コンテンツにスキップ

民法第162条

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』

法学民事法民法コンメンタール民法第1編 総則 (コンメンタール民法)

条文

[編集]

所有権取得時効

第162条
  1. 20年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の占有した者は、その所有権を取得する。
  2. 10年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。

改正経緯

[編集]
  • 平成16年12月1日法律第147号による改正
民法現代語化に伴い、「確立された判例・通説」に基づき、第2項の「不動産」が「物」に改められ、動産も10年の取得時効にかかることが明文化された。
(改正前の本条)
  1. 二十年間所有ノ意思ヲ以テ平穏且公然ニ他人ノ物ヲ占有シタル者ハ其所有権ヲ取得ス
  2. 十年間所有ノ意思ヲ以テ平穏且公然ニ他人ノ不動産ヲ占有シタル者カ其占有ノ始善意ニシテ且過失ナカリシトキハ其不動産ノ所有権ヲ取得ス

解説

[編集]

本条は、長期取得時効(1項)及び短期取得時効(2項)の要件について定める。

第1項

[編集]

第1項は長期取得時効の要件を定める。長期取得時効は時効取得者の主観的要件を問わない。

  • 20年間の占有
    占有は代理占有によるものでもよい。
    占有者の承継人は、その選択に従い、自己の占有のみを主張し、又は自己の占有に前の占有者の占有を併せて主張することができる(第187条第1項)。この場合、占有者の善意・無過失は、その主張にかかる最初の占有者につきその占有開始の時点において判定することができる(最判昭和53年03月06日)。
  • 所有の意思
    所有の意思は民法第186条1項により推定される。売買・交換などの取引行為を原因として占有を開始した場合や、相続開始によってその物を相続したと信じて占有開始した場合(最判昭和47年9月8日民集26-7-1348)などは「所有の意思」があったとされる。一方、賃借人は「所有の意思」がないとされる(最判昭和13年7月7日民集17-1360)。
    所有の意思が覆される例
    • 占有者がその性質上所有の意思のないものとされる権原に基づき占有を取得した事実が証明されるか、又は占有者が占有中、真の所有者であれば通常はとらない態度を示し、若しくは所有者であれば当然とるべき行動に出なかつたなど、外形的客観的にみて占有者が他人の所有権を排斥して占有する意思を有していなかつたものと解される事情が証明されるとき(最判昭和58年03月24日
  • 平穏・公然性
    平穏・公然性も民法第186条1項により推定される。
  • 他人の物
    他人の物との要件は、通常の場合のことであるので、取得時効の対象物が自己の物であっても時効取得できる。
    公共用物も、公共用物としての機能を喪失していた場合には時効取得できる(最判昭和44年05月22日最判昭和51年12月24日民集30-11-1104)。
    法律の適用により、占有する土地の交換分合が生じた場合であっても、自主占有が継続しているときは、取得時効の成否に関しては両土地の占有期間を通算することができる(最判昭和54年09月07日)。

第2項

[編集]

第2項は短期取得時効の要件を定める。占有開始時に善意・無過失であったときは、10年での時効取得が認められる。

過失があるとされる例

[編集]
  • 相続人が、相続時に相続土地について登記簿に基づいた実地の調査を行わず、相続により自己の所有に属すると信じて占有をはじめた場合(最判昭和43年3月1日
  • 賃借地の一部に属するものと信じて賃貸人以外の第三者所有の隣地を占有していた者が、国に物納された右賃借地の払下を受け、以後所有の意思をもつて右第三者の所有地を占有するに至つたという事案で、払下を受けるにあたつてその払下土地の境界を隣接地所有者や公図等について確認する等の調査をしないでそう信じた場合(最判昭和50年04月22日
  • 公の許認可の不存在の認識
    • 農地の譲受人が、当該譲渡について必要な農地調整法4条1項所定の知事の許可を受けていないことを知ってまたはその事実に関し無関心で、右農地を占有した場合(最判昭和59年05月25日

