商法第504条
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条文
[編集]- 第504条
- 商行為の代理人が本人のためにすることを示さないでこれをした場合であっても、その行為は、本人に対してその効力を生ずる。ただし、相手方が、代理人が本人のためにすることを知らなかったときは、代理人に対して履行の請求をすることを妨げない。
解説
[編集]商行為法における、民法の原則(民法第100条)と逆の構成をとる典型例のひとつ。代理行為において相手方は「代理人」と知って取引等を行っているので、個々の事案について「本人のために」することを明示する(「顕名主義の原則」)までもないとしたもので、実際の取引等においては、民法の規定が適用されることの方が稀である。
非顕名主義をとる英米法にいう隠れた本人の法理を定めた規定である。英米法では相手方は代理人にも本人にも履行を請求できる。
但し書き
[編集]- 但し書きの意味について争いがある。
- 判例の立場
- 条文の沿革に忠実に、商業使用人は顕名せずに取引をすることがよくあるために「非顕名代理」という民法第99条の特則を規定したと解釈する。相手方が本人にも代理人にも履行を請求することができるとし、つまり本人と代理人は連帯債務のような関係[1]にたち、ただ、相手方には善意無過失が求められるとするのが判例である。代理人は相手方が代理人に代理権があったことを知らなかったことあるいはそのことについて過失があったことを立証する責任を負う。
- これでは相手方は資力のある者を選んで履行を請求することができることになるが、過保護であるとする批判がある。
- 最近の有力説
- 相手方が代理関係を知るまでに代理人との間に生じた法律関係を相手方は本人に対抗できる(「履行の請求をすることを妨げない」)が、代理関係を知った後で代理人との間に生じた法律関係は本人に対抗できず法律関係はただ本人との間だけで成立すると考える。相手方には善意無過失というより善意無重過失が求められるが、善意の立証責任は相手方、重過失の立証責任は代理人が負う。
- 「履行の請求をすることを妨げない」の解釈に批判がある。
- 立証責任転換説(西原寛一説)
- 商事代理人が顕名せずに取引をすることはまずない。「非顕名代理」という概念はむしろ認めるべきではない。504条は民法100条の本文と但書きを逆に規定している。民法100条の場合代理の効果を求める本人は相手方の悪意有過失を証明する責任を負うが、商法504条の場合本人は証明責任を負わないというところに特則の意味がある。立法論としては504条(本文・但書き)を削除してもよい。
- 「履行の請求をすることを妨げない」の解釈に批判がある。
- この説は判例法理が確立すると支持者を失った。
判例
[編集]- 建物収去土地明渡請求(最高裁判決 昭和40年3月5日)民法第100条
- 民法第100条但書、商法第504条の主張責任。
- 民法第100条但書、商法第504条の適用を主張する当事者は、その要件事実につき主張責任がある。
- 売掛代金請求(最高裁判決 昭和43年04月24日)
- 商法第504条本文の法意
- 商法第504条本文は、本人のための商行為の代理については、代理人が本人のためにすることを示さなくても、その行為は本人に対して効力を生ずるものとして、いわゆる顕名主義に対する例外を認めたものである。
- 商法第504条但書にいう「履行ノ請求」に伴う法律関係
- 相手方において、代理人が本人のためにすることを知らなかつたときは、商法第504条但書によつて、相手方と代理人との間にも本人相手方間におけると同一の法律関係が生じ、相手方が、その選択に従い、本人との法律関係を否定し、代理人との法律関係を主張したときは、本人は、もはや相手方に対し、右本人粗手方間の法律関係を主張することができない。
- 「自らの過失により本人のためにすることを知らなかつた相手方までも保護する必要はないものというべく、したがつて、かような過失ある相手方は、右但書の相手方に包含しない」が、この事案では相手方が保護された。
- 相手方において、代理人が本人のためにすることを知らなかつたときは、商法第504条但書によつて、相手方と代理人との間にも本人相手方間におけると同一の法律関係が生じ、相手方が、その選択に従い、本人との法律関係を否定し、代理人との法律関係を主張したときは、本人は、もはや相手方に対し、右本人粗手方間の法律関係を主張することができない。
- 商法第504条本文の法意
- 建物明渡請求 (最高裁判決 昭和44年2月27日)民法第33条、商法第52条(現・会社法第3条)
- 法人格否認の法理
- 社団法人において、法人格がまつたくの形骸にすぎない場合またはそれが法律の適用を回避するために濫用される場合には、その法人格を否認することができる。
- 実質が個人企業と認められる株式会社における取引の効果の帰属
- 株式会社の実質がまつたく個人企業と認められる場合には、これと取引をした相手方は、会社名義でされた取引についても、これを背後にある実体たる個人の行為と認めて、その責任を追求することができ、また、個人名義でされた取引についても、商法504条によらないで、直ちにこれを会社の行為と認めることができる。
- 株式会社は準則主義によつて容易に設立され得、かつ、いわゆる一人会社すら可能であるため、株式会社形態がいわば単なる藁人形に過ぎず、会社即個人であり、個人則会社であつて、その実質が全く個人企業と認められるが如き場合を生じるのであつて、このような場合、これと取引する相手方としては、その取引がはたして会社としてなされたか、または個人としてなされたか判然しないことすら多く、相手方の保護を必要とするのである。ここにおいて次のことが認められる。すなわち、このような場合、会社という法的形態の背後に存在する実体たる個人に迫る必要を生じるときは、会社名義でなされた取引であつても、相手方は会社という法人格を否認して恰も法人格のないと同様、その取引をば背後者たる個人の行為であると認めて、その責任を追求することを得、そして、また、個人名義でなされた行為であつても、相手方は敢て商法504条を俟つまでもなく、直ちにその行為を会社の行為であると認め得るのである。けだし、このように解しなければ、個人が株式会社形態を利用することによつて、いわれなく相手方の利益が害される虞があるからである。
- 株式会社の実質がまつたく個人企業と認められる場合には、これと取引をした相手方は、会社名義でされた取引についても、これを背後にある実体たる個人の行為と認めて、その責任を追求することができ、また、個人名義でされた取引についても、商法504条によらないで、直ちにこれを会社の行為と認めることができる。
- 法人格否認の法理
脚注
[編集]- ^ 2017年民法改正前は「不真正連帯債務」類似の関係とされた。
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