刑法第35条
ナビゲーションに移動
検索に移動
条文[編集]
(正当行為)
- 第35条
- 法令又は正当な業務による行為は、罰しない。
解説[編集]
本条は、法令行為及び正当業務行為について、これをw:正当行為として罰しないものと定めており、このような行為については違法性が阻却されるものと理解されている。法令行為としては、刑務官が死刑を執行する行為(殺人罪の構成要件に該当する)、正当業務行為としては、ボクシング選手が試合で相手を殴る行為(暴行罪や傷害罪の構成要件に該当する)等が例としてあげられる。
同条文の英訳は「An act performed in accordance with laws and regulations or in the pursuit of lawful business is not punishable.」であり[1]、「法令に従って行われた行為、又は正当な業務による行為は罰しない」という意味となる。
法律に基づく作為義務及びその不作為については、「作為が法律の禁止を破るときに玆に(ここに)犯罪が成立すると同じく、不作為が法律の命令を破るときに、玆に犯罪を構成する」[2]。
判例[編集]
- 強要、毀棄(最高裁判例 昭和25年04月21日)
- 正當な爭議行爲にあたらない事例
- 爭議中の炭鑛勞働組合の委員が最低賃金制の實施等の要求貫徹のため、炭鑛の從業員たる倉庫係某を強要して盜難火災豫防のため炭鑛所有のガソリンを埋藏してある場所まで案内させて埋藏の範圍を指示させる等同人に義務なきことを行わせ、組合員を使つてほしいまゝに右ガソリン貯藏所を掘り起こせて、ドラム罐を發堀するが如き強要毀棄の所爲は、假令これが組合大會における隠匿物資摘發の決議の執行行爲であつたとしても正常な爭議行爲ということはできない。
- 脅迫(最高裁判例 昭和24年05月18日)刑法第37条,刑法第38条1項,昭和20年法第律51号労働組合法第1条2項,w:憲法第28条
- 窃盜(最高裁判例 昭和25年11月15日),刑法第235条,刑法第252条,,労働組合法第1条,w:憲法第12条,w:憲法第28条,w:憲法第29条
- 労働関係調整法第7条と正当争議行為
- 労働関係調整法第7条は、争議行為の定義を掲げただけであつて、争議行為の正当性は別個の観点から判断すべきものである。
- 労働組合法第1条2項と刑法第35条―争議行為の正当性
- 労働組合法第1条2項は、労働組合の団体交渉その他の行為について無条件に刑法第35条の適用があることを規定しているのではなく唯労働組合法所定の目的達成のために為した正当な行為についてのみ適用を認めているに過ぎない(昭和22年(れ)第319号同24年5月18日最高裁判所大法廷判決参照)。如何なる争議行為を以て正当とするかは、具体的に個々の争議につき、争議の目的並びに争議手段としての各個の両面に亘つて、現行法秩序全体との関連において決すべきである。従つて至産管理及び生産管理中の個々の行為が、すべて当然に正当行為であるとの論旨は理由がない。
- 生産管理と同盟罷業との関係―生産管理の違法性
- 論旨は生産管理が同盟罷業と性質を異にするものでないということを理由として、生産管理も同盟罷業と同様に違法性を阻却される争議行為であると主張する。しかしわが国現行の法律秩序は私有財産制度を基幹として成り立つており、企業の利益と損失とは資本家に帰する。従つて企業の経営、生産行程の指揮命令は、資本家又はその代理人たる経営担当者の権限に属する。労働者が所論のように企業者と並んで企業の担当者であるとしても、その故に当然に労働者が企業の使用收益権を有するのでもなく、経営権に対する権限を有するものでもないい。従つて労働者側が企業者側の私有財産の基幹を揺がすような争議手段は許されない。なるほど同盟罷業も財産権の侵害を生ずるけれども、それは労働力の給付が積務不履行となるに過ぎない。然るに本件のようないわゆる生産管理に於ては、企業経営の権能を権利者の意思を排除して非権利者が行うのである。それ故に同盟罷業も生産管理も財産権の侵害である点においては同様であるからとて、その相違点を無視するわけにはゆかない。前者において違法性が阻却されるからとて、後者においてもそうだという理由はない。