効果

[編集]
時効取得の物権変動としての法的性質は原始取得であるとされる。
不動産の時効取得の効果は、登記なくして第三者に対抗できない(177条)。
不動産を時効取得したとき、その不動産に抵当権がついていた場合、時効取得した者が、債務者又は抵当権設定者でなければ、抵当権は、時効取得によって消滅する(397条)。

参照条文

[編集]

判例

[編集]
  1. 土地明渡請求(最高裁判決 昭和33年08月28日)
    不動産所有権の時効取得と対抗要件。
    時効により不動産の所有権を取得しても、その登記がないときは、時効完成後旧所有者から所有権を取得し登記を経た第三者に対し、その善意であると否とを問わず、所有権の取得を対抗できない。
  2. 土地所有権確認等請求(最高裁判決 昭和35年07月27日)民法第144条
    取得時効の時効期間の起算点。
    時効期間は、時効の基礎たる事実の開始された時を起算点として計算すべきもので、時効援用者において起算点を選択し、時効完成の時期を早めたり遅らせたりすることはできない。
  3. 土地所有権確認、土地所有権移転登記手続請求(最高裁判決  昭和35年09月02日)民法第160条
    民法第162条第2項の無過失の事例
    空襲により一家全滅した本家の再興のため、親族の協議により相続人に選ばれて本家の家業を継ぎ、相続財産に属する土地を占有している22歳の女子につき、原審認定のような事実関係(原判決理由参照)があるときは、同人がその土地の所有権を取得したものと信ずるにつき過失はないものと解すべきである。
  4. 所有権移転登記手続履行請求 (最高裁判決集 昭和36年07月20日)
    時効による不動産の所有権取得とその対抗要件。
    不動産の取得時効が完成しても、その登記がなければ、その後に所有権取得登記を経由した第三者に対しては時効による権利の取得を対抗しえないが、第三者の右登記後に占有者がなお引続き時効取得に要する期間占有を継続した場合には、その第三者に対し、登記を経由しなくとも時効取得をもつて対抗しうるものと解すべきである。
  5. 所有権確認並びに境界確認請求(最高裁判決 昭和38年12月13日)
    他人所有地の立木についての取得時効の成否。
    他人の所有する土地に権原によらずして自己所有の樹木を植え付けてその時から右立木のみにつき所有の意思をもつて平穏かつ公然に20年間占有した者は、時効により右立木の所有権を取得する。
  6. 立木伐採禁止請求(最高裁判決 昭和39年12月11日)
    他人所有地の立木についての取得時効の成否。
    他人の所有地の立木のみについても、取得時効の要件を具備するかぎり、その所有権を取得し得るものと解するのを相当とする。
    • 自然生の松立木をその植林にかかる松立木と同様自己の所有として平穏公然に管理(占有)育成してきた。
  7. 所有権移転登記抹消登記手続請求(最高裁判決  昭和41年04月15日)
    民法第162条第2項にいう平穏の占有の意義
    民法第162条第2項にいう平穏の占有とは、占有者がその占有を取得し、または、保持するについて、暴行強迫などの違法強暴の行為を用いていない占有を指称するものであり、不動産所有者その他占有の不法を主張する者から、異議をうけ、不動産の返還、占有者名義の所有権移転登記の抹消手続方の請求があつても、これがため、その占有が平穏でなくなるものでない。
  8. 損害賠償請求(最高裁判決 昭和41年10月07日)
    不動産の所有権の取得時効の要件である自主占有をすることができる者の年齢
    15歳位に達した者は、特段の事情のないかぎり、不動産について、所有権の取得時効の要件である自主占有をすることができる。
  9. 所有権確認請求(最高裁判決 昭和41年11月22日) 民法第177条
    取得時効と登記
    不動産の時効取得者は、取得時効の進行中に原権利者から当該不動産の譲渡を受けその旨の移転登記を経由した者に対しては、登記がなくても、時効による所有権の取得を主張することができる。
  10. 家屋収去土地明渡請求(最高裁判決  昭和42年03月31日)
