日本国憲法第98条

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条文[編集]

【憲法の最高法規性、国際法規の遵守】

第98条
  1. この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。
  2. 日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。

解説[編集]

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憲法の私人間効力[編集]

参照条文[編集]

判例[編集]

  1. 暴力行為等処罰に関する法第律違反・業務妨害、建造物侵入、窃盗(最高裁判決 昭和26年07月18日)
    暴力行為を等処罰に関する法律第1条第1項の合憲性
    暴力行為等処罰に関する法律第1条第1項の規定は、憲法第28条,憲法第98条に違反しない。
  2. 日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第3条に基く行政協定に伴う刑事特別法違反(砂川事件 最高裁判決 昭和34年12月16日) - 憲法第9条に係る判断は同法記事判例節憲法第73条に係る判断は同法記事判例節参照
    1. 日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約(以下安保条約と略す。)と司法裁判所の司法審査権
      安保条約の如き、主権国としてのわが国の存立の基礎に重大な関係を持つ高度の政治性を有するものが、違憲であるか否の法的判断は、純司法的機能を使命とする司法裁判所の審査に原則としてなじまない性質のものであり、それが一見極めて明白に違憲無効であると認められない限りは、裁判所の司法審査権の範囲外にあると解するを相当とする。
      • 主権国としてのわが国の存立の基礎に極めて重大な関係をもつ高度の政治性を有する条約については、その締結権を有する内閣およびこれに対して承認権を有する国会の判断に従うべく、終局的には、主権を有する国民の政治的批判に委ねらるべきものであると解する
    2. 安保条約がいわゆる前提問題となつている場合と司法裁判所の司法審査権
      安保条約(またはこれに基く政府の行為)が違憲であるか否かが、本件のように(行政協定に伴う刑事特別法第2条が違憲であるか)前提問題となつている場合においても、これに対する司法裁判所の審査権は前項と同様である。
    3. 安保条約は一見明白に違憲と認められるか
      安保条約(およびこれに基くアメリカ合衆国軍隊の駐留)は、憲法第9条、第98条第2項および前文の趣旨に反して違憲無効であることが一見極めて明白であるとは認められない。
      • 駐留軍隊は外国軍隊であつて、わが国自体の戦力でないことはもちろん、これに対する指揮権、管理権は、すべてアメリカ合衆国に存し、わが国がその主体となつてあだかも自国の軍隊に対すると同様の指揮権、管理権を有するものではない。
      • 安全保障条約の前文に示された趣旨において駐留するものであり、同条約1条の示すように極東における国際の平和と安全の維持に寄与し、ならびに一または二以上の外部の国による教唆または干渉によつて引き起されたわが国における大規模の内乱および騒じようを鎮圧するため、わが国政府の明示の要請に応じて与えられる援助を含めて、外部からの武力攻撃に対する日本国の安全に寄与するために使用することとなつており、その目的は、専らわが国およびわが国を含めた極東の平和と安全を維持し、再び戦争の惨禍が起らないようにすることに存し、わが国がその駐留を許容したのは、わが国の防衛力の不足を、平和を愛好する諸国民の公正と信義に信頼して補なおうとしたものに外ならない。
      • 憲法9条、98条2項および前文の趣旨に適合こそすれ、これらの条章に反して違憲無効であることが一見極めて明白であるとは、到底認められない。
  3. 不動産所有権確認、所有権取得登記抹消請求本訴、同反訴、不動産所有権確認、停止条件付所有権移転仮登記抹消登記請求本訴、同反訴及び当事者参加(百里基地訴訟 最高裁判決 平成元年6月20日)日本国憲法第9条
    国が行う私法上の行為と憲法98条1項にいう「国務に関するその他の行為」
    国が行う私法上の行為は、憲法98条1項にいう「国務に関するその他の行為」には当たらない。
    • 憲法98条1項は、憲法が国の最高法規であること、すなわち、憲法が成文法の国法形式として最も強い形式的効力を有し、憲法に違反するその余の法形式の全部又は一部はその違反する限度において法規範としての本来の効力を有しないことを定めた規定であるから、同条項にいう「国務に関するその他の行為」とは、同条項に列挙された法律、命令、詔勅と同一の性質を有する国の行為、言い換えれば、公権力を行使して法規範を定立する国の行為を意味し、したがつて、行政処分、裁判などの国の行為は、個別的・具体的ながらも公権力を行使して法規範を定立する国の行為であるから、かかる法規範を定立する限りにおいて国務に関する行為に該当するものというべきであるが、国の行為であつても、私人と対等の立場で行う国の行為は、右のような法規範の定立を伴わないから憲法98条1項にいう「国務に関するその他の行為」に該当しないものと解すべきである。

判例:憲法の私人間効力[編集]

  1. 労働契約関係存在確認請求(三菱樹脂事件 最高裁判決 昭和48年12月12日) 憲法第14条憲法第19条民法第1条民法第90条労働基準法第3条,労働基準法第2章
    憲法14条、19条と私人相互間の関係
    憲法14条や19条の規定は、直接私人相互間の関係に適用されるものではない。
    • 憲法の右各規定は、同法第3章のその他の自由権的基本権の保障規定と同じく、国または公共団体の統治行動に対して個人の基本的な自由と平等を保障する目的に出たもので、もつぱら国または公共団体と個人との関係を規律するものであり、私人相互の関係を直接規律することを予定するものではない。
    • 私人間の関係においても、相互の社会的力関係の相違から、一方が他方に優越し、事実上後者が前者の意思に服従せざるをえない場合があり、このような場合に私的自治の名の下に優位者の支配力を無制限に認めるときは、劣位者の自由や平等を著しく侵害または制限することとなるおそれがあることは否み難いが、そのためにこのような場合に限り憲法の基本権保障規定の適用ないしは類推適用を認めるべきであるとする見解もまた、採用することはできない。
    • 私的支配関係においては、個人の基本的な自由や平等に対する具体的な侵害またはそのおそれがあり、その態様、程度が社会的に許容しうる限度を超えるときは、これに対する立法措置によつてその是正を図ることが可能であるし、また、場合によつては、私的自治に対する一般的制限規定である民法1条、90条や不法行為に関する諸規定等の適切な運用によつて、一面で私的自治の原則を尊重しながら、他面で社会的許容性の限度を超える侵害に対し基本的な自由や平等の利益を保護し、その間の適切な調整を図る方途も存するのである。そしてこの場合、個人の基本的な自由や平等を極めて重要な法益として尊重すべきことは当然であるが、これを絶対視することも許されず、統治行動の場合と同一の基準や観念によつてこれを律することができないことは、論をまたない。
    • 憲法は、思想、信条の自由や法の下の平等を保障すると同時に、他方、22条、29条等において、財産権の行使、営業その他広く経済活動の自由をも基本的人権として保障している。それゆえ、企業者は、かような経済活動の一環としてする契約締結の自由を有し、自己の営業のために労働者を雇傭するにあたり、いかなる者を雇い入れるか、いかなる条件でこれを雇うかについて、法律その他による特別の制限がない限り、原則として自由にこれを決定することができるのであつて、企業者が特定の思想、信条を有する者をそのゆえをもつて雇い入れることを拒んでも、それを当然に違法とすることはできない。

前条:
日本国憲法第97条
【基本的人権の本質】
日本国憲法
第10章 最高法規
次条:
日本国憲法第99条
【憲法尊重擁護の義務】
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