民法第192条
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法学>民事法>コンメンタール民法>第2編 物権 (コンメンタール民法)
条文
[編集](即時取得)
- 第192条
- 取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。
解説
[編集]- 即時取得(善意取得)は動産物権変動の公示方法である引渡し(占有の移転)に公信力を持たせたもの。
- 不動産などに比べ、一般に少額であり大量に流通することが想定される動産において、静的安全を多少犠牲にしつつ動的安全を確保し商品流通秩序を保つ目的の制度である。
要件
[編集]対象となる動産
[編集]取引行為を契機とする
[編集]平穏・公然・善意・無過失
[編集]- 善意・無過失は、代理人によるときは、代理人について決せられる。
占有を始める(占有移転)
[編集]- 「占有改定」で良いか。
- (判例)占有改定では不十分で「現実の引渡し」を要する(最判昭和32年12月27日、最判昭和35年2月11日)。
- (学説)占有改定で足りる説、又は、占有改定で足りるが現実の引き渡しがなされた場合対抗できない説などの批判あり。
効果
[編集]- 即時にその動産について行使する権利を取得する。
行使する権利
[編集]権利を取得する
[編集]- 原始取得であると解されており、取得前に設定されていた権利等は一切承継しない。
参照条文
[編集]判例
[編集]- 動産引渡請求(最高裁判決 昭和26年11月27日) 民法第194条
- 民法第192条にいわゆる善意無過失の意義
- 民法第192条にいわゆる「善意ニシテ且過失ナキトキ」とは、動産の占有を始めた者において、取引の相手方がその動産につき無権利者でないと誤信し且つかく信ずるにつき過失のなかつたときのことをいい、その動産が統制品であるにかかわらず、割当証明書によらないで買い受けたという事実は、右の善意無過失を決するための要件とならない。
- 民法第194条の回復請求権と物の滅失。
- 民法第194条により被害者が盗品を回復することを得る場合において、その回復請求前その物が滅失したときは、右の回復請求権は消滅するのみならず、被害者は回復に代る賠償をも請求することはできない。
- 民法第192条にいわゆる善意無過失の意義
- 業務上横領、背任(最高裁判決 昭和29年11月05日)民法第703条,刑法第247条
- 貯蓄信用組合理事が組合名義で組合員以外の者から貯金を受入れた場合とその金銭所有権の帰属
- 貯蓄信用組合理事がその資格をもつて、組合の名において、組合に対する貯金として受入れたものである以上、たとえ、右貯金が組合員以外の者のした貯金であるが故に、組合に対する消費寄託としての法律上の効力を生じないものであるとしても、貯金の目的となつた金銭の所有権は組合に帰属する。
- (刑事事件における判旨)
- 金銭は通常物としての個性を有せず、単なる価値そのものと考えるべきであり、価値は金銭の所在に随伴するものであるから、金銭の所有権は特段の事情のないかぎり金銭の占有の移転と共に移転するものと解すべきであつて、金銭の占有が移転した以上、たとえ、その占有移転の原由たる契約が法律上無効であつても、その金銭の所有権は占有と同時に相手方に移転するのであつて、こゝに不当利得返還債権関係を生ずるに過ぎない。
- (刑事事件における判旨)
- 庭石庭樹所有権確認請求(最高裁判決 昭和32年12月27日)
- 占有改定による占有の取得と民法第192条の不適用
- 占有改定により占有を取得したに止まるときは、民法第192条の適用はない。
- 動産所有権確認同引渡請求 (最高裁判決 昭和35年2月11日) 民法第183条
- 占有改定による占有の取得と民法第192条の適用の有無。
- 占有取得の方法が外観上の占有状態に変更を来たさない占有改定にとどまるときは、民法第192条の適用はない。
- 所有権確認等請求(最高裁判決 昭和36年09月15日)工場抵当法第5条,工場抵当法第14条
- 工場財団に属する動産と民法第192条。
- 工場財団に属する動産についても民法第192条の適用がある。
- 仮差押に対する第三者異議(最高裁判決 昭和39年01月24日)民法第188条
- 金銭の占有と所有。
- 金銭の直接占有者は、特段の事情のないかぎり、その占有を正当づける権利を有するか否かにかかわりなく、金銭の所有者とみるべきである。
- 船舶引渡請求(最高裁判決 昭和41年06月09日)
- 民法第192条にいう「過失ナキ」ことの立証責任
- 民法第192条により動産の上に行使する権利を取得したことを主張する占有者は、同条にいう「過失ナキ」ことを立証する責任を負わない。
- 損害賠償請求(最高裁判決 昭和42年04月27日)
- 民法第192条の適用に関連し占有の開始に過失があるとされた事例
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- 高知市附近では土木建設請負業者が土木建設機械をその販売業者から買い受けるについては、通常代金は割賦支払とし、代金完済のとき始めて所有権の移転を受けるいわゆる所有権留保の割賦販売の方法によることが多く、上告人は、古物商であるが土木建設機械をも扱つていたから、右のような消息に通じているものであるなどの事実に徴すれば、上告人が本件物件を買い受けるに当つては、売主がいかなる事情で新品である土木建設の用に供する本件物件を処分するのか、また、その所有権を有しているのかどうかについて、疑念をはさみ、売主についてその調査をすべきであり、少し調査をすると、訴外D建設有限会社が本件物件を処分しようとした経緯、本件物件に対する所有権の有無を容易に知りえたものであり、したがつて、このような措置をとらなかつた上告人には、本件物件の占有をはじめるについて過失があつたとする原判決の判断は、当審も正当として、これを是認することができる。
- 第三者異議(最高裁判決 昭和42年05月30日)民訴法577条
- 動産の競落と民法第192条の適用の有無
- 執行債務者の所有に属さない動産が強制競売に付された場合であつても、競落人は、民法第192条によつて右動産の所有権を取得することができる。
- 損害賠償請求(最高裁判決 昭和45年12月04日)道路運送車両法5条,道路運送車両法16条(昭和44年法律第68号による改正前のもの)
- 登録を受けていない自動車と民法192条
- 道路運送車両法による登録を受けていない自動車については、民法192条の規定の適用がある。
- 機器引渡請求(最高裁判決 昭和47年11月21日)民法第101条
- 即時取得と法人の善意・無過失
- 法人における民法192条の善意・無過失は、その法人の代表者について決するが、代理人が取引行為をしたときは、その代理人について決すべきである。
- 第三者異議(最高裁判決 昭和57年09月07日)商法第597条
- 荷渡指図書に基づき倉庫業者の寄託者台張上の寄託者名義が変更され寄託の目的物の譲受人が指図による占有移転を受けた場合と民法192条の適用
- 寄託者が倉庫業者に対して発行した荷渡指図書に基づき倉庫業者が寄託者台帳上の寄託者名義を変更して右寄託の目的物の譲受人が指図による占有移転を受けた場合には、即時取得の適用がある。
- 損害賠償(最高裁判決 昭和62年04月24日)道路運送車両法第4条,道路運送車両法第5条1項
- 登録を受けている自動車と民法192条の適用の有無
- 道路運送車両法による登録を受けている自動車については、民法192条の適用はない。
- 道路運送車両法第5条1項
- 登録を受けた自動車の所有権の得喪は、登録を受けなければ、第三者に対抗することができない。
- 道路運送車両法第5条1項
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