    借地権の無断譲渡が背信行為にあたる場合は譲受人に賃料支払能力がないときにかぎられるか
    借地権の無断譲渡がされた場合、それが賃貸人に対する賃借人の背信行為となるのは、賃貸人が譲受人の賃料の支払能力、態度に不安を感じる場合にかぎられない。
  11. 家屋明渡請求(最高裁判決 昭和42年07月21日)
    所有権に基づいて不動産を占有する者と民法第162条の適用の有無
    所有権に基づいて不動産を占有する者についても、民法第162条の適用がある。
    • 原判決において、上告人Aが訴外Dから本件家屋の贈与を受けた事実を確定したうえ、所有権について取得時効が成立するためには、占有の目的物が他人の物であることを要するという見解のもとに、上告人Aが時効によつて本件家屋の所有権を取得した旨の上告人らの抗弁に対し、上告人Aは自己の物の占有者であり、取得時効の成立する余地はない旨説示して、右抗弁を排斥した判旨に対して。
  12. 建物収去、土地明渡請求(最高裁判決 昭和42年07月21日)民法第177条
    不動産の取得時効完成前に原所有者から所有権を取得した者が時効完成後に移転登記を経由した場合と民法第177条
    不動産の取得時効完成前に原所有者から所有権を取得し時効完成後に移転登記を経由した者に対し、時効取得者は、登記なくして所有権を対抗することができる。
  13. 土地境界確認等請求(最高裁判決 昭和43年03月01日)
    土地所有権の時効取得の要件として無過失でないとされた事例
    相続人が、登記簿に基づいて実地に調査すれば、相続により取得した土地の範囲が甲地を含まないことを容易に知ることができたにもかかわらず、この調査をしなかつたために、甲地が相続した土地に含まれ、自己の所有に属すると信じて占有をはじめたときは、特段の事情のないかぎり、相続人は右占有のはじめにおいて無過失ではないと解するのが相当である。
  14. 家屋収去土地明渡請求(最高裁判決  昭和43年12月19日)
    民法第162条第2項の10年の取得時効と無過失の立証責任
    民法第162条第2項の10年の取得時効を主張するものは、その不動産を自己の所有と信じたことにつき無過失であつたことの立証責任を負うものである。
  15. 所有権移転登記手続請求(最高裁判決  昭和43年12月24日)民法第397条
    抵当不動産の占有と民法第162条第2項にいう善意・無過失
    民法第162条第2項にいう占有者の善意・無過失とは、自己に所有権があるものと信じ、かつ、そのように信ずるにつき過失のないことをいい、占有者において、占有の目的不動産に抵当権が設定されていることを知り、または、不注意により知らなかつた場合でも、ここにいう善意・無過失の占有者ということを妨げない。
  16. 土地所有権確認等請求(最高裁判決  昭和44年05月22日)
    旧都市計画法(大正8年法律第36号)3条に基づき建設大臣が決定した都市計画において公園とされている市有地について民法162条による取得時効の成立が認められた事例
    旧都市計画法(大正8年法律第36号)3条に基づき建設大臣が決定した都市計画において公園とされている市有地であつても、外見上公園の形態を具備しておらず、したがつて、現に公共用財産としての使命をはたしていないかぎり、民法162条に基づく取得時効の成立を妨げない。
  17. 所有権移転登記手続請求(最高裁判決  昭和44年12月18日)
    売買契約の当事者間における買主の所有権取得時効の援用
    不動産を買い受け所有権に基づいてこれを占有する買主は、売主との関係においても、自己の占有を理由として右不動産につき時効による所有権の取得を主張することができる。
  18. 占有回収等請求(最高裁判決  昭和45年06月18日)民法第186条
    占有における所有の意思の有無の判断基準
    占有における所有の意思の有無は、占有取得の原因たる事実によつて外形的客観的に定められるべきものであるから、賃貸借が法律上効力を生じない場合にあつても、賃貸借により取得した占有は他主占有というべきである。
