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刑法第36条

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』
  1. 法学刑事法刑法コンメンタール刑法
  2. 法学コンメンタールコンメンタール刑法

条文

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(正当防衛)

第36条
  1. 急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。
  2. 防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。

解説

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本条は、正当防衛(1項)についてこれを罰しないものとし、過剰防衛(2項)については情状によって刑の裁量的減免を認めた規定である。正当防衛は違法性阻却事由であると理解されている。

日本の通説は、ドイツ刑法第32条1項「正当防衛によって(社会倫理的に)必要とされる行為を行った者は、違法に行為したものではない。」、および、同2項「正当防衛とは、現在の違法な侵害から自己又は他の者を回避させるのに必要(=武器対等の原則)な防衛である。」のドイツにおける議論が参照される。

参照条文

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判例

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  1. 傷害致死(最高裁判所第三小法廷昭和23年6月22日判決)刑法第6条
    いわゆる喧嘩の場合の闘争と正当防衞の成否
    互に暴行し合う所謂喧嘩は、闘争者双方が攻撃及び防禦を繰り返す一団の連続的闘争行為であるから、闘争の或る瞬間においては闘争者の一方がもつばら防禦に終止し正当防衞を行うの観を呈することがあつても闘争の全般から見てその行為が法律秩序に反するものである限り刑法第36条の正当防衞の観念を容れる余地がないものと言わなければならない。
  2. 傷害致死、傷害(最高裁判所第一小法廷昭和24年11月17日判決)
    鬪争中の仲間を救うため頭初局外にあつた一味の者が相手方に飛びかかつた行爲に對する相手方の反撃と正當防衞の成否
    被告人がAと互に得物をかざして相對峠し一進一退の状況にあつたという一瞬時だけを切り離して觀察すれば、被害者Bが被告人に飛び掛つて來たことは或は所論のように被告人にとつて「急迫不正の侵害」とも見え、又被告人が右Bの下腸部を突刺したことも「自己ノ權利ヲ防衞スル爲メ己ム事ヲ得ザルニ出デタル行爲」と見ら得る觀がないでもない。しかし、原審の認定したように被告人がテキ屋數名を相手として賣られた喧嘩を買うつもりで肉切包丁を携えてはじめた鬪争が進展していつた一段階として見るならば、鬪争中における形勢の幾變轉は通常必然のことであつて、被告人がAと相對峠していたとき同人を救わんとしてテキ屋の一人であるBが被告人に飛び掛つて來るようなことは數名を相手として喧嘩をする被告人の當然豫期したところでもあり、かかる危險には被告人が進んで身をさらしたものに外ならない。しかのみならず、BはAを救わんとしたもので被告人に攻撃を加えんとしたものではなく、しかも素手で飛び掛つて來たに過ぎないのである。さればこれを目して被告人に對する「急迫不正の侵害」とはいい得ないのである。又被告人がBを刺したのは、既にAの頭部に斬り付け更に追跡後引續き行つた行爲であるから、喧嘩相手の一人に對して加えた鬪争上の反撃に過ぎないものと見うるのであつてこれを目して「自己ノ權利ヲ防衞スル爲メ己ムヲ得ザルニ出デタル行爲」と斷ずることはできないのである。
  3. 建造物侵入(最高裁判決 昭和25年9月27日)憲法28条憲法37条3項,刑法130条刑法35条刑法37条,旧刑訴法69条1項
    隠退藏物資摘発のため人の看守する工場に侵入した行為と正当防衛又は緊急避難
    隠退藏物資摘発のため人の看守する工場に多数大挙して押寄せ、法令上の根拠もなく又これを業務とするものでもないのにかかわらず、看守の意に反して工場内に侵入した行為は、仮に当該工場内に隠退藏物資があつたとしても、正当防衛又は緊急避難行為と認めることはできない。
