民法第884条
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法学>民事法>民法>コンメンタール民法>第5編 相続 (コンメンタール民法)
条文
[編集](相続回復請求権)
- 第884条
- 相続回復の請求権は、相続人又はその法定代理人が相続権を侵害された事実を知った時から5年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から20年を経過したときも、同様とする。
- (昭和22年12月22日法律第222号全部改正、平成16年12月1日法律第147号一部改正)
改正経緯
[編集]昭和22年12月22日法律第222号
[編集]- 第884条
- 相続回復の請求権は、相続人又はその法定代理人が相続権を侵害された事実を知つた時から5年間これを行わないときは、時効によつて消滅する。相続開始の時から20年を経過したときも、同様である。
明治31年6月21日法律第9号
[編集]- 第966条
- 家督相続回復ノ請求権ハ家督相続人又ハ其法定代理人カ相続権侵害ノ事実ヲ知リタル時ヨリ5年間之ヲ行ハサルトキハ時効二因リテ消滅ス相続開始ノ時ヨリ20年ヲ経過シタルトキ亦同シ
- 第993条
- 第965条乃至第968条ノ規定ハ遺産相続ニ之ヲ準用ス
解説
[編集]本条は、相続回復請求権およびその短期消滅時効について定めている。
参照条文
[編集]- 民法第882条(相続開始の原因)
判例
[編集]- 家督相続回復請求上告事件(最高裁判所第二小法廷判決、昭和23年11月6日、昭和23年(オ)第1号、最高裁判所民事判例集2巻12号397頁)
- 家督相続回復請求権の消滅事項の起算点。
- 民法第九六六条(旧法)の家督相続回復請求権の20年の時効は、相続権侵害の事実の有無にかゝわらず、相続開始の時から進行する。
- 家屋明渡請求上告事件(最高裁判所第三小法廷判決、昭和27年5月27日、昭和25年(オ)第350号、最高裁判所民事判例集6巻5号585頁)
- 新民法附則第四条により新法の遡及効を認め得ない一事例
- 旧民法施行当時、子と家を異にする母が、親権者母たる資格において子の法定代理人として締結した賃貸借には、新民法附則第4条によつて新民法を適用すべきでない。
- 不動産所有権取得登記の抹消登記手続請求上告事件(最高裁判所第一小法廷判決、昭和32年9月19日、昭和27年(オ)第128号、最高裁判所民事判例集11巻9号1574頁)
- 真正の相続人でない第三者が表見相続人に対し特定財産に対する家督相続の効力を争うことの許否
- 真正の相続人が家督相続の回復をしない限り、真正相続人以外の第三者は、個々の特定財産についても、表見家督相続人に対し、相続の無効を理由として、その承継取得の効力を争うことはできない。
- 第三者が被相続人と表見相続人との親子関係の不存在を主張できない事例
- 表見相続人が被相続人の子であるものとしてなされた家督相続につき相続の無効を主張できない者は、被相続人の妻が表見相続人の母(親権者)としてなした限定承認および債務弁済のための相続財産の競売申立につき、被相続人夫婦と表見相続人とは親子関係がなく、代理権のない者のなした不適法な行為であることを理由として、その効力を争うことはできない。
- 真正の相続人でない第三者が表見相続人に対し特定財産に対する家督相続の効力を争うことの許否
- 建物収去土地明渡請求上告事件(最高裁判所第一小法廷判決、昭和39年2月27日、昭和37年(オ)第1258号、最高裁判所民事判例集18巻2号383頁)
- (同一事件)建物収去土地明渡請求事件(最高裁判所第三小法廷判決、昭和41年4月26日、昭和39年(オ)第270号、最高裁判所裁判集民事83号407頁)
- 相続権を侵害された者の相続人が右侵害者に対して有する相続回復請求権の消滅時効の起算点。
- 甲の相続権を乙が侵害している場合、甲の相続人丙の乙に対する相続回復請求権の消滅時効の期間20年の起算点は、丙の相続開始の時ではなく、甲の相続開始の時と解すべきである。
- 家督相続人選定確認請求事件(最高裁判所第三小法廷判決、昭和45年3月3日、昭和44年(オ)第1138号、最高裁判所裁判集民事98号359頁)
- 家督相続人たる地位確認請求が確認の利益を欠くとされた事例
- 自己が家督相続人として選定されたことを理由として、戸籍簿上の家督相続人を排除し自己の家督相続人たる地位を回復することを目的とする請求は、戸籍簿上の家督相続人を相手方とする家督相続回復の訴によるべきであり、選定者を相手方として家督相続人たる地位の確認を求める訴は確認の利益を有しない。
- 土地所有権確認請求事件(最高裁判所第一小法廷判決、昭和52年2月17日、昭和49年(オ)第2号、最高裁判所裁判集民事120号65頁)
- 家督相続回復請求権の行使にあたらない場合