- 監禁(最高裁判決 昭和28年06月17日)
- 憲法ならびに労働組合法施行前の労働組合の団体交渉と刑法第35条
- 出勤手当坑内5円、坑外3円の支給を受けることが労働組合側から見れば一種の債権であり、かつ、憲法ならびに労働組合法(昭和20年法律第51号)施行前において右組合がこれを要求のため団体交渉をすること自体が正当であるとしても、その手段として為された所為が社会通念上許容される限度を超えたものであるときは、その行為は刑法第35条の正当の行為とはいえない。
- 権利を実行する行為が違法とならない要件
- 他人に対し権利を有するものが、その権利を実行する行為は、それが権利の範囲内であつて、かつその方法が社会通念上一般に許容されるものと認められる程度を超えない限り違法とはならない。
- 詐欺、恐喝、銃砲等所持禁止令違反(最高裁判例 昭和30年10月14日)刑法第249条1項
- 業務上横領、暴力行為等処罰に関する法第律違反(最高裁判決 昭和33年09月19日)
- 威力業務妨害(最高裁判例 昭和45年06月23日)刑法第234条,労働組合法第1条2項,地方公営企業労働関係法第4条,地方公営企業労働関係法第11条1項
- 住居侵入、公務執行妨害(最高裁判例 昭和48年04月25日)刑法第95条1項,刑法第130条,w:憲法第28条,w:憲法第31条,鉄道営業法第37条,鉄道営業法第42条1項,日本国有鉄道法第32条1項,日本国有鉄道法第34条1項,旧鉄道公安職員基本規程(昭和24年11月18日総裁達466号)3条,旧鉄道公安職員基本規程(昭和24年11月18日総裁達466号)5条,鉄道公安職員基本規程(管理規程)(昭和39年4月1日総裁達160号)2条,鉄道公安職員基本規程(管理規程)(昭和39年4月1日総裁達160号)4条
- 逮捕(最高裁判例 昭和50年11月25日)刑法第220条1項,労働組合法第1条2項
- 名誉毀損(最高裁判例 昭和51年03月23日)刑法第230条1項,刑法第230条の2
- 地方公務員法第違反、道路交通法第違反(最高裁判例 昭和51年05月21日)w:憲法第18条,w:憲法第21条,w:憲法第28条,地方公務員法第37条1項,地方公務員法第61条4号,道路交通法第76条4項2号,道路交通法第120条1項9号,刑訴法第411条1号
- 国家公務員法第違反(最高裁判例 昭和53年05月31日)国公法第100条1項,国公法第109条12号,国公法第111条,裁判所法第3条1項,w:憲法第73条2号,w:憲法第73条3号
- 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律違反(最高裁判例 昭和59年02月24日)私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独禁法第」という。)1条,独禁法第2条6項,独禁法第8条1項,独禁法第33条,独禁法第85条3号,独禁法85条3号,独禁法89条1項(昭和52年法律第63号による改正前のもの),独禁法95条1項(昭和52年法律第63号による改正前のもの),独禁法96条,憲法14条,憲法31条,憲法32条,憲法77条1項,商法124条,商法406条,商法408条,商法415条,商法427条,商法430条1項,刑訴法239条,刑訴法241条,刑訴法339条1項4号,刑訴法490条1項,刑訴規則58条,通商産業省設置法3条2号,石油業法3条,石油業法4条,石油業法7条,石油業法15条,法人ノ役員処罰ニ関スル法律
- 未成年者略取被告事件(最高裁判例 平成17年12月06日)刑法第224条,民法第818条,民法第820条
|
|
脚注[編集]
- ^ 法務省『刑法: Penal Code』、2011年。Japanese Law Translation。
- ^ 牧野英一『不作為の違法性』、1914年。有斐閣。