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民法第576条

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』

法学民事法コンメンタール民法第3編 債権

条文

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(権利を取得することができない等のおそれがある場合の買主による代金の支払の拒絶)

第576条
売買の目的について権利を主張する者があることその他の事由により、買主がその買い受けた権利の全部若しくは一部を取得することができず、又は失うおそれがあるときは、買主は、その危険の程度に応じて、代金の全部又は一部の支払を拒むことができる。ただし、売主が相当の担保を供したときは、この限りでない。

改正経緯

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2017年改正により以下の改正前条項を上記のとおり改正(下線部)。

見出し

権利を失うおそれがある場合の買主による代金の支払の拒絶

本文

売買の目的について権利を主張する者があるために買主がその買い受けた権利の全部又は一部を失うおそれがあるときは、買主は、その危険の限度に応じて、代金の全部又は一部の支払を拒むことができる。ただし、売主が相当の担保を供したときは、この限りでない。

解説

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本条は、買主が代金を支払う義務について、特にこれを保護する必要のある場合を定めたものであり、同時履行の抗弁の一つとされる。
もともと、買主が代金を支払わなければならないのは、売主から権利を確実に取得できるからである。しかし、もし買主が購入した権利を本当に取得できるかどうかが確実でないときは、しばらく支払いを留保して損失を避けようとするのは当然のことであり、これを不当とは言えない。
そこで本条では、売買の目的物について第三者が権利を主張した場合には、買主はその権利主張の内容に応じて、買い受けた権利の全部を失うおそれがあるときは代金の全部の支払いを、一部を失うおそれがあるときはその部分に相当する代金の支払いを拒むことができるものとしている。
たとえば
  1. 売買の目的物について自己が真の所有者だと主張する者が現れた場合、買主はその権利の全部を失うおそれがあるので、代金の全額の支払いを拒むことができる。
  2. もし第三者が目的物のうち半分の所有権を主張するなら、買主は半額の支払いを拒むことができる。
  3. 第三者が目的物について地上権を主張し、そのために価格の3分の1を失うおそれがあるときは、代金の3分の1の支払いを拒むことができる。
  4. さらに、第三者が目的物に抵当権を主張しており、その物の価格が1億円で第三者の債権額が7千万円である場合には、買主は7千万円の価値を失うおそれがあるので、その分の支払いを拒み、3千万円のみを支払うと主張できる。
ただし、売主が相応の担保を差し出した場合は異なる。すなわち、第一の例では代金全額相当、第二では半額相当、第三では3分の1相当、第四では7千円相当の担保を提供すれば、買主は代金の支払いを拒むことはできない。
もし最終的に買主が権利を失うようなことがあれば、第561条以下の規定によって損害の賠償を求めれば足りるではないかとの主張もあり、権利が失われるかどうか明らかでない段階で代金の支払いを拒むのはふとではないかとの疑念も生じ得るが、たしかに第561条以下の規定により、買主には一定の救済手段が認められているが、もし買主がすでに代金を支払ってしまえば、
(1) 売主に対して請求を行うには、さらに煩雑な手続きを経ねばならず、また
(2) 売主が無資力であることもしばしばある。
このような場合には、買主はすでに支払った代金の全部または一部を取り戻せず、損害を被ることになる。これは買主にとって著しい不利益である。そこで本条は、買主に代金の支払いを拒む権利を認めることにより、そのような危険を回避できるように手当したものである。
そして、もし売主が適当な担保を供すれば、当然に代金を受け取ることができるのだから、本条の規定は決して買主のみに一方的に有利で、売主に不当な不利益を与えるものとはならない。
なお、買い受けた不動産について抵当権が登記されている場合等は、買主は抵当権消滅請求の手続が終わるまで、代金支払いを拒否できる旨が次条に定められている。

参照条文

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判例

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  1. 建物明渡請求(最高裁判決 昭和50年04月25日)民法第559条民法第601条
    賃借物につき第三者から明渡を求められた賃借人の賃料支払拒絶権
    土地又は建物の賃借人は、賃借物に対する権利に基づき自己に対して明渡を請求することができる第三者からその明渡を求められた場合には、それ以後、賃料の支払を拒絶することができる。

前条:
民法第575条
(果実の帰属及び代金の利息の支払)
民法
第3編 債権

第2章 契約

第3節 売買
次条:
民法第577条
(抵当権等の登記がある場合の買主による代金の支払の拒絶)
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