- 戸籍上家督相続人と表示され右家督相続によつて不動産の所有権を取得したと主張する甲が、右不動産を占有している乙を被告として右不動産所有権の確認を求める請求は、乙が甲の家督相続を争つているときでも、乙が戸籍上家督相続人と表示されておらず、乙みずからが真正家督相続人であると主張しているわけではなく、単に真正家督相続人が判明するまでの間その者のために一種の事務管理として右不動産を管理しているにすぎない場合には、家督相続回復請求権の行使にあたらない。
- 登記手続等請求上告事件(最高裁判所大法廷判決、昭和53年12月20日、昭和48年(オ)第854号、最高裁判所民事判例集32巻9号1674頁)
- 共同相続人の一人によつて相続権を侵害された他の共同相続人が右侵害の排除を求める場合と民法884条の適用
- 共同相続人の一人甲が、相続財産のうち自己の本来の相続持分を超える部分につき他の共同相続人乙の相続権を否定し、その部分もまた自己の相続持分に属すると称してこれを占有管理し、乙の相続権を侵害しているため、乙が右侵害の排除を求める場合には、民法884条の適用があるが、甲においてその部分が乙の持分に属することを知つているとき、又はその部分につき甲に相続による持分があると信ぜられるべき合理的な事由がないときには、同条の適用が排除される。関連判例
- 更正登記手続請求事件(最高裁判所第三小法廷判決、昭和54年4月17日、昭和51年(オ)第639号、最高裁判所裁判集民事126号541頁)
- 共同相続人の一人によつて相続権を侵害された他の相続人の右侵害排除を求める請求について民法884条の適用がないとされた事例
- 共同相続人の一人甲が、他の共同相続人乙丙の承諾を得ることなく乙丙名義で相続放棄の申述をし、これに基づき相続財産に属する不動産につき甲単独名義の相続登記をして乙丙の相続権を侵害している場合においては、右侵害排除の趣旨で甲単独名義の登記を甲乙丙共有名義の登記に更正することを求める乙丙の請求について、民法884条は適用されない。
- 共同相続人の一人が相続財産につき単独所有者としての自主占有を取得したとはいえないとされた事例
- 共同相続人の一人甲が、家業である農業を受け継いで相続財産に属する不動産につき単独の占有管理を継続し、他の共同相続人乙丙がこれに異議を述べなかつた場合であつても、相続開始当時甲において他に共同相続人として乙丙のいることを知つており、乙丙の承諾を得ることなく乙丙名義で相続放棄申述をし、これに基づき右不動産につき甲単独名義の相続登記をし、かつ右不動産を単独で占有している、との事情があるときは、甲が相続開始の時から右不動産につき単独所有者としての自主占有を取得したというには疑いがある。
- 共同相続人の一人によつて相続権を侵害された他の相続人の右侵害排除を求める請求について民法884条の適用がないとされた事例
- 土地持分権確認請求事件(最高裁判所第三小法廷判決、昭和54年4月17日、 昭和51年(オ)第908号、最高裁判所裁判集民事126号551頁)
- 共同相続人の一人によつて相続権を侵害された他の共同相続人の右侵害排除を求める請求について民法884条が適用されるべき事例
- 共同相続人の一人甲が、乙ら他の共同相続人名義の相続持分権譲渡の趣旨を記載した書面に基づいて相続財産に属する不動産につき甲単独名義の相続登記をした場合において、乙に持分権譲渡の意思がなく、乙名義の書面も乙の意思に基づかないで作成されたものであつたとしても、甲において、右書面が乙の意思に基づくものであると信じ、かつ、そう信じたことが客観的にも無理からぬものとされる事情があるなど乙の持分権が甲に帰属したと信ぜられるべき合理的な事由があるときには、乙の甲に対する持分権侵害排除を求める請求について、民法884条が適用される。関連判例
- 所有権確認請求事件(最高裁判所第三小法廷判決、昭和54年4月17日、昭和52年(オ)第456号、最高裁判所裁判集民事126号569頁)
- 共同相続人の一部の者によつて相続権を侵害された他の共同相続人の右侵害排除を求める請求について民法884条の適用がないとされた事例
- 共同相続人甲乙が他の共同相続人丙を排除して相続財産を占有管理している場合において、甲乙が他に共同相続人として所在不明ではあるが丙のいることを知つており、第三者から相続財産中の不動産買受の申入れがあつた際丙が所在不明で所有権移転登記が困難であるため申入れに応じなかつた、との事情があるときは、丙の相続権侵害排除請求又は遺産分割請求について、民法884条は適用されない。
- 土地所有権移転登記抹消登記等請求事件(最高裁判所第三小法廷判決、昭和54年4月17日、昭和53年(オ)第6号、最高裁判所裁判集民事126号625頁)
- 共同相続人の一人によつて相続権を侵害された他の共同相続人の右侵害排除を求める請求について民法884条の適用がないとされた事例
