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民事訴訟法第134条

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法学民事法コンメンタール民事訴訟法

条文

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(訴え提起の方式)

第134条
  1. 訴えの提起は、訴状を裁判所に提出してしなければならない。
  2. 訴状には、次に掲げる事項を記載しなければならない。
    1.  当事者及び法定代理人
    2.  請求の趣旨及び原因

改正経緯

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2022年改正

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「住所、氏名等の秘匿制度」の創設に伴い、第133条に定められていた「訴え提起の方式」を本条に繰り下げ、第134条に定められていた「証書真否確認の訴え」を第134条の2とした。

旧法

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  • 第223条〔訴え提起の方式〕
    訴ノ提起ハ訴状ヲ裁判所ニ提出シテ之ヲ為スコトヲ要ス
  • 第224条〔訴状の記載事項〕
    1. 訴状ニハ当事者、法定代理人並請求ノ趣旨及原因ヲ記載スルコトヲ要ス
    2. 準備書面ニ関スル規定ハ訴状ニ之ヲ準用ス

解説

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訴えの提起は、原告が、被告との関係において、一定の権利の存否を主張し、当該権利主張の当否について、審理し判決することを裁判所に要求する行為である。

訴えが訴訟要件を具備していれば、裁判所は、当該請求の当否について審議し判決する事になるから、請求は、訴訟の対象であるということができ、その意味から訴訟物や訴訟対象と呼ばれる。

そして、原告の権利主張を理由なしとするときは、判決主文において「原告の請求を棄却する」と判示するのが実務慣行であり、逆に権利主張理由ありとして、原告の求めたとおりの内容の判決をするときは、講学上「原告の請求を認容する」というが、これらの場合も、請求の概念は判決の要求の意味に用いられている。

訴状には、本条2項に掲げる事項、すなわち、当事者、法定代理人、請求の趣旨及び原因を記載しなければならない。そして、事実についての主張を記載するには、できる限り、請求を理由付ける事実についての主張と、当該事実に関する事実についての主張とを区別して記載することが必要である(規則第53条第2項)。すなわち訴状であるためには、これらを必ず明確に記載しなければならず、訴状に不備がみうけられ、裁判長が訴状の記載について必要な補正を促す場合には、補正命令を裁判所書記官に命じて行わせることができる(規則第56条)。この場合において、原告が注意すべきこととして、原告が不備を命じられたのにもかかわらず補正しないときは、裁判長は、命令で、訴状を却下しなければならない(第137条第2項)と規定されており、原告の請求は不適法として却下される。

なお、訴状には、原告が訴訟救助(第82条)を許与された場合を除き、民事訴訟費用等に関する法律の定める訴額に応じた申立手数料を納付するため、手数料額だけ収入印紙を貼付し、作成者である原告又はその代理人において署名押印(規則第2条第1項)することを必要とする。本人訴訟の場合において、1つの訴えで、複数の訴えがある場合において、訴額が不明な場合は、訴えを提起しようとしている管轄の裁判所書記官に問い合わせると教示してもらえる。

訴えの利益

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訴訟物理論

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訴訟物理論が機能するとされる局面
  1. 既判力の客観的範囲
  2. 重複訴訟の禁止
    • 第142条(重複する訴えの提起の禁止)
  3. 訴えの変更
  4. 訴えの併合