  19. 建物収去土地明渡、所有権確認等請求(最高裁判決  昭和45年10月29日)
    所有の意思をもつて占有するものと認められた事例
    占有における所有の意思の有無は、占有取得の原因たる事実によつて客観的に定められるべきものであるから、所有権譲受を内容とする交換契約に基づき開始した占有は、所有の意思をもつてする占有である。
  20. 所有権移転登記手続請求(最高裁判決  昭和45年12月18日)土地区画整理法第99条
    1. 仮換地の占有と従前の土地の時効取得
      仮換地の指定後に、従前の土地を所有する意思をもつて当該仮換地の占有を始めた者は、換地処分の公告の日までに民法162条所定の要件をみたしたときは、時効によつて右従前の土地の所有権を取得する。
    2. 仮換地の特定の一部分の占有が開始されたのち仮換地の分割による変更指定がなされ右占有部分が分筆後の従前の土地に対応する仮換地として指定された場合と右分筆後の従前の土地の時効取得
      一筆の従前の土地甲地の特定の一部分である乙部分を所有する意思をもつて、乙部分に位置する甲地の仮換地の特定の一部分である丙部分の占有を開始し、のちに、乙部分が分筆され乙地となり、これに対応して仮換地も分割による変更指定がなされ、丙部分が乙地に対応する仮換地として指定された場合に、占有者が所有の意思をもつて、平穏公然に仮換地を占有した期間が、右の分割による変更指定の前後を通じ民法一六二条所定の期間に達し、右期間の満了が換地処分の公告前であるときは、占有者は時効によつて乙地の所有権を取得する。
  21. 土地所有権確認等所有権取得登記抹消登記手続本訴並びに建物収去明渡反訴請求   土地所有権確認等所有権取得登記抹消登記手続本訴並びに建物収去明渡反訴請求(最高裁判決  昭和46年11月05日)
    不動産の二重売買と所有権の取得時効の起算点
    不動産が二重に売買された場合において、買主甲がその引渡を受けたが、登記欠缺のため、その所有権の取得をもつて、のちに所有権取得登記を経由した買主乙に対抗することができないときは、甲の所有権の取得時効は、その占有を取得した時から起算すべきものである。
  22. 建物収去土地明渡本訴ならびに所有権確認等反訴請求(最高裁判決  昭和46年11月26日) 特別都市計画法第13条特別都市計画法第14条土地区画整理法第99条民法第163条
    換地予定地指定通知後の従前の土地の占有と従前の土地に対する所有権地上権または賃借権の取得時効の成否
    特別都市計画法13条所定の換地予定地の指定通知が従前の土地の所有者に対してなされたのちにおいては、当該換地予定地を占有するのでなければ、従前の土地を占有したからといつて、その従前の土地の所有権地上権または賃借権を時効によつて取得することはできない。
  23. 土地所有権移転登記手続請求(最高裁判決  昭和47年09月08日)民法第185条民法第186条1項,民法第187条1項
    共同相続人の一人が相続財産につき単独所有者としての自主占有を取得したと認められた事例
    共同相続人の一人が、単独に相続したものと信じて疑わず、相続開始とともに相続財産を現実に占有し、その管理、使用を専行してその収益を独占し、公租公課も自己の名でその負担において納付してきており、これについて他の相続人がなんら関心をもたず、異議も述べなかつた等原判示の事情のもとにおいては、前記相続人はその相続のときから相続財産につき単独所有者としての自主占有を取得したものというべきである。
  24. 土地並びに地上立木所有権確認請求(最高裁判決 昭和48年10月05日)
    1. 入会部落の総有に属する土地を買い受けた同部落の構成員と民法第177条の第三者
      入会部落の総有に属する土地(民法第263条)の譲渡を受けた同部落の構成員は、右譲渡前にこれを時効取得した者に対する関係において、民法第177条にいう第三者にあたる。
    2. 一筆の土地の一部の所有権時効取得と対抗要件
      一筆の土地の一部を時効取得した場合でも、右土地部分の所有権取得につき登記がないときは、時効完成後旧所有者からこれを買い受けた第三者に対抗することができない。
