民事訴訟法第114条
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条文
[編集](既判力の範囲)
- 第114条
- 確定判決は、主文に包含するものに限り、既判力を有する。
- 相殺のために主張した請求の成立又は不成立の判断は、相殺をもって対抗した額について既判力を有する。
解説
[編集]既判力の客観的範囲といわれる。なお、主観的範囲に関しては次条にて定める。
1項の「主文に包含するもの」とは、訴訟物たる権利をいい、理由中の判断はこれに含まれない。訴訟物の単複異同は、判例実務のとる旧訴訟物理論に従えば、実体法上の権利の単複異同に従って決定される。
「主文に包含するもの」とは「判決主文」のことではない点は注意を要する。例えば判決主文中、引換給付を命じる部分は、執行開始要件であって、訴訟物ではないので、その部分の判断は既判力を生じないと考えられている。
参照条文
[編集]判例
[編集]- 土地返還請求 (最高裁判決 昭和30年12月1日)
- 所有権に基く登記請求を認容した確定判決と所有権の存否についての既判力の有無
- 所有権に基く登記請求を認容した確定判決は、その理由において所有権の存否を確認している場合であつても所有権の存否についての既判力を有しない。
- 判決の既判力は主文に包含される訴訟物とされた法律関係の存否に関する判断の結論そのもののみについて生ずるのであり、その前提たるに過ぎないものは大前提たる法規の解釈、適用は勿論、小前提たる法律事実に関する認定、その他一切の間接判断中に包含されるに止まるものは、たといそれが法律関係の存否に関するものであつても同条第2項のような特別の規定ある場合を除き既判力を有するものではない。
- 訴訟物の如何は一に訴を提起する原告の意思に基づいて定まるのであり、相手方たる被告の答弁又は裁判所の審判の如何により左右されるものではない。
- 請求の趣旨で明確にされない限り、ただ請求原因中においてその訴求するが如き内容の判決を受く得べき必須の前提として一定の法律関係を主張しただけでは、かかる法律関係を訴訟物とする意思が表明されたものということはできない。
- もし原告がかかる前提問題たる法律関係の存否についても既判力を得んと欲するならば、単に請求原因として主張するに止まらず、その請求の趣旨において訴訟物としてこれを主張しなければならない。
- 損害賠償請求 (最高裁判決 昭和32年01月31日)民法第709条,民訴法199条1項(現・本条),民訴法709条(→民事執行法)
- 後訴における主張が前訴の既判力に牴触しない一事例
- 甲が乙を相手として船舶の所有権確認、同引渡請求の訴(前訴)につき勝訴の確定判決を得た上、さらに乙を相手として、右船舶の滅失毀損による不法行為を理由とし損害賠償請求の訴(後訴)を提起した場合、たとえ前訴において、乙が右船舶を現に占有している事実を認めていたとしても、後訴において、乙が、右船舶は前訴の口頭弁論終結前乙において売却処分し、その頃右船舶が滅失毀損したと主張することは、なんら前訴の既判力に牴触しない。
- 損害賠償等請求本訴,請負代金等請求反訴事件(最高裁判決 平成18年4月14日)民法第505条,民訴法142条,民訴法143条,民訴法146条
- 反訴請求債権を自働債権とし本訴請求債権を受働債権とする相殺の抗弁の許否
- 本訴及び反訴が係属中に,反訴原告が,反訴請求債権を自働債権とし,本訴請求債権を受働債権として相殺の抗弁を主張することは,異なる意思表示をしない限り,反訴を,反訴請求債権につき本訴において相殺の自働債権として既判力ある判断が示された場合にはその部分を反訴請求としない趣旨の予備的反訴に変更するものとして,許される。
- 不動産所有権移転登記手続等請求(最高裁判決 昭和36年12月12日)民法第550条
- 書面によらない贈与を認める判決が確定した後の民法第550条による右贈与の取消の可否。
- 書面によらない贈与による権利の移転を認める判決が確定した後は、既判力の効果として民法第550条による取消権を行使して右贈与による権利の存否を争うことは許されない。
- 損害賠償請求事件(最高裁判決 平成20年07月10日)
- 前訴において1個の債権の一部についてのみ判決を求める旨が明示されていたとして,前訴の確定判決の既判力が当該債権の他の部分を請求する後訴に及ばないとされた事例
- Xが,Yに対し,県が買収を予定していた土地上の樹木についてYがした仮差押命令の申立ての違法を理由として,本案訴訟の応訴等に要した弁護士費用相当額の賠償を求める前訴を提起した後に,同一の不法行為に基づき,県からの買収金の支払が遅れたことによる損害の賠償を求める後訴を提起した場合において,Xは,前訴において,上記仮差押命令の申立てがXによる上記土地の利用と買収金の受領を妨害する不法行為であるとして,買収金の受領が妨害されることによる損害が発生していることをも主張していたものということができるなど判示の事情の下では,Xが前訴において請求する損害賠償請求権と後訴において請求する損害賠償請求権とは1個の債権の一部を構成するものではあるが,前訴において1個の債権の一部についてのみ判決を求める旨が明示されていたものと解すべきであり,前訴の確定判決の既判力は後訴に及ばない。
- 建物賃料増額確認請求事件(最高裁判決 平成26年9月25日)借地借家法第32条,民訴法134条
- 借地借家法32条1項の規定に基づく賃料増減請求により増減された賃料額の確認を求める訴訟の確定判決の既判力
- 借地借家法32条1項の規定に基づく賃料増減請求により増減された賃料額の確認を求める訴訟の確定判決の既判力は,原告が特定の期間の賃料額について確認を求めていると認められる特段の事情のない限り,前提である賃料増減請求の効果が生じた時点の賃料額に係る判断について生ずる。
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