参照条文

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判例

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  1. 皇居外苑使用不許可処分取消等請求(最高裁判決 昭和28年12月23日)
    公園使用不許可処分の取消を求める訴の使用すべき日経過後における判決を求める法律上の利益
    昭和二七年五月一日のメーデーのための皇居外苑使用不許可処分の取消を求める訴は、右期日の経過により判決を求める法律上の利益を喪失する。
  2. 慰籍料並に名誉回復請求(最高裁判決 昭和31年7月20日)民法44条(現・一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第78条),民法709条民法723条
    法人に対する民法第44条に基く請求と同法第715条に基く請求との訴訟物の異同
    法人に対する民法第44条に基く損害賠償の請求と同法第715条に基く損害賠償の請求とは、訴訟物を異にする。
    • 民法44条による法人の責任と同715条による法人の責任とは、発生要件を異にし法律上別個のものと解すべき。
  3. 約束手形金請求(最高裁判決 昭和33年6月19日)
    会社更正法に基き、金銭債務の支払を禁ずる旨の仮処分決定をうけた会社に対し、金銭債権の無条件給付を求める訴の当否
    会社更生法に基き、「会社は某日以前の原因に基いて生じた一切の金銭債務を弁済してはならない」旨の仮処分決定がなされた場合においても、債権者は、右会社およびその保証人の双方に対し、無条件の給付判決を求めることができる。
  4. 株主総会決議一部取消請求(最高裁判決 昭和37年1月19日)
    株主総会特別決議取消の訴の係属中訴の利益を欠くに至つたと認められた事例
    株主以外の者に新株引受権を与える旨の株主総会特別決議につき決議取消の訴が係属する間に、右決議に基づき新株の発行が行なわれてしまつた場合には、右訴の利益は消滅するものと解すべきである。
  5. 強制執行第三者異議請求(最高裁判決 昭和39年5月7日)
    第三者異議の訴の係属中に差押の解除がなされた場合と訴の利益。
    第三者異議の訴の係属中に、執行債権者において当該差押物件が執行債務者の責任財産に属しないことを承認して強制執行の取消を求め、差押が解除された場合には、特別の事情のないかぎり、右訴の利益は失われる。
  6. 強制執行の目的物に対する第三者異議等(最高裁判決 昭和40年3月26日)
    詐害行為取消の反訴が認容されるべき場合には本訴である第三者異議訴訟は排斥を免れないとされた事例。
    所有権を異議理由とする第三者異議訴訟の繋属中に、右所有権の取得原因たる契約が詐害行為に該当することを理由として右契約の取消を求める反訴が提起され、右本訴および反訴が同一の裁判所において審理された結果、詐害行為取消権が存すると判断され、前記の所有権取得が否定されるべきことが裁判所に明らかな場合においては、本訴である第三者異議訴訟は排斥を免れない。
  7. 自動車運転免許取消処分の取消請求(最高裁判決 昭和40年8月2日)
    自動車等運転免許証の有効期間の経過と右運転免許取消処分の取消訴訟における訴の利益の存否。
    自動車等運転免許の取消処分の取消を求める訴訟の継続中、当該運転免許証の有効期間が経過した場合でも、その訴は利益を失われない。
  8. 登記抹消請求(最高裁判決 昭和41年3月18日)
    所有権保存登記およびその後順次経由された所有権移転登記の抹消登記手続請求訴訟において一部の被告に敗訴した場合におけるその余の被告に対する請求についての訴の利益の有無
    所有権保存登記およびその後順次経由された所有権移転登記の抹消登記手続請求訴訟において、最終登記名義人を被告とする請求について敗訴の判決があつた場合でも、その余の被告らに対する請求は訴の利益を失うものではない。
  9. 株主総会決議取消、株主総会決議無効確認請求(最高裁判決 昭和45年4月2日)
    1. 役員選任の株主総会決議取消の訴の係属中に当該役員が退任した場合と訴の利益の有無
      役員選任の株主総会決議取消の訴の係属中、その決議に基づいて選任された取締役ら役員がすべて任期満了により退任し、その後の株主総会の決議によつて取締役ら役員が新たに選任されたときは、特別の事情のないかぎり、右決議取消の訴は、訴の利益を欠くに至るものと解すべきである。
    2. 前項の場合において決議取消の訴がその利益を失わないとされる特別事情
      前項の場合であつても、右株主総会決議取消の訴が当該取締役の在任中の行為について会社の受けた損害を回復することを目的とするものである旨の特別事情が立証されるときは、訴の利益は失われない。
  10. 社員総会決議不存在確認(最高裁判決 昭和53年7月10日)
    有限会社の社員総会決議不存在確認を求める訴の提起が訴権の濫用にあたるとされた事例
    有限会社の経営の実権を握つていた者が、第三者に対し自己の社員持分全部を相当の代償を受けて譲渡し、会社の経営を事実上右第三者に委ね、その後相当期間を経過しており、しかも右譲渡の当時社員総会を開いて承認を受けることがきわめて容易であつたなど、判示の事実関係のもとにおいて、右譲渡人が右社員持分譲渡を承認する社員総会決議及びこれを前提とする役員選任等に関する社員総会決議の不存在確認を求める訴を提起するのは、訴権の濫用として許されない。
  11. 建物所有権移転登記抹消登記手続本訴建物明渡反訴(最高裁判決 昭和54年1月30日)