  25. 境界確定等請求(最高裁判決  昭和50年04月22日)
    土地所有権の時効取得の要件としての無過失を認めるに足りないとされた事例
    賃借地の一部に属するものと信じて賃貸人以外の第三者所有の隣地を占有していた者が、国に物納された右賃借地の払下を受け、以後所有の意思をもつて右第三者の所有地を占有するに至つたというだけでは、これを自己の所有と信ずるにつき過失がなかつたとすることはできない。
    • 被上告人が前示のような経緯で国から本件係争の土地ほか一筆の土地の払下を受けその所有権を取得するとともに本件係争部分を右払下を受けた土地の一部であると信じたとしても、右払下を受けるにあたつてその払下土地の境界を隣接地所有者や公図等について確認する等の調査をしないでそう信じたとすれば過失がなかつたとはいえない。
  26. 土地所有権移転登記手続等請求(最高裁判決 昭和51年12月02日)民法第185条
    所有者の無権代理人から農地を買い受けた小作人が新権原による自主占有を開始したものとされ右占有の始め過失がないとされた事例
    甲所有の農地を小作し、長期にわたり右農地の管理人のように振舞つていた乙に小作料を支払つていた丙が、甲の代理人と称する乙から右農地を買い受け、右買受につき農地法所定の許可を得て所有権移転登記手続を経由し、その代金を支払つた等判示の事情のもとにおいては、丙は、乙に甲を代理する権限がなかつたとしても、遅くとも右登記の時には民法185条にいう新権原により所有の意思をもつて右農地の占有を始めたものであり、かつ、その占有の始めに所有権を取得したものと信じたことに過失がないということができる。
  27. 所有権確認請求、同附帯(最高裁判決 昭和51年12月24日)国有財産法第3条
    公共用財産について取得時効が成立する場合
    公共用財産が、長年の間事実上公の目的に供用されることなく放置され、公共用財産としての形態、機能を全く喪失し、その物のうえに他人の平穏かつ公然の占有が継続したが、そのため実際上公の目的が害されることもなく、もはやその物を公共用財産として維持すべき理由がなくなつた場合には、右公共用財産について、黙示的に公用が廃止されたものとして、取得時効の成立を妨げない。
  28. 土地所有権確認等(最高裁判決 昭和53年03月06日)民法第187条
    占有の承継が主張された場合と民法162条2項にいう占有者の善意・無過失の判定時点
    不動産の占有主体に変更があつて承継された二個以上の占有が併せて主張された場合には、民法162条2項にいう占有者の善意・無過失は、その主張にかかる最初の占有者につきその占有開始の時点において判定すれば足りる。
  29. 所有権移転登記手続等(最高裁判決 昭和54年09月07日)土地改良法第102条土地改良法第106条
    土地改良法に基づく農用地の交換分合と取得時効に関する占有期間の通算
    土地改良法に基づく農用地の交換分合の前後を通じ、特定の所有者の失うべき土地と取得すべき土地とについて自主占有が継続しているときは、取得時効の成否に関しては両土地の占有期間を通算することができる。
  30. 土地所有権確認等(最高裁判決  昭和56年01月27日)
    他人の土地の売買に基づき買主が目的土地の占有を取得した場合と自主占有
    土地の買主が売買契約に基づいて目的土地の占有を取得した場合には、右売買が他人の物の売買であるため土地の所有権を直ちに取得するものでないことを買主が知つているときであつても、買主において所有者から使用権限の設定を受けるなど特段の事情のない限り、買主の占有は所有の意思をもつてするものとすべきである。
  31. 土地所有権移転登記手続(最高裁判決 昭和58年03月24日)民法第186条1項,民訴法185条/民事訴訟法第247条民事訴訟法第248条
    民法186条1項の所有の意思の推定が覆される場合
    民法186条1項の所有の意思の推定は、占有者がその性質上所有の意思のないものとされる権原に基づき占有を取得した事実が証明されるか、又は占有者が占有中、真の所有者であれば通常はとらない態度を示し、若しくは所有者であれば当然とるべき行動に出なかつたなど、外形的客観的にみて占有者が他人の所有権を排斥して占有する意思を有していなかつたものと解される事情が証明されるときは、覆される。