- 共同相続人の一人甲が、他の共同相続人乙丙の承諾を得ることなく乙丙名義で相続放棄申述をし、これに基づき相続財産に属する不動産につき甲単独名義の相続登記をして乙丙の相続権を侵害している場合においては、右侵害排除の趣旨で甲単独名義の登記を甲乙丙共有名義の登記に更正することを求める乙丙の請求について、民法884条は適用されない。
- 共有持分確認、共有持分登記更正登記手続請求上告事件(最高裁判所第三小法廷判決、昭和54年7月10日、昭和50年(オ)第878号、最高裁判所民事判例集33巻5号457頁)
- 旧民法下の遺産相続による共同相続人の一人によつて相続権を侵害された他の共同相続人が右侵害排除を求める場合と相続回復請求権の規定の適用
- 旧民法下の遺産相続による共同相続人の一人甲が、相続財産のうち自己の本来の相続持分を超える部分について他の共同相続人乙の相続権を否定し、その部分もまた自己の相続持分に属すると称してこれを占有管理し、乙の相続権を侵害しているため、乙が右侵害の排除を求める場合には、相続回復請求権の規定の適用があるが、甲においてその部分が乙の持分に属することを知つているとき、又はその部分につき甲に相続による持分があると信ぜられるべき合理的な事由がないときは、同規定の適用が排除される。
- 旧民法下の遺産相続による共同相続人の一人によつて相続権を侵害された他の共同相続人の右侵害排除を求める請求について相続回復請求権の規定が適用されるべき一場合
- 旧民法下の遺産相続による共同相続人の一人乙女が遺産分割前に他の共同相続人甲男を家督相続人に指定して隠居したが、右隠居時に乙に胎児がいたことにより右指定が無効であり、乙が遺産相続権を失わないため、甲において相続財産のうち乙の相続部分もまた右指定により自己に帰属したとして同部分に対し占有管理を続けたことが乙の遺産相続権に対する侵害となる場合においても、胎児が生後まもなく死亡したため、甲において右指定の無効を知りえず、かつ、その無効を知りえなかつたことが客観的にも無理からぬものであるときは、乙の甲に対する右侵害排除を求める請求について、相続回復請求権の規定の適用がある。
- 旧民法下の遺産相続による共同相続人の一人によつて相続権を侵害された他の共同相続人が右侵害排除を求める場合と相続回復請求権の規定の適用
- 共有持分移転登記手続請求事件(最高裁判所第二小法廷判決、平成7年6月9日、平成6年(オ)第2007号、最高裁判所裁判集民事175号549頁)
- 遺留分減殺請求により取得した不動産の所有権又は共有持分権に基づく登記請求権と消滅時効
- 遺留分権利者が減殺請求により取得した不動産の所有権又は共有持分権に基づく登記請求権は、時効によって消滅することはない。
- 土地所有権移転登記手続請求事件(最高裁判所第三小法廷判決、平成7年12月5日、平成6年(オ)第440号、最高裁判所裁判集民事177号341頁)
- 単独名義で相続の登記を経由した共同相続人の一人から不動産を譲り受けた者と相続回復請求権の消滅時効の援用
- 相続財産である不動産について単独名義で相続の登記を経由した共同相続人の一人甲が、甲の本来の相続持分を超える部分が他の相続人に属することを知っていたか、又は右部分を含めて甲が単独相続をしたと信ずるにつき合理的な事由がないために、他の共同相続人に対して相続回復請求権の消滅時効を援用することができない場合には、甲から右不動産を譲り受けた第三者も右時効を援用することはできない。
- 不当利得金請求事件(最高裁判所第一小法廷、平成11年7月19日、平成7年(オ)第2468号、最高裁判所民事判例集53巻6号1138頁)
- 共同相続人相互の間で一部の者が他の者を共同相続人でないものとしてその相続権を侵害している場合に相続回復請求権の消滅時効を援用しようとする者が立証すべき事項
- 共同相続人相互の間で一部の者が他の者を共同相続人でないものとしてその相続権を侵害している場合において、相続回復請求権の消滅時効を援用しようとする者は、真正共同相続人の相続権を侵害している共同相続人が、当該相続権侵害の開始時点において、他に共同相続人がいることを知らず、かつ、これを知らなかったことに合理的な事由があったことを立証すべきである。
参考文献
[編集]- 島津一郎・久貴忠彦編 『新・判例コンメンタール民法 14 相続(1)』 三省堂、1992年6月1日。ISBN 9784385311661。
- 中川善之助・泉久雄編 『新版 注釈民法(26) 相続(1)』 有斐閣、1992年6月30日。ISBN 9784641017269。
参考
[編集]明治民法において、本条には以下の規定があった。趣旨は、民法第824条に継承された。
- 親権ヲ行フ父又ハ母ハ未成年ノ子ノ財産ヲ管理シ又其財産ニ関スル法律行為ニ付キ其子ヲ代表ス但其子ノ行為ヲ目的トスル債務ヲ生スヘキ場合ニ於テハ本人ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス
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