    所有権保存登記抹消登記手続請求訴訟において勝訴の確定判決を得た原告が被告の口頭弁論終結後の承継人に対し真正な登記名義の回復のための所有権移転登記手続を求める訴と訴の利益
    所有権保存登記抹消登記手続請求訴訟において勝訴の確定判決を得た原告が被告の口頭弁論終結後の承継人に対し真正な登記名義の回復のための所有権移転登記手続を求める訴は、右確定判決の存在によつて訴の利益を欠くものではない。
  12. 建物収去土地明渡等(最高裁判決 昭和54年4月17日)
    土地所有権に基づく建物収去土地明渡請求の再訴につき訴の利益があるとされた事例
    土地所有権に基づく建物収去土地明渡請求の前訴において、建物所有を目的とする借地契約の成立及び地上建物につき借地期間の満了を停止条件とする売買契約の成立が認められ、建物引渡し及び土地明渡しの限度で右請求を認容する判決が言い渡されて確定した後、土地所有者が、前訴判決の事実審口頭弁論終結後に売主の債務不履行を理由に右売買契約を解除したことにより建物の所有権が売主に復帰したものとして、新たに建物収去土地明渡しを求める後訴を提起することは、特段の事情のない限り、訴の利益がある。
  13. 保安林解除処分取消長沼ナイキ訴訟 最高裁判決 昭和57年9月9日)
    (本件における、当事者適格に関しては、民事訴訟法第28条・判例参照)
    いわゆる代替施設の設置と保安林指定解除処分取消訴訟の訴えの利益
    いわゆる代替施設の設置によつて洪水、渇水の危険が解消され、その防止上からは保安林の存続の必要性がなくなつたと認められるに至つたときは、右防止上の利益侵害を基礎として保安林指定解除処分取消訴訟の原告適格を認められた者の訴えの利益は失われる。
  14. 婚姻取消(最高裁判決 昭和57年9月28日)
    重婚における後婚の離婚による解消と後婚の取消の訴えの許否
    重婚において、後婚が離婚によつて解消された場合には、特段の事情のない限り、後婚の取消を請求することは許されない。
  15. 株主総会決議取消(最高裁判決 昭和58年6月7日)
    計算書類等承認の株主総会決議取消の訴えの係属中にその後の決算期の計算書類等の承認がされた場合と右取消を求める訴えの利益
    計算書類等承認の株主総会決議取消の訴えの係属中、その後の決算期の計算書類等の承認がされた場合であつても、該計算書類等につき承認の再決議がされたなどの特別の事情がない限り、右決議取消を求める訴えの利益は失われない。
  16. 代表役員登記抹消(最高裁判決 昭和61年9月4日)
    宗教法人の代表役員に就任した者がその地位にあることの確認の訴えとともに提起した自己の解任及び後任者の就任等の各登記の抹消登記手続を求める訴えの利益の有無
    宗教法人の代表役員に就任した者が、宗教法人に対し、その代表役員の地位にあることの確認を訴求するとともに、自己の解任及び後任の代表役員の就任又はその辞任の各登記の抹消登記手続を求めて提起した訴えは、訴えの利益を欠く。
  17. 損害賠償請求事件(最高裁判決 昭和63年1月26日)
    訴えの提起が違法な行為となる場合
    訴えの提起は、提訴者が当該訴訟において主張した権利又は法律関係が事実的、法律的根拠を欠くものである上、同人がそのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たのにあえて提起したなど、裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠く場合に限り、相手方に対する違法な行為となる。
  18. 株主総会決議取消(最高裁判決 平成4年10月29日)
    役員退職慰労金贈呈の株主総会決議取消しの訴えの係属中に当該決議と同一の内容の決議がされた場合と訴えの利益
    役員退職慰労金贈呈の株主総会決議取消しの訴えの係属中、右決議と同一の内容を持ち、右決議の取消判決が確定した場合にはさかのぼって効力を生ずるものとされている決議が有効に成立し、それが確定したときは、特別の事情がない限り、右決議取消しの訴えの利益は、失われる。
  19. 不当労働行為救済命令取消請求、補助参加申立(最高裁判例 平成7年02月23日)労働委員会規則45条1項,行政事件訴訟法第9条,民法第73条
    労働組合が自然消滅した場合におけるその組合への金員の支払を命じていた救済命令の拘束力の消長と右命令の取消しを求める訴えの利益
    組合員が存在しなくなったことなどにより労働組合が自然消滅した場合には、その組合が清算法人として存続していたとしても、使用者に対し右組合への金員の支払を命じていた救済命令の拘束力は失われ、その結果、右命令の取消しを求める訴えの利益は失われる。
  20. 建物賃料増額確認請求事件(最高裁判決 平成26年9月25日)借地借家法第32条民訴法114条1項
    借地借家法32条1項の規定に基づく賃料増減請求により増減された賃料額の確認を求める訴訟の確定判決の既判力
    借地借家法32条1項の規定に基づく賃料増減請求により増減された賃料額の確認を求める訴訟の確定判決の既判力は,原告が特定の期間の賃料額について確認を求めていると認められる特段の事情のない限り,前提である賃料増減請求の効果が生じた時点の賃料額に係る判断について生ずる。

前条:
第133条の4
(秘匿決定の取消し等)
民事訴訟法
第2編 第一審の訴訟手続
第1章 訴え
次条:
第134条の2
(証書真否確認の訴え)
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