  32. 所有権移転登記手続(最高裁判決  昭和59年05月25日)農地調整法(昭和24年法律215号による改正前のもの)4条1項,農地調整法(昭和24年法律215号による改正前のもの)4条3項,農地法第3条1項,4項
    農地の取得時効につき無過失であつたとはいえないとされた事例
    農地の譲受人が、当該譲渡について必要な農地調整法(昭和24年法律第215号による改正前のもの)4条1項所定の知事の許可を受けていないときは、特段の事情のない限り、右農地を占有するに当たつてこれを自己の所有と信じても、無過失であつたとはいえない。
  33. 土地所有権移転登記手続(最高裁判決  昭和60年03月28日)民法第127条2項,民法第186条
    1. 解除条件付売買契約に基づいて開始される占有と自主占有
      売買契約に基づいて開始される占有は、残代金が約定期限までに支払われないときは当該売買契約は当然に解除されたものとする旨の解除条件が付されている場合であつても、自主占有であるというを妨げない。
    2. 解除条件付売買契約に基づいて開始される自主占有の条件成就による他主占有への変更の有無
      売買契約に基づいて開始された自主占有は、当該売買契約が解除条件(残代金を約定期限までに支払わないときは契約は当然に解除されたものとする旨)の成就により失効しても、それだけでは、他主占有に変わるものではないと解すべきである。
  34. 土地所有権移転登記、土地持分移転登記 (最高裁判例 平成7年12月15日) 民法第186条
    登記簿上の所有名義人に対して所有権移転登記手続を求めないなどの土地占有者の態度が他主占有と解される事情として十分であるとはいえないとされた事例
    土地の登記簿上の所有名義人甲の弟である乙が右土地を継続して占有した場合に、甲の家が本家、乙の家が分家という関係にあり、乙が経済的に苦しい生活をしていたため甲から援助を受けたこともあり、乙は家族と共に居住するための建物を建築、移築、増築して右土地を使用し、甲はこれに異議を述べたことがなかったなど判示の事実関係の下においては、乙が、甲に対して右土地の所有権移転登記手続を求めず、右土地に賦課される固定資産税を負担しなかったことをもって、外形的客観的にみて乙が他人の所有権を排斥して占有する意思を有していなかったものと解される事情として十分であるということはできない。
  35. 土地所有権移転登記手続(最高裁判決 平成8年11月12日)民法第185条民法第186条1項,民法第187条1項,民法第896条
    1. 他主占有者の相続人が独自の占有に基づく取得時効の成立を主張する場合における所有の意思の立証責任
      他主占有者の相続人が独自の占有に基づく取得時効の成立を主張する場合には、相続人において、その事実的支配が外形的客観的にみて独自の所有の意思に基づくものと解される事情を証明すべきである。
    2. 他主占有者の相続人について独自の占有に基づく取得時効の成立が認められた事例
      甲が所有しその名義で登記されている土地建物について、甲の子である乙が甲から管理をゆだねられて占有していたところ、乙の死亡後、その相続人である乙の妻子丙らが、乙が生前に甲から右土地建物の贈与を受けてこれを自己が相続したものと信じて、その登記済証を所持し、固定資産税を納付しつつ、管理使用を専行し、賃借人から賃料を取り立てて生活費に費消しており、甲及びその相続人らは、丙らが右のような態様で右土地建物の事実的支配をしていることを認識しながら、異議を述べていないなど判示の事実関係があるときは、丙らが、右土地建物が甲の遺産として記載されている相続税の申告書類の写しを受け取りながら格別の対応をせず、乙の死亡から約15年経過した後に初めて右土地建物につき所有権移転登記手続を求めたという事実があるとしても、丙らの右土地建物についての事実的支配は、外形的客観的にみて独自の所有の意思に基づくものと解するのが相当であり、丙らについて取得時効が成立する。
