で、あらゆるもので装備され、航行する準備ができていた。
- praeter has XXII, quae praesidii causa Alexandriae esse consueverant,
- そのうえ、守備のためにアレクサンドリアにいることが慣習であった22隻は、
- (訳注:consuēverant は、動詞 cōnsuēscō の直説法・過去完了・3人称複数形だが、
r の前の ve が脱落した形態 consuērant になっている写本もある。)
- (訳注:consuēverant は、動詞 cōnsuēscō の直説法・過去完了・3人称複数形だが、
- そのうえ、守備のためにアレクサンドリアにいることが慣習であった22隻は、
- constratae omnes.
- すべてが甲板が張られていた。
- (訳注:cōnsternere 「屋根を
葺 く」en: thatch
> 完了受動分詞 cōnstrātus 「屋根が葺 かれた」)
- (訳注:cōnsternere 「屋根を
- すべてが甲板が張られていた。
艦隊と港湾の重要性
- ④項 Quas si occupavissent,
- もし、それらを(アキッラス勢が)占拠したならば、
- classe Caesari erepta
- portum ac mare totum in sua potestate haberent,
- 港と沿海の全域を統制下に置き、
- commeatu auxiliisque Caesarem prohiberent.
- カエサルを物資供給や増援から阻むようになっていただろう。
港湾地区で激戦が勃発する
- ⑤項 Itaque tanta est contentione actum, quanta agi debuit,
- cum illi celerem in ea re victoriam, hi salutem suam consistere viderent.
- あちら方は速やかな勝利が、こちら方は自らの安全が、その事態に立脚していると見ていたのだ。
カエサルが、港湾内の船団を焼き討ちして、軍勢をパルス島へ上陸させる
- ⑥項 Sed rem obtinuit Caesar
- けれども、カエサルが
戦局 を制して、
- けれども、カエサルが
- omnesque eas naves et reliquas, quae erant in navalibus, incendit,
- それらの船団と、
造船所 にあった残りの船団を、焼き討ちする。- (訳注:nāvāle 「造船所、ドック」)
- それらの船団と、
- quod tam late tueri parva manu non poterat,
- というのも、わずかな手勢で、これほど広域に防戦することはできなかったからだ。
- confestimque ad Pharum navibus milites exposuit.
112節 (前半)
[編集]- (訳注:112節は、ほかの節に比べてかなり長く、
内容的にも前半と後半で異なるため、二つに分けて解説する。)
カエサルがパルス島と大灯台を制圧して、物資供給や増援の態勢を整える
- ①項 Pharus est in insula turris magna altitudine,
灯台 は、島における、とてつもない高さの塔で、
- mirificis operibus extructa;
- quae nomen ab insula cepit.
堤防(ヘプタスタディオン)により、島とアレクサンドリアの街を結ぶ
- ②項 Haec insula obiecta Alexandriae portum efficit;
- sed a superioribus regibus
- そればかりか、かつての諸王によって、
- (訳注:下線部は、写本では a superiōribus regiōnibus 「より高い場所から」だが、
a superiōribus rēgibus 「かつての諸王によって」と修正提案されている。)
- (訳注:下線部は、写本では a superiōribus regiōnibus 「より高い場所から」だが、
- そればかりか、かつての諸王によって、
- in longitudinem passuum DCCCC in mare iactis molibus
- 900パッススの長さにて、海中に
構造物 が設置されて、- (訳注:下線部は、DCCCC (900)と思われるが、校訂本や訳書によっては DCCC(800)としているものもある。
900パッスス=約1,350m、800パッスス=約1,200m となる。
この堤防は、カエサルとほぼ同時代のギリシア人地理学者ストラボンの『地誌』によって
ヘプタスタディオン(Ὲπταστάδιον, Heptastadion, 羅 Heptastadium)という呼び名が伝えられ、
これはギリシア語で「7スタディオン」を意味するが、この単位は地域や時代によってまちまちで、
プトレマイオス朝時代のエジプトでの長さについては諸説がある。
ファーブルの校訂版(P. Fabre, 1927)では、900パッスス ≒ 7スタディオン = 1,400m という説を採っている。)
- (訳注:下線部は、DCCCC (900)と思われるが、校訂本や訳書によっては DCCC(800)としているものもある。
- 900パッススの長さにて、海中に
- angusto itinere et ponte cum oppido coniungitur.