  4. 傷害致死・銃砲等所持禁止令違反(最高裁判決 昭和30年10月25日)
    正当防衛とならない一事例
    被告人が被害者と対面するにおいては攻撃を受ける蓋然性が多い状況の下に、被害者に対面して謝罪させ相手が攻撃して来たらこれに立ち向うため日本刀一振を拔身のまま携え、被害者の様子を窺ううち、被害者が被告人を認め矢庭に出刃庖丁をもつて突きかかつて来た場合、被害者が不正な侵害は急迫なものといえず、被告人の被害者に加えた傷害行為は権利防衛のため止むを得ざるに出たものといえない。
  5. 建造物損壊(最高裁判所判決昭和30年11月11日)
    建造物損壊と自救行為
    被告人がその所有家屋(店舗)を増築する必要上、自己の借地内につきでていたA所有家屋の玄関の軒先を間口八尺奥行一尺にわたりAの承諾をえないで切り取つた場合において、右玄関はAが建築許可を受けないで不法に増築したものであり、また被告人の店舗増築は経営の危機を打開するため遷延を許さない事情にあつて、右軒先の切除によりAのこうむる損害に比しこれを放置することにより被告人の受ける損害は甚大であつてとしても、被告人の右建造物損壊行為が自救行為としてその違法性を阻却されるものではない。
  6. 殺人(最高裁判決 昭和34年2月5日)盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律第1条1項3号/2項
    過剰防衛と認められる事例。
    本件のごとく、たとえ当初は急迫不正の侵害に対し防衛行為として巳むことを得ざるに出でたものであつても、最初の一撃によつて相手方の侵害的態勢がくずれ去つた後、引き続きなお追撃的行為に出で相手方を殺傷したような場合は、それ自体が全体としてその際の状況にてらし正当防衛行為とはいえないのであつて、過剰防衛にあたると認めるべきである。
  7. 強盗(最高裁判決 昭和38年7月9日)
    警察官による人物確認のためのひそかな写真撮影の対象とされた者と共に撮影された者において、そのフイルム装填の写真機を強取した行為が違法と認められた事例。
    警察官が甲に対する収監の必要上、その人物確認の手段として、ひそかに、甲と思われる人物の写真を撮影するにあたり、これと同道していた乙および丙を分離して撮影することが困難であつたため、乙および丙をも同時に撮影したとしても、その撮影行為は違法でなく、被撮影者らにおいて、暴行をもつて右警察官の反抗を抑圧して、自己らの撮影されたフイルムの装填してある写真機を強取することは刑法上許された行為ではない。
  8. 傷害(最高裁判決 昭和44年12月4日)
    「已ムコトヲ得サルニ出テタル行為(=やむを得ずにした行為)」の意義
    「已ムコトヲ得サルニ出テタル行為」とは、反撃行為が急迫不正の侵害に対する防衛手段として相当性を有することを意味し、右行為によつて生じた結果がたまたま侵害されようとした法益より大であつても、正当防衛行為でなくなるものではない。
  9. 殺人(最高裁判決 昭和46年11月16日)
    1. 「急迫」の意義
      「急迫」とは、法益の侵害が現に存在しているか、または間近に押し迫つていることを意味し、その侵害があらかじめ予期されていたものであるとしても、そのことからただちに急迫性を失うものと解すべきではない。
    2. 防衛行為と防衛の意思
      防衛行為は、防衛の意思をもつてなされることが必要であるが、相手の加害行為に対し憤激または逆上して反撃を加えたからといつて、ただちに防衛の意思を欠くものと解すべきではない。
  10. 殺人未遂(最高裁判決 昭和46年11月16日)
    防衛の意思と攻撃の意思とが併存している場合と刑法36条の防衛行為
    急迫不正の侵害に対し自己又は他人の権利を防衛するためにした行為であるかぎり、同時に侵害者に対する攻撃的な意思に出たものであつても、刑法36条の防衛行為にあたる。
  11. 兇器準備集合、暴力行為等処罰に関する法律違反(最高裁決定 昭和52年07月21日)
    侵害の急迫性
    侵害の急迫性は、当然又はほとんど確実に侵害が予期されただけで失われるものではないが、その機会を利用し積極的に相手に対して加害行為をする意思で侵害に臨んだときは失われることになる。

前条:
刑法第35条
(正当行為)
刑法
第1編 総則
第7章 犯罪の不成立及び刑の減免
次条:
刑法第37条
(緊急避難)
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