民法第144条

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』

法学民事法民法コンメンタール民法第1編 総則 (コンメンタール民法)

条文[編集]

時効の効力)

第144条
時効の効力は、その起算日にさかのぼる。

解説[編集]

時効が成立したときの効力について規定している。 趣旨は、時効の利益を主張した者に不当利得の返還義務が発生するのを防ぐためである。

例えば、金銭債権の消滅時効においては、時効成立を別論として、当該金銭債権について法定果実としての利子(契約等があれば約定利息による、無ければ法定利息)が発生しており、これは、時効の起算点より後に発生しているため、独立した債権と認めると、元本について消滅時効が成立しても、利子部分については不当利得として返還義務が争われる可能性がある。これは、時効制度を適用した本体である係争物について争うことに他ならず、時効制度の意義を損ねる結果ともなりかねない。これを回避するために、起算日時点より法律事実そのものが存在していなかったとする趣旨である。

参照条文[編集]

判例[編集]

  • 土地所有権確認等請求(最高裁判決 昭和35年07月27日)民法第162条
    取得時効の時効期間の起算点
    時効期間は、時効の基礎たる事実の開始された時を起算点として計算すべきもので、時効援用者において起算点を選択し、時効完成の時期を早めたり遅らせたりすることはできない。
  • 抵当権設定登記抹消登記手続請求事件(最高裁判決  平成15年10月31日)民法第145条民法第162条民法第177条民法第397条
    取得時効の援用により不動産の所有権を取得してその旨の登記を有する者が当該取得時効の完成後に設定された抵当権に対抗するためその設定登記時を起算点とする再度の取得時効を援用することの可否
    取得時効の援用により不動産の所有権を取得してその旨の登記を有する者は,当該取得時効の完成後に設定された抵当権に対抗するため,その設定登記時を起算点とする再度の取得時効の完成を主張し,援用をすることはできない。
    • 本件経緯は以下のとおり。
      事件の概要
      1. 土地の元の所有者A。
      2. 被上告人Bは,昭和37年(1962年)2月17日に本件土地の占有を開始し、取得時効の完成の日である同57年(1982年)2月17日以降も本件土地の占有を継続していた。
      3. Aは、昭和58年(1983年)12月13日、「訴外C」との間で、本件土地につき、Cを抵当権者とし,債務者をDとする債権額1100万円の抵当権(「本件抵当権」)を設定してその旨の登記を了した。
      4. 上告人Eは,平成8年(1996年)10月1日、Cから、本件抵当権を、その被担保債権と共に譲り受け、平成9年(1997年)3月26日、本件抵当権の設定登記につき抵当権移転の付記登記がされた。
      5. 被上告人Bは、昭和37年(1962年)2月17日を起算点として20年間本件土地の占有を継続したことにより、時効が完成したとして、Aに対して所有権の取得時効を援用した。そして、被上告人Bは、平成11年(1999年)6月15日、本件土地につき「昭和37年2月17日時効取得」を原因とする所有権移転登記を了した(※)。
      6. 被上告人Bは,本件抵当権の設定登記の日である昭和58年(1983年)12月13日から更に10年間本件土地の占有を継続したことにより、時効が完成したとして、再度取得時効を援用し、本件抵当権は消滅したと主張して、上告人に対し、本件抵当権の設定登記の抹消登記手続を求めた。
      原審判断
      1. 被上告人Bは、20年間占有を継続したことにより、本件土地を時効取得したが、その所有権移転登記をしないうちに、訴外会社Cによる本件抵当権の設定登記がされた。このような場合において、被上告人Bが、本件抵当権の設定登記の日である昭和58年(1983年)12月13日から更に時効取得に必要な期間、本件土地の占有を継続したときには、被上告人Bは、その旨の所有権移転登記を有しなくても、時効による所有権の取得をもって本件抵当権の設定登記を有する訴外Cに対抗することができ、時効取得の効果として本件抵当権は消滅するから、その抹消登記手続を請求することができる。
      2. 被上告人Bは、本件抵当権の設定登記の日には、本件土地の所有権を既に時効取得していたことからすると、その日以降の被上告人Bの本件土地の占有は、善意無過失のものと認められる。
      3. したがって、被上告人Bは,本件抵当権の設定登記の日から10年間占有を継続したことにより、時効が完成し、再度、取得時効を援用して、本件土地を更に時効取得し、これに伴い本件抵当権は消滅したものというべきであるから、被上告人Bは、上告人Eに対し,本件抵当権の設定登記の抹消登記手続を求めることができる。
      最高裁判断 - 原審判断を是認せず。
      被上告人Bは、※の時効の援用により、占有開始時の昭和37年(1962年)2月17日にさかのぼって本件土地を原始取得し,その旨の登記を有している。被上告人Bは、上記時効の援用により確定的に本件土地の所有権を取得したのであるから、このような場合に、起算点を後の時点にずらせて、再度、取得時効の完成を主張し、これを援用することはできないものというべきである。そうすると、被上告人Bは、上記時効の完成(同57年(1982年)2月17日)後の昭和58年(1983年)12月13日に設定された本件抵当権を譲り受けた上告人Eに対し、本件抵当権の設定登記の抹消登記手続を請求することはできない。

前条:
民法第143条
(暦による期間の計算)
民法
第1編 総則

第1章 時効

第1節 総則
次条:
民法第145条
(時効の援用)


このページ「民法第144条」は、まだ書きかけです。加筆・訂正など、協力いただける皆様の編集を心からお待ちしております。また、ご意見などがありましたら、お気軽にトークページへどうぞ。