  36. 条件付所有権移転仮登記抹消登記手続請求事件(最高裁判決  平成13年10月26日)農地法第5条
    転用目的の農地の売買につき農地法5条所定の許可を得るための手続が執られていない場合における買主の自主占有の開始時期
    農地を農地以外のものにするために買い受けた者は,農地法5条所定の許可を得るための手続が執られなかったとしても,特段の事情のない限り,代金を支払い農地の引渡しを受けた時に,所有の意思をもって農地の占有を始めたものと解するのが相当である。
  37. 抵当権設定登記抹消登記手続請求事件(最高裁判決  平成15年10月31日)
    取得時効の援用により不動産の所有権を取得してその旨の登記を有する者が当該取得時効の完成後に設定された抵当権に対抗するためその設定登記時を起算点とする再度の取得時効を援用することの可否
    取得時効の援用により不動産の所有権を取得してその旨の登記を有する者は,当該取得時効の完成後に設定された抵当権に対抗するため,その設定登記時を起算点とする再度の取得時効の完成を主張し,援用をすることはできない。
  38. 土地所有権確認請求事件(最高裁判決  平成17年12月16日)公有水面埋立法(昭和48年法律第84号による改正前のもの)2条,公有水面埋立法(昭和48年法律第84号による改正前のもの)22条,公有水面埋立法(昭和48年法律第84号による改正前のもの)35条1項,民法第86条1項,国有財産法第3条
    公有水面埋立法に基づく埋立免許を受けて埋立工事が完成した後竣功認可がされていない埋立地が土地として私法上所有権の客体になる場合
    公有水面埋立法に基づく埋立免許を受けて埋立工事が完成した後竣功認可がされていない埋立地であっても,長年にわたり当該埋立地が事実上公の目的に使用されることもなく放置され,公共用財産としての形態,機能を完全に喪失し,その上に他人の平穏かつ公然の占有が継続したがそのため実際上公の目的が害されるようなこともなく,これを公共用財産として維持すべき理由がなくなり,同法に基づく原状回復義務の対象とならなくなった場合には,土地として私法上所有権の客体になる。
  39. 所有権確認請求本訴,所有権確認等請求反訴,土地所有権確認等請求事件(最高裁判決 平成18年01月17日)民法第177条
    不動産の取得時効完成後に当該不動産の譲渡を受けて所有権移転登記を了した者が背信的悪意者に当たる場合
    甲が時効取得した不動産について,その取得時効完成後に乙が当該不動産の譲渡を受けて所有権移転登記を了した場合において,乙が,当該不動産の譲渡を受けた時に,甲が多年にわたり当該不動産を占有している事実を認識しており,甲の登記の欠缺を主張することが信義に反するものと認められる事情が存在するときは,乙は背信的悪意者に当たる。
  40. 第三者異議事件(最高裁判決 平成24年3月16日)民法第177条, 民法第397条
    不動産の取得時効の完成後,所有権移転登記がされることのないまま,第三者が原所有者から抵当権の設定を受けて抵当権設定登記を了した場合における,再度の取得時効の完成と上記抵当権の消長
    不動産の取得時効の完成後,所有権移転登記がされることのないまま,第三者が原所有者から抵当権の設定を受けて抵当権設定登記を了した場合において,上記不動産の時効取得者である占有者が,その後引き続き時効取得に必要な期間占有を継続し,その期間の経過後に取得時効を授用したときは,上記占有者が上記抵当権の存在を容認していたなど抵当権の消滅を妨げる特段の事情がない限り,上記占有者が,上記不動産を時効取得する結果,上記抵当権は消滅する。

脚注

[編集]

現在の民法162条第1項には御成敗式目の8条が利用されている。


前条:
民法第161条
(天災等による時効の完成猶予)
民法
第1編 総則

第7章 時効

第2節 取得時効
次条:
民法第163条
(所有権以外の財産権の取得時効)
このページ「民法第162条」は、まだ書きかけです。加筆・訂正など、協力いただける皆様の編集を心からお待ちしております。また、ご意見などがありましたら、お気軽にトークページへどうぞ。