港への出入りを困難にする事情とは
- ③項 In hac sunt insula domicilia Aegyptiorum et vicus oppidi magnitudine;
- この島には、エジプト人たちの居住地、城市の大きさをもつ集落がある。
- (訳注1:domicilium 「住居、居住地」)
- (訳注2:Aegyptius, -a, -um 「エジプトの、エジプト人(の)」)
- (訳注3:vīcus 「村、村落」)
- この島には、エジプト人たちの居住地、城市の大きさをもつ集落がある。
- quaeque ubique naves inprudentia aut tempestate paulum suo cursu decesserunt,
- いたるところで、どんな船が、意図せずに あるいは悪天候により 自らの
航路 から少しでもそれたとしても、- (訳注1:inprūdentia(imprūdentia) 「意図しないこと」 )
- (訳注2:dēcēdere 「それる、はずれる」)
- いたるところで、どんな船が、意図せずに あるいは悪天候により 自らの
- has more praedonum diripere consuerunt.
- これら(の船団)を(島民たちが)海賊のように略奪することを常としていた。
- ④項 Iis autem invitis, a quibus Pharus tenetur,
- そのうえ、
灯台 を掌握している者たちによって承知されなければ、- (訳注:)
- そのうえ、
- non potest esse propter angustias navibus introitus in portum.
- 港の入口の狭さのために、船団にとって通過することができなかった。
- (訳注1:introitus 「入口」)
- (訳注2:ここで述べられている「港」とは、灯台~パロス島~堤防~アレクサンドリアに囲まれる東側の「大港」のこと。)
- 港の入口の狭さのために、船団にとって通過することができなかった。
カエサルが、灯台を制圧して、食糧や増援部隊の輸送を確かなものにする
- ⑤項 Hoc tum veritus Caesar,
- そこで、カエサルはこのことを懸念して、
- hostibus in pugna occupatis,
- 敵方 (アキッラスの軍勢) が(アレクサンドリア市街での)戦いに忙殺されていたので、
- militibus expositis Pharum prehendit
- 上陸させていた兵士たちによって、
灯台 を占領して、- (訳注:前節=111節⑥項で、兵士たちを灯台のたもとへ上陸させている。)
- 上陸させていた兵士たちによって、
- atque ibi praesidium posuit.
- そこに、守備隊を配置した。
- ⑥項 Quibus est rebus effectum,
- そうした事がなされたので、
- uti tuto frumentum auxiliaque navibus ad eum subportari possent.
- 穀物や増援が無事に、船団によって彼 (カエサル) のもとへ輸送できるようになったほどだ。
- (訳注:tūtō 「安全に、無事に」)
- 穀物や増援が無事に、船団によって彼 (カエサル) のもとへ輸送できるようになったほどだ。
- Dimisit enim circum omnes propinquas provincias atque inde auxilia evocavit.
- 確かに、周辺の最寄りの全属州に(伝令たちを)派遣して、そこから増援部隊を呼び出した。
112節 (後半)
[編集]アキッラスを動かしていた黒幕ポティヌスをカエサルが殺害し、アレクサンドリア戦争が新たな展開へ移る
- ⑦項 Reliquis oppidi partibus
- 城市のほかの地区では、
- sic est pugnatum ut aequo proelio discederetur et neutri pellerentur
- 優劣がつかぬほど戦われて撤退され、どちらも撃退されなかった。
- (訳注:neuter, -tra, trum ~ 「どちらも~でない」)
- 優劣がつかぬほど戦われて撤退され、どちらも撃退されなかった。
- ── id efficiebant angustiae loci ──,
- ── (市街戦の)戦場の狭さが、それをもたらしていたのだが、 ──
- paucisque utrimque interfectis
- 双方とも少数が戦死しただけで、
- Caesar loca maxime necessaria conplexus
- noctu praemuniit.
- 夜間に防備を固めた。
カエサルが、王宮に隣接する劇場を砦として利用する
- ⑧項 In eo tractu oppidi
- 城市のその
区 域 の中には、- (訳注:tractus 「区域」)
- 城市のその
- pars erat regiae exigua,
- in quam ipse habitandi causa initio erat inductus,
- (カエサル)自身が当初は居住のために導き入れられていた。
- et theatrum coniunctum domui,
居館 に隣接して劇 場 もあり、
- quod arcis tenebat locum
- それは、砦の役割を占めていて、
- aditusque habebat ad portum et ad reliqua navalia.
- 港やほかのドックへの通路を持っていた。
- (訳注:下線部は、写本では reliqua 「ほかの」だが、regia 「王の」とする修正提案もある。)
- 港やほかのドックへの通路を持っていた。
- ⑨項 Has munitiones insequentibus auxit diebus,
- これらの防塁を、続く日々に増設して、
- ut pro muro obiectas haberet
- 防壁として(敵方に)向かい合わせて、
- neu dimicare invitus cogeretur.
- 不本意に闘うことを強いられないようにしていた。
クレオパトラの妹アルシノエが、王宮から抜け出し、アキッラスとともに攻囲軍を指揮し出す
- ⑩項 Interim filia minor Ptolomaei regis
- vacuam possessionem regni sperans
王位 が空 であるのを占有することを期待して、
- ad Achillam sese ex regia traiecit
王宮 から、アキッラスのもとへ身を投じ、
- unaque bellum administrare coepit.
- 一緒に、戦争の采配を振り始めた。
- (訳注:カエサルは、プトレマイオス13世とクレオパトラ7世にエジプトを共同統治させ、
アルシノエと下の弟プトレマイオス14世をキュプロス島に封じようとしたらしい。
アルシノエを王宮から脱出させたのは、彼女の養育官で宦官であるガニュメデス Ganymedes (eunuch) であった。)
- (訳注:カエサルは、プトレマイオス13世とクレオパトラ7世にエジプトを共同統治させ、
- 一緒に、戦争の采配を振り始めた。
アキッラスとアルシノエの間に主導権をめぐる対立が起こる
- ⑪項 Sed celeriter est inter eos de principatu controversia orta;
- だが、たちまち、彼らの間で、
指導者の立場 について内紛が生じた。
- だが、たちまち、彼らの間で、
- quae res apud milites largitiones auxit;
- その状況は、兵士たちの間に(双方の)施しを増した。
- magnis enim iacturis sibi quisque eorum animos conciliabat.
- なぜなら、大枚を投じることにより、おのおのが彼ら (兵士たち) の気持ちを自分たちに引き寄せようとしていたからだ。
- (訳注1:conciliāre 「味方に引き入れる」)
- (訳注2:アルシノエの王宮脱出の立役者であったガニュメデスが主導権を握ろうとしたのであろう。
この後、ガニュメデスはアルシノエに命じられる形で、アキッラスを殺害することになる。)
- なぜなら、大枚を投じることにより、おのおのが彼ら (兵士たち) の気持ちを自分たちに引き寄せようとしていたからだ。
- ⑫項 Haec dum apud hostes geruntur,
- こういったことが、敵方の中でなされている間に、
- Pothinus [nutricius pueri et procurator regni, in parte Caesaris,]
- ポティヌスが [少年の
養育官 、かつ王政 の監督官 であり、カエサルの側にいたのだが、]- (訳注:[ ]内の箇所は、後世の書き込みであると考えられて、削除提案されている。)
- ポティヌスが [少年の
- cum ad Achillam nuntios mitteret hortareturque, ne negotio desisteret neve animo deficeret,
- アキッラスのもとへ伝令たちを遣わして、
任 務 をやめることなく 気を落とすな、と元気づけていたときに、
- アキッラスのもとへ伝令たちを遣わして、
- indicatis deprehensisque internuntiis
使いの者 たちが、密告されて捕らえられたので、- (訳注1:indicāre 「知らせる」「密告する」 > 完了受動分詞 indicātus)
- (訳注2:dēprehendere 「捕らえる」 > 完了受動分詞 dēprehēnsus)
- (訳注3:internūntius 「仲介者、使者」)
- a Caesare est interfectus.
- (ポティヌスは)カエサルによって殺害された。
- [Haec initia belli Alexandrini fuerunt.]
- [これらのことが、アレクサンドリア戦争の緒戦であった。]
- (訳注:[ ]内は、後世の書き込みであると考えられ、削除提案されている。)
- [これらのことが、アレクサンドリア戦争の緒戦であった。]
訳者あとがき
[編集]脚注
[編集]- ^ 要撃(ヨウゲキ)とは - コトバンク
- ^ マティアス・ゲルツァー著、長谷川博隆訳『ローマ政治家伝Ⅰ カエサル』(名古屋大学出版会)p.349の注(225)を参照。
参考リンク
[編集]- 「内乱記 第3巻 (下)」了。「アレクサンドリア戦